ゼミ紹介記事
山口ゼミナール紹介(2021年度)
I部:山口ゼミナールの活動-2年生秋学期から3年生春学期までに行ったこと
山口ゼミは、卒業論文に必要な読解力や論理的思考力を高めることを目指してゼミ活動を行っている。主な内容として、2年次、3年次は輪読と自身の興味のあるテーマについての研究を行った。これらで得た力を活用し、4年次では卒業論文に関しての研究を行う。 ここまでの内容を見ると堅苦しいように思えるが、ゼミで行うことはこれだけではなく、ゼミ生がやりたいと思ったことに対して、大学で取り組める限りで活動ができることが山口ゼミの強みである。酒造りの様子を見たいという人がいれば施設に見学に行き、刺身の船盛が食べたいという人がいれば学年合同で食事会をするなど授業の内外で食農環境にかかる活動を行った。学年合同の食事会では、先輩とかかわりながら自分たちで調理をし、役割分担の重要さや就職や大学生活に関することなど多くのことを学ぶことができた。そのため、やりたいことがない人や食農関係に興味がない人でも、色々な人の話を聞き研究を見たりすることで新たな発見があり、自分自身を成長させてくれる場となっている(吉村)。
具体的に、ゼミナールIでは、読解力と文章を作成する力を高めるため、佐々木敏の「データ栄養学のすすめ」を読み、レジュメを作成する輪読を行った。ゼミ生は、「データ栄養学のすすめ」の内容の中で、それぞれの関心があるテーマを選び要約し、加えて自分なりの考察を行った。文章を要約し、考察を行うことで、文章が示す意味を把握する力を得ることだけでなく、この内容が本当に正しいものであるかと批判する能力も身につけるようになった。私は、卒業論文として『菜食主義と自然環境の影響』をテーマにしようと思っているが、菜食主義に関しては様々な価値観があり、意見が交わる内容であるため、自分自身の意見を保つのが難しかった。しかし、この輪読授業を経験して、書籍に書いてある内容をそのまま受け入れるのではなく、まずは批判的立場で読み、新しい意見を導き出すことで、書籍の内容を正しく理解し、またその内容に強く影響を受けることなく研究することができることを学んだ。貴重な時間であったと思う。また、卒業後再留学する計画を持っているが、山口先生のゼミナールIが今後の学習の基礎になることを疑う余地がない(KIM)。
3年生春学期のゼミナールIIでは、まず、ひとりひとりが興味のあるテーマに関する資料(新聞記事もしくは論文)を読み、報告した。取り上げられたテーマとゼミでの議論の内容は以下の表のとおりである。
担当 |
テーマ |
議論の内容 |
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1 |
KIM |
ビーガンと自然環境への影響 |
・肉,魚,卵,乳製品のために使用される農耕地は83%. ・グローバル食事療法という国連が示したバランスの良い食事がある. ・ヨーロッパはグローバル食事療法の提案によりビーガンが増加. ・日本や韓国はまだベジタリアンやビーガンへの認知度が少ない. ・菜食の受け入れに対する教育が進んでもこの先10-20年かかる. ・日本ではバランスが重視され,多様性を認める食育は困難. ・日本は欧米ほど肉食ではない. |
2 |
松村 |
なぜ山姥には悪いイメージがついているのか |
・山姥は実在するのか. ・人間と山姥の違い,定義は?他の妖怪や妖精とどのように違うのか.比較基準は? ・山姥は自然そのものを投影した存在である. |
3 |
草次 |
深刻化する食品ロス問題 |
・食品ロスは一人当たり茶碗1杯分/日.全体では600万トン/年. ・外食で量がわからないのは,食べ残しの原因である. ・日本は他国と比較して消費者の食品ロスの割合が高い. ・FAOのフードロスと日本の食品ロスの定義は違う. ・消費者の意識はどのようにしたら変えられるのか. |
4 |
中村 |
持続可能な製品とその普及 |
・生活排水(毎日230L)のうち第4位が選択排水である.洗濯まぐちゃんという持続可能な製品が開発されている. ・洗濯まぐちゃんはマグネシウムを使っているが,それ自体に人や環境影響はないのか. ・マグネシウムだけで洗濯ができるのか. ・レジ袋に対する有料化の影響はどの程度か |
5 |
吉村 |
食品賞味(消費)期限設定の過程 |
・食中毒のリスクがあるため官能検査で消費期限は決めないのでは. ・賞味期限では過ぎても,微生物が少なく,問題はないのではないか. ・生鮮食品,特に魚はどのように検査し,もしくは表示がされているのか. ・細菌の増殖を抑制する方法はなにか. |
6 |
徳久 |
身近なフードデザート |
・最近,身近にフードデザートが起きている. ・都市と田舎では性質が異なる. ・フードデザートをどのように解決しているのか.国内および海外との差はあるか. ・移動手段の問題もあるが,それだけではない. |
7 |
羽田 |
マイクロプラスチック汚染の現状,国際動向および対策 |
・紙への置換はプラスチック削減の根本的な解決にならないのはなぜか. ・国際的な取り組みとして,効果があると思った事例は何かあるか. ・レジ袋の有料化の効果は? |
8 |
荻野 |
ダイエット中の朝ごはん |
・1日の適正食事量は,3:4:3が理想的である. ・食事誘発性熱産生(DIT)は夜勤の人はどうか.起きた時に食べたごはんが一番朝ごはんと同じ影響が表れるのか. |
9 |
小澤 |
学校給食と地産地消 |
・地元食材への意識と,食べ残しはこの調査だけでは関係があるといえないのではないか. ・食育としての地産地消が重要である. ・食べ残しの量は調理作業及び保存食記録簿で,学校ごとに測っている. |
10 |
草次 |
果物摂取と生活習慣病 |
・20,30代の若者は果物をジュースでとることが多い. ・ビタミン,カロテノイドが多いものを食べると糖尿病に効果がある. ・果物はジュースより生で食べたほうが効果がある. |
11 |
KIM |
シンクロニシティ |
・シンクロニシティとは,偶然と思える必然. ・集合的無意識がシンクロニシティと関係している. ・デジャブやカオス,瞑想,マインドフルネスとの関係. |
12 |
中村 |
下水処理の影響評価と市民科学 |
・市民科学のプロジェクトにより関心を持った人が増えたのはとてもいいと思うが,どのような人に参加させるかが問題ではないか.もともと環境に意識のある人が参加しても意味がない. ・授業として市民科学のような取り組みをするのがいいと思う. |
13 |
羽田 |
スマホ依存 |
・テレビやラジオなどもスマホ依存と同じように注意散漫になっている. ・どれほど規制するべきか. ・ネットの情報がないと生活ができないことと,スマホ依存はパラドックの関係であるので対策が難しい. |
14 |
荻野 |
血糖値の上昇と健康影響 |
・血糖値の上昇が続くとインスリンが必要以上に生成され,脂肪を蓄える.また,分泌が長時間続くと膵臓に負担がかかり,適切な量が生成されなくなる. ・ゆっくり摂取することで血糖値は上がるのか,下がるのか. |
15 |
吉村 |
自己効力 |
・自己効力感を高めることで日常生活が豊かにできる可能性がある. ・正しい情報を選択して,判断をするために自己効力感が効いてくる. |
16 |
小澤 |
色彩があらわす食品のおいしさ |
・人にとって,食品や料理の色調は食事をする上で欠かせない要素. ・食べることは人間の本能の要求と深いかかわり ・天然色素を添加していない対照の評価が高い.普段,見慣れているため. ・食品の色で味が決まり,食欲を増進させるのは面白い. |
17 |
徳久 |
高齢者の食品摂取と多様性 |
・多様性得点が高い人ほど,フレイルのリスクが低い.また,タンパク質,豆類,緑黄色野菜,果実,卵類の摂取量が有意に高い. ・フードデザートの問題は偏った食事しかないという問題が大きい. ・この結果を応用すればビーガンはフレイルになりにくいかもしれない. |
このテーマの中からグループ調査を行うテーマを2つ選択した(表で色付け)。テーマとして、1班は「色彩と美味しさの関係」、2班は「賞味期限と食品安全」となった。
まず、1班は日本人とその他3カ国の外国人に色を変えた白玉と照明の色を変えた卵焼きの写真の中からそれぞれ美味しそうな物を選んでもらうという調査を行った。
続いて、2班の調査内容は冷蔵や常温などの異なる条件下で食品を保管し、その食品の菌の数を調べるというものであった。議論の内容としては、実際に3つの結果を見比べて正しい数値が出ているのか、またその数値の差から何が読み取れるか。また、実験を行いまとめるまでの改善点などであった。詳細を下記に示す(徳久)。
II部:3年生秋学期に行ったグループ研究の内容
1班:色彩とおいしさの関係
調査目的と調査方法
私たちの班では、食事をする上で欠かせない要素の一つである食品や料理の色調に興味を持ち、議論・調査を実施した。
中川裕子、仲尾玲子『色彩があらわすおいしさへの影響』、神田太樹『色と美味しさに関する感性』、王臣卓、川端康弘『食物に対するおいしさ感に及ぼす色の影響』などの論文を参考に話し合い、食の色の変化が味の連想やおいしさにどのように影響をするのかという点をリサーチクエスチョンとして設定し、調査を開始した。
調査方法は、(1)色彩による味の連想の違いを調べるために、白玉を9セット用意した。そして、それぞれに異なる色の色素8色(着色料:黄,緑,赤,デコふり(混ぜると色が変わるふりかけ):黄,緑,ピンク,紫,茶)を添加し、対象者にそれぞれの色からどのような味を連想するかアンケート調査を行った。また、(2)美味しいと感じる色調を調べるために、卵焼き11セットを用意し、それぞれに異なる色調の照明をあて、対象者に美味しそうだと感じる色調についてそれぞれ順位をつけて頂いた。対象者は、食習慣や食物の種類が異なる文化圏の人では食物のおいしさの判断に与える影響にも違いが出ると考えられるため、日本人23名に加え、それぞれ自国に住む韓国人3名、中国人2名、欧米人6名とした(小澤)。
調査結果
日本人と海外の人(韓国人、中国人、欧米人)の大学生を対象に白玉と卵焼きについて色による美味しさへの影響はあるのかをアンケート調査をして次のような結果が出た。
まず白玉については、日本人では、美味しそうに見える順として、1位が色なしの白玉、次に、着色料、デコふりという順に続いた。海外の人では、必ずしも色なしの白玉が1位とはならず、色のついた白玉を1位に上げる人が7名(7/11)いた。順位では国の違いは確認できなかった(参照:スライド11と14)。着色料は、見た目が鮮やかであることから好まれていたと考える。また、日本人が写真から連想した味は、暖色が甘いと連想する傾向にあった。海外の人は、色なしはミルクティー、緑は草、黄色はレモンといった他の食べ物と例えて味を連想していた。
次に卵焼きでは、照明を使って卵焼きに様々な色調を当てて色を変化させたが、日本人では透明の卵焼きが人気であり、35%の回答が一番おいしそうだという回答を得た。次いで赤と緑、青と赤を合わせた色が上位を占めた。しかし欧米人の中には、「白玉では味のイメージが変化するが、卵焼きの味のイメージは変わらない」という回答が多く、照明だけではおいしさに影響しないということが示された。
実験結果から分かったことをまとめると、色によって美味しさが変化するという意見が多く9割以上を占め、連想される味は個人差があり、かつ、国ごとに美味しいと感じる色に差があることがわかった(草次)。
考察-食文化による色彩とおいしさの関係性
調査後、日本人と外国人が好む色彩の違いについて議論をした。9色の白玉のうち美味しそうに感じるものを聞いた際、日本人では色なしを1位とする回答が約半数を占めたが、中国・韓国・欧米人では半数以下となり、その傾向が見られなかった。日本人で上位に入った色が全く好まれなかったというわけではないが、日本人では上位に入らなかった色が好まれるといった違いがあった。国ごとに見ていくと、以下のようなことが考えられた。欧米は、日本から離れており似たような食べ物も無いため、全体的に日本と離れた回答が多くなる。中国は、日本と国同士は近いが海を隔てて文化の違いがあるため、日本と似ている部分と異なる部分の両方がある。韓国は、韓国に白玉と似た食べ物があることもあり、日本と近い傾向がみられた。これらから、食文化や食習慣の違いが色彩の好みに影響を及ぼすのではないかという考えに至った。
調査結果をまとめていく中で、「ここは選択肢を作らず自由記述にすべきだった」とか、「他の年代にも聞いて比較したかった」といった意見が出た。改善の余地があることを痛感するのと同時に、さらに深掘りしてみたいという意欲もわいた。この調査で感じたことを、また次の機会に生かしていきたい(中村)。
2班:加工食品の賞味期限と微生物の関係
調査目的と調査方法
賞味期限を過ぎた食品がどのくらいの期間で菌が繁殖していくのか、保存方法や開封・未開封により菌の繁殖するスピードに変化が出るのかが気になりこのテーマを選んだ。
実験内容はコンビニエンスストアで買えるさば缶とサラダチキンを対象にし、保存条件によって一般生菌とカビ・酵母の数に違いが出るかを微生物検査で確かめた。保存条件は常温・冷蔵・加熱、開封・未開封で行った。
事前の予想としては未開封で冷蔵保存したものが一番菌が繁殖しにくいと予想し、開封後のものや常温保存のものでも加熱すると菌が減ると予想した。
微生物実験の手順は、次のように行った。
下準備として実験器具と検体の周りを消毒・滅菌し、実験はバーナーの前で滅菌された範囲で行った。
(1) 食品10gと滅菌希釈水90mlをストマッカー袋に入れ、10倍に希釈する
(2) 袋を激しく1分間振る
(3) ピペットで1ml取り、100倍、1000倍の希釈水を作る
(4) ペトリフィルムに1mlとり、試料を全体に広げ、ゲル化させる
(5) 生菌は35℃で48時間、カビ・酵母は20~25℃で3~5日培養する
(6) 検出されたコロニーの数を調べる(荻野)
調べたこと、調べて分かったこと
開封後、常温で保存したものに比べて冷蔵保存したものの方が格段に一般生菌発生数は少なかった。特にサラダチキンは、常温(加熱)と冷蔵で100倍近く一般生菌数に差があった。このことから、開封後は冷蔵保存をすればある程度生菌の発生を抑えることが出来ると言えるだろう。一般生菌数に加えてカビの検出実験(カビと酵母を検出できるキットを使用)を行った。しかし、結果は「賞味期限や消費期限に関わらず開封してから時間が経過することでカビが生える」という我々の予想に反するものであった。開封日6/18(2週間後に試験)、6/30(2日後に試験)、7/1(翌日に試験)の検体のうち、6/30(試験の2日前)に開封した検体からしかカビが検出されなかった。さらに驚いたのは、酵母が検出されたことである。パッケージ裏面の食品表示には、酵母は記載されていないにもかかわらず、カビが検出された同じ検体で酵母が検出された。これは、肉を軟らかくするため、もしくはうまみ成分としてごく微量に含まれた酵母が常温で保存されたことにより培養されたと考えられる。少量であるため食品表示への記載基準を満たしていないだけであって、加工品には多種多様な添加物が含まれている可能性があるということが示された。
今回調査をして、賞味期限に限らず開封後はすぐに消費し、それが難しいのであればすぐに冷蔵保存して早めに食べるべきだということが分かった。また、加工品には食品表示に記載されている以上の添加物が含まれている可能性があることが確認され、作り手と消費者の距離が表示だけでは遠いままであることに危険性を感じた(羽田)。
調べた後に議論したこと、今後の課題
調査後に議論したことと今後の課題を箇条書きでまとめた。
・実験結果を見ると、保存期間が一日違うだけでも細菌の繁殖率には大きな違いが見られた。
→保存方法は表示に従い、かつ開封してしまった場合は少しでも早く食べた方が良いことがわかった。
・実験し忘れるのは論外である
→調査結果をまとめる際に、比較対象が定まらず苦労した。実験の目的・手順を予め明確にし、共有しておくことでうっかり実験し忘れることがなくなる。当日の思いつきで新しい事をするのはやめて、予め制作した手順書に従って実験を行うことが重要であることに気が付いた。
・また、発表日に実験結果を見てどういう結果が出たのか自分たちは分かったが、実験内容を全く知らない人に対しての説明が難しく、うまく伝わらなかった。
→各用語や数字が持つ意味の説明をし、パッと見て分かりやすい表の作成を心がけることが重要であり、また、質問に答えられる様に実験結果を全員がはっきりと理解しておく必要があると反省した。
・今回は実験期間の関係上、保存方法を守らないという実験をしたが、今度は正しい保存方法で賞味期限を超過した食品について調べてみたい(松村)。
(注意)発表資料は,紹介記事用に若干修正いたしました(山口).