ゼミ紹介記事
山口ゼミナール紹介
2020年度地域政策学部3年次の山口ゼミの紹介を行う。本ゼミナールは、男性七名、女性三名からなるメンバーで構成され、すべて食農環境コースに所属している。本ゼミでは、主に食、環境、農業問題の現状を把握し、その解決法を学んでいる。
主な活動概要は、2年次秋学期に輪読を行った。3年次春学期はZoomでのオンライン授業であったが、各自興味のあるテーマの参考資料と文献を探し、レジュメにまとめ、ゼミ報告を行った。さらに、ゼミ報告で出されたテーマを2つ選択し、2つのグループに分かれて、調査を進めた。1班は「レジ袋の有料化の効果と影響」、2班は「輸入品と国産品の価格差がなぜ生じるのか」について調査した。(坂口)
まず、2年次に行った活動について具体的に述べていく。主な活動は『ほんとうの「食の安全」を考える ゼロリスクという幻想』(畝山智香子、2009)の輪読である。1節ごとに担当者を割り振り、担当者は文献の内容をレジュメに纏めて報告するという形式で進めていった。ゼミの進行は学生主体で行い、残留農薬や食品添加物の基準値はどのように決まるのかについて、発がん性物質のリスク評価や科学的根拠に欠けるビタミン剤など様々な食品問題について話し合い、健康的な食生活について議論を重ねた。
またゼミの後半では、議論するテーマを決め、ディスカッションを行った。就農するにはどうすればよいか、スマート農業の現実と問題、遺伝子組み換え食品の現状、環境問題という4つのテーマについて議論を行い、これまで学んできた食・農・環境への理解を深めた。
さらに課外活動として、大学構内にあるキャンパス畑で収穫されたサツマイモを使った調理実習とスーパーサンヨネへの視察見学を行った。サツマイモの調理実習では全員で協力してレシピ開発から取り組み、スイートポテト、芋けんび、鬼まんじゅうを作った。スーパーサンヨネでの見学では実際に「食」に関わる方から直接お話を聞かせていただき、貴重な体験であった。(小河)
3年次春学期では、まず、各個人が興味を持っているテーマを選択し、それぞれまとめ発表し、議論した。その内容を順に示していく。
1つ目のテーマは種苗法改正による影響をとりあげた。登録品種や種の種類、許諾料や品種の多様性などの観点からどのような利点・問題点があるかを考えた。
2つ目には、日本での食習慣による塩分の過剰摂取のテーマをとりあげた。塩分の過剰摂取に対する各自治体の取り組みを紹介し、さらに具体的な減塩対策としてどのようなことができるかについて議論した。
3つ目に、海外で開催された料理学会とはどのようなものかを調べ、議論した。料理学会が日本でも行われるようになれば、日本の地方創生のヒントになるのではないかという意見がでた。
4つ目に、最近、沖縄県で河川中からPFOS・PFOAが検出されたというニュースを話題にして、河川中のPFOS・PFOAのリスクをテーマに議論した。日常生活では、無毒性量であるNOAELまで摂取することはないと計算してわかったが、この報道が県民を不安にさせているのではないかという議論になった。
5つ目に農産物流通におけるECサイト販売の有用性を議論した。産地との距離があっても購入できるなどの利点もあるが、情報の安全性の確保や鮮度の維持などに問題点があるという議論になった。(杉浦)
6つ目は輸入食品の安全性について議論した。ゼミのアンケートでは、私たち自身、輸入品への抵抗はあまりなかったが、輸入規制で違反している成分や、外国産の肉が安価である理由についての疑問がでた。
7つ目はテイクアウト食品の食中毒予防について議論した。ここでは、テイクアウト食品の消費期限の表示義務について話し合い、保健所の指導がどのように行われているのかを深く調べると面白いのではないかという意見がでた。
8つ目は農業の後継者問題について議論した。農業が盛んな田原市でも、相続税などの問題から、従事者が減っていることが話題にあがった。大企業の参入が原因の一つではないかという意見があった。
9つ目は本当に健康な食品は何かをテーマに議論した。ここではフルーツジュースが生のものに比べ糖分が高く、生活習慣病のリスクが高まるのという文献の紹介があった。しかし、フルーツジュースは悪いものではなく、食べてはいけないということではないので、リスクとベネフィットの理解が大切なのではないかという意見がでた。
最後はレジ袋の有料化について話し合った。ここではコストを考えると燃やしたほうがいいのではという意見や、企業が取り組むことが大切であるといった意見が出たが、プラスチックごみ削減という目標に向けて一人一人の意識改革が大切であるという意見が出た。(磯辺)
1班「レジ袋の有料化の効果と影響」
レジ袋有料化について考えるまでの経緯
環境問題が深刻化する中、私たちは近年話題になっている海洋プラスチック問題に注目して議論を開始した。ここでは主に、海洋プラスチック問題の改善を図ろうと政府が開始した、レジ袋有料化政策の意義について考察した。さらに、レジ袋有料化が私たちの生活にもたらす影響について、国や事業者、消費者といった様々な視点から議論を重ねた。しかし、どの視点からもレジ袋有料化の利点を発見することができなかったため、政府が推進するレジ袋有料化の利点は何かということをリサーチクエスチョンとして設定し、班員各自で調査を開始した。
調査はインターネットを利用し、「政府の目的」と「現時点での社会的効果」の2点に焦点をあてて行った。前者については厚生労働省や環境省で公開されている資料やホームページ、後者についてはニュース記事や同様の取り組みを行っている海外の事例を参考にした。日本でレジ袋有料化が開始されてから日が浅く、情報量が少ないことを考慮し、それに関連する記事を多方面から集めて分析することで課題解決を図った。(大津)
ライフスタイルの変革とは何か
まず、政府の目的について全員の理解を一致させることにした。「プラスチック性買い物袋有料化実施ガイドライン」や環境省「レジ袋チャレンジ」という資料を用い、''ライフスタイルの変革"という言葉がよく記載されていることに気が付いた。ライフスタイルの変革の意味について「何を変革するのか」、「あいまいすぎる」といった意見がでた。政府の最終目標がプラスチックゴミの削減であることから最初の取り組みとして消費者意識の変革が重要視されるのではないか、そしてこれがライフスタイルの変革に当たるのではないかと考えた。ライフスタイルの変革について、最終的に全員が納得した答えは、消費者が主導的にレジ袋(プラスチックゴミ)の取捨選択ができるようになることであった。(徳田)
レジ袋有料化のこれから
最後にこれまでレジ袋有料化について議論してきたうえで、レジ袋有料化がなぜ行われたのか、その目的について消費者である私たち自身が理解することが今後の課題であると考えた。実際に2020年7月1日からレジ袋有料化が全国で義務付けられたが、ただ単に一つの政策として受け入れている消費者が多く、レジ袋有料化の背景にあるプラスチックごみが引き起こす環境問題に目を向けることができている消費者は少ない。レジ袋有料化が行われることによって数字上のデータではプラスチックごみは減少するだろう。ただそれだけでは意味がないと私たちは考えた。私たちはレジ袋有料化をきっかけに消費者である日本国民がプラスチックごみ問題について関心を持ち、プラスチックごみを減らすためにはどうしたらいいか主導的に考え、行動するようになる、それこそが「ライフスタイルの変革」であり、レジ袋有料化の真の目的であるのではないかと考えた。その目的を理解するためにはレジ袋有料化の政策に加えて、教育の現場でプラスチックごみが環境に及ぼす影響について学ぶ機会を積極的に設けたり、自治体ごとにプラスチックごみ減少に向けた取り組みを行い、プラスチックごみの問題を身近に感じてもらう必要があることに気付くことができた。
レジ袋有料化はまだ始まったばかりである。今まで当たり前のように使ってきたプラスチックを今すぐに使うのをやめる選択をするのは難しいができる範囲でプラスチック削減を心掛けることが重要である。今後もレジ袋有料化に関わる出来事に継続して注目していきたい。(尾関)
2班「輸入品と国産品の価格差がなぜ生じるのか」
牛肉のランク付けの仕組みや関税が影響しているのだろうか?
冒頭にも記したとおり、山口ゼミでは1人ずつ興味があるトピックを調査し紹介する取り組みを行ってきた。その中で、2班は輸入品と国産品の価格差がなぜ生じるのかというテーマに興味を持ったメンバーで集まり、議論・調査を実施した。
「輸入牛の価格はどのように決まり、どのような要素が国産牛との価格差拡大に繋がっているのか」という課題を解決するために我々のグループが利用したのは、農林水産省の「農林水産物 品目別参考資料」と公益財団法人日本食肉流通センターのホームページの資料である。
これらの資料を利用し、牛肉のランク付けの仕組みや輸入牛にかかる関税、仕入れ形態等が最終的な販売価格へ影響を及ぼし、最終的に輸入牛と国産牛の価格差拡大に繋がっているのではないかと考え、調査した。(小島)
価格差が生じる原因は何か?
農林水産省や公益財団法人日本食肉流通センターなどの資料から調査をした結果、国産牛と輸入牛の価格差が生まれる原因が3つ挙げられた。
1つめは飼料穀物の自給率の違いである。オーストラリアは防疫上の理由から穀物の輸入は禁止されている。そのためオーストラリアで生産される穀物しか飼料にしていない。しかし、日本では飼料となる大麦や小麦などはほとんどオーストラリアやアメリカなどから輸入しているため国産牛は生産コストが高いのではないかと考えた。
2つめは固定費などの違いである。オーストラリアと日本では、農家あたりの飼育頭数がオーストラリアのほうが圧倒的に多い。そのため、一頭あたりの固定費などに差が生まれるのではないかと考えた。
3つめは飼育時間である。和牛の場合、飼育時間は約2年であるが、オーストラリアでは100日以上となっており、日本と比べてはるかに短い。農家によってもちろん差はあるがこれも価格に影響しているのではないかと考えた。(鈴木)
まとめ
牛肉の価格設定では、関税と一頭当たりの飼育コストが大きく関係しているのではないかと考えた。関税は肉の加工具合、温度状態によって異なっており、その数値も年々変化している。加工による肉のサイズや処理の方法により関税の価格が異なってくるのか、また冷凍と冷蔵というだけで変える必要はないのではないか、などの意見がでた。飼育コストに関しても1戸当たりの飼育数や飼料、人件費などが関係しているだろう。オーストラリア産の主流である牧草肥育牛肉は安価であることを特徴の一つとしており、日本とは異なった生産方式である。大規模に放牧型肥育を行うことで一頭当たりの単価を下げることができているのではないかと考えた。
今回の調査ではオーストラリアの飼料価格について調べることができなかった。日本とは生産形態がかなり異なるために価格の差が大きく出るところである。ここで比較することができれば国産との明確な差が現れてくるのではないかと考えた。
これからも関税の変化や物価の上昇などの外的な要因による変動に注目し、輸入食品の価格や安全性について考えていきたい。(齋藤)