駒木ゼミ卒業研究要旨

2022年度提出分 (12名・50音順)

岩田 征之:ドローン配送におけるドローン・自動運転車両間荷物積み替え拠点の立地選定に関する簡便法の提案

日本地理教育学会 2022年度全国地理学専攻学生「卒業論文発表大会」発表論文≫
 eコマースの発展や,新型コロナウイルス感染症によって生じたいわゆる巣ごもり需要を受けて,日本国内で宅配便の需要が高まっている。一方で物流業界は,物流量増大による交通渋滞や労働力不足に悩まされている。特に,需要が比較的小さく配送距離も長くなりがちな中山間地域への配送は都市部への配送と比べて効率が低く,採算性も悪くなりがちである。こうした現状において,地形を無視した移動が可能なことや労働力への負荷が小さいことから,ドローン配送や自動運転車両を用いた配送がしばしば注目されている。両配送にはそれぞれメリットとデメリットが存在するため,本研究では,両配送を組み合わせた新たな配送に着目した。そして,この配送を実施するにあたり考慮すべき内容のひとつとして,両配送の切り替えを行う中継拠点の立地についてGISを用いて検討を行うことを目的とした。
 第I章では,研究の背景,意義,および目的について述べた。第II章では,ドローンの航続距離や建築物との最低間隔,土地の平坦性,および自動運転車両の配送効率などの諸条件から,中継拠点の立地条件を7つ設定した。第III章では,山梨県北都留郡小菅村をモデルに第II章で設定した立地条件を当てはめ,GISを用いた分析によって中継拠点の立地を検討した。第IV章では,第III章で得られた結果をもとに,最適な中継拠点立地を決定した。また,現地の実際の様子を確認し,地形条件や地域特性をふまえつつ,中継拠点として適切な土地であるか考察した。第V章では,本研究全体のまとめを行うとともに,今後の課題と展望について述べた。
 分析の結果,集落ごとに中継拠点立地を決定できた。ただし,選び出された地点を実際に確認してみると,傾斜が急であったり,電柱や電線といったドローンの飛行に対する障害物があったりする地点があり,現地調査などによる追加検討が必要であることが明らかになった。しかしながら,インターネット上において無料で一般に公開されているデータや分析ツールのみを用いて広大な地域の中から候補地を数か所に絞ることができ,さらにその中でもっとも配送効率の良い地点を選び出すこともできた点には,十分な意義があったと言えるだろう。


木内 あすか:民間企業による中心市街地の再開発―静岡市葵区人宿町エリアを事例に

≪2022年度 地域政策学部 卒業研究特別賞≫
 近年,地方都市では人口減少や高齢化地場産業の停滞によって地域の活力が低下していることが課題となっている。それらの課題を解決するために都市機能の集約や公共交通機関の整備や強化が必要であり人々の生活の利便性を高め持続可能な都市や地域として発展していくことが求められる中で再開発事業は重要な役割を果たしている。その多くは県や市などの行政が主体となって大規模に行われているが最近では個人や民間企業が主体となって行うリノベーションやまちづくりによる小さな再開発が注目されている。本研究では静岡県静岡市の中心市街地に所在する人宿町エリアを対象地域とし民間企業による再開発やまちづくりの取り組みから持続可能なまちづくりに必要な要素や行政主体とは異なる特徴を明らかにし地方都市や地域に活力を与えるプロセスや新しいまちづくりの手法を提示することを目的とした。
 研究方法は,次の通りである。I章では,中心市街地再開発の概要を踏まえた背景,先行研究,研究目的を述べた。II章では,対象地域が含まれる静岡市中心市街地活性化基本計画に基づいて,市としての取り組みや連続性のある再開発事業が行われていることを示した。III章では,人宿町エリアに焦点を当て,まちの歴史を踏まえつつ,民間事業者が取り組む再開発計画を整理した。またにぎわい創出のためのイベントや実際に店や会社を営む人が持つまちへの思いを検討した。IV章ではこれらの結果をもとに,民間企業が主体となって行った再開発の特徴と意義について考察した。最後にV章では,まとめと今後の展望について述べた。
 以上の結果から,民間企業ならではの再開発の特徴や重要な点として以下の5点挙げることができる。1点目は活動範囲が空間的に集約されていることである。人宿町エリアは人情通りを軸に比較的集中してビルや施設店舗が建てられていた。2点目は地域と開発主体の信頼関係を築くことである。今回事例とした創造舎が有している地域との関係性は映画館閉館をきっかけとした今後のまちづくりに関する話し合いや活動を通じて構築されたものである。3点目はまちの一体感の醸成することである。この一体感には2つの意味があり1つ目は地域の店舗間での繋がりによって作られる一体感2つ目は計画から施工まで一社で行うことによる空間やデザインの一体感である。4点目は継続性が担保しやすいことである。一つの店舗や施設を建てて終わりではなく継続的に行うことでまちの魅力がその度に新しく生まれ多くの人の関心を寄せることができる。5点目は映画館閉館というまちの変化をきっかけに人々の繋がりが強化されたことである。以上のことから街の活性化や「新しいまちづくり」には「人と人とのつながり」やまちを盛り上げたいという熱い思いやビジョン行動の結集のようなものであると言える。


佐々 駿介:北海道新幹線の駅周辺整備計画について

 日本において主要な公共交通である鉄道は,都市部を中心に全国各地へ広がってきた。鉄道は,定時制,高速性,安全性に優れているが,とりわけ新幹線はこれらの要素が優れており,鉄道界の最先端を担ってきた。そのため,新幹線は交通地理学における主要テーマでもあり,数多くの研究が蓄積されてきた。本研究は,整備新幹線である北海道新幹線を対象とし,札幌延伸によって設置される新駅の駅周辺整備計画や新駅に行政,市民,JRの三者がどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とした。
 第I章では,研究の背景と目的について述べた。第II章では,北海道新幹線札幌延伸に至る経緯や,延伸に伴う平行在来線問題について明らかにした。第III章では,地理院地図を用いて各新駅の建設場所を明らかにしたのち,各新駅が設置される自治体の資料に基づき,駅周辺整備計画について明らかにした。第IV章では,駅周辺人口及び駅周辺従業者数と駅の利用者数という二つの数値を用いて各新駅の規模について検討するとともに,次に各新駅の整備について住民,行政,JRの三者はどのような活動を行ってきたのかについて分析し,駅の規模や特徴について明らかした。最後に第V章では,まとめとともに,本研究で明らかになったことを踏まえ,考察を述べた。
その結果,駅舎デザインコンセプトでは,全ての駅で「自然」に関連したワードが入っており,北海道の壮大な自然を走る路線であることがコンセプトからも確認できた。関連ワードを分析することで,各駅の特徴や新幹線駅に対する地域の考えが確認できた。利用者から見た新駅の規模では,周辺人口や周辺従業員数と並べて分析した結果,北海道新幹線の需要は札幌に集中しており,他の駅の需要は少ないのではないかと考えた。また,駐停車場整備において,周辺地域の市民の需要や観光需要を見込んだ整備を行っている駅が存在することが確認できた。駅舎デザインに対する行政,市民,JRの関わり方について検討すると,駅舎デザインコンセプトを決定するにあたり,札幌駅のみJRが主体となっており,他4駅は各地域の行政が主体となっていた。また,官民の関わり方においても行政と市民の連携組織を結成し,市民の意見を取り入れていく方式と,行政が市民へアンケートを行い,意見を取り入れる方式の二つに別れていることが明らかとなった。


澤田 梨乃:豊田市足助地区の適切なモビリティのあり方について

 近年,日本では公共交通機関は厳しい立場に立たされている。少子高齢化による人口減少やマイカーの普及などにより,地方では公共交通機関の減少や廃線が増加している。そこで公共交通空白地域への対応として,各市町村でコミュニティバスが導入された。しかし,利用人数が少ないため1人あたりの輸送コストは年々増加している。このような中,路線バスや,コミュニティバスなどの定時定路線型交通に替わる運行形態として注目されているのがデマンド型交通である。デマンド型交通というのは,利用者の需要に合わせて柔軟な運行を行う公共交通の1つである。そこで本研究では,デマンド型交通を実施していた愛知県豊田市足助地区を対象として,中山間地域におけるデマンド型交通をはじめとする住民へのモビリティに関するサービスの現状を明らかにするとともに,住民の適切な移動手段の選択に関して検討することを目的とした。
 本研究の構成は次の通りである。第I章では,中山間地域での公共交通機関の問題やデマンド型交通に関しての説明,先行研究や本研究の目的・方法の紹介を行った。第II章では,対象地域である愛知県豊田市の概要と足助地区の地勢・交通環境について示すとともに,足助地区を中心に行われていたデマンド型交通及びモビリティサービスに関しての説明を行った。第III章では,GISを用いて,病院へのアクセシビリティ及び人口カバー率に関する分析を行うとともに,小型自動車による住民の利用状況について可視化した。加えて,利用者の属性や利用目的などの利用者分析も行うことで,実際の利用実態について明らかにした。第IV章では,前章で受けた分析を元に考察を行うとともに,地域の特性や利用条件からどの交通サービスを利用するのが適しているのか整理し,提案を行った。第V章では,全体のまとめと展望を行った。
 その結果,足助地区での実施されていたデマンド型交通及びモビリティサービスは,利用目的が異なっていることがわかった。GIS分析や利用者分析から,デマンド型交通はバス停等のポイントから病院へ向かう目的であるものに対し,小型自動車によるモビリティサービスは集落周辺で使用されていることが明らかになった。地域の特性としては,大病院が地区に1つ存在しており,中山間地域で高齢者が多く居住している。病院へのバス路線はあるが本数が少ないという状態である。この条件下で適している交通サービスの選択は集落からバス停までに小回りの利く小型自動車を利用し,バス停から病院までマイカー相乗りやタクシー相乗り等のデマンド型交通を利用することが適切であると考えた。しかし課題としては,利用しやすいようにそれぞれの交通システムの一元化や簡略化が必要であることと,高齢者の利用を促進するために交通システムの利用講習を行う事が重要であることが挙げられる。


鈴木 翔:関係人口から見る聖地巡礼による地域活性化の可能性について―天浜線天竜二俣駅周辺地域を事例として

 人口減少,少子高齢化が進む日本だが,中山間地域においてその傾向が強く見られ,地域の担い手不足をはじめとした様々な課題に直面している。このような地域の一つである静岡県浜松市天竜区も同様に課題を抱えていると考える一方で,そして最近では静岡県浜松市天竜区二俣町がアニメ聖地巡礼の観光客で賑わっている。このようにアニメの聖地となった地域がそれらを活用することで地域を活性化させるという事例は埼玉県久喜市,茨城県大洗町といった地域をはじめ,全国に存在する。また,中山間地域の人口減少・高齢化,担い手不足という課題に対して,「関係人口」が着目されており,関係人口の定義がアニメ聖地巡礼によって地域のリピーターとなってくれた人々と当てはまるのではないかと考えた。そこで本研究の目的は,「関係人口」に着目し,聖地となっている天竜浜名湖鉄道天竜二俣駅周辺地域を調査することで関係人口になり得る可能性があり,活用する手段はあるのかということを考えることとした。
 まず第I章では研究背景と目的を示し,先行研究の整理を行った。第II章では,静岡県浜松市天竜区二俣町の歴史とともに聖地巡礼に関わる事柄をまとめ,課題を明らかにした。さらに,第III章では他地域での聖地巡礼による活性化の事例を地域の関わりという視点で検討した。そして,近年注目される関係人口に関して定義を整理し,聖地巡礼との関連性を考察した。第IV章では,天竜二俣駅に聖地巡礼に来た観光客に対してアンケート調査を行った結果をもとに,この地域における関係人口の活用方法について考察した。そして第V章では,聖地巡礼に関わる実態と,調査によって得られた結果をまとめるとともに,天竜二俣駅周辺地域の課題解決策について考察した。最後に,第6章にて新たな課題点を明らかにし,そのうえで今後の展望を記した。
 調査を行った結果,アニメ聖地巡礼によって訪れる観光客は距離に関係なく訪れる観光客が多く,リピーター化の傾向があった。また,来訪前から聖地がある地域に対して魅力を感じていた。したがって,今後天竜二俣駅周辺地域の関係人口になりうると考えられる。一方で単純集計の結果のように,地域と関わりを持ちたいが具体的には決まっておらず,漠然としているという人もいた。このことから,関係人口とするためには,地域と観光客をつなぐような「関係人口案内所」の設置を行う必要があると考える。


玉川 広知:地方鉄道におけるパークアンドライドの現状と利用促進―三岐鉄道を事例に

 近年,自動車での移動による都市圏での交通渋滞や大気汚染が問題視されている。同時に,公共交通機関の利用者減少による減便や路線廃止が相次ぎ,交通空白地帯の拡大が進んでいる。新型コロナウイルス感染拡大による移動の自粛が始まってからは多くの公共交通機関で利用者減少が進み,さらなる交通空白地帯の拡大と地方部の高齢化に関連した交通弱者の増加が危惧される。これらの問題を解決する策の一つとして,パークアンドライドが挙げられる。パークアンドライドを推進することによって,バスなどの二次乗り換え先がない地域でもコンパクトシティの形成につなげることができる。そのためには利用しやすい駐車場などの駅前整備とパークアンドライド制度の周知が必要である。そこで本研究はパークアンドライドが効果的に駅の利用促進につながる条件を利用者の動向をふまえて明らかにすることを目的とする。
 第I章では研究の背景と目的について述べ,パークアンドライドとキスアンドライドの定義と事例を示した。第II章では調査の対象とする三岐鉄道三岐線と沿線の環境についての基本情報をまとめた。その際500mメッシュ人口を使ったGIS分析により沿線の人口を明らかにし駅ごとの乗降客数と特性をふまえて事例となる駅を選定した。第III章ではパークアンドライドとキスアンドライドの利用実態について駅の実地調査と通勤通学時間に関するGoogleMapを用いた調査についてまとめ,結果を分析した。第IV章では第III章の調査をもとにパークアンドライドとキスアンドライドの強みと弱みについて論じ,考えられる工夫を用地の現状や分類される駅の条件を考慮してまとめた。第V章では今後の課題と本研究のまとめを示した。
 三岐鉄道でのパークアンドライドの成功要因は鉄道利用者向け駐車場を充実させ管理を厳格化しないことで施設の管理費用をかけずに鉄道路線を利用してもらうことができる鉄道会社側のメリットと駐車場利用に制限がなく幅広い使い方ができる利用者側のメリットが共存していることであると結論づけた。それをふまえパークアンドライドを新規開設し利用を促すための工夫を3つに分類して提案した。第一に駐車場用地がすでにある場合は案内板などで利用者に周知することである。第二に用地が確保されていない場合は沿線の施設の駐車場を共用で利用することである。第三に用地の確保が難しい場合はコインパーキングとの提携を結び料金や運賃の割引によって利用者の金銭的抵抗感を減らすことである。それぞれの案を組み合わせることによって地方から都市にわたりパークアンドライド未導入地区の全域に当てはめることができる。


内藤 榛香:埼玉県川越市における町並みを活用したまちづくりの実態

 近年,古い日本家屋の独特な雰囲気を残しながらも,現代の生活に合った過ごしやすい建物に造り替える「リノベーション」が盛んに行われている。歴史的建造物においても観光まちづくりをはじめ,様々な形で建造物を活用する機会が増えており,伝統的建造物群保存地区の制度など,歴史的建造物を保護する法律も整備されている。そこで本研究は埼玉県川越市の伝統的建造物群保存地区を取り上げ,地域団体の取り組み内容と,歴史的建造物の活用変化に着目することで,町並みを活用したまちづくりの実態を明らかにすることを目的とした。
 本文の章構成は次の通りである。第I章では本論文の背景を説明し,先行研究と研究方法について述べた。第II章では,対象地域である埼玉県川越市の概要と歴史,町並み保全活動の歴史について示した。第III章では,蔵の保存・活用にかかわる人々によるリノベーション事業活動を中心として,住民の地域への関わり方について示した。第IV章1節ではまちづくりガイドラインについて整理し,第IV章2節では歴史的建造物の利用の変化に注目した。具体的には,文化財に指定されている建造物を取り上げ,入居テナントを業種ごとに分類して分析を行った。また川越一番街の通りに面する建造物を対象とし,店舗の変化と建造物の外観の変化の2つの観点に着目して10年前と現在の比較を行った。第V章では結果を踏まえた上で考察を行い,第VI章にまとめと今後の課題を示した。
 結果として,地域住民やその土地に関心を持つ人たちのより良いまちにしたいという力は,まちづくりにおいて大きな影響力を持ち,新しい流行や芸術の発信地となり得ることが分かった。また,川越市は歴史的価値の高い建造物が豊富にある観光まちづくりに適したまちであり,新しく和風・洋風建築物を建設したり外観を改装したりした建造物も増えていたことが明らかになった。これはまちにかかわる人々にとってオーセンティシティを意識した結果であると言える。このように本物「らしさ」を持つ和風・洋風建築物と,歴史的価値のある建造物が混在することによって,空間全体として歴史的魅力が溢れるまちへと変化を遂げていると言えよう。


長島 史竜:クラブチームが行う地域貢献に向けた取り組み―静岡県におけるプロサッカーチームの事例として

 プロスポーツが地域観光やイメージアップの起爆剤になっているケースは各地で目立つところであり,今やスポーツは単なる娯楽ではなく,地域活性化に大きく貢献する手段にもなっている。一方で,プロスポーツチームが地域活性化に向けた取り組みをする機会が増え,プロスポーツチームが単なる地域活性化の手段であるだけでなくクラブの取り組みが地方創生やまちづくりに貢献するようになってきた。そこで本研究では,ホームタウン活動や社会連携活動に積極的に取り組むJリーグのクラブが,実施したホームタウン活動の取り組む分野や実施した主体などの関係性及びクラブごとの特徴を分析によって明らかにし,その背景などを考察することを目的とした。
 研究手順は以下の通りである。まず第I章にてプロスポーツチームと地域活性化の関係性を示し現状及び課題を述べるとともに研究の目的と手順を記した。第II章にてJリーグのホームタウン活動の概要及び研究対象とする静岡県内の4クラブの概要や規模の違いについて整理した。続いて第III章では各クラブが2021年シーズンに実施したホームタウン活動を6つの評価項目(実施自治体実施場所分野協働者主体活動がサッカーに関連するかどうか)ごとに分析を行い全体及びクラブごとの特徴を示した。第IV章では第III章にて行った分析から得られた結果や特徴について,活動内容と空間的範囲の2つの視点から考察を行い,第V章にてまとめと研究に対する課題について述べた。
 研究の結果,以下のことが明らかになった。第1に活動内容についてみると,Jリーグ創設初期に加盟した2クラブは,サッカーや健康に関連する活動を高い割合で実施していたのに対し2010年代に新たにJリーグに加盟した2クラブは,サッカーに関連しない多種多様な活動を実施する割合が高い結果が表われた。この原因として,Jリーグ創設初期に加盟した2クラブは,スクールコーチのスタッフ数が充実しており,園児向けのサッカースクールなどを積極的に開催できたこと,一方で,2010年代に新たにJリーグに加盟した2クラブは,独自色のある活動に力を入れていたことが推測された。第2に空間的範囲についてみ ると,Jリーグ創設初期に加盟した2クラブは,ホームタウン以外の自治体でも活動を実施しており,活動範囲が広範囲に及んでいたのに対し,2010年代に新たにJリーグに加盟した2クラブは,ホームタウンを中心に活動しており,活動範囲が相対的に狭くなったことが明らかになった。この原因として,Jリーグ創設初期に加盟した2クラブにとって,2010年代までは競合となる相手がそれぞれの地域に存在せず,人気や知名度が広範囲に渡っているのではないかと推測した。一方で,2010年代に新たにJリーグに加盟した2クラブは,ホームタウンでの活動を最優先することで,地元への地域貢献に加え地元での人気や知名度の浸透を図っているのではないかと推測した。


西川 哲平:豊橋市における交通空白地域の析出と分析―石巻地区を事例にして

 近年,日本においては,都市部への人口集中や少子高齢化といった人口問題,さらに,マイカー需要の増加などから,地方圏における公共交通機関のシェアは年々減少傾向にある。また,近年のコロナウイルス感染症の影響なども重なり,地方交通では赤字経営が続き,廃止に追い込まれる事業者も多く,厳しい状態が続いている。一方,高齢者による自動車事故増加などから免許返納の動きが加速しており,公共交通機関が無ければ生活できない交通弱者の足の確保が困難な状況にあり,『交通空白地帯』が広まっている。このような中で,政府は,集約型の都市構造 を目指すコンパクトシティ化を推進しており,その一環として,コミュニティバスやデマンド交通を導入する自治体が増えている。そこで本研究では,愛知県豊橋市北部にある石巻地区を対象とし,地区内を走る豊鉄バスと,コミュニティバスの『柿の里バス』が地区内生活圏のどれほどをカバーできており,現状の市内移動の利便性が高い地域,低い地域を明確にすることを目的とした。また,利便性を定量化することで空白地域の改善に繋げることも狙いとしている。
 本論文の構成は次のとおりである。第I章で日本における交通空白地域の定義や先行研究,研究 目的の紹介などを行った。第II章では本研究の対象地域である愛知県豊橋市と市内の公共交通機関の概要,今回の分析方法について説明した。第III章では,GISを用いた路線及びバス停の立地に関する空間分析を行った。人口カバー率などの地図上の分析に加えて,運行本数なども考慮するPTAL指標の手法も併せて用いることで,利便性の定量化を行った。第IV章では,III章で行った分析の結果をもとに考察をし,運行提案を行って利便性がどれだけ変化するかを検証した。第V章では全体のまとめと展望を行った。
 分析の結果,運行本数は利便性の変化に大きな影響を与えていることが分かった。また,コミュニティバスは,バス停によっての本数の違いも少なく,路線バスの空白地帯が多い石巻地区において,平等に利便性を上げる役割を果たしていることに繋がっていた。コミュニティバスは,運行本数が3本以下のバス停がほとんどのため,1〜8本の運行本数がある豊鉄バスのような大きな利便性の差は見られなかった。このため,コミュニティバスに関して利便性を向上させるためには,新たなバス停を設置するというよりは運行本数を増やすことが利便性の向上につながることが分かった。 また,コミュニティバスの路線からも大きく外れる地域も存在していたため,新たなバスルートの新設シミュレーションを行ってみたところ,これらの地域への導入は大幅な利便性の向上が期待できることが分かった。コストや管理といった面から,どこにでも路線やバス停を新設することは難しい。しかしながら,地域 間での利便性の格差を埋めるためにコミュニティバスは有効な交通手段であるため,今後も積極的に導入を進めていくべき交通手段であるといえる。


堀内 葉月:まちなか図書館が及ぼす周囲への影響

 近年,首都一極集中が起こり,都市部は人口が増加するが,地方では人口が減少する現象が起きている。その状態を打開するために,地方都市は,住民が住み続けられる,または住んでみたくなるような,持続的なまちづくりをおこない,地域活性化を行う必要がある。それには様々な取り組みがあるが,公共施設による取り組みが盛んである。そのなかでも,子どもから大人まで幅広い世代が利用し,市民にとって新しい知識を得るため必要な図書館が,地域活性化の拠点として注目されている。そこで本研究では,地方都市であり地域活性化に積極的な豊橋市において近年開館した,従来の図書館とは違いお話や飲食ができるまちなか図書館に注目した。そして,利用者の属性や動向を通じて,図書館が周囲の店舗・場所への影響を明らかにすることを目的とした。
 第I章では,導入,研究の動向,目的,方法を述べた。第II章では,豊橋市内の図書館組織の概要を整理するとともに,まちなか図書館の設立経緯や概要,利用者ならびに周辺とのつながりに関する取り組みをまとめた。第III章ではアンケートを行い,利用者の年代や性別によってまちなか図書館利用前後で訪れる店舗や場所の傾向や違いについて分析を行った。第IV章では,第III章の結果をもとに,まちなか図書館が周囲に与える空間的な影響や利用者の動向に関する考察を行うとともに,今後の展望を述べた。第V章では,まとめを行うとともに,今後の研究課題について提示した。
 調査・分析の結果,利用者の約半分が図書館利用前後に店舗や場所を利用しており,それを地図化すると,まちなか図書館は豊橋駅との導線上に人の流れを生み出しており,周辺の店舗に対して影響を与えていたことがわかった。しかし,駅に隣接する商業施設やチェーン店の利用が多く,また導線上以外での店舗や施設の利用は少なかった。したがって,導線上以外の店舗の利用を増やすには,周囲との連携が大切だと考える。そして,店舗や場所の利用促進のため,まちなか全体での駐車場代無料や,図書館で周辺店舗の特集を組むなど,具体的な提案をすることが出来た。


松下 瑶実:豊橋市高師校区住民によるドラッグストア利用の実態分析と将来の利用に向けた考察

 コロナ渦で業績を落とす業界が多い中,業績を上げていたドラッグストア業界では,多くの企業が全国規模で新規出店を競い合い,激しい争いをしつつ再編の動きが活発化している。その一方で,高齢化が進む中でセルフメデュケーションを手助けする地域医療拠点のひとつとして期待されている。本研究は,立地店舗数が多く,近年の宅地開発,商業施設開発に伴って今後若年人口増加が見込まれる豊橋市高師校区において,住民のドラッグストア利用の実態調査を将来の人口動態と関連させて分析し,今後高師校区のドラッグストアに求められる姿を明らかにすることを目的とした。
 第I章では,ドラッグストア業界の近況や,高齢社会との関係について明らかにしながら,本研究の意義や目的を述べた。第II章では,調査地である豊橋市高師校区のドラッグストアの実態を整理した。ここでは,高師校区のドラッグストアの競合状況について,QGISを利用してカーネル密度推定法で店舗の密集状況を分析するとともに,バッファ分析によって面積ベースの商圏カバー率を,面積按分によって商圏人口を算出し,豊橋市全体や業界で定義された指標を元に比較・分析をした。第III章では,ドラッグストア利用に関する住民アンケート調査の結果をもとに,ドラッグストア利用の実態を考察した。第IV章ではアンケート調査により明らかになった高師校区住民の今後のドラッグストア利用におけるニーズと各店舗の特色から,今後も必要とされるドラッグストアであり続ける上で重要な項目を検討した。また,人口に基づいた成立条件も考慮して検討するために,2050年の各店舗の商圏人口やその増減数も算出した。これらのデータを元に今後の人口動態と住民のニーズを関連させて分析をすることで,高師校区のドラッグストアに今後求められる姿を考察した。第V章では,本研究から明らかになったことと今後の研究における課題を考察した。
 住民のドラッグストアの利用実態からは,第一に高師校区のドラッグストアは各々にとってアクセスしやすく,近隣施設も充実している事から高齢者にとって利用しやすいエリアであること,第二に住民にとって自宅から近くアクセスしやすいドラッグストア店舗が複数存在しているため店舗選択肢が増え各店舗の特色を考慮した店舗選びがしやすくなること,の2点が明らかとなった。また,開業から20年近く経った店舗の利用実態からは,2015年以降に開業した比較的新しい店舗が多い高師校区においても,利用する店舗の固定化が進むことも考えられた。さらに,今後の人口動態と関連させた分析からは,2050年時点では今後の人口減少の影響をさほど受けないであろうことが分かった。今後,高齢化が進む中で,エリア開発による若年人口の増加が予想される高師校区では,各店舗幅広い世代のニーズに応えられるよう,高齢者向けのサービスの拡充等をしていく必要があると考えられる。


八倉 大:東京都におけるひったくりの発生状況とその特徴―東京都と特別区の2つの空間スケールから

 近年日本の犯罪認知件数は減少傾向にあり,中でも犯罪総数に占める割合の大きい街頭犯罪が一貫して減少傾向にある。これは,官民一体となった総合的な犯罪対策の推進や防犯機器の普及などによる成果だといえる。しかし,重要窃盗罪の検挙率に注目してみると増加はしているものも他の重犯罪と比較して低い水準であることがわかる。そこで本研究では,人やモノの移動が多い日本の首都である東京都を対象にして,東京都スケール,特別区スケールの2つの観点から街頭犯罪であるひったくりがどのような「場所」で発生しているのかを分析して犯罪を未然に防ぐ為の施策を考察することを目的とした。
 本研究は次の手順で行なった。I章では,導入として先行事例の紹介や,研究目的,研究方法の紹介を行った。II章では,2018〜2021年の間に東京都で発生したひったくりに関して,警視庁の統計データを使用して被害者特性や被害地特性などを整理した。III章では,GISを用いて東京全体スケールでのひったくり発生地点に関する空間分析を行った。分析にあたっては,ひったくり発生地点の周辺人口やスーパーマーケット,居酒屋,宿泊施設,金融機関,コンビニエンスストア,交番,駅,公園などの周辺施設,道路,用途地域との関係に着目した。IV章では,特別区スケールでの分析を行い,その特性について考察した。V章では,東京都と特別区で発生したひったくりと定住人口・滞在人口の関係性について比較しながら分析を行い,その特性について考察した。VI章では以上の分析をもとにした考察や,その分析より得た知見よりどのような防犯対策を行っていくべきなのかを提案した。VII章では,まとめと今後の研究課題を提示した。
 その結果,東京都では駅周辺のような人口が昼夜間共に密集している地点で多く発生していた。また,特別区スケールでみると,新宿区では居酒屋などの商業施設付近の人が密集している地点で多く発生しており,足立区では比較的に人目が少ない場所で発生していることが明らかになった。その結果を基に東京都全体では,警察官の巡回の頻度を増やす必要があること,新宿区では,特に交番,防犯カメラ,街灯,ひったくり注意喚起の看板を設置するなどのハード面での対策が必要であること,足立区では,特に地域住民が一緒になり犯罪マップを作成するなどして地域住民が一体となって犯罪に備えることや日常的にコミュニケーションを取っておくなどのソフト面での対策が必要になることが考えられる。こうしたことが,地域特性に合わせた防犯まちづくりにつながるであろう。