駒木ゼミ卒業研究要旨

2019年度提出分 (12名・50音順)

岩田 貴史:愛知県豊橋市におけるコンビニ各店舗の防災意識とGISを用いたコンビニ立地分析

≪2019年度 地域政策学部 卒業研究最優秀賞≫
日本地理教育学会 2019年度全国地理学専攻学生「卒業論文発表大会」発表論文≫
(公財)東三河地域研究センター 第26回地域関連研究発表会発表≫
 最近では前例のない猛暑や豪雨にさらされるなど自然災害に対しての警戒心が高まっている。特に,南海トラフ巨大地震(東海地震)は3つのプレートが関与するために,地震に伴う津波被害も甚大な規模になると予測されている。身近な社会インフラであり「指定公共機関」として認定されている企業があるコンビニエンスストアに着目する必要があると考えた。そこで,本研究はコンビニ各店舗が持つ現在の防災意識に関するアンケート調査を愛知県豊橋市にて実施し,そのアンケート調査の結果とGISを用いたコンビニ各店舗の一時避難所としての需要度を比較することで,コンビニ各店舗が持つ防災意識と実際に求められるコンビニ各店舗の一時避難所としての役割が一致しているかどうか明らかにすることを目的とした。
 第I章では,本研究の背景をまとめ,目的を提示するとともに,先行研究の整理を行った上で研究の目的について言及した。さらに,アンケート調査を行う研究対象地域と対象店舗の選定を行った。第II章では,フランチャイズ契約とコンビニの災害時における役割について述べることで,フランチャイズシステムを導入することで生じたコンビニ本部と現場の防災への役割の違いを明らかにした。第III章では,アンケート調査の概要と共に,コンビニオーナーや店長の防災に対する意識を整理した。第IV章では,GISを用いた立地分析を行い,各コンビニの災害を念頭に置いた立地評価を行った。第V章では,第III章と第IV章から得られた結果を基に,防災意識から導かれた災害レジリエンスの強弱と「一時避難所」としての立地条件度の高低の2軸に基づく4象限マトリックス分析を行った。第VI章ではまとめと課題を提示した。
 その結果,現在取り組んでいる防災対策では十分に「一時避難所」としての役割を果すことが出来ないと感じているオーナーや店長が約8割に及ぶことが判明した。また,マトリックス分析からは,立地条件にかかわらず,災害レジリエンスの強化を図ることが重要になることが明らかになった。災害レジリエンスの強い場合は,様々な視点から災害を捉え,自らの防災レジリエンスを高めるだけでなく,スタッフや家族など周りのことまで意識することでより実践的な防災対策が身に付くと考えられた。さらに,豊橋市としては「一時避難所」としての立地条件度が低く,災害レジリエンスが強い傾向にあることが絶対軸と相対軸の比較で判明した。今後発生すると考えられている南海トラフ地震に備えるためにも,より一層の災害レジリエンスの向上を図ることが改善策へと繋がると考えられる。自治体として今まで以上に防災について考える場を用意し,災害に関する資料を提示することで,市民と共により強固な防災コミュニティの実現に向けて取り組んで行くことが重要になると結論付けられた。


臼井 俊太:条例からみる地域性・特徴とその分析―都市宣言に注目して―

 地域分権改革 によって条例の制定について自由度が向上したことにより,代表的な条例の他に地域の現状(地域特徴や独自資源)や時代をふまえた地域独自の条例(ローカル・ルール)が制定されるようになった。それらは,地域にどのように影響するのか,また全国と比較して特徴や違いが見られるか,検討する必要がある。そこで本研究では,全国の市区町村で制定されている条例を対象に,どのような条例が制定されているか,背景や目的その成果を整理し,地域との関連性を考察することを目的とした。
 第I章では,条例の背景,本研究の目的や研究方法を提示した。第II章では,条例の概要と現状を整理し,都市宣言の特徴について示した。第III章は,全国の市区町村の条例の中でも地域特徴や地域の課題などを表している都市宣言を対象として,種類・内容を整理し,18項目((1)平和都市宣言,(2)健康・福祉都市宣言,(3)スポーツ都市宣言,(4)交通安全都市宣言,(5)環境都市宣言,(6)人権都市宣言,(7)暴力都市宣言,(8)防犯都市宣言,(9)青少年育成都市宣言,(10)子育て・教育都市宣言,(11)男女共同参画都市宣言,(12)安心安全都市宣言,(13)青色申告都市宣言,(14)公明都市宣言,(15)ゆとり創造都市宣言,(16)姉妹・交流・友好都市宣言,(17)食に関する都市宣言,(18)その他)に分類しデータベースを作成した。そして地域と条例(都市宣言)の関連性について,GISによる空間的自己相関分析を援用して,による近隣地域の関連など,分布の特徴を分析した。第IV章では,地域性の強弱と条例の多少の2つの視点に基づき,都市宣言の地域性について考察した。第V章では,今後の研究における課題を述べた。
 全国の市区町村の条例(都市宣言)は,地域の課題や目標など地域との関連性を有しており,地域性の強弱はあるが,多くの条例に地域性があることが明らかになった。またそれ以上に,全国的に多く制定されている条例は,市区町村のこと以外にも,日本が抱える問題や課題,掲げる目標になどの関連していた。したがって条例は地域性を超えた日本という国全体に影響しあう関係にあることが明らかになった。なお地域性のある条例(都市宣言)は見られたが,その中でも独自性のある条例はまだ少なかった。地域活性や発展などを考えると独自性のある条例がもっと増える必要がある。時代背景や地域の変化によって条例は変化していくであろう。その中でどのようにして自分たちの地域の個性を示すのかを考える必要がある。


大橋 みのり:岐阜市の空き家の分布とその特徴

 近年日本においては,住宅数の増加に比例し,空き家数も増加している。この現状から,今後の土地利用を考えるにあたり,空き家の考慮は不可欠な項目の一つであると言える。本研究の目的は,地区別の空き家数と地区特性の関係性を明らかにすることによって,岐阜市の空き家の分布傾向と今後の課題についてまとめることである。研究対象地域として,岐阜県の県庁所在地であり,日本における典型的な地方都市としての特徴を有する岐阜市を選定した。
 第I章では全国の空き家に関する動向と先行研究を整理し,研究目的を提示した。第II章では対象地域の概要と岐阜市における空き家の定義についてまとめた。第III章では岐阜市空家等対策計画について要約した。第IV章では,空家等戸数と空き家に関連する可能性のあるデータを,空家等戸数を非説明変数,関連する可能性のあるデータを説明変数として回帰分析した。第V章では第IV章で行った分析を元にし,岐阜市の空家対策の今後の課題点と,研究上の問題点について考察した。
 空家等戸数と老年人口の相関関係は,年度が経過するごとに強くなるが,空家等戸数と世帯数(世帯),空家等戸数と総人口の相関関係は,年度が経過するごとに弱くなった。また,平均年齢は相関関係が強いという仮説を立てたが,実際は相関関係が薄かった。さらに,相関関係があると認められる老年人口,世帯数,総人口の各項目のうち,老年人口が最も相関関係が強かった。最も相関関係が認められる老年人口において,2008年度から2013年度までの5年間,2013年度から2018年度までの5年間の相関関係を比較したところ,2008年度から2013年度までの方が2013年度から2018年度までの相関関係よりも強いという結果となった。老年人口の増加が緩やかだったためと考察出来た。さらに提言として,(1)まちなかにおける空家を利用して若者が利用しやすい店舗を導入すること,(2)高齢者にとっては寄合のようないつでも集まって話が出来るところがあると自然と集まりやすいこと,の2点が挙げられ,ターゲットに合わせた対策が必要だといえる。


大原 大輝:新東名開通前から開通後までの新城市の対応と影響

 日本では,今日に至るまで,高速道路は,自動車が大衆化していく中で高度経済成長後の日本国民の生活を支え,地域経済の活性化や雇用を助成する工業団地の立地を促進してきた。日本の高速道路は全国的に休憩施設不足の課題を有していたが,それを解決するために近年「賢い料金」が全国20か所の道の駅で実施されており,地域活性化も期待されている。そこで,本研究は愛知県新城市を対象に入り込み客数や観光地への集客数の変化,工業団地や企業団地の誘致計画等を「賢い料金」を実施している新城IC開通による影響とみなし,それに伴う新城市の対応や開通前の動向を調査することによって,新東名開通が新城市に及ぼした影響を検討することを目的とする。
 第I章では問題の所在と研究方法について述べた。第II章では日本全国と過疎地域について高速道路の現状を踏まえ,全国の高速道路IC開通による経済波及事例を紹介した。第III章では新城市の概要について紹介した後,新城IC開通前の新城市の構想を整理し,新城市における観光客の動向を検討した。そして,道の駅「もっくる新城」の概要及び設立経緯について紹介した後,もっくる新城における利用者の動向を分析した。第IV章ではII−2の事例を参考に新城IC開通前の構想と現状を比較し,新城市が今後ICをどのように活用すべきかについて考察した。最後に第V章では結論と今後の課題を述べた。
 結果として,新城IC開通前に構想された4つの機能の中で期待された役割を果たしたのは文化・レクリエーション機能のみであった。この機能が新城市に及ぼした影響は,各観光地の観光客数の増加や,県営新城総合公園に新たなレクリエーション施設の建設であり,今後の新城市において,交流人口の拡大が期待される結果となった。また,当初の計画で想定されていなかったもっくる新城が,現在は新城市を代表する観光施設となり,入込客数の大幅な増加や,遠方からの来訪者数増加など,新城市の観光活性化に寄与していた。もっくる新城で利用者動向調査を実施した結果,休日は午前と午後ともに駐車場がほぼ満車であり,幅広い地域のナンバープレートが見られたが,圏内消費の割合が圏外消費の割合を大幅に上回っており,アクセス性と割合が比例する結果となった。そのため,時代の流れを読み,地域特性にあった施策を講じることが今後の新城市における課題だと考えられる。


黄木 ゆりあ:時代建物テーマパークの建物活用の在り方―博物館明治村のイベント集客を事例として―

 テーマパークは昨今,さまざまな工夫を凝らし入場者を獲得している。周辺地域に対して極めて閉鎖的なテーマパークは観光客数の獲得が容易ではない。栄え,廃れていくテーマパークがある中で,時代建物をコンセプトとし本物の建物を活用したアトラクションを行っている博物館明治村の展望は期待できる。本研究の目的は,博物館明治村が設立した背景や管理・運営方法に基づき,建物を扱うテーマパークの在り方を考察することである。また,春夏のメインイベントである謎解きアトラクションで使用された建物に特性があるか,イベントは村内を効率よく回ることのできる手段になりうるのかを建物活用の視点から明らかにするとともに,アトラクションの空間パターンについて検討する。
 まず第I章では研究の目的や方法を明確にした。また,愛知県犬山市の観光動向についても整理した。第II章では博物館明治村の設立背景や歴史,村内構成をリスト化した。さらに,明治村で行われている謎解きアトラクションの概要や過去タイトルをまとめ,2016年から毎年開催されている「明治探偵GAME」で利用された4年分の建物などのデータを年度別,難易度別にまとめた一覧表を作成した。第III章では,(1)建物の利用状況,(2)利用状況のパターン,(3)GISによる建物分布の以上三つの視点から分析を行った。年次及びレベルごとに建物の利用状況を整理するとともに,建物利用のパターンをモデル化した。そして,利用される建物の分布やレベルごとの移動範囲についてGISを用いて計算し変化を分析した。第IV章では分析結果をもとに,イベント集客の有用性について考察し,時代建物を扱うテーマパークにおける建物活用の在り方を提示した。第V章では,本研究全体のまとめと今後の課題を述べた。
 以上の結果から,明治村における建物活用のイベント集客は有効性があるといえる。その例として,謎解きイベントが好きである,イベントに起用された俳優やアイドルが好きである,建物が好きである,コラボ作品が好きであるといった明治村に訪れるそれぞれの理由がある。これは様々な客層から観光客を獲得することができることを示しており,建物を活用したイベント=謎解きアトラクションはプラスの効果があるといえる。建物活用の視点から見ると,凸包の結果から示されるように,2019年次のレベル1・2を除くすべてが明治村全域に目的地の分布が広がっているため,謎解きアトラクションに参加すると必然的に明治村全域を回ることができるといえる。また,レベル1〜5にすべて参加しても,シリーズ内で2回以上同じ建物が目的地として利用されることはまれであり,基本的に1年の中では1〜2回利用されるので、同じ年次のレベル1〜5まで参加すれば明治村の建物をすべて回れると考えてよい。


烏山 和之:北海道における鉄道路線廃止の現状と行政の動向

 我が国の鉄道は諸外国の鉄道と比較して路線数や列車の運行本数が多い上に定時性だけではなくサービスの質も高く,その利便性や安全性の高さから日本は「鉄道大国」と称されている。しかしながら,人口減少や過疎化,少子高齢化,モータリゼーションの進展により鉄道の地位が揺らいできている。国民の移動手段が自動車にシフトした影響で,地方では鉄道路線が廃止に追い込まれる事例が増加してきている。特に北海道の鉄道はその傾向が顕著であり,長大な路線の廃止の決定もしくは検討がなされている。そこで本研究では,鉄道路線の廃止に対する行政の動向について研究した上で,自動車交通に対する鉄道の優位性を示し,将来的な鉄道の存続の可能性について考察することを目的とした。
 第I章では本研究の目的や背景,研究の方法について述べた。具体的には,鉄道の現状と課題点を明らかにするために先行研究を土台として人口推移等の社会的なデータ,輸送密度や列車の本数,乗車人員,収支状況等の鉄道に関するデータを収集・分析し,考察につなげた。第II章ではJRの前身である日本国有鉄道(国鉄)が分割民営化に至る経緯を整理し,本研究の研究対象であるJR北海道が抱えている課題を人口の観点と経営の観点から分析した。第III章ではJR北海道管内で廃止された路線(名寄本線)並びに廃止が予定されている路線(札沼線)の具体例を挙げて,2つの路線の類似点や相違点を整理し比較した。第IV章では第II章から第III章までの結果を踏まえ,今後のJR北海道そして鉄道の優位性や存続可能性,将来の展望について考察した。第V章では本研究のまとめを行った。
 以上の結果,現状では赤字のローカル線の存続は厳しく現実的ではないことが明らかとなった。しかしながら,鉄道大国の名を廃れさせないために鉄道の活路を見出すことが重要だと感じた。鉄道の存続に関する議論はJRや地方自治体のような上位のみならず,住民や市民団体の参画を軸としたコミュニティレベルを交えて展開する必要があると考えた。また,モータリゼーションの定着により減少している鉄道の利用客を戻すための方策を考えることが肝要であると感じた。自動車交通と比較した場合の鉄道の優位性である環境負荷の少なさが地球環境に寄与していることを周知すべきである。他にも,旅客鉄道の運行だけでなく地域の観光資源を活用して観光列車を運行する等新たな事業を展開することが必要であるということがわかった。


小林 南斗:新規就農者への支援策に関する研究―愛知県豊橋市の取り組みを事例として―

 近年,日本では新規就農者に対して,国を始め,都道府県や市町村,農協,農家グループ,農業法人等の関係機関がさまざまな支援の取り組みを行っている。新規就農者は,農業生産の担い手のみならず高齢化・過疎化した地域社会を支える担い手としても期待されている。そこで本研究は,「就農後の安定的な農業経営に資する支援とはどのようなものか」「農業法人は地域農業の担い手育成にどのような貢献をしているのか」という2つの検討課題を明らかにすることを目的とし,農業への新規就農者への支援策に関して,愛知県豊橋市の取り組みを事例として調査した。
 第I章では,現在の日本の農業の現状を踏まえ,新規就農者に対して,国をはじめとした都道府県,市町村,農協,農家グループ,農業法人等の関係機関がさまざまな支援の取り組みを行っていることを踏まえて,目的・手順を示した。第II章では,日本の農業の現状と課題を述べた。第III章では,豊橋市の概況として,(1)人口推移と(2)気候,次に農業の概要として(1)農家数と経営耕地面積と(2)農作物の特徴を整理した。第IV章では,豊橋市の総合計画,基本構想は農業に対してどう取り組んでいるのか,そして実際に取り組んでいる豊橋市の新規就農支援を示した。V章では, 豊橋市の新規就農支援の実態を検討した。VI章では,豊橋市の新規就農支援の現状,課題を考察し,豊橋市の新規就農者を増やすために必要なことを提言した。VII章では,本研究の全体のまとめを行うとともに,今後の課題を示した。
 豊橋市の新規就農支援の現状・課題として,日本全体の新規就農支援の課題と類似しており,資金,農地の確保が難しいこと,農業技術の習得が必要であること,経営の安定化を図ることの難しさなどが挙げられる。それらの解決策として,担い手への農地の集積化に向け,農地を借りやすくすること,農業の成功者の紹介や体験研修の実施などの農業のPR,就農後の農業技術の向上に向けての様々な研修の実施が必要となる。また近年では,スマート農業というロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して,省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業があり,豊橋市でも積極的に取り組んでいる。スマート農業が,日本そして豊橋の農業が抱えている課題の克服に貢献できるよう,地域全体で協力しあうことが大切である。


澤田 凌:山間部におけるフードデザート問題の現状―愛知県豊田市足助地区を事例に―

 過疎農山漁村などの縁辺部では,生鮮食料品店が不足しており,今後,老親の生活環境が悪化することが危惧されている。本研究の目的は,愛知県豊田市の足助地区を研究対象地とし,中山間部地域におけるフードデザート問題の現状を明らかにすることに加え,高齢者の買い物環境の現状を把握し,あわせて食品摂取の状況について検討することである。また,今後の足助地区でのフードデザート問題の対策について,提案した。
本研究は次に示す五章構成で行った。I章では,フードデザート問題の概要と先行研究について紹介し,本研究の目的と研究方法と手順について説明した。II章では,豊田市および足助地区についての地理的特徴や買い物環境および,人口動態を整理した。III章では,足助地区で65歳以上の高齢者を対象に食品摂取状況と食料品の買い物環境に関するアンケートとヒアリングを行い,回答者の属性,1週間の食品摂取の多様性,食料品の買い物環境の3つの項目間の関係性の分析を行った。IV章では,分析結果を元に考察を行い,足助地区における買い物弱者の支援を,アクセス型,配達型,共食型のそれぞれで提案した。V章では,今後の足助地区での課題とフードデザート研究での課題についてまとめた。
 分析の結果,高齢者の数年後の健康状態の予測指標である食品摂取多様性得点の低群の比率が半数を超えていたことがわかった。このことから足助地区ではフードデザート問題が発生している可能性が高いと考えられる。また,肉類,イモ類,海藻類,油脂類の摂取頻度が低いことがわかった。さらに,足助地区では(1)地域の活動やイベントに参加しているか(2)同居者がいるか,の2つの要素が多様性得点に大きく関係していることが分かった。この2つの項目から足助地区では特に社会や地域とのつながりと生活の中で接する人の有無が健康状態に影響することが考えられる。加えて,足助地区にある福祉・観光施設を活用し,新たにハムやソーセージを使った料理の会食会を定期的に開催することで,課題の1つであった肉類と油脂類の摂取頻度の低さを補うことができ,さらに参加者同士で新たなつながりを持つことができ,健康被害の予防が期待できる。


筒井 亮:大都市圏郊外地域における大規模商業施設の競合―名古屋大都市圏を事例として―

 大規模商業施設に関する今までの研究は,新規店舗の郊外進出の加速とそれに伴う中心市街地空洞化に着目した分析が多く,それらの問題を解決する方法を検討する内容のものが多かった。しかし,大規模商業施設の出店が相次いだ郊外地域における店舗間の競合を中心とした研究はあまり行われていない。また,近年は郊外に立地するショッピングモールの中でも,ライバル店との競争に負けた店舗が,多くのテナントを流出させ開店休業状態に陥り全国ニュースで取り上げられるなど,競争に負けた店舗に注目が集まる事例もいくつか出ている。そこで本研究は,大都市圏郊外地域における大規模小売店舗法廃止以後の大規模商業施設の出店と廃業,閉鎖した店舗を立地動向や商圏面積や人口の変化などを分析することで,郊外地域に立地する商業施設を取り巻く商売環境の変化や閉店に追い込まれる店舗の特徴,今後の競争に勝ち抜いていく大規模商業施設にはどのような特徴があるのかについて検討することを目的とした。
 第I章では大規模商業施設を取り巻く法律について整理し,現在の大規模商業施設の都市圏郊外地域への進出と中心市街地の空洞化が進行した経緯を明らかにした。そして,先行研究の事例を取り上げつつ,本研究の目的と分析手順,分析対象をまとめた。第II章では,全国の大規模商業施設の動向を業態別に取り上げ,各業界全体の勢いや特徴などの概要を捉えた。第III章では,名古屋大都市圏の郊外地域の一部である名古屋市を除いた尾張,名古屋,知多都市計画区域を対象にバッファやボロノイに基づく商圏分析を行い,大規模商業施設の競合の変化についてまとめた。第IV章は,第III章の分析結果をもとに競合や進出撤退についての考察を行い,第V章で本研究全体をまとめた。
 まず大規模商業施設の立地動向については,全国的な傾向と同じく対象地域でも出店が相次ぎ,近年は特に交通網の整備が進んだ地域の出店が目立つ傾向となった。次に,各店舗の商圏人口は,7.5q商圏人口では地域の人口増加もあり,横ばいや微増のチェーンが多かったが,ボロノイ分割による商圏人口では出店の増加による競争の激化から店舗数の多いチェーンを中心に減少が目立つ結果となった。さらに,店舗間距離については,同一チェーン内だと全国規模のチェーンは店舗の間隔をあけた立地,地元チェーンは比較的店舗の間隔を開けず集中した立地であるという特徴がみられた。加えて,開業年代別にみると1970年代以前に出店した店舗は駅からの距離を考慮しない立地のものが多いのに対し,時代が経過し現在に近づくにしたがって駅まで近距離の立地に出店する店舗が増える傾向にあることが分かった。一方で閉鎖店舗に関する分析については,対象地域である尾張地区は人口増加が続いていることもあり競合が激化しても閉鎖店舗があまり出現せず,また数少ない閉鎖店舗についても商圏の特徴よりもほかの要素が原因である可能性が高いという結果となった。


花岡 昂弥:高速道路インターチェンジ導入による農村地域の都市化

 経済発展には道路整備の拡充が必要不可欠となっているが,特に高速道路開通は,都市間の移動時間短縮だけではなく,インターチェンジ付近の活性化にも寄与してきた。そこで本研究は,都市的,農村的両方の面をもつ,中央自動車道を研究対象に,新たに農村地域や都市化について定義をし,土地利用分析から各インターチェンジの都市化を数値化した。その後,中央自動車道内の特徴的なインターチェンジをいくつかピックアップし,GISを活用したインターチェンジ周辺の土地利用変化を分析した。この研究から農村地域のインターチェンジ敷設は実際活性化に繋がっているのか都市化の観点から検討した。
 第I章ではまず,近年の高速道路に関する影響について触れ,次にどのような学術的研究が実施されてきたのか明らかにし,本研究のオリジナリティを示しながら研究目的,研究方法について述べた。第II章では,インターチェンジ等に関する概要を述べた。II-1では農村地域におけるインターチェンジを,II-2では都市化について定義をした。その後,II-3では研究対象である中央自動車道の概要や歴史について整理した。第III章では,まずIII-1でGISを用いて行った分析方法について記した。次にIII-2では中央自動車道全体でインターチェンジ半径5km以内の土地利用分析を行いながら,特に都市化の変化率が高かったインターチェンジを抽出した。III-3では各インターチェンジがどのような都市化を経たか,1976年から2016年までで農村的土地利用や変化ポイントに応じて分類しながら検討した。第IV章では第III章でピックアップしたインターチェンジとその付近について,地形図の比較に基づき要因を探るとともに,山梨県,甲府盆地,甲府市の3つのスケールで,都市化の要因を考察した。第V章では,今までの結果を踏まえてインターチェンジが都市化に与える影響について考察して行くと共に,この研究のまとめや反省・課題を述べた。
 その結果,農村地域や中間地域の中でも農村的土地利用が1976年時点で低かった地域で,2016年との変化率が高いことが明らかになった。また,都市発展型や農村発展型である,甲府昭和インターチェンジや甲府南インターチェンジでは特に変化率が高く,その両インターチェンジは山梨県甲府市に存在していたことがわかった。この要因としては,中央自動車道の全線開通などにより工業立地上の制約は大幅に緩和されたこと,周囲の工業地域や,東京へのアクセスが容易になったこと,そしてドーナツ化現象が進展したことの3つが挙げられ,その結果,企業や住民が集まるようになったと考察した。以上より,インターチェンジごとに差はあるが,企業や住民の誘致など都市化がおこるには中央自動車道開通が契機となっており,高速道路の建設は地域経済に影響を与えるといって間違いないと指摘することができた。


水野 広己:冷戦時代のソ連における日本の地図の特徴

 ソビエト連邦(以下,ソ連)第二次世界大戦におけるナチス・ドイツとの戦争にて勝利した後,新たな仮想敵国であるアメリカ合衆国に対抗するために軍事力増強に膨大な時間及び予算をつぎ込んだ。また単に兵器の開発や生産だけでなく,仮想敵国・対立している西側陣営に対する諜報活動においても非常に力を注ぎ,その国々の国内情勢や国防に関する情報等を調査していた。その中でも,世界各国の都市の地図作成に力を注いでいた。今我々はGISを使って街中の様々な設備の分布を地図上に示すことができるが,ソ連は1960年代にはそういった世界中の地図を,軍事上の目的で作成していた。そこで本研究では,冷戦時代のソ連の地図を分析することにより,当時のソ連でどのような設備などに注目して地図を作成していたのかを明らかにすることを目的とした。また同じ時代の日本国内作成地図と比較することにより,国内地図では知りえない日本の街の設備分布が見えるかを考察した。
 第I章では、かつての軍事大国であるソ連が軍事力増強のために膨大な予算を掛けた背景と,冷戦時代のソ連の地図を分析することにより,当時のソ連でどのような設備などに注目して地図を作成していたのかを明らかにするという目的を述べた。第II章では、ソ連の地図がどれほど詳細に描かれているかや,民間用地図と軍事用地図の相違点,ソ連側がどのようにして情報を集めたかを整理した。第III章では,実際にソ連が作成した東京都内の地図と,日本が作成した東京都内の地図を比較し,相違点などを考察した。第IV章では,相違点などから得られた考察・結論などを示した。
 結論として,冷戦時代のソ連では,軍事用と民事用で地図が分けて編纂されており,軍事用の地図では,民事用の地図にはない,地理座標,街路索引,基本情報,重要目標物が記載されていた。道路と鉄道に関しては,軍事用のみ行き先と距離が記されていた。ソ連側の方が詳細だったのは,大人数を収容できる建物の位置の強調や,在日米軍基地や自衛隊の駐屯地,駅,発電所等内部の施設の細かな配置等であり,逆に日本側の方が詳しかったのは一部工場・研究施設の輪郭や刑務所・拘置所,そして大学の建物の輪郭などであった。ここで述べた特徴は,ソ連の軍事用地図の特徴と共通点が多い。よって,ソ連が作成した日本地図は,日本での軍事行動を想定したものと考えられる。


山田 拓己:静岡県沼津市における茶業の地域的特徴―大規模生産地における小規模生産地としての戦略に注目して―

 近年地方都市ではその地域独自の環境や文化,農産物などの地域資源を活用し地域ブランドを確立し知名度の向上を図り消費を促進する動きが活発に行われている。そうした流れの中で日本を代表する農産物であるお茶においても取り組みが行われており,大規模生産地内における小規模な生産地においても独自にブランド化を図る地域も存在する。そこで本稿では,静岡茶の産地である静岡県を大規模生産地とし,その中に属する小規模な各産地 を小規模生産地として設定し小規模生産地の戦略について,茶業を題材とし歴史や生産面,ブランド化について調査し,現況の分析を行い,今後の小規模生産地におけるブランド化戦略を考察することを目的とした。
 第I章では,はじめにとして,研究の背景,先行研究の紹介,本研究の目的及び方法について論述した。第II章では沼津市の概要と特徴について論述し,沼津市の地理的特徴,そして沼津市の農業について紹介した。第III章では,沼津茶の概要と歴史,生産や地域ブランド及び「沼津茶」の近年のブランド化について整理した。第IV章では,それまでに論述してきたことを踏まえ,沼津市の茶業の今後の課題・展開,そして小規模生産地における地域ブランドの今後の展開について考察した。第V章では,本研究のまとめを述べ,今後の期待と課題について提示した。
 以上の結果から,静岡県全体の茶業の動向に対して,沼津市における茶業は,茶園,荒茶生産量,茶産出額などにおいて減少は緩やかであることが分かった。更に全国的な知名度の低さと,地域における「沼津茶」のブランド確立に対する動きが弱いことも示された。これらを踏まえ,既に「静岡茶」という認知度の高い地域ブランドの産地である静岡県において,小規模生産地である沼津市が「沼津茶」を地域ブランドとして確立させるためには,地域ブランドとしての知名度を高めること,今までの考えにとらわれない新たなマーケティングを行っていく必要があることが指摘できた。更に「沼津茶」は,すでに「静岡茶」という大きな地域ブランドが確立している中での地域ブランド化は難しく,沼津市における茶業は年々徐々に衰退しつつあるが,少しずつではあるがブランド確立に向かっている産地であると位置づけた。