駒木ゼミ卒業研究要旨

2018年度提出分 (13名・50音順)

安部 功起:鉄道代替手段としての路線バスの可能性に関する研究

 日々多くの人が利用する鉄道は,人身事故・車両や施設の故障・災害等により,時に運休になる場合がある。とりわけ,東日本大震災をはじめとする自然災害の場合は,運休が長期にわたっているケースが多くみられる。一方で,路線バスは鉄道より早く復旧する傾向にある。そこで本研究では,災害などの何らかの理由で長期間鉄道が使えなくなった場合を念頭に置き,路線バスでどの程度代替できどこまで移動可能か,その際どのようなルートをたどるかを明らかにすることを目的とする。
 第I章では「路線バス」の定義を行い,調査対象や調査条件を整理した。第II章では,対象地域である名古屋圏の鉄道網の特徴および愛知・岐阜・三重各県の路線バスの特徴を明らかにした。第III章では,名古屋駅を起点として,鉄道駅を目的地とした場合の乗り継ぎルート・所要時間を分析した。また,名古屋駅から鉄道を用いた場合の所要時間により鉄道の所要時間比を求め,鉄道路線ごとの特徴を検討した。第IV章では,第II章で明らかになったバス路線の特徴や,第III章で明らかになったバス乗り継ぎルートを基に,バス路線のモデル化を行った。また,乗り継ぎ事例から,乗り継ぎのパターンの特徴を考察した。さらに,第III章の結果を基に,路線ごとのバスの所要時間と距離の関係,平均速度,距離とバス・鉄道所要時間比率の関係を考察した。第V章では,本研究のまとめおよび今後の課題を検討した。
 乗り継ぎ調査の結果,名鉄名古屋本線およびJR東海道本線東部方面は愛知県豊橋市の二川駅,JR東海道本線東海道本線西部方面は滋賀県の長浜駅,JR中央本線方面は岐阜県瑞浪市の釜戸駅,近鉄名古屋線方面は三重県津市の久居駅まで到達できることが分かった。また,路線ごとにバス・鉄道の所要時間と所要時間比率をみると,鉄道移動の場合乗り換えの多い名鉄小牧線や名鉄豊田線で所要時間比率が低くなっており,鉄道の所要時間が短く,バスの場合大きく迂回するルートを取る東海道本線両方面や名鉄名古屋本線東部方面,名鉄犬山線方面で所要時間比率が低くなっていた。以上の結果から次の2点を考察した。第一はバス路線についてである。鉄道が直進するのに比べて,バスルートは迂回するように進んでいた。これはバス路線が鉄道駅を中心に郊外へ延びており,それらを乗り継ぐことからこのようなルートをたどると考えられた。その結果からバス路線構造のモデル化と,主に3つの系統とその他の系統に分類した。第二は乗り継ぎについてである。路線運営者ごとに時刻表の調べやすさを検討した結果,民営バスは調べやすいが,県境を越える場合やコミュニティバスを乗り継ぐ場合は調べにくかった。乗り継ぐ際のパターンを分類すると,徒歩区間を繋ぐパターンが県境・市町村界周辺に多く見られることが分かった。さらに全路線のバス・鉄道所要時間比率を比較すると,衛星都市が立地している名古屋駅から20〜30km 地点で比率が低下する地点が見られた。


井口 芽友可:祭りの伝承と意識変化について―浜松まつりを例に挙げて―

 現在,全国で高齢化や人口減少が進み,親戚や知人のつてを頼って外から人を集めないと地域の祭りが成り立たなくなっている。ただし,現代のニーズに合わせた祭りの形に変化させていくことは重要であるが,その根本にある祭りの本来の目的を忘れてはならないであろう。本研究では,神社仏閣の祭礼とは異なる,地域コミュニティによる「市民のまつり」である「浜松まつり」を事例に挙げ,歴史的変遷,参加町,祭り内のイベントの変遷,問題点を踏まえた上で,祭りの参加状況と意識を明らかにするとともに,今後の課題について提示することを目的とした。その際に,戦後比較的早い時期に都市化が進行した中区茄子町と,郊外エリアに位置し新興住宅地が多い東区市野町に注目した。
 第I章では,浜松まつりの継承と意識変化についての研究をするにあたっての背景と,ヒアリングやアンケートを用いた調査方法などの調査の概要について整理した。第II章では,研究の背景として,浜松市の人口と歴史,浜松まつりの歴史を整理したのちに,浜松まつりの参加町やまつり内のイベントに関する現状の問題点を示した。第III章では,浜松市中区茄子町と浜松市東区市野町でアンケートを行い,浜松まつりの参加状況や意識の違いを比較,考察した。第IV章では,これらの結果を踏まえ,浜松まつりの今後の課題や,意識変化について提唱した。第V章では,本研究の全体のまとめを行うとともに,今後の課題について示した。
 結果として,茄子町と市野町では,参加者の割合の差が大きく,今後のまつりへの参加意識についても差が大きかった。これにより,浜松まつりに対する意識も異なることが考察できた。また,中区茄子町と,東区市野町で行ったアンケート調査の結果として,2つの課題が浮き彫りとなった。1つ目は「市野町のような参加率の低い地域をどのようにして参加するよう促していくか」である。解決策としては,年会費やワッペン代,その他,まつり内で必要な法被などの正装の減額である。また,ワッペンが無くても参加できるイベントや,高齢者でも体力的な心配をしなくても町民とコミュニケーションを取り,主体的に参加できるイベントがあると良いのではないかと考える。2つ目は「初子の接待が重荷」であるということである。浜松まつりの本来の意義は,「初子を祝う」ということであるが,接待などの負担が大きく,子どもが生まれても参加しない家族も増加している。解決策としては,接待をしなくても凧揚げや万歳練りをすることができるような新たな仕組みづくりなどが挙げられる。


泉澤 俊:浜松市における太陽光パネル設置環境について―自然環境と防災の観点から―

 東日本大震災が起きた2011年以降,再生可能エネルギーの需要が高まりつつある。本研究ではその中でも一般の認知度も高いであろう太陽光発電の立地課題について注目する。太陽光発電の立地は,他の再生可能エネルギーより地理的な多様性を有しており,特徴,課題が広く深く発見できると考えられる。太陽光発電の立地の最大の特徴は,小規模から大規模,建物屋上設置から地面設置等,融通が効くと言うことである。その反面,立地課題を多く抱えている。そこで,本研究では全国有数の日照量を誇り,災害リスクの懸念もある静岡県浜松市を取り上げ,太陽光発電の自然,災害リスクを検証することを目的とする。
 本研究の手順は次のとおりである。第I章では,再生可能エネルギー全体が注目される様になった背景に触れ,本研究のテーマである太陽光発電の立地に関する,特徴やデメリットについて述べた。第II章では,研究を行う上での視点,対象となる地域の設定且つ優先順位の決定,そして研究方法を定義した。第III章では, GISを用い研究対象地域の各種データを対象地域内の太陽光パネルデータと組み合わせ,立地分析を行った。また,合わせて行政による,太陽光発電事業についても触れた。第IV章では,自然環境,防災環境の面から,浜松市が太陽光発電に適している地域であるのかを考察した。最後に第V章では,総括を行うと同時に,課題提起を行った。
 研究の結果としては,浜松市は,南北で太陽光パネルの立地環境に違いがあることが分かった。自然環境に関しては,浜松市南部地域が恵まれており,北部はそれに劣る。災害リスクに関しては,浜松市全域に課題を残すものの,特に南部地域の津波リスクが懸念事項として挙げられる。考察としては,浜松市は,地区差は大きいものの太陽光発電に向いている自然環境であり,現状のパネル位置もそれに即しているものも多い。しかし,土地利用区分上の問題を始め災害リスクの観点からはまだ課題が多く,行政もより一層の課題解決が求められる。


伊藤 聡志:湖西市における津波対策及び避難所について ―メンタルマップを活用して―

 関東大震災や阪神淡路大震災,東日本大震災など,過去から現在に至るまで,日本は巨大地震にたびたび見舞われ災害によって多数の死者が出ている。特に近年太平洋沿岸では,今後懸念すべき南海トラフ地震が注目されている。災害の事前対処にあたっては,その土地に対する基本的な情報を常時意識して行動をとることが必要になる。しかし,人それぞれが土地に対して持つ意識の観点は違っている。そこで,本研究はメンタルマップを活用し,土地に対して個人がもつイメージと実際の地理的環境を比較しつつ空間における認知の傾向を明らかにすることを目的とする。
 本研究は次に示す五章構成で行った。第I章では研究の基となる津波被害とメンタルマップについて,基本的な情報を述べた。第II章では現状の課題を把握し,第III章では避難所としての在り方を行政の視点と市民意識の結果との双方を照らし合わせて防災意識を整理した。第IV章ではメンタルマップを用いて,市民の持つ避難所周辺の意識の地理的特徴を考察した。第V章では結果とともに津波避難の役割で不足している面の改善などについて述べ,本研究における成果と今後の課題についてまとめた。
 メンタルマップの分析からは,男女間における認識されたエリアや施設の違いが明らかとなり,互いに事前の避難に対する意識不足である点が示された。メンタルマップの活用は,アンケート調査を行った人に対しては,普段考えなかった道について少し意識させるきっかけとなっていた。地図として認識している空間と可視化をすることで,空間認知の情報の共有を広げ,避難の認識を高くすることができた。津波被害の対策は,属している一つの自治体だけでなく近隣自治体との連携状態や普段の生活圏の状況によっても異なる。したがって事前認知に関しても,重視すべき個別の避難の認識範囲を広げる必要がある。そのためには,メンタルマップを活用して避難意識の向上と周辺環境の事前意識を社会全体として広げて津波被害を最小限にすることが最終目標として挙げられる。


大竹 美希:袋井市における市民参加型映画の作成活動に関する研究

 近年映画による影響力が注目されているなか,地域と映画の関係が密接になっている。フィルムコミッションにより地域住民が映画製作に関わる機会が増え,地域に映画文化が創造・発信されている。そのなかで,地域住民が主体となり映画製作をする「市民参加型映画」の活動が活発になっている。このような動きは全国で見られ,自治体の関心も高い。地域映画祭への出典や海外で受賞した事例もあり,地域活性化の手法として有効である。本研究では全国で行われている市民参加型映画をその活動状況により分類・整理し,事例を通じてその運営にかかわる特徴を分析することで,今後地域活性化を目指すうえでの課題と在り方を考察,提示することを目的とした。
 第I章では,ロケ支援団体フィルムコミッションと市民参加型映画の背景を述べ比較を行った。第II章では市民参加型映画の定義を示し,(1)タイトル,公開日 (2)地域 (3)公開範囲 (4)目的 (5)市民との関わりなどの項目に基づき市民参加型映画を地域完結型映画と地域発信型映画に分類し,その特徴を整理した。第III章では,静岡県袋井市で行われている市民参加型映画のうち「明日にかける橋」を地域発信型映画,「Magic Town」を地域完結型映画として取りあげ,概要,上映までの経緯,組織の特徴,PR活動,課題,効果を中心に検討した。第IV章では,これらの結果を踏まえて市民参加型映画の特徴と今後の在り方について考察した。第V章ではまとめと今後の研究課題を提示した。
 映画のクオリティにも関わる市民参加型映画の制作体制をみると,公開範囲が広い映画はプロの割合が高く,狭い映画は市民の割合が高いことが分かった。また地域発信型映画の特徴は「資金不足だが発信力が高い」ことで,地域完結型映画の特徴は「発信力が低いが資金に困らない」ことであった。市民主体の映画製作の課題は,資金不足,持続性がないことである。今後,地域活性化を目指す上では目的の明確化・市民と行政の連携・持続的な活用を意識する必要がある。行政と市民の連携にはお互いの信頼関係が必要であり,どのように信頼関係を築き適切な役割を担うかが重要である。


荻原 柚子:自治体の政策からみた「昇龍道」プロジェクトの持続可能性

 近年,日本の訪日外国人旅行者数は増加傾向にあり,その約7割をアジア圏が占めている。しかし,中部地方はゴールデンルートの中に含まれており,魅力的な観光地が多く存在しているにも関わらず,他の地域と比較して訪問数が十分に得られていない。さらに,2000年代に行われたインバウンド政策の動向から,今後観光政策をさらに徹底して行う必要がある。そのためには,中部地域が連携して広域的かつ密接な観光政策を進めていくべきである。本研究は上記の背景から,その地域の自治体が行っている昇龍道プロジェクトに関する事業と全9県の取組に対する地域差を分析することで,プロジェクトの将来性及び持続可能性とその位置付けについて検討することを目的とする。
 第I章では本研究の背景をまとめ,目的を提示するとともに,既存研究を整理した。第II章では研究方法とその手順,さらに今回取り上げる昇龍道プロジェクトについて概要と対象とする意義について記述した。第III章ではプロジェクトの実施主体である中部運輸局観光部の活動方針を述べた上で,近年の活動状況と課題や今後の展開についてヒアリング結果を基に示した。その上でプロジェクトに対する連携と取り組みへの地域差について,全9県の自治体が参加対象となるプロジェクトの会議と昇龍道ミッション団への参加状況について,定量・定性の両面から分析した。次に,愛知県・岐阜県・三重県の3県を事例として取り上げ,プロジェクトに関する各自治体の事業の特徴を相対的に比較・考察した。第IV章では昇龍道プロジェクトの現状と今後の展開について提示して,プロジェクトの持続可能性について検討を行い,第V章でまとめと今後の課題を示した。
 結果として,「昇龍道アクション・プラン」と近年の活動状況から,現在受入環境の整備とプロモーションに力を入れている一方で,新規市場へのプロモーションとFIT・リピーターの獲得,FITに対応した受入環境整備とインバウンド効果の地域全体への波及,連携強化とマーケティング不足が課題として明らかになった。次に,プロジェクトの全体会議と昇龍道ミッション団への参加については,地理的理由と日程上の理由を考慮しつつも,最終的には興味・関心に応じており,地域差をもたらしていた。それだけでなく,今後活動していく上で重要視されるべき事項として,事業自体の存続に対する問題が明らかになった。昇龍道プロジェクトは今後も中部圏に対する訪日外国人旅行者のさらなる増加と促進のために連携し活動を持続する上で,必要不可欠な広域観光プロジェクトであると位置づけられる。そのためには,受入環境整備とプロモーション活動の継続,全9県の連携強化,県の意識変化,新規ターゲットへの積極的な進出の4点が必要である。さらに,プロジェクトの持続可能性について,主要事業の見直し,ターゲットの市場拡大といった大幅な変化を柔軟に行いつつ,全自治体が一体となり事業に取り組んでいくことが必要になると結論付けた。


久保田 有香:地域の観光資源としてのご当地グルメの活用―浜松ぎょうざを事例として―

 「食」は単なる栄養補給としての食事ではない。その質や楽しみ方についても関心が高まっており,食べ物の知名度や味,見た目は人々を引き付ける魅力がある。現在,日本各地には「B級ご当地グルメ」という地域の特色を生かした食べ物が存在する。本研究では,観光資源の一つであるB級ご当地グルメが地域活性化に与える効果を検討するに当たり,浜松餃子を主題に取り上げる。今や浜松餃子は有名であるが,何故浜松で餃子の人気があるのかと問われると明確に答えることはできない。餃子を地域資源として活用している地域は浜松市だけではないが,知名度があり地元の住人からも愛され人気がある。これは他の餃子にはない浜松市特有の性質があったからこそ根付いたものだと考える。そこで本研究では,B級ご当地グルメである浜松餃子が,観光資源としてどのように発展し,活用されてきたのか明らかにすることを目的とした。
 第I章では,先行研究を取り上げた。第II章では,郷土料理も取り上げつつ,B級ご当地グルメの概念について明らかにした。そして,B級ご当地グルメが人気になった背景である食フェスとはどのように拡がっていったかを述べ,食フェスに関するアンケート結果を用いて食フェスに対する意識調査を考察した。第III章では,日本の餃子の歴史を把握し,浜松餃子以外の有名な宇都宮餃子や津餃子のそれぞれの特徴を整理した。第IV章では,浜松餃子の歴史や特徴を明らかにした。その際には,餃子店の分布や消費量について注目した。第V章では,浜松餃子学会,浜松餃子まつり,浜松市における取り組みの過程をそれぞれ明らかにした。第VI章では,まとめと考察を述べた。
 B級ご当地グルメを広めるためには,地域の特徴を生かした魅力とイベント活動,メディアの活用が欠かせない。浜松餃子は浜松市を代表するB級ご当地グルメとして今に至るまでに,古くからの歴史の流れと,それを生かした現代の人々の努力により人気になったということが分かった。浜松餃子は浜松餃子ならではの特徴や,浜松市の支援もありテレビや情報誌を通して全国へ知名度を広めていた。課題としては,B級ご当地グルメのブームがいつまで続くかという点が挙げられる。これに対しては,B級ご当地グルメ同士が競い合うのも良いが,全体を盛り上げるために協力し合うことも大切だと考える。


佐藤 海斗:運営主体からみた都市公園の管理に関する研究―サリオパ―ク祖父江を事例として―

 我が国の公園は,様々な点においてその役割を果たしている。その中でも,最も大きな役割を持っている公園が都市公園であるが,2つの課題を有している。第一は公共性の強い都市公園を指定管理者制度に管理委託することの是非,第二は管理・運営について公共団体同士で連携していく際の合意形成である。本研究の目的は,都市公園の管理者・主権者同士の連携の視点から愛知県の都市公園の課題を考察するとともに,愛知県内の都市公園に指定管理者制度による民間委託の課題と公共団体の連携の課題が存在するのかを考察していくことである。事例として,市営公園,県営公園,国営公園という異なる公共団体同士が連携しあい,指定管理者制度により管理運営されているサリオパーク祖父江を取り上げた。
 研究の手順は次の通りである。第I章では都市公園の概要とそれに関連する先行研究を示すとともに,II章では愛知県の都市公園の特徴を整理した。III章では本研究の目的・意義,研究方法を述べた。IV章でサリオパーク祖父江内の各公園の現状と管理体制を示した。V章ではサリオパーク祖父江全体の現状を示し,各公園とサリオパーク祖父江との現状からサリオパーク祖父江にこれから起こり得る問題を考察した。VI章ではこれらの結果をふまえ,サリオパーク祖父江に前述した2つの課題があるかどうかを考察し,今後の課題について検討した。Z章では,まとめと今後の研究課題を示した
 以上の結果,サリオパーク祖父江では現状,公共団体と指定管理者とのコミュニケーション不足により公共団体側が都市公園の現状を把握できていないという課題があるが,公共団体同士の連携には課題が存在しないということが分かった。しかし,将来的に連携が深まっていくにつれて,各公共団体の規模や熱意の違いから課題が出てくる可能性があることが考察できた。そのため(1)指定管理者への過度の依存を改め都市公園の現状を把握するために指定管理者とコミュニケーションをとること,(2)連携に具体的な目標を早めに設定しサリオパーク祖父江の将来像を明確に示すとともに公共団体同士の意思を合致させる必要があることの2点が必要であるといえる。


鈴村 朋大:愛知県豊橋市におけるまちなか図書館の展開

 近年,地方都市の衰退が叫ばれて久しい。このような状況に対して中心市街地では,まちづくり三法及び各種の支援策により,中心市街地活性化の実現が目指されてきた。しかしながら,中心市街地の状況は必ずしも改善していない。そのような中,各自治体の中心市街地活性化政策において数多く取り組みが展開されているのが公共施設の整備である。本研究で注目するのは図書施設の整備であり,各自治体の自己評価でも多くの事例でその効果の発現が触れられている。その政策展開を検証することは,今後の中心市街地活性化政策のあり方を構想する上でも大きな意義を持つものと考えた。そこで本研究では,現在,中心市街地活性化政策の中で,図書施設の整備が進められている愛知県豊橋市まちなか図書館の事例を中心に,各自治体の図書施設に関する政策展開を検証することを目的とした。
 第I章では,研究の背景及び本研究の意義を述べた。第II章では,まず,日本国内で先進的な事例とされているいくつかの図書施設の概要を整理し,さらに評価の高い図書施設を中活計画との関係を踏まえながら,その展開を検討した。第III章では,豊橋市の中心市街地活性化基本計画を整理し,まちなか図書館の展開について述べた。第IV章では,豊橋市まちなか図書館の位置づけ,オリジナリティ,アクセスへの対応を示した。第V章では,第II章〜第IVを踏まえて,今後の豊橋市まちなか図書館のあり方について示した。
 全国の図書施設を(1)商業との連携,(2)既存の図書施設とは異なるコンセプト,(3)図書施設との連携,の3つの要素から見た結果,要素(2)を持つものが最も多かった。先進的な図書施設では,複数の要素を有するものもあった。図書館の性質として,その公的関与の必要性の高さなどを踏まえ,管理運営の中枢となる部分については直営を基本としている図書施設が目立った。その一方で,民間ノウハウを活用することのメリットなどを踏まえ,指定管理者制度を選択する図書施設もあった。図書施設の管理運営形態に関しては,その地域における図書施設の設置目的や運営の公平性等,様々な観点から最適な手法の検討を行う必要がある。蔵書数に関しては,概ね人口と相関にあった。今後は,これまで以上に様々な役割や可能性を示していく必要があると考えられた。本研究で事例とした豊橋市まちなか図書館は,上記の要素(2)及び(3)を持つものであった。あくまで図書館分館という位置づけではあるが,その拠点性や機能性を踏まえれば,豊橋市における都市福利施設とまちなかを空間的につなげる存在としても重要であると言える。オリジナリティについては,従来の図書館の組織構成に加えて,まちづくり部門という,まちや人に焦点を当てたその体制とソムリエを配置するマネジメントがあげられた。市民や周辺の書店から寄せられている期待は大きく,今後の図書施設のあり方や新たな需要の掘り起こしを考えると,誰もがアクセスできる図書館サービスを提供していく必要性がある。そのためにも,豊橋市まちなか図書館は図書館の枠組みに囚われることなく,積極的な挑戦をしていくべきだと言える。


田内 尋:地域活性とWebサービス―豊橋市におけるオープンデータの取り組みを事例として―

 オープンデータの活用において最も重要なのは,オープンデータそのものについてを理解しどのように地域活性に活かしてくかである。本研究で対象とする豊橋市は新幹線の駅もありハプステーション的な役割を担っている。愛知県の中核市に指定されており,東三河地方の中心都市である豊橋市は地域活性活動を盛んに行なっており市民による活動への支援も充実している。オープンデータを推進しており活動も目に見えているがオープンデータ評価は2つ星であり,まだ発展の途中である。そこで本研究では,既に導入している他都道府県・市町村の現状を知るとともに愛知県豊橋市におけるオープンデータの活用について調査し今後の課題について考察することを目的とした。
 第I章ではオープンデータの活用が推進された社会的背景と国内で先進的にデータ活用を行なってきた福井県の事例を確認し研究の目的設定と手順についてを示した。第II章ではオープンデータへの理解を深めるため,オープンデータの定義と公開時に推奨されるデータ形式について整理した。第III章では豊橋市のオープンデータの活用に関して実際に行われているサービスについて導入の背景,運営体制,運営状況に分けてまとめた。第IV章では第III章までの調査で現状の理解と豊橋市のオープンデータ活用に対する今後の課題についての考察をした。豊橋市がオー プンデータに対して行っている取り組みがどのようなものであるかを確認した上で,今後の活動のために必要なオープンデータそのものの周知や実際にどのように活用されるべきかについて整理・考察した。第V章では本研究の総括を行うとともに,今後の課題を示した。
 研究の結果,豊橋市のオープンデータ活用の課題は次の2点が挙げられた。第一は豊橋市で公開されているオープンデータが数量的に少ないことと,二次利用しづらい点である。第二に市民の多くがオープンデータの存在をしらず,周辺企業や住民を含めオープンデータそのものが周知されていない点である。以上より課題解決のためには,多くの人に周知されるように活動を行なう必要があると結論づけた。


平野 裕基:温泉地におけるプロモ―ションに関する研究―湯谷温泉を事例として―

 観光は地域における人口減少問題や,まちづくりと密接な関係があるものであり,特に日本人にとって馴染み深い温泉は,その代表と言える。本研究では一時期と比べて温泉旅行ブームが落ち着きを見せている現代において,発達できるポテンシャルを秘めた温泉地ではどのようなプロモーションが行われ,どのような課題があるかを明らかにすることを目的とした。研究対象地域には東三河地域における主要温泉の1つである愛知県新城市の湯谷温泉を選定した。
 本研究における手順は次の通りである。第I章では日本における温泉の位置付けをまとめた。第II章では湯谷温泉の現状を知るために概要や歴史と新城市の政策における位置づけと問題点を整理し,温泉街の発展を目的とした地元ボランティア団体の概要とその活動をまとめた。第III章では湯谷温泉にある4つの旅館の概要,客層,プロモーション,課題の4点を整理し,第IV章でそれらを比較しまとめ,湯谷温泉全体のプロモーション活動とその課題を考察した。第V章では,まとめを行い今後の研究課題を示した。
 1980年代から現在までの湯谷温泉の変化について地図を用いて比較したところ,旅館や飲食店が減少していることが明らかとなった。また,利用者数は減少傾向にあるが近年は安定していることが分かった。地元ボランティア団体としては新規客獲得のためのプロモーションはほとんど行っておらず,リピーターをメインとしたプロモーション活動が行われていた。しかし,個別の旅館で捉えている湯屋温泉の課題が違うなど,旅館間で方針が異なることが明らかになった。湯谷温泉のように,人口が減少しつつある地域で新たな事業を行うことは難しい。そこで地域資源を活かした事業として,観光を行うことが地域に魅力を作る上で最も容易なものであるだろう。それを踏まえた上で,湯屋温泉の旅館の活性化問題を旅館だけの問題と考えるのではなく,地域を活性化させるためのより大きな問題であるということを再認識するべきである。そのためには地域住民や外部資本の力が必要であると言える。


本多 彩華:豊橋市におけるフィルム・コミッション活動の展開と特性―ロケ誘致に着目して―

 フィルム・コミッション(以下,FC)は,映画やドラマの映像コンテンツの撮影工程において,ロケ地の情報提供,エキストラの募集などロケーション撮影をスムーズに進めるための非営利公的機関であり,本研究の背景として,1980年からFC活動によるロケ誘致の観光振興が注目されている。しかし,全国のFCの活動を支援する団体せずとも,独自に活動を行っているFCもある。その中で,豊橋のFC活動は,ドラマ「陸王」をはじめとしてロケ誘致を成功させている。そこで,本研究ではFC活動で成功した事例としてドラマや映画のロケを誘致し,独自のFC活動を行われている豊橋市を対象とし,テレビドラマ,映画という映像コンテンツのロケ誘致に関わるFCについて,組織同士の関係性や,ロケ地の地理的特性,そして,それらの認知度を明らかにすることを目的とした。
 研究手順は以下のとおりである。第I章では,本研究の目的や研究方法とともに,本研究が先行研究と類似する点について述べた。第II章では,豊橋市におけるFC活動及び豊橋市のFC活動に関わる組織の概要について整理した。第III章では,豊橋のロケ地を区分し,カーネル密度を援用して,豊橋のロケ地における地理的特性を分析した。さらに,愛知大学の学生に行ったアンケートを基に,豊橋のFC活動の認知度について検討した。第IV章では,豊橋のFC活動やアンケート結果を基に,今後の豊橋のFC活動の展望について考察した。最後に,第V章では,第I章から第IV章までをふまえて,本研究の取り組みについてまとめた。
 結果としては,ロケ地分析からは,豊橋の中心部にロケ地が集中しており,建物の需要が高いことが明らかとなった。アンケートでは,大学生のロケ参加度は低く,豊橋に通っていてもロケ参加への関心は低いことや,ロケ地巡りする学生も少ないことが明らかとなった。ロケに関する情報を知らないという意見もみられ,情報発信の見直しが課題である。以上により,FC活動を通じて,ロケ地としての豊橋の認知度は高くなる可能性はあると考えられる。そのためには,ロケ誘致後の観光客への対策の実施が重要と考えられる。豊橋のFC活動はほの国東三河ロケ応援団などの民間団体が中心となっており,ロケ誘致する側の難しい要求であってもできる限り応えている。豊橋におけるロケ誘致の多くの実績があることも,FC活動が盛んになっている要因の一つであると考えられる。


山内 皓介:愛知県春日井市におけるAEDの空間配置とシミュレレーション分析―コンビニエンスストアの役割に着目して―

≪2018年度 地域政策学部 卒業研究最優秀賞≫
日本地理教育学会 2018年度全国地理学専攻学生「卒業論文発表大会」発表論文≫
 日本では心肺停止事案に高い効果を発揮するAEDが,2004年7月に非医療従事者である一般市民でも利用可能となり,広く一般にAEDという機器の名称や利用方法などが認知されるようになってきた。AEDは事前に専門知識を持ち合わせる必要なく扱うことが出来る点で非常に優れた器械である。しかしAEDは着実に普及してはいるものの,心肺停止後の使用率は4.5%と極めて低く,設置場所によっては利用時間が限られているなどの課題も挙げられるため,24時間利用可能な身近な場所にAEDを設置することが,今後の日本国内におけるAEDの普及や利用率の向上に対して,大きな役割を果たすと推測される。そこで本研究では愛知県春日井市を調査対象地域として設定し,実際にGISを用いてBLS安全域を可視化し分析することで,コンビニにAEDを設置することの有効性はもとより,現在のAED設置に関する現状を示すことを目的とした。
 第I章では,今日におけるAED普及の現状について述べ,使用率が伸び悩んでいる点について考察を行った。その後,研究の目的について先行研究を挙げつつ整理し,救命の連鎖を繋ぐ際にAEDが果たす役割や期待される効果,研究を行う際の手順について述べた。第II章では,AEDの利用方法と有効性について整理し,コンビニにAEDを配置する際に期待される効果と,今日におけるコンビニの現状を述べた。その中で,実際にコンビニに設置されたAEDを用いて救命の連鎖を繋げた実例と,社会インフラとして期待されるコンビニの役割や展望について考察した。第III章では,春日井市の概要や人口,世帯数の変化,高蔵寺ニュータウンの特徴について整理し,市内におけるAED普及やコンビニの現状について,施策を例に挙げながら考察を行いつつ,6つの地域に区分分けを行った。第IV章では,III章で区分分けした6つの地域について12のパターンについて分析・シミュレーションを行い,コンビニにAEDを配置した際に広げることが出来るBLS安全域について示し,それぞれの地域について考察を行った。第V章では,第IV章で得た分析・シミュレーションの結果をもとに,コンビニにAEDを設置する有効性について2つのケースに分けて考察した。第VI章では,第I章から第V章までの総括を行い,AEDの法的設置基準の有無や安全神話について述べながら本研究のまとめを行った。
 以上の結果からBLS安全域を広げるに当たり,24時間営業であるコンビニにAEDを設置することは特に深夜の時間帯において有効な手段であることが判明し,AEDの空白地帯が大幅に減少する地域も見られた。現在のAED利用可能時間はAED設置施設の営業時間に左右されるため,営業時間外は利用不可能でありAEDが入手不可能になるという事態が起きかねない。コンビニにAEDを配置すればAED設置施設の営業時間に左右されることなく,24時間365日利用可能である。コンビニの看板などを目印としてAEDを取得出来るため,BLS安全域の拡大に有効な手段であると言える。