駒木ゼミ卒業研究要旨

2021年度提出分 (16名・50音順)

市川 雄貴:ICT導入・IT化に着目した大須商店街の現状

 近年,持続可能な商店街のために取り組みが様々あるなかで,ICTの導入が全国で力を入れられている。特に政府は,高齢化や人手不足,インバウンド対策などのためにキャッシュレス化に取り組んでおり,消費者や事業者などに大きなメリット・意義がもたらされると述べている。そこで本研究では情報発信の面でホームページやSNS,高齢化や人手不足などの多くの問題に絡むキャッシュレス化の大きく2つのICTに絞り,商店街のICTの導入状況を把握し分析していくことで,これからの時代において持続的に対応できているかを検討し,ICT導入の重要性や課題を明らかにしていくことを目的とした。
 論文構成は,次の通りである。まずI章では,研究の背景,論述する際に参考にした先行研究,意義・目的,究方法の順に述べた。II章では,大須商店街の歴史・特徴,商店数・販売額の推移について整理した。III章では,大須商店街公式ホームページを基に131の飲食店を対象として,ホームページ,SNS,キャッシュレス化の取り組み状況について業種やチェーンによる差異や共通点を分析した。IV章では,III章の分析の章を受けて考察し,V章はこれまで述べてきた章のまとめを述べた。
 本研究で明らかになったことは,以下の3点である。第1に,ホームページの開設に関することで,個人商店よりチェーン店の方が導入しやすい環境にあることが明らかとなった。第2に,SNSアカウントの導入に関しては,若者を対象とする商店がSNSアカウントの導入の割合が高く,SNSに対応している商店が多い傾向であることが明らかとなった。第3に,キャッシュレスの導入に関しては,国が高齢化による担い手不足解消,インバウンド・観光客に対応するなどの理由からキャッシュレス化が進められていることもあり,多くの商店でキャッシュレス化が進んでいることが明らかとなった。今後の課題としては,ホームページの開設では,専門的なスキルがなくとも始められ,導入コストも抑えられる体制をより一層強めていくことが必要となること,店主がよりタイムリーな情報提供が行えるような情報リテラシー能力が必要となることなどがある。SNSアカウントの導入に関しての課題としては,SNS自体の導入は容易であるが店主のSNSの投稿スキルや拡散するために様々な工夫を凝らしていかなければならないこと,SNSを使いこなす能力が必要となってくることなどがある。キャッシュレスの導入に関する課題としては,国が現在進めている「JPQR」のような統一QRコードの導入を検討し,店主がより取り扱いしやすくすること,さらに,大須商店街ポータルサイトとしてアクセス口を増やしてより各商店情報を得ることが容易になるようにしていくことが必要になってくると言える。


岩堀 仁毅:静岡・浜松の都市圏から考える地方都市における持続性と独立志向

 近年,地方都市の衰退が著しい。人々の動きは多様化しており,近隣の大都市に影響されることも少なくない。その一方で一定の求心力を持ち,現在も賑わいを保持する地域もある。本研究は,静岡県静岡市と浜松市を事例に,地方都市が大都市依存を脱却し,持続していくための要素(定住化要因・独立志向性)を指標化し,その特性を明らかにすることを目的とする。それによって,コンパクトシティや都市計画マスタープランなど今後の地域構造に対する政策への提案,新たな社会システム構築への一案になると考える。さらには中心都市と周辺都市の関係性を数値化することで,広域行政や都市圏単位での政策策定にも活用できると考える。
 研究手順は以下の通りである。第I章で提示した背景や課題,設定した定義を軸とし,第II章では,静岡市と浜松市の成り立ちや現状を確認した。定住化要因・独立志向性の分析は第III章(周辺地域との関係性)と第IV章(自地域内の状況)に分けて実施し,前者では各種統計から独立性の指標を作成し,年次比較を行った。後者では対象地域の公共交通による都市内構造について,主にGISを用いて分析した。第V章では分析結果から考察を行った。
 昼夜間人口比率などの人口統計は,市全体では高い数値であるもの,区ごとの格差が大きかった。通勤通学人口は,静岡と浜松の立地による影響はあれども,どちらも広範囲から人口が流入していた。また,通勤者数・通学者数共に明確な距離逓減効果が見られ,その効果は通学者より通勤者の方が強く表れていた。小売吸引度は,静岡市葵区と駿河区,浜松市中区と東区の吸引力が強く,指数も110を超える年が多かった。両市の隣接自治体が指数100を超える年は稀であり,影響力が広範囲であることがわかった。財政力指数や高等教育機関数の統計からも,両市への求心力が見られた。GISによる分析では,市街地のバス停カバー人口と路線本数から利便性の高さを確認した。一方,中山間地域の利便性は低い傾向にあった。以上の分析結果から静岡市と浜松市はいずれも中心性・独立性を持った地域であると判断できた。この主な判断要因は@職住近接性A商業需要の充足B移動利便性の3点である。しかし,中山間地域ではこれらの要因が満たされているとは言えない。集落の計画的再編に加え,拠点間の高密度輸送の実現と周辺部のコミューター利用による利便性向上など,バスだけでなく多様な主体による公共交通網へ改善する必要がある。


上松 愛依:まちづくりにおける歩道利用の可能性―名古屋市を事例にして

 近年,地域の活性化や都市における賑わいの創出等の観点から,地方公共団体や地域住民・団体等が一体となって取り組むイベントの活用の場として,道路空間活用が注目されている。道路を活用することにおいて,道路管理者である行政や多様な担い手との信頼関係構築が必要であると述べられているが,都市内部の位置づけや地域構造などによって道路活用の在り方も変化すると考えられる。そこで本研究では,道路空間比率の高い名古屋市都心部を対象地域として,道路活用されている地域の都市内部での位置づけや地域的特性を踏まえつつ,歩道利用における地域活性化に対してどのような主体が関わっているかについて実態を明らかにすることを目的とした。
 研究手順は次の通りである。I章では,道路空間活用の概要を踏まえた背景,先行研究,意義・目的を述べた。II章では,日本における道路利用についての制度を示した。さらに,名古屋市の歩道利用実態について「名古屋駅まちづくり協議会」「栄ミナミまちづくりの会」「錦二丁目まちづくり協議会」の3つの実施主体の概要を示した。III章では,名古屋市での3つの実施主体の道路活用事例について,「賑わい創出を目的としたイベント」と「社会実験」の2つの事例から,実施年度,目的,内容などの項目に分けて調査をした。IV章では事例研究に基づき,道路活用と地域特性の関係性について考察した。V章ではまとめと現状に対する課題について述べた。
 以上の結果から,「賑わい創出のイベント」に関しては,名古屋駅地区や栄地区のように規模や都市機能が高くなればなるほど,イベントの規模が大きくなり,気軽に立ち寄りやすいといえる。一方で錦二丁目地区は,規模自体は小さいが,独自性のあるイベントを開催し,他地区との差別化を図ったり,地域住民や団体との連携も行いやすかったりするのではないかと考える。「社会実験」も同じように,地区の規模によって実験内容が異なっていた。名駅地区や栄地区ではターミナルが多い分,来訪者も多いため情報提供や歩道の効率化向上のための実験が多い一方で,錦二丁目地区では「低炭素化まちづくり」にちなんで「木材」に着目して他の地区との差別化を図っており,歩道利用の効率化よりも持続可能なまちづくりに力を入れていると感じた。このことから,都市全体において道路を活用したまちづくりを考えていく上で,既存の都市構造などを踏まえる必要がある。すなわち,名駅や栄地区のような中心性の高い場所であれば,地域的特性に着目することよりも人々が集まって賑わいを創出することに重きを置くべきであるといえる。一方で,錦二丁目地区のような中心性の低い場所では,地域的特性に合わせたローカルなイベントや地域独自の珍しいことを行う必要があるといえる。


大石 玲奈:静岡県掛川市大須賀町のふれあいタクシー導入による利便性評価

 近年,日本では,少子高齢化,人口減少,マイカーの普及等によりバス交通利用者の長年の減少が続いており,特に地方の利用者が少ない路線について,バス事業者が撤退せざるを得ない状況となっている。バス事業者の撤退は高齢者・通学生等の交通弱者の足の確保を困難にさせるとともに,交通渋滞・環境問題等を引き起こし,地域の活力維持にも支障を来すこととなる。ここ数年,財政負担の軽減や公共交通空白地域の解消に向け,路線定期型交通に替えて「デマンド型交通」を導入する自治体が急増している。そこで本研究では,人口が11万人の静岡県掛川市の南西に位置する旧大須賀町を対象とし,掛川市が運営する “ふれあいタクシー大須賀地区”が固定路線型のデマンド型交通として導入されたことで,それ以前の路線バス利用時と比較して交通利便性がどのように変化したのかを明確にすることを目的とした。その際,GISを援用して導入効果を定量化することで現在の利便性をとらえ,改善に繋げることを狙いとした。
 本論文の構成は次の通りである。第I章では,導入の背景や先行研究,研究目的,研究方法の紹介を行った。第II章では,本論の対象地域である掛川市旧大須賀町の概要とそこで運営されているふれあいタクシー大須賀地区の概要を説明した。第III章では,GISを用いて路線及びバス停の立地に関する空間分析を行った。分析の際に,掛川市全体によるバス路線立地に関する分析を行うとともに,固定路線型という特徴から利用者の目的別に分類した。さらに,ふれあいタクシー導入による利便性の変化においては,PTAL指標を用いて定量化した。第IV章では,GIS調査と実際の利用者を対象としたアンケート調査の結果に基づいて,掛川市の交通政策について検討した。第V章では,GIS分析を行った目的地による特徴をまとめ,運行提案をした。第VI章では,全体のまとめと展望を行った。
 その結果,PTAL指標による分析を通じて,大須賀ふれあいタクシーを導入することは利便性を十分に高める効果はあったことが示された。また,ふれあいタクシーの最大の利点は全ての地域に対して利便性得点を平等に高めるため,従来のバス路線や電車などの公共交通とは異なり,地域差にとらわれず利便性を高めることに繋がっていた。そして,元々の利便性が低い地域ほど比率ではふれあいタクシーの導入による効果は高かった。路線から大きく外れた地域においては恩恵を受けられない者も多く存在している中で,予算や管理の関係上,大須賀ふれあいタクシーのようなデマンド型交通を多く導入することは難しい側面も存在する。しかしながら,今回の分析結果からたとえ少ない路線本数であってもふれあいタクシーは地域住民の利便性を上げることが可能であり,今後も期待される交通手段であると言える。


大西 里奈:淡路島の観光認知度と地域への関わり―若者を対象として

 近年日本の農山漁村や島などの地方において,より多くの人々に住んでもらい,より多くの観光客に来訪してもらえるような「まち」を目指し,地域独自の活性化への様々な取組みを行っている。しかし,近年ではSNS利用率が高く発信力も高い若者が旅行をしなくなっているという事実があり,「若者の旅行離れ」が旅行業界・観光業界の中で取り上げられている。そこで本研究では,近年観光スポットがインスタグラムで取り上げられることが増え,若い世代から注目を浴びている淡路島を研究事例として,人口減少や高齢化などの課題を抱える淡路島が,観光に対してどのような取組みを行っているのかを調査し,淡路島の観光地としての認知度を明らかにすることを目的とした。
 本研究は次の手順で行った。第I章では,日本の観光への取組み,本研究の背景,次に本研究に対する目的・意義を述べた。第II章では,淡路島の概要,入込観光客数の推移の変化,観光への課題を提示した。第III章では,旅行サイトや観光パンフレットから収集した情報を,大手旅行会社からの発信と淡路島観光協会からの発信を比較し,それぞれの視点で淡路島の観光地としての捉え方を分析した。第IV章では,大学生を対象としたアンケート調査の結果をもとに,観光客からの視点で需要の分析を行った。第V章では,第III章,第IV章で分析した結果をもとに,淡路島の観光に対する需要と供給を考察した。最後の第VI章では,淡路島が観光地として認知度を上げるために,どのように観光スポットを発信していけば良いのか,どのような取組みを行っていくべきか等の課題を述べた。
 その結果,大学生はグルメを満喫できる観光地に魅力を感じることがわかったが,淡路島ではグルメに関する情報発信が少ないことやPR不足などにより,淡路島の観光スポットについて大学生にあまり認知されていないことが判明した。また,男女別の結果として,男性はお金がかからず,体を動かすことができるアウトドアやスポーツを楽しめる観光地に興味があり,一方で女性は,インスタ映えや自然,体験や参加ができる観光地に興味があることがわかった。大学生は,SNSやマスメディアなどから影響を受けやすいことがわかったため,情報発信ツールやマスメディアの影響力は大きいと考えられる。したがって,淡路島で話題性の高い観光スポットを,SNSなどの情報発信ツールや雑誌,テレビなどのマスメディアで取り上げられるようすることで,認知度を高めることができると言えよう。


大場 梨央:愛知県安城市における住宅地の街区公園について―利用者と施設状況に着目して

 現在日本で多種多様な公園が存在している中,都市公園は良好な都市環境,安全性の向上,市民活動,地域活性化の役割を持ち,私たちの住環境や生活を豊かにする公共スペースとされている。そのうち一番規模が小さく身近な存在であり,児童公園から改名された街区公園は,幅広い年代が気軽に利用できる公園として期待されている。そこで本稿では,街区公園が利用者のニーズや各公園の特性に対応できているのかを明らかにし,今後整備されるべき街区公園を提案することを目的とした。利用者や施設状況の把握と市民や自治体の意向に注目し,全世代に向けた公園のあり方を検討した。
 I章では都市公園と街区公園の概要,先行研究,目的と意義,研究方法を述べた。II章では対象地域である安城市と現地調査の対象地区の概要,安城市の公園政策を示した。III章では各街区公園の施設と利用者の現状を調査し,整理した。IV章ではIII章の調査結果に基づき,利用分類と施設配置の特徴について考察した。V章では自治体が公表しているアンケートの整理と,ヒアリング調査の結果をまとめた。VI章では考察した結果と自治体調査の結果を踏まえて,今後どのような街区公園が整備されるべきか,利用者層を想定した提案を行った。そしてVII章ではまとめと今後の課題について記した。
 結果,各公園の施設や配置の違いによって,利用者の属性や利用方法が変化することが明らかになった。規模の小さな街区公園では,面積やスペースの区切り方により,出来ることが限られてくることが要因である。しかし各公園で見られる特徴や雰囲気が個性として成り立っており,地域の住環境を豊かにしていると考えられる。また年齢層別にターゲットとした街区公園を提案した際には,公園の現状把握,市民の意見,自治体の現実的な整備情報の3点を参考とした。その結果,それぞれの意見を組み合わせることで具体的な公園モデルを生み出し,実現可能に近い整備計画を提案することができた。本稿では利用者と施設状況の特徴から考案したターゲット別の公園整備を提案したが,街区公園の目的である幅広い年代が利用できる公園は,それらの要素を掛け合わせた整備によって実現ができると考えられる。さらに街区公園のみならず規模の異なった公園に対しても,より多様な施設のアイデアが存在し,今後も新しい公園の形が期待できると言える。


笹瀬 統哉:土地利用からみた郊外部と都市部における駅勢圏の比較―東武東上線を事例に

 現在日本では少子高齢化が進んでおり,大都市圏では郊外部を中心に公共交通機関の利用者が減少している。郊外部はサービスの提供される場所が分散している傾向があるため,公共交通のサービス提供の限界があるとも言えるだろう。また人口減少によって更に分散が進む可能性もある。そこで本研究では,大都市圏における都心部から郊外部を結ぶ路線における駅勢圏の土地利用に注目し,その構成や乗降客数,都心部からの距離,列車種別などから駅の類型化を行い,都心部と郊外部でどのような空間的特徴が表れるかを明らかにし考察することを目的とした。
 第I章では研究の背景について述べていき,この研究に対しての目的を明示した。第II章では研究テーマと本研究で使用する東武東上線についての概要を示した。第III章ではGISを用いて空間分析を行った。土地利用種別メッシュをポイント化し,駅毎に半径500mのバッファリングという手法を用いて駅勢圏の土地利用割合を算出しまとめた。第IV章ではIII章で用いた結果からクラスター分析を行って駅を分類し,その結果を都心部からの距離や列車種別を比較・検討した。第V章では第III章や第IV章で導き出された結果に基づき都心部と郊外部の駅勢圏の考察を行い,まとめと課題を示した。
 結果として東武東上線の駅は中心都市型,郊外型,地方都市型,自然型,宅地型,周辺都市型と名付けた6種類に分類された。また始発駅からの距離と乗降客数との間には負の相関が見られた。これらの6類型は地図に表すと郊外型は始発駅から距離が離れた場所に多数分布し,地方都市型は埼玉県中部,周辺都市型は東京都北部など駅の土地利用から空間的な特性が表れていた。なお,川越駅周辺の土地利用は高層建物,低層建物(密集地)の2つが高く,都市の様相を呈している。両方の割合が20%以上の最北端の駅は川越駅であることから,都市部と郊外部の境界は川越駅であると考えられる。


佐野 太一:新型コロナウイルスによる郊外地域の買い物弱者への影響について―豊橋市を事例として

 2019年12月においてはじめて確認された新型コロナウイルスの感染拡大は世界中における社会問題となった。現在も変異種の発生もあり,感染拡大の終息が見通せない状況にある。日本国内においても,コロナ禍による緊急事態宣言の発令になどにより,人々の外出が制限される事態になり経済,社会になど影響は大きい。外出の自粛は買い物,外食など「食」にも影響を与え,多くの社会問題がよりあきらかになってきた。特に人々が自粛することによって閉店する店舗も増加し,近場で買い物することが困難になってきてしまう買い物弱者の存在が目立つ。こうした状況をふまえて本研究は,新型コロナウイルス感染拡大が買い物弱者の購買行動にどのような影響を与えたか明らかにすることを目的とした。対象地域を地方都市郊外地域である豊橋市の石巻町,多米町に設定し,アンケート調査,ヒアリング調査のデータをもとに買い物弱者のニーズ,課題を明確化し,今後可能性のあるフードデザート問題の対策,傾向を考察した。
 論文構成はI章で買い物弱者とフードデザート問題について整理するとともに,本研究の論点や目的を示した。II章で対象地域の多米町,石巻町についての概要と店舗の立地状況の整理を行った。III章では研究結果をコロナ前,コロナ禍の2パターンに分け,買い物弱者とそうでない人との買い物行動の比較を行いどのように変化したか明らかにした。IV章ではIII章の分析結果をふまえた考察を行い,V章で結論をまとめた。
 以上より明らかになったのは次の3点である。1点目は買い物時間の減少や公共交通機関の利用低下,ショッピングモール・デパートの利用者の減少,店舗の撤退,栄養価の低下など,新型コロナウイルスの影響は大きくあったということである。2点目は対象地域がフードデザート問題などの社会問題を都市圏と比較すると見落とされやすい地域にあったということである。3点目は,消費者のなかでも特に買い物弱者は,新型コロナウイルスによる変化に対応できず,精神的影響も大きかったということである。新型コロナウイルスによって買い物弱者と買い物弱者でない人との差や課題を前向きにとらえ,移動販売車の運行や宅配サービスの実施など早急に対策していくことが社会課題を解決するために必要とされる。


柘植 さゆり:地域コミュニティ再生は地域に変化をもたらすことが可能か―ケーブルテレビと若者の果たす役割に注目して

≪2021年度 地域政策学部 卒業研究最優秀賞≫
日本地理教育学会 2021年度全国地理学専攻学生「卒業論文発表大会」発表論文≫
 地域コミュニティの存続が危ぶまれる今日,その状況を打開するには地域コミュニティへの若者の参加が必要となる。先行研究では,若者の地域コミュニティへの参加を促すには,地域アイデンティティ(その核となる地域への愛着)を獲得させる,地域での過去の活動の記憶を想起させたりする,ことが重要だと明らかにされている。その中でも映像を用いて地域情報の提供を行うCATVは,他の地域メディアと比較しても,前述の取り組みを行う際に必要となる地域情報前扱う情報量が多く優れていると言える。そこで本研究ではCATVの提供する映像を地域愛着形成の項目に基づき分析するとともに,若者がどのような要素を含む映像を視聴すると地域への愛着を得ることができるかを検討することを目的とした。
 第I章では研究の背景や意義と目的について述べ先行研究を整理した。第II章では,対象地域や知多メディアスネットワーク株式会社について説明した。第III章ではメディアスが提供する番組について,先行研究で明らかにされた結果を評価項目として用いて評価を行った。その結果から,地域への愛着形成に必要とされる認知を幅広く得ることができる「mediasエリアニュース」の2021年10月1ヶ月分のトピックスについて,GISを用いて取り上げられた場所を分析し,内容の評価を行った。そして評価の高かったトピックスを用いてアンケート調査とヒアリング調査を行い,併せてエリアニュース担当者へのヒアリング調査を行った。第IV章では第III章で得られた結果を基に考察を行い,第V章では研究のまとめと,若者がCATVの提供する映像を視聴することで地域への愛着を得るための提案や,今後の課題について述べた。
 場所に関する分析の結果,各自治体の主要な場所に取り上げられた場所が集まる傾向があったことなどが明らかになった。アンケート調査の結果からは,若者がCATVの提供する映像を視聴することで地域への愛着形成に効果があることが明らかになった。また,愛着形成に最も大きな影響を与える要素は「交流の多さ」であり,「祭り・イベント」「人々の誠実さ」「行政の評価」と続くこと,「交流の多さ」と「祭り・イベント」の間には強い関係性があり,地域の見知らぬ人同士が楽しそうに交流している姿に,「交流の多さ」を感じる可能性があること,過去に見た様子に近い映像を視聴するだけでなく,実際に過去に自身が体験したことに似た映像を視聴することで,「過去の記憶の想起」が可能になることなどが明らかになった。これらの結果を踏まえて,トピックスの選定の際には,(1)過去にあまり取り上げられていない小学校区から選択する,(2)本研究で用いた各評価項目を可能な限り含むように選択する,といった基準の設定を提案する。また,地域で行われる祭りやイベントの様子を取材し,その場で地域の人々が出会い交流する姿を提供することも必要である。本研究で得られた結果を基にしてCATVの番組が制作・放送され,若者の地域コミュニティへの参加がより一層活発になることを期待したい。


寺西 陽花:「ご当地アイドル」からみる地域活性化におけるサブカルチャーの在り方―BOYS AND MENの活動を事例として

 近年,全国各地で行われている地域活性化の取り組みの中でもサブカルチャーを用い,若者をターゲットとしている「ご当地アイドル」を対象に,ご当地アイドルを用いたまちづくりがどのように展開してきたのか,地方における地域活性化においてサブカルチャーのあり方を明確にすることを目的としたものである。BOYS AND MENを成功事例として,グループの誕生過程からこれまでの活動の分析や,BOYS AND MENを用いた地域活性化がどのように展開されてきたのか,どのような影響を与えてきたのかを分析し,ご当地アイドルを用いた地域活性化手法の在り方,更に今後の課題について考察を行った。
 論文構成は次の通りである。まずI章ははじめにとして研究の目的と背景について述べた。II章では対象となるBOYS AND MENの様相を明らかにするとともに結成当初から現在までの活動内容をまとめた。III章ではBOYS AND MENのファンを対象にアンケート調査を行い年齢,性別,居住地,好きになった時期,イベントの参加率,滞在時間と宿泊数,旅行人数,移動手段,使用金額,知名度,貢献度について整理し,居住地との関係を解析した。IV章ではそのアンケート結果から考察を行った。V章はおわりにとしご当地アイドルの今後の課題について考察した。
 結果として,アンケート調査結果など本稿を通してBOYS AND MENがなぜご当地アイドルとして成功したのか,名古屋の顔として地域を盛り上げる存在になれたのか考えられることは,「ホームの存在」,「拠点となる地域での継続的な活動」,「非現実的な交流」があると挙げられる。「ホームの存在」は,活動拠点となる地域で活動を続けられるのはやはり常設劇場の存在は大きい。グループが人気になっても今までと変わらない距離感で定期的に会うことも出来ることも理由の一つに挙げられる。「拠点となる地域での継続的な活動」は,BOYS AND MENは全国的に人気を得た後でも結成当初から名古屋を大事にする姿勢を貫いていた。名古屋から全国へ発信していくスタイルでの活動がBOYS AND MENを地域に定着させたと考えられる。「非現実的な交流」は,ご当地アイドルのファンはライブ・イベントの際に行われる特典会におけるアイドルとの非現実的な交流を楽しんでいた。したがって「会えるアイドル」+αとなる要素がご当地アイドルを成り立たせていると考えられる。


栃木 大輔:しまなみ海道における自転車利用の実態から見るサイクルツーリズムの今後の展望

 近年,まち巡りに便利な特性から自転車を観光振興や地域振興に活用している自治体が増えてきており,スポーツ実施率の上昇に伴う健康需要の高まりなど,サイクルツーリズムに関しては追い風となる変化が起きている。そこで本研究は,サイクルツーリズムを成功させているしまなみ海道に注目し,自転車利用の実態をGISを援用してサイクルオアシスなどの自転車関連施設と観光施設の分布特性を明らかにすることで,しまなみ海道及び国内のサイクルツーリズムの今後の展望について考察していくことを目的とした。
 本研究の手順は以下の通りである。I章では,しまなみ海道のサイクルツーリズムについて研究するに至った背景について統計データやアンケート調査を用いて整理し,II章では,しまなみ海道の地理的概要とサイクルツーリズムの発展を中心とした観光概要についてまとめた。III章でしまなみ海道に設置されている自転車に関連する施設やサービスとしまなみ海道にある人気観光スポットとの関連性などについてGISを用いた分析をし,IV章では,分析結果からしまなみ海道におけるサイクルツーリズムの実態を考察した。
 レンタサイクルターミナルは,主要な島にそれぞれ設置されており,海沿いや架橋近辺など交通アクセスが容易な場所が多く,サイクルオアシスはサイクリング観光者のより快適なサイクリングをサポートするための拠点であることから,主要道路や地域に限らず,広く分布していることが分かった。人気観光スポットは,しまなみ海道全域に広く分布していた。また,サイクルオアシス周辺には人気観光スポットが多く分布しているが,地域によって若干の偏りがあること,ほとんどの人気観光スポットの周辺にサイクルオアシスが設置されていることも分かった。加えて,しまなみ海道でサイクリングをする際に,ほとんどのレンタサイクルターミナルから人気観光スポットへ容易にアクセスできることが分かった。このように,しまなみ海道ではサイクルツーリズム推進のため,サイクリング未経験者が気軽に訪れやすいサービスを展開しているといえる。レンタサイクルやサイクルオアシスを,人気観光スポット周辺地域を中心に展開し,ブルーラインや自転車道の整備をする等,観光目的の人々が観光の手段として自転車を選びやすい環境作りをしており,尾道市や今治市,NPO法人シクロツーリズムしまなみなど複数の組織が連携をすることで広域的なサービスの展開も可能にしていた。先行研究で示されていたサイクルツーリズムに関する不満点もほとんど解消されており,新たなサイクリング観光客の取り込みが大いに期待できる。


藤中 崇矢:長野県松本市中心市街地におけるゲストハウスと地元商店との関係構築に関する研

 人口減少が問題とされている日本において,商店街の衰退が地域課題として挙げられている中で,近年,ゲストハウスが注目されている。しかし,地域密着型という特性上,立地地域によって客層,近隣商店との連携,宿泊客との交流などに大きな差があり,より多くの具体事例を研究することが必要であるといえる。そこで本研究では,ゲストハウスが,宿泊客との交流やイベントの実施を通じて近隣商店の活性化に寄与するという仮説の下,長野県松本市に立地する1軒のゲストハウスを対象とし,当ゲストハウスと地元商店との関係性及び,宿泊客との交流について明らかにしていくことを目的とした。
 第I章では,研究手法及び我が国におけるゲストハウスの現状を述べた。第II章では,対象地域の地形,歴史,観光客数などに着目したのち,対象地域におけるゲストハウスの現状について述べた。第III章では,対象地域に立地する1軒のゲストハウスに着目し,ゲストハウスが発行している散策マップの利活用の状況や認識について,オーナー・スタッフへのインタビュー結果及び,近隣商店へのアンケート結果をまとめた。第IV章では第III章での結果をもとに,ゲストハウスと近隣商店との関係構築について指摘した。第V章ではまとめとし,マップの活用と今後の研究課題を記した。
 その結果として,松本散策マップには,「経済的活性化」,「社会的活性化」の2つの役割があること,そしてこれら2つの活性化について,ゲストハウスと近隣商店だけでなく,宿泊客といった外部要素の行動も影響することが明らかとなった。また,マップには,ゲストハウス−近隣商店間の直接的な関係構築に加え,外部要素である宿泊客を通じたつながりを構築し,より広域的な関係性の構築をする機能をもっていると推察された。さらに,散策マップの一般的な活用方法としては,第一に,作成者および配布者が,地域への愛着を持つことが重要であるという点があげられた。すなわち,「作成」を目的化せず,具体的な対象や地域の魅力を明確にし,活用にあたるべきである。第二に,商店街の活性化において,マップの作成に加え,商店との連携が効果的であることが指摘できた。一か所の主体がマップを作成するだけでなく,近隣商店とのイベントの実施や,働きかけを行うことにより,一層の効果が見込めると考えられる。


古池 彩華:岐阜市柳ヶ瀬商店街における「リノベーションまちづくり」の実態

 全国でも商店街は空き店舗が増え,衰退している現状がある。そんな中,この状況を打開するための手段の1つとしてリノベーションが全国各地で行われている。全国各地の商店街では,その地域の特色やエリアの特徴に合わせて様々なリノベーションを行っている。そこで本研究は,伝統的な商店街であり,リノベーションが盛んに行われている岐阜市柳ヶ瀬商店街を取り上げ,「リノベーションまちづくり」に関わる行政,一般財団法人,民間それぞれの役割,また関わりを検討することで,より詳しい柳ヶ瀬商店街における「リノベーションまちづくり」の実態を明らかにすることを目的とした。
 本文での章構成は次の通りである。第I章では,本論文の背景を説明し,先行研究を挙げた。第II章では,対象地域及び柳ヶ瀬商店街の概要を示した。第III章では,「リノベーションまちづくり」に関わる行政,一般財団法人,民間の動きを明らかにした。第IV1節では実際にリノベーションされた建物の実態を明らかにし,2節でリノベーションされた建物以外のリノベーションに関わる動きをまとめた。第V章では結果を踏まえた考察を行い,第VI章でまとめと今後の課題を示した。
 その結果,岐阜市柳ヶ瀬商店街における「リノベーションまちづくり」は民間,一般法人財団,民間が目的や活動内容に違いはあるが,柳ヶ瀬商店街自体の価値を上げることを目標にするという共通した考えを持ちながら,相互に協力し合って行っていることがわかった。また,柳ヶ瀬商店街は,実際に建物をリノベーションするだけでなく,リノベーションスクールやサンデービルヂングマーケットなど様々なイベントなどを通して,柳ヶ瀬商店街自体に活気が溢れるよう取り組んでいた。加えて実際にリノベーションされた建物のリノベーション前と後の利用方法を調べると,リノベーション前と比べ,全く違う建物に変化することはなく,今までの建物の良さや歴史を残しつつも,時代によって変化する需要を取り込んだ建物へと変化していたことが明らかとなった。


松井 亜詠:観光・防災機能に着目したコロナ禍における道の駅の役割の多様化―もっくる新城と道の駅とよはしに注目して

(公財)東三河地域研究センター 第28回地域関連研究発表会発表≫
 道の駅が誕生して約四半世紀が経ち,我々の生活において道の駅が身近な存在となってきている。そうした中,国土交通省では道の駅を「第3ステージ」とし,『地方創生・観光を加速する拠点』及び『ネットワーク化で活力ある地域デザインにも貢献』の実現を目指している。そこで本研究では,目的地化しつつある道の駅がどれほど地域に影響を及ぼす存在であるのかについて,基本コンセプトに示された情報発信機能と地域連携機能に着目し,観光と防災の視点から明らかにすることを目的とした。両駅での観光や防災に関する取り組みを調べるとともに,道の駅周辺の地域の活性化にさらに貢献するためにはどうするべきかを今後の展望を含めて考察した。対象の道の駅は,先駆的な取組みをされており,互いに地域性がありつつ,共通点も多い道の駅「とよはし」と,「もっくる新城」の2駅とした。
 I章では,道の駅の成り立ちから目指す姿などの概要を述べた。II章では,研究目的や手段,対象の道の駅の概要を示した。III章では観光の現状,主に新型コロナウイルス感染症拡大における変化を明らかにした。IV章では防災に関する取り組みを調査し,「防災道の駅」とは何か,道の駅「とよはし」の防災拠点に関する取り組みについて聞き取り調査を行った。V章では,より一層道の駅を活用するための提案を行うとともに道の駅の今後の展望を述べた。なお,III章とIV章では地理的な視点としてGIS(地理情報システム)を用いて道の駅から市内の観光地やインフラ施設までの距離などを分析した。
 観光に関して豊橋キャンパスの愛知大学生を中心にアンケート調査を行ったところ,道の駅「とよはし」と「もっくる新城」に2〜3割の学生しか行ったことがないと分かった。またGISの分析結果としては,道の駅の周辺に博物館・施設の観光スポットが多いことが分かった。したがって道の駅が観光地との橋渡し役となるように,大学生などの若者の客層を取り入れるための取り組みを強化していく必要があると考えられる。一方,防災に関して「とよはし」は,大規模災害時等の広域的な復旧・復興活動拠点となる「防災道の駅」に選定されていることが分かった。またGISの分析結果としては,半径1q以内にインフラ施設が少ないことが分かった。課題としては,「もっくる新城」は「防災道の駅」選定されておらず,新城市の指定避難所にもなっていないことである。したがって南海トラフ巨大地震にむけて,防災設備の強化と地域住民たちの防災意識の向上,そして綿密な防災訓練が重要となると考える。


松本 宗一郎:浜松市における買い物弱者の現状と解決の可能性―商圏分析の視点から

 「買い物弱者」とは,高齢化や食料販売店の衰退により発生した食品アクセス問題であり,近年になり注目されるようになった社会問題の一つである。そしてこの社会問題は,過疎地域に限った問題のみならず都市部においても深刻な課題となっており,様々な対策方法が考案されているなかで,移動販売が注目されている。そこで本研究では,静岡県浜松市を対象地域とし,買い物弱者を減少させ地域の利便性の向上を図ることを念頭に置き,買い物を目的とした移動距離を減少させ,65歳以上の500m商圏人口を増加させるように新店舗立地のシミュレーションを行い,効率的に買い物弱者を減らす方法を考察することを目的とした。また,とくし丸の事例のように,移動販売による持続可能性と共存可能性の観点も視野に入れた。
 第I章では,導入として買い物弱者の概要や対策事例,研究目的について述べ移動販売の優位性について提示した。第II章では,本研究の対象地域である浜松市の概要については歴史や環境,交通網事情,人口推計について述べた。第III章では,GISを用いて浜松市の現状について買い物弱者数,店舗の立地状況,公共交通機関カバー率について,市内を都市部,郊外,中山間地域に分類し,地域ごとの特徴を見出した。第IV章では,考案した出店地作成のアルゴリズムを用いて候補地の導出と新規出店地点と移動販売地点の分類を行った。さらに,作成された出店候補地の商圏人口に着目して,出店の優先順位を決め,それによって都市部,郊外,中山間地域の買い物弱者がどのようにカバーされていくかシミュレーションを行った。第V章では,第IV章の結果から,結果についての考察や今回のシミュレーションの有効性,移動販売を実施するにあたっての課題と解決策を考案した。第VI章では,今回の研究のまとめと今後の課題について述べた。
 今回のシミュレーション分析によって出店候補地の商圏人口順に優先順位をつけることで,分類した3つの地域を効率的にカバーすることが可能と分かった。しかし,中山間地域においては,早い段階で効果は出やすいが全体をカバーするには時間がかかることに留意する必要があることが分かった。また,移動販売を実施するにあたっての課題も浮き彫りになり,実際に移動販売を行う場合,今回発生した移動販売地点から最も距離の短い既存店舗が実施することで効率が良くなると考えられるが,その場合一部の店舗で担当する数が膨大になったり,担当地点までの距離が長くなったりするなど負担に差が出ることが分かった。ゆえに,移動販売を実施する際には,そのような店舗を考慮し,負担を減らす手段を考案する必要があるといえる。さらに今回の分析により,最大19,060人の買い物弱者を減らすことが可能と分かったが,それでも5万人以上の買い物弱者が取り残されることになった。すなわち,出店地作成のアルゴリズムの改善や,買い物バスやコミュニティバス,訪問販売など移動販売とは異なる手段で別途検証を行う必要があるといえる。


水谷 栞:愛知県豊橋市における産官学による大学生就職支援のあり方―愛知大学を事例として

 2020年,新型コロナウィルスの影響により大学生の就職活動方法が大きく変化した。就職活動の早期化,長期化等の問題が重なる中で,豊橋市では「豊橋商工会議所」,「豊橋市役所」,「愛知大学 キャリアセンター」の産官学の3主体が大学生の就職活動を支えている。そこで本研究では,それぞれの組織が大学生の就職活動においてどのような役割を担っているのかを明らかにし,学生の就職支援者への認知傾向を把握するとともに,学生の認知の状況と付き合わせることで,より学生のための新規支援事業・制度創設に向け具体的な方策を考察することを目的とした。
 I章では,研究背景と目的を示すとともに,就職支援に必要な9要素の整理や諸外国との比較を行った。II章では,豊橋市が取り組む大学生に向けたキャリア支援状況の実態を示した。さらに,海外の就職支援事例と比較したことで,学生への支援策を検討する上で有効であるか,どのような改善が必要かを考察した。III章では,豊橋市で就職支援する各団体の概要について整理した。さらにヒヤリング調査を行い,支援現状,現状の役割を可視化した。IV章では,大学生を対象にアンケート調査を行い,就職支援者の認知傾向を明確にした。V章では,II章・III章での結果を踏まえ現状の役割を明確にして,産官学(民間企業・行政・大学)それぞれが今後取り組むべき支援策は何かを追求した。
 その結果,豊橋商工会議所(産),豊橋市役所(官),愛知大学豊橋キャンパス キャリアセンター(学)の大学生に対する就職支援策の概観とヒヤリング調査から,3つの組織全てが大学生の就職支援を促す活動は行なっていたが,産は低学年に向けたキャリア支援,官は高校生に向けたキャリア支援活動と年齢問わず求職者全てに支援を行い,学は学内の大学生全てにキャリア・就職の支援を行なっていることが判明した。一部の支援活動については,大学生にとって認知度が低かったり,イメージがわかるものも見られた。したがって情報共有体制が未整備であるため,いつ・どこでも情報を得られる,相談できるネットワーク体制を重点的に作り上げていくことが今後の課題だと考えられる。