簡斎文庫のほかにも愛知大学には特色あるコレクションがいくつか存在する。それらを簡単に紹介する。
霞山文庫は敗戦時まで東京の虎ノ門にあった東亜同文会(後の霞山会)の旧蔵本である。また、1945年12月に霞山会館がアメリカ進駐軍により接収される際には、関係者が一晩で蔵書のほとんどを運び出し接収を逃れた。これらの現代中国関係を主とする図書約35,000冊は、東亜同文会より1947年に愛知大学図書館へ寄託(1950年に購入)された。中でも東亜同文会の教育機関であった東亜同文書院が「支那省別全誌」を刊行するために収集した資料や、副本として保存していた「東亜同文書院支那調査報告書」「東亜同文書院大旅行誌」は、同時代中国の調査記録として極めて貴重である。
目録として『愛知大学図書館霞山文庫図書目録』(1999)があり、愛知大学図書OPACからも検索可能。
「中国調査旅行報告書(支那調査報告書)」は、1916年~1935年に東亜同文書院の学生が卒業研究として中国各地を調査旅行に出かけて記した報告書稿本400冊で、『支那省別全誌』全18巻、『支那経済全書』全12巻、『新修支那省別全誌』の基礎資料となった。原稿本は上海の東亜同文書院に所蔵されていたが敗戦時の撤収により失われ、東京の東亜同文會本部に副本として送付されていた霞山文庫本が唯一の残存である。雄松堂から1997年にマイクロフィルム版が刊行されている。
「東亜同文書院大旅行誌」は上記の調査旅行の個人旅行記の集成であり、具体的な旅行日程、景物、物価、風俗などを知ることができる。若き東亜同文書院生のバイタリティーを感じることができる。
ヨーロッパ人によって多様な言語で記された東洋史・東洋地誌紀行外国文献で、1664年から1938年に刊行された欧文図書916冊からなる。17世紀からの文献が含まれるが、とりわけ宣教師によるアジア地誌の宣教団体本部への報告書などを編集したフランス語の叢書1749版(64卷)1780版(23卷) 1790版(5卷) 1833版(46卷) 1841版(12卷)などが充実している。もと浦和高校教授であり、外交官としても活動していた竹村昌次氏の旧蔵書であるが、氏がどのような目的でこのようなコレクションを形成したのか十分に明らかになっていない。ただし、竹村氏の収集の手控えともいうべき、欧州の古書店からの購入にかかわる発注書、領収書などを保存した帳簿があり、興味深い。
アメリカ人アジア研究家・経済人であるジェリー・ライヒマン(Jerry Raichman)の「初期中国・アジア研究資料集成」を購入したもの。979冊。1890年代のものを中心に1590年より1911年までに刊行された英語文献を主とする。上記竹村文庫が比較的古い時代の文献を多く収蔵するのに対し、ライヒマン文庫は刊行年の新しいものが中心で、かつ記述対象も著者の立場も広がりが大きい。とりわけアジア各地への旅行記や地誌が豊富である。竹村文庫と併わせることにより、17世紀から20世紀までの欧米人のアジア認識を知る大きな手掛かりの書物群が形成される。