張兪

 張兪(生没年不詳。おおよそ1039年前後に在世)、字は少愚。益州郫県(四川省)の人。何度も進士の試験に応じたが合格せず、四川青城山の白雲渓に隠居し、「白雲先生」と号した。北宋の著名な隠者で、『白雲集』がある。 

 蚕婦   
                           
昨日入城市  昨日 城の市に入り
帰来涙満巾  帰り来たれば 涙 巾に満つ
遍身羅綺者  遍身 羅綺の者
不是養蚕人  是れ養蚕の人ならず


〔詩形〕五言絶句 〔脚韻〕巾、人(上平声・真韻)

○蚕婦 農村で養蚕をする女性。 
○入城市 町(城)の中の市場に行く。「城」は、町。古代中国の都市は、城壁で囲まれている。「市」は、市場。「郭」とする本もある。
○巾 ハンカチ。
○遍身 満身。全身。 
○羅綺 薄絹で織った布製品。軽く柔らかで穴のあるものを「羅」と呼び、花模様があるものを「綺」と呼ぶ。


 《養蚕の女性》

昨日町の中の市場まで出かけましたが、
家に帰って来た時には、涙がハンカチいっぱいにこぼれ落ちました。
体いっぱいに高価な絹織物の衣装をつけている者は、
養蚕の仕事に従事する人たちではなかったからです。


 作者は、養蚕婦が自分で語る口ぶりを用いて、農村の養蚕の女性が町に入り、市場で糸を売る際の感慨と悲憤を訴えています。言葉は簡潔、対比は鮮明で、人を感動させます。