張兪
蚕婦
昨日入城市 昨日 城の市に入り
帰来涙満巾 帰り来たれば 涙 巾に満つ
遍身羅綺者 遍身 羅綺の者
不是養蚕人 是れ養蚕の人ならず
〔詩形〕五言絶句 〔脚韻〕巾、人(上平声・真韻)
○蚕婦 農村で養蚕をする女性。
○入城市 町(城)の中の市場に行く。「城」は、町。古代中国の都市は、城壁で囲まれている。「市」は、市場。「郭」とする本もある。
○巾 ハンカチ。
○遍身 満身。全身。
○羅綺 薄絹で織った布製品。軽く柔らかで穴のあるものを「羅」と呼び、花模様があるものを「綺」と呼ぶ。
《養蚕の女性》
昨日町の中の市場まで出かけましたが、
家に帰って来た時には、涙がハンカチいっぱいにこぼれ落ちました。
体いっぱいに高価な絹織物の衣装をつけている者は、
養蚕の仕事に従事する人たちではなかったからです。
作者は、養蚕婦が自分で語る口ぶりを用いて、農村の養蚕の女性が町に入り、市場で糸を売る際の感慨と悲憤を訴えています。言葉は簡潔、対比は鮮明で、人を感動させます。