曽鞏 Zeng Gong (北宋)

 
曽鞏(そうきょう)(1019~1083)、字は子固(しこ)南豊(なんぽう)(江西省)の人。官は中書舎人に至る。散文によって名高く、「唐宋八大家」の一人に数えられる。ちなみに唐宋八大家とは、中唐の韓愈(かんゆ)柳宗元(りゅうそうげん)、北宋の欧陽修(おうようしゅう)王安石(おうあんせき)、曽鞏、それに蘇洵(そじゅん)蘇軾(そしょく)蘇轍(そてつ)父子(三蘇)の8人をさす。曽鞏の詩人としての評価は必ずしも一定しないが、銭鍾書氏は、曽鞏の詩は唐宋八大家の中では蘇洵、蘇轍の詩よりもはるかによく、その七言絶句には王安石の趣さえ感じられると、比較的高い評価を下している(『宋詩選注』)。『元豊類橋(げんぽうるいこう)』がある。

  西楼  西楼(せいろう)       
                             
海浪如雲去却回  
海浪(かいろう) 雲の(ごと)く 去りて()(めぐ)
北風吹起数声雷  
北風(ほくふう) 吹き起こりて 数声(すうせい)の雷あり
朱楼四面鈎疏箔  
朱楼(しゅろう) 四面(しめん) 疏箔(そはく)()
臥看千山急雨来  
()して()る 千山(せんざん) 急雨(きゅうう)の来たるを

〔詩形〕七言絶句  〔脚韻〕回、雷、来(上平声・灰韻)

○海浪 海の波。
○如雲 海の波が、まるで雲のように大きく盛りあがることをたとえる。
○去却回 行っては戻る。海の波が寄せてはかえすさま。「去」は、去って行く。「却」は、方向を変える。「回」は、戻って来る。
○朱楼 朱塗りの楼閣。ここでいう西楼をさす。
○四面 東西南北の4つの方向。
○鈎 すだれを高くかかげ、留め金にかける。 
○疏箔 目のあらいすだれ。
○臥看 寝ころがってながめる。
○千山 数知れずある山々。「千」は、数の多いたとえ。
○急雨 にわか雨。

 《西の高楼で》

海の波はまるで雲のようにわき起こり、向こうへと引き返しては、またこちらへと押し寄せて来る。
北風が吹き起こり、雷の音がたびたび聞こえる。
朱塗りの高殿の四方の窓のすだれをかかげ、
ごろりと寝ころがって、数知れずある山々に降り出したにわか雨をながめやる。

 雲のようにわき起こり、寄せては返す海の波。吹きすさぶ北風。とどろく雷鳴。詩の前半は、嵐の前ぶれのただならぬ情景をうたっています。にもかかわらず、詩人は大胆にも建物の四方の窓を開けはなち、すだれを巻き上げて、周囲をとりまく山々に降るにわか雨を平然とながめています。豪放磊落というべきか、常人の理解を絶する境地というべきか。不思議な感動の残る作品です。