岳飛 Yue Fei  (北宋~南宋)

 
岳飛(1103~1142)、字は鵬挙。湯陰(河南省)の人。南宋の傑出した民族的英雄である。かつて名将の宗沢に従って開封を守り、しばしば戦功を立てた。彼は兵士と人民を愛護し、彼が統率する岳家軍は勇猛果敢に善戦し、規律は厳正であった。紹興十年(1140)、鄂州(湖北省武昌)に駐軍し、少保・河南河北諸路招討使を授かった。後に朱仙鎮に進軍し、金の兀朮を大いに破ると、河南河北の義軍は紛然として決起し、これに呼応した。岳飛はちょうど部下たちに、「直ちに黄竜府(吉林農安)に抵し、諸君と痛飲せんのみ」と宣言したばかりだった。ところが、宋の高宗と宰相の秦檜は金との和議講和を強く主張し、十二道の金牌によって彼を臨安に召喚し、彼の兵権を解除した。ほどなくして岳飛は秦檜によって、あるはずもない罪名の下にわずか39歳で殺害された。その詩詞は豪放勇壮で、愛国の激情に満ちているが、残念なことに多くは伝わっていない。

 
池州翠微亭  池州の翠微亭

経年塵土満征衣 年を経て 塵土 征衣に満ち
特特尋芳上翠微 特特 芳を尋ねて 翠微に上る
好水好山看不足 好水 好山 看れども足らず
馬蹄催趁月明帰 馬蹄 趁を催し 月明に帰る

〔詩形〕七言絶句  〔脚韻〕衣・微・帰(上平声・微韻)

○池州 治所は今の安徽省貴池にある。 
○翠微亭 貴池の南斉山の頂にある。山に依り水に臨み、景色がすばらしい。 
○経年 常年。 
○征衣 戦衣。 
○特特 馬蹄の音の擬音。
○尋芳 游春して花を見、美しい風景を探賞することをさす。 
○看不足 見足りない。 
○「馬蹄」句 馬蹄の音の催促する下、私はすぐさま明るい月の光を踏みしめながら帰って行くしかない。

 池州の翠微亭

 長い歳月を経て、塵土は旅の衣服いっぱいにこびり付き、
タッタッと馬を走らせ、芳を尋ね求めて翠微に上る。
美しい山川の眺めは、いくら見ても飽き足りることがないが、
馬の蹄に促され、月明かりに乗じて帰って行く。


 この詩は遊覧覧勝の作であり、詩人の祖国の壮麗な山河への愛着を表現している上に、時々刻々に国事を重んじ、風景に未練を残さないという大将の襟懐をも表現している。