葉紹翁 (南宋)
葉紹翁(生卒年不詳)、字は嗣宗。号は靖逸。浦城(福建省)の人。居を竜泉(浙江省)に遷した。平生、真徳秀と最も親しい交友を結んだ。おおよそ1224年前後に在世。その学問は「永嘉学派」の葉適の門より出て、その詩は南宋後期の「江湖派」に属する。特に七言絶句にすぐれ、田園の風物をうたった作品が多い。『靖逸小集』がある。
遊園不値 園に遊びて値わず
応憐屐歯印蒼苔 応に憐れむべし 屐歯の蒼苔に印するを
小扣柴扉久不開 小しく柴扉を扣くも 久しく開かず
春色満園関不住 春色 園に満ち 関し住せず
一枝紅杏出牆来 一枝の紅杏 牆を出で来たる
〔詩形〕七言絶句 〔韻字〕苔、開、来(上平声・灰韻)
○不値 出会っていない。ここでは、小園の主人に出会っておらず、門の中に入っていないことをさす。
○憐 愛惜する。
○屐 木の下駄。底に前後二つの歯のある木の靴。
○蒼苔 青い苔。
○小扣 軽くたたく。
○柴扉 柴の門。簡素な門。
○不値 まだ主人に会っていない。まだ門に入れずにいることを言う。
○屐 木屐。底に二つの歯があり、泥道を歩くのに便利である。
○「応憐」二句 料想するに、庭園の中の主人は青苔を愛惜し、私の木の下駄の歯が足跡をつけることを心配しておりのであり、それで私が半日もの間門を叩いても、まったく誰も門を開けにやって来ないのだろう。
○「春色」二句 主人の家が鍵をかけて閉じることができたのはただ柴門だけであり、却庭いっぱいの春色を閉じ込めることはできず、一枝の赤い杏の花が、こっそりとそっと垣根の上から園外へ伸び出ており、素晴らしい春光を外に漏らしている。この二句は、陸游の「馬上の作」詩の「楊柳不遮春色断、一枝紅杏出牆頭」を換骨奪胎したものだが、第三句は陸游の詩よりも奇抜に書かれている。
友人の庭園を訪れたが、会わなかった
きっと青い苔に下駄の歯の跡がつくのを心配しているのだろう。
柴の折り戸をしばらく叩いても、一向に開けてくれない。
春の景色は庭いっぱいにあふれて、閉じ込めおおせるものではなく、
赤いアンズの花が一枝、そっと塀から顔をのぞかせている。