翁巻 Weng Juan (南宋)

 翁巻(おうけん)(生没年不詳)、字は続古(しょくこ)、または霊舒(れいじょ)。永嘉に近い楽清柳川(浙江省)の人。四霊の三。生涯仕官せず、各地を放浪し、平民として一生を終えた。『葦碧軒(いへきけん)集』がある。

 郷村四月  郷村(きょうそん)の四月  翁巻       
      
緑遍山原白満川  緑 山原(さんげん)(あまね)く 白 川に()
子規声裏雨如煙  子規声裏(しきせいり) 雨 (けぶ)るが(ごと)
郷村四月閑人少  郷村 四月 閑人(かんじん) (まれ)なり
纔了蚕桑又挿田  (ようや)蚕桑(さんそう)(りょう)し ()(でん)()


〔詩形〕七言絶句 〔韻字〕川・煙・田(下平声・先韻)

○郷村 農村。
○四月 旧暦では初夏にあたる。
○緑遍山原 緑が山と野原に満ちあふれる。
○白満川 光り輝く水が田んぼに満ちている。「白」は、水の輝きを表す。「川」は、ここでは水田をさす。
○子規 鳥の名。ホトトギス。農作業の始まりを告げる鳥とされる。
○裏 ~の中。
○雨如煙 けむるように雨が降る。
○閑人 ひまな人。何も仕事をせずぶらぶらしている人。
○少 ほとんどいない、の意。
○纔了 やっと終える。
○蚕桑 カイコに桑の葉を食べさせること。

○又 今度はまた。
○挿田 田植えをする。


 《農村の初夏四月》
山も野原も緑一色、水田は水を満々とたたえて白く光り輝いている。
ホトトギスがしきりに鳴く中、けむるように雨が降る。
初夏四月の農村には、暇をもてあましているような者はどこにもいない。
やっとカイコにクワの葉を食べさせる作業が終わったかと思うと、今度はまた田植えにとりかかる。 


 初夏の江南の美しい田園風景と、忙しく働く農民たちの姿を活写した詩です。この詩は『千家詩』に収録され、親しまれています。