文同 Wen Tong (北宋)

 
文同(1018~1079)、字は与可。みずから笑笑先生と号し、世に「石室先生」あるいは「文湖州」と称する。梓州永泰(四川省塩亭)の人。官は尚書司封員外郎・集賢院校理に至り、最終の官は湖州(浙江省湖州市)の知州である。彼は北宋の大画家であり、画竹が最も有名で、「湖州竹派」を開創した。彼と蘇軾は従表兄弟で、蘇轍と親戚となり、常に詩文を応酬した。彼はかつて蘇軾に「竹を描く時には、必ず先に成竹を胸中に得なければならない」と教えたことがあり、「胸中に成竹あり」という成語は、ここから来ている。詩風は朴実清幽で、写景と状物にすぐれ、特に絵画を詩に採り入れることに長じている。銭鍾書氏の『宋詩選注』は、文同の「画を以て詩に入る」という創造的な芸術成就について、「彼は詩の中で天然風景を描写し、常に絵画と関連づけ、中国の写景文学のために一種の手法を添えた」と高く評価している。

 
晩至村家  晩に村家に至る    
                             
高原磽确石径微  高原 磽确 石径 微かなり
籬巷明滅余残暉  籬巷 明滅 残暉を余す
旧裾飄風採桑去  旧裾 風に飄し 桑を採りに去き
白袷巻水秧稲帰  白袷 水を巻き 稲を秧して帰る
深葭繞澗牛散臥  深葭 澗を繞り 牛 散り臥し
積麦満場鶏乱飛  積麦 場に満ち 鶏 乱れ飛ぶ
前渓後谷暝煙起  前渓 後谷 暝煙 起ち
稚子各出関柴扉  稚子 各おの出でて 柴扉を関す


〔詩形〕七言律詩 〔脚韻〕微・暉・帰・飛・扉(上平声・微韻)

○高原 高地。 
○磽确 〓薄、土地が硬くて肥沃でない。 
○籬巷 村の中の農舎の間で、籬〓で小巷を隔てていることをさす。 
○明滅 光線がたちまち明るくなったり暗くなったりする。 
○余残暉 太陽が山に沈む時の余光。 
○旧裾 古い衣服を着ている蚕婦をさす。「裾」は、衣服の大襟。 
○白袷 白い合わせの着物を着た農夫をさす。「袷」は、合わせの着物。 
○巻水 水に濡れた着物の袖をさす。 
○秧稲 稲の苗を植える。「秧」は、動詞の働きをする。 
○深葭 とても高く伸びた蘆。 
○澗 二つの山にはさまれた谷川。 
○暝煙 黄昏時に立ち上る靄霞。 
○稚子 幼子。小さな子供。
○柴扉 農家が木の枝を編んで作った門をさす。
 
 夕暮れに、村里の家に着く

高原は痩せ地で土が硬く、石だらけの山道が細く続く。
まがきのある村里に、沈みかけた夕陽が射して輝く。
古い衣のすそを風に翻して、農婦が桑を摘みに出かけて行き、
白いあわせの着物を水に巻かれて、農夫が稲を植えて帰って来る。
深く生える蘆は谷川を巡って茂り、牛があちこちに散らばって寝そべり、
積み上げられた麦は収穫場にいっぱいになって、ニワトリが乱れ飛んでいる。
前後の谷に暮れ方の靄がわき起こり、
幼子がそれぞれ家から出て来て、柴の戸を閉める。


 この詩は、郷土の息吹の充満した一幅の田園風景画であり、山村の農家の生活を生き生きと描写している。