釈道潜 (北宋)
臨平道中
風蒲猟猟弄軽柔 蒲を
欲立蜻蜓不自由 立たんと欲する
五月臨平山下路 五月 臨平山下の
藕花無数満汀洲 藕花 無数 汀洲に満つ
〔詩形〕七言絶句 〔脚韻〕柔、由、洲(下平声・尤韻)
○臨平 山名。今の浙江省餘杭県臨平鎮の近くにある。
○風 動詞。風が吹いて動かす。
○蒲 一種の江南の水辺で常に見られる水草。高さは約数尺で、葉の形は細長く、風を受けると容易に揺れ動く。
○猟猟 風が蒲の葉を吹いて発するさらさらという物音。
○弄軽柔 蒲草が細長い葉片を揺れ動かしているのは、あたかも軽柔をもてあそんで売弄しているかのようである。
○「欲立」句 風が強く吹くと蒲草の葉も大きく揺れ動き、蜻蛉は蒲の上に止まろうと思っても、止まることができない。
○藕花 蓮の花。
○汀洲 水辺の平地。ここでは、山下の汀洲の間の沼泊池塘をさす。
《臨平山の道中にて》
風に吹かれている蒲は、さらさらと軽く柔らかな葉をそよがせている。
トンボが葉にとまろうとしているが、揺れているので思うように行かない。
真夏、五月の臨平山のふもとの道では、
ハスの花が数知れず、水際一面に咲いている。
この小山水詩は、臨平山のふもとの五月仲夏の水辺の風景を描写している。蘇軾はこの詩を大変称賛し、自ら書き写して石に刻んだ。当時の女流画家である曹夫人も、この詩にもとづいて「臨平藕花図」を描いている。詩全体は遠景と近景が結合し、動と静が結合している。近景はガマの穂がトンボに戯れていることを書き、遠景はハスの花が水際に満ちていることを書く。前半二句は動を書き、後半二句は静を書く。のみならず、有声有色に書いている。耳にはさわさわという風の音が聞こえて来るし、赤い花と緑の葉がことごとく目に入る。「詩中有画」を実現したのみならず、音声も伴っており、夏らしい情趣に満ちている。