林升 (南宋)

林升、字は夢扉。平陽(浙江省)の人。おおよそ紹興(1131~1162)から淳熙(1174~1189)の間に在世。

 
題臨安邸  臨安の邸に題す   

山外青山楼外楼  山外の青山 楼外の楼
西湖歌舞幾時休  西湖の歌舞 幾時か休まん
暖風薫得遊人酔  暖風 薫り得て 遊人 酔い
直把杭州作汴州  直ちに杭州を把りて汴州と作す


〔七言絶句〕 〔韻字〕楼、休、州

○臨安 南宋の都城、今の浙江省杭州。 
○邸 旅館。 
○汴州 北宋の都城汴京、今の河南省開封。

 臨安の旅館の壁に書き付ける

山の向こうには青い山々が見え、高楼の向こうには高楼が連なっている。
ここ西湖のほとりでは、歌や踊りのやむ時もない。
暖かい風にくすぶられて、ここで遊覧する人々はすっかり酔い心地になり、
この杭州を、ただもう故都の汴京だと見なしているらしい。


 この詩は、杭州のとある旅館の壁の上に書き付けられたものである。おそらくは、詩人の一時の憤激の作であろう。南宋の行在所である臨安はあくまでも仮の都に過ぎないのに、西湖を遊覧する人々は、失地回復のことなどとうの昔に忘れ果て、そこが本来の都開封であるとでも言わんばかり。詩は、そのことを痛烈に諷刺している。