孔平仲 (北宋)

 
孔平仲、生没年不詳。字は義甫、一に毅父。臨平新喩(江西省新余)の人。宋の英宗の治平二年(1065)の進士。最終の官は、主管兗州景霊宮。兄の文仲・武仲と共に文名があり、蘇軾・蘇轍の兄弟と、「二蘇三孔」と並び称された。三孔の中では平仲の詩が最もすぐれており、風格は蘇軾に近い。『朝散集』がある。
 字は義甫、または義父、毅父。臨江軍新喩(江西省新喩県)の人。旧法党の呂公著に推挽されて秘書丞、集賢校理となる。だが、新旧両党の争いにまきこまれ、遠く英州(広東省英徳県)に流された。徽宗のとき復帰して戸部郎中についたりしたが、ふたたび党争のためおわれた。兄の文仲(1037~1087)・武仲とともに文名が高く、三孔と称された。三孔の合集を『清江三孔集』という。


 禾熟   (三首のうち一首)    
  
百里西風禾黍香  百里 西風 禾黍 香ばし
鳴泉落竇穀登場  鳴泉 竇に落ち 穀 場に登る
老牛粗了耕耘債  老牛 粗ぼ了す 耕耘の債
齧草坡頭臥夕陽  草を坡頭に齧り 夕陽に臥す


〔詩形〕七言絶句 〔脚韻〕香・場・陽(下平声・陽韻)

○西風 秋風。 
○竇 穴。洞。 
○鳴泉落竇 秋風が泉の水をして音を鳴らして山林の孔穴に落とし、音響を発していることを言う。 
○粗了 おおむね負債を返し終わった。 
○了 終了。完結。 
○齧草 草をかじる。 

  《稲がみのる》

見渡す限り吹きそよぐ秋風に、稲や黍が香り高い。
音を立てて涌き出ていた泉も穴に収まり、稲の束は脱穀場に集められた。
老いた牛は畑仕事をあらかたすませ、
丘の上で草をかじりながら、夕陽の中に寝そべっている。


 この詩は、農村の秋の収穫の情景をうたっています。清初の画家〓格は、これにもとづいて一幅の「村楽図」を描きました。この詩は、単に「詩中有画」であるのみならず、しかも形象は鮮明で、意境は高遠で、発想は常套におちいらず、田園詩のために新意をもたらしています。前半二句は、秋風が吹いて来て稲穀が香り、穀物が脱穀場に山積みになっていることをうたい、あたり一面の豊作の情景です。後半二句は、特に老牛を書き、それが一年の間苦労して力耕した後、夕陽が照らす山の岡の上に寝そべって安閑と草を食べていることをうたっています。文字の上では牛を賛美していますが、実は勤勉に働く農民を称えているのであり、それによって作者の民生への切実な関心を表現しているのです。