私の「教師」初体験

7期生 05ES1008 楊 敬

(華東師範大学外国語学院専任講師)

 

楊敬先生@華東師範大学2007年8月に、李先生から次のようなメールをいただいた。「今年は李ゼミ論集の十周年で、何でもいいですから、書いてください。」という内容であった。「何でもいい」というのは書きやすいように感じるが、実際には難しい。何を書けばよいのやらと迷っていたが、いろいろ考えた結果、大学の教師になった今の私の感じを書くことに決めた。

2007年6月に、上海華東師範大学外国語学院日本語系日本語の教師になった。大学の教師になるのが第一希望だったので、それが適った時はとても興奮した。またそれと同時に、不安と心配も募ってきた。それは、私が良い教師になれるのかどうかという心配であった。そんな複雑な気持ちで、9月に初めて教壇に立った。

初めての授業

初めて教室のドアを開けた瞬間、「先生、若い」という声が聞こえた。緊張し過ぎて話せるのかなあ・・・と心配していたが、幸いなことに、少々手と声が震えただけで、伝えなければならない内容は、話すことができた。

クラスの中には、男子学生は五人しかいない。それに対して、女子学生の方が圧倒的に多い。学生に自己紹介をしてもらった時に、どうして日本語科を選んだのかという質問をしてみた。もちろん、「日本の文化に興味を持っている。」、「日本のアニメが好きだ。」などといった答えが多かったが、「華東師範大学の日本学部には、かわいい女の子がたくさんいると聞いたから、日本語を選んだ。」という男子学生の答えもあった。クラス全員が爆笑。彼の真剣そうな顔を見て、私も思わず笑い出してしまった。

今の学生は、何となく私の時代と少し違う感じがする。そして、学生に好かれる教師になるためには、もっと彼らの考え方を把握する必要があると感じた。

また、その授業の後「先生の年齢を聞いてもいいですか。」と聞きに来た学生が何人かいた。私は、彼らと年齢差があまりないこともあり、また優しく感じられているところもあって、私は教師というより、先輩のような感じに近いと思われているのではないだろうか。このように、「先輩のような教師」としての、私の教師生活の幕が開けた。

「先生、携帯番号を教えてください」

 日本の場合はどうなのかわからないが、中国では学生自らが、教師に携帯の番号を聞くことは、とても勇気のいる行動だと思う。自分の学生時代を考えると、携帯番号を聞くどころか、教師に話しかけることさえも照れてしまう。しかし、今の大学生は違う。

ある日、一人の男子学生が教壇の前に出て来て、「先生、携帯番号を教えてください。」と言った。その時、学生から携帯番号を聞かれることなど、思いもよらなかったから、「何で私の携帯が知りたいのですか。」と聞き返した。「私の先生だから…」と相手はそう言った。

「じゃ、後で教える。」「お願いします。今教えてください。」仕方なく、彼に教えた。

 その次の日、「先生、昨日メール送ったんだけど、どうして返事してくれなかったの。」とその生徒はがっかりした顔をしていた。「あっ、すみません。届かなかったかもしれない。」

 「そうですか。じゃ、もう一度送るね。」とその場で送ってくれた。私もその場で返事をしてあげた。「先生からメールをもらってうれしい。」

 これは、少しびっくりした出来事だったが、それは確かにあったことだ。今の学生にとって、教師とはどういう存在として考えているのか。それはかつて私が学生であった時には時々考えていたことだが、教師になってからはかえって考えなくなってしまったことである。すなわち、教師は学生と同じ教室の中にいるが、学生からはいつも遠くに感じている人であると、以前の私はそのように思っていた。その理由は、授業の他に教師と学生との交流が、一切なかったからだ。学校の食堂などで教師に会って話すことも珍しい。あの男子学生も、きっとそのような教師に教わってきて、その殻を感じていて、いつかそれを破ってみたいという思いがあったから、私からのメールをもらった時あんなにうれしい顔を見せたのだろう。

 私はいつも学生の近くにいたい。教室の中だけの教師ではなく、学生が進む人生の中での友だちになりたい。

礼儀正しい留学生

 クラスにはまた、韓国から来た二人の留学生がいる。中国語をペラペラ話すが、中国語と日本語しか使わない授業に、付いていくのがなかなか難しそうだ。中国語を日本語に訳す練習をしてもらう時、韓国語を言い出したこともある。気がついたら、「先生、すみません。思わず韓国語を言っちゃいました」と謝る。

 韓国の人はとても礼儀正しいと聞いていたが、今回はそれをしみじみ感じた。それは、その二人の留学生が私に会うたびに、お辞儀をしながら「先生、こんにちは」と挨拶をしてくれる。そして、授業が終わった時にも、必ず私のところに来てお礼を言う。

 この前授業が終わった時、私が他の学生から質問を受けて、それに答えていた時、その二人はそばでいつまでも待っていた。何か質問があるのかなあと思っていたら、ただ私に「ありがとうございます」とお礼を言うために、5分以上も待ってくれていた。心から感動した。そのときの感じは、幸せで胸が一杯になった。教師になってから二ヶ月が経った。その二ヶ月の間にいろいろなことがあったが、びっくりしたこともあったし、楽しいこともあった。何といっても、教師という仕事がすっかり好きになったことには間違いない。

私はいろいろな学生と出会い、知り合いになることを楽しみにしている。大学生は最も活気のある世代だ。私を待っているこの世界は、いつも青春が溢れている世界である。きっと教えているうちに、私の知識や人生も、さらに豊かになっていくだろう。

☆あとがき 楊敬さんは20059月から20068月にかけて、上海外国語大学からの派遣留学生として愛知大学に留学し、李ゼミに入っていた。時期的にはちょうど7期生~8期生に跨っていた。2007年に同大学大学院を修了し、現職についた。微笑ましい新人教師の体験談を寄せてもらった。李春利