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第十二章 中国オリンピックとバブル崩壊の行方
はじめに
今年、万人が嘱目している世界第29回オリンピック運動会が8月8日中国の北京で開幕した。8日夜、北京市の全体が盛り上り、中国は国をあげて、喜びに沸き立った。204の国と地域から集まった1万1000人余りの選手たちは、北京オリンピックの開会式でオリンピックの旗の下に集まり、一つの家族になった。
これは、中国の人々が待ち望み、全世界が注目していた瞬間だった。主催国としての中国は近年、高度な経済発展が注目されている。北京五輪閉幕後、気になるのが、ここ数年ほぼ2ケタの経済成長を続けている中国経済の行方である。五輪は中国にどのような効果をどの程度もたらしたのか。五輪後に減速懸念が出ている中国経済はどうなるのか。今度の北京オリンピックの開催につれ、中国の経済に与えるチャンスと影響を見ていきたい。
第一節 北京オリンピック
1-1北京オリンピックの経緯
2001年7月13日、モスクワ現地時間18時15分IOCのサマランチ会長はワ「2008年オリンピック主催都市は北京」と厳かに発表。
1-2北京オリンピックの姿
中国政府はオリンピックに関する施設投資などは、数字で見る。
02~08年の7年間にオリンピック関連施設の建設や交通インフラ整備などに充てられると想定される公共投資額2,904億元(約4兆6,000億円)。このうち、競技場の新設や鉄道、空港整備などの直接投資が1,349億元(約2兆2,000億円)、ごみ処理や緑化をはじめ環境保護などの間接投資が1,438億元(約2兆3,000億円)だった。北京オリンピックのスローガンは、北京オリンピック組織委員会は、大会のスローガンとして「One World, One Dream(ひとつの世界、ひとつの夢)」を選び、中国国内および国際社会における人々のつながりや友好を基本とした大会とすることを強調した。
中国情報局 2008オリンピック特集
http://searchina.ne.jp/2008/guide01_11.html
1-3、北京オリンピックの精彩な瞬間
・愛が国境ない
2008年8月23日北京オリンピックで100m、200m、400mリレーの全てで世界新記録を樹立し、三冠を達成したジャマイカの陸上競技短距離選手ウサイン・ボルトは、中国四川大地震で手足を切断された子供たちに5万ドルを寄付した。
・ 承諾の金メダル
8月21日、中華台北選手蘇麗文は北京オリンピックテコンドー女子57kg級三位決定戦で、負傷出陣して、試合中14回倒れても放棄せず、最後、クロアチア選手ズブビッチに負けてメダルを獲得できなかったが、人々の賞賛を博した。蘇麗文選手は全力で戦った動力は自分と父の承諾があるからである。今年二月、彼女の父が癌になった。出征前、彼女と父は「娘のメダルと父の健康のため、一緒に頑張る」と承諾した。蘇麗文は失敗者ではない。人々は彼女のうまずたゆまずやる精神を感動され、心の中で彼女に重い金メダルをあげた。
・悲しい後ろ姿
中国人の陸上競技の夢を持っていた「黄金の昇り龍」と呼ばれた劉翔は、8月18日「鳥の巣」で人々に残したのは彼の悲しい後姿だけだった。彼が右足のアキレス腱の怪我の影響で110メートルハードルの試合を棄権した一瞬、全世界が驚愕の後、扼腕してため息をついた。
・片腕の女傑
ポーランド選手ナタリア・パルティカはこの夏中、世界を感動させた。卓球女子シングルス(立位)で連覇を達成したナタリア・パルティカのプレー。生まれつき右ひじより先がないハンディを乗り越え、首位オリンピック大会とパラリンピックを同時に参加した選手である。オリンピック歴史の創造者である。
・「私は国宝だ」
8月15日、北京オリンピック78kg女子柔道の決勝戦では、中国選手佟文は塚田真希を終了間際の逆転の一本勝ちで金メダルを獲得した。高度に興奮している佟文は「私は国宝だ」と歓呼した。
中文導報資料より
1-42008年北京オリンピック、パラリンピック国別獲得メダル数ランキング
・オリンピック国別獲得メダル数ランキング
・パラリンピック国別獲得メダル数ランキング
1-5北京オリンピックの大成功
17日わたって世界を感動させた第二十九回オリンピックは、8月25日北京で円満に閉幕した。スポーツ界盛会は精彩で閉幕したが、聖火はいつまでも心に残っている。北京オリンピックは世界に残ったのは短期間の驚喜ではなく、恒久的な記憶である。世界の204の国と地域、約11,000人のアスリートが過去の16日で、極限を挑戦し、新たな高度を越え、38項世界レコードを更新し、85項オリンピックレコードを更新した。ジャマイカの旋風ウサイン・ボルト、アメリカのトビウオフェルプス、ロシアの棒高跳び女王イシンバエワ、日本のカエル泳ぎ王子北島康介等は歴史を創造した同時に、北京オリンピックの卓然として一頭地を抜いた巨大な金の含有量も創造した。閉幕式で、国際オリンピック委員会会長ジャック・ロゲは、北京オリンピックは比類のない成功なオリンピックである。16個輝かしい日が永遠にわれわれの心の中で珍蔵する。国際オリンピック委員会の体表として、中国オリンピック委員会、中国人民、北京オリンピックボランティアに感謝すると語った。
北京オリンピックに通して、世界が進歩できた。北京オリンピックの開幕式から、世界40億以上の人々注目を集めていた。各国選手の競争精神が世界に巨大な影響を与え、現代競技体育とオリンピック事業が世界中で又いっそう発展した。北京オリンピックの成功は疑いをさしはむ余地がない事実で「グリーンオリンピック、ハイテクオリンピック、ヒューマンオリンピック」の理念を着実にした上で、極大的に現代オリンピック精神の内包を豊富し、歴史に前進の足跡を残した。人材の国際的流通、各国体育の水準を向上させ、人類の速さ、高さ、強さを推進した。
第二節中国の諸社会問題の現状と課題
2-1新疆事件からの民族問題
中国・北京五輪開幕を4日後に控えた4日、中国北西部に位置した新疆ウイグル自治区カシュガル市内で、治安機関を狙った襲撃事件が発生し、五輪の安全開催に対する不安が高まっている。
中国からの独立を求めるウイグル独立派のテロと見られている。最近、中国各地でテロ疑惑事件が相次いでいる中で同事件が発生し、中国公安当局は警戒をさらに強める一方、テロ組織の行方を追っている。
4日のテロ事件以降、新疆と隣接するチベット(西蔵)自治区のほか、北京にもテロ警報の最上級「赤色警報」が発令された。
中央日報日本語版「五輪を目前に中国新疆ウイグルで爆弾事件」http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=103173&servcode=A00§code=A00
2-2環境問題
中国は近年「世界の工場」として急速な経済発展を続けており、沿岸部では急激な工業化や都市開発が進み、先進国に遜色ない発展を遂げている。一方で内陸部は発展が遅れ、沿岸部との格差、あるいは都市部と農村部との格差が広がっている。また資源やエネルギーの消費量も急速に増加し、これに伴い、大気汚染や水質等の環境汚染、廃棄物問題、生態系保全上の問題が発生し、黄砂、酸性雨や地球温暖化などの地域レベル、地球レベルの環境問題への影響も懸念される状況である。中国は、これまで環境関連法や組織の整備、環境対策に力を入れてきた。2006年に策定された第十一次五カ年規画では、資源節約型、環境友好型社会の推進を掲げ、国政上の重要な課題として位置付けている。
周生賢中国環境保護相は2008年3月24日、北京で、「環境保護省をまもなく発足させる」と明らかにした。 これは先週閉幕した中国全国人民代表大会で採択された国務院機構改革案に基づいて、現行の国家環境保護総局を環境保護省に昇格させるものである。周生賢環境保護相は、「環境保護省の発足は、中国が環境保護活動を重視することを示し、中国の国際的影響力を高めるにも必要な選択である」と述べた。
中国情報局「環境トピックス」http://news.searchina.ne.jp/topic/040.html
2-3格差問題
中国の格差というのは、いわゆる経済発展とか所得の格差、そういったものにとどまるものではない。格差といえば、中国でよく話題になるのは、地域間の格差、都市と農村の格差、あるいは所得の格差ということであるが、その中で最も深刻と思われる都市と農村の格差は、経済的な問題にとどまるのではなく、社会的な身分差別に根差した深刻な格差である。中国のジニ係数は、既に0・45に達している。全人口の20%の富裕層が社会の収入と消費額の50%を占有し、20%の貧困層はわずかに4・7を占めるにすぎず、格差はすでに合理的な限度を超えているといわれている。
貧富格差は、中国社会における一つの深刻な社会問題として、中国社会の安全な運行と健全な発展に非常にマイナスの影響を及ぼしている。中国共産党と中央政府は、中国人民に「共同で豊かになる」ことを約束している。中国共産党第十六回大会においても、「小康社会」を全面的に建設する基本内容の一つは、「十数億の人々に豊かさをもたらすこと」である。従って、われわれは、貧富格差の問題を回避するべきではなく、さらに貧富格差問題の深刻さを意図的に隠すこともできない。この問題を十分に認識してこそ、初めてそれに全力で取り掛かり、問題の解決を図ることができるのである。
チャイナウェーブ株式会社の調査による
第三節 中国の経済現状
3-1 北京オリンピックからの経済効果
野村證券会社資料による、2002年から2008年までの7年間で、オリンピック効果は中国に9600億元(約14兆8870億円)の経済効果を齎す。野村證券から、中国の競技場整備、基礎施設の建設、観光者の増加などの直接効果および関連産業の需要増大などの間接効果を含めて、北京オリンピックの経済効果はアテネオリンピックの7倍以上である。その中、直接の経済効果は3081億元(約4兆7780億円)、間接の経済効果は6594億元(約10兆2260億円)に達すると予測した。野村證券はまた、中国のオリンピック効果が日本等の製造業強国に波及すると楽観的に予想した。それから、北京オリンピック経済研究会の専門家の見積もるで、北京オリンピック期間の直接経済総収入は20億ドル(約2123億円)である。国家統計局北京調査総隊、北京市統計局国民経済核算処から提供された報告による、2005年から2008年の間、いわゆる「オリンピック投入期」で、北京市GDPの年平均成長は11.8%で、「十五期間」より0.8%引き上げ、2004年から2008年まで、オリンピックの要素で北京のGDPが1055億元(約1兆6332億円)上がった。
中国全国の経済に対しても、北京オリンピックの経済効果も深遠である。北京体育大学体育経済と産業教研室主任林顕鵬の研究成果により、北京オリンピックからの間接経済影響は約2500億元、直接経済影響は約3467億元で、全部で6000億元前後である。
3-2インフレ現状
。2007年11月のCPI(消費者物価指数)の上昇は前年比6.9%と、11年ぶりの高い水準となっている。中国国家統計局が2008年8月12日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比で6・3%となった。3カ月連続で鈍化したが、食品類に限れば14・4%となお高い水準にある。現段階では、インフレの大部分は食料品価格の上昇によるものだが、今後、石油価格の上昇の影響や、インフレ期待を反映した賃金上昇が、さらにインフレを押し上げるだろう。天予想される世界経済の減速も加わり、2008年8月のオリンピック開幕を待たずに、中国経済は、景気の転換点を迎えた。
3-3株市場現状
上海総合指数は、第17回中国共産党大会が開幕した2007年10月15日に6000ポイントを突破し、2年あまりで6倍となった。しかし、中国の株は2008年8月末まで6124点から2000点以下まで下落した。どう見ても中国の株市場は楽観できない。原因は以下のとおりである。
1)米国サブプライムローンの影響
2)過剰すぎるほど上昇していた株価の調整
3)テクニカル的に下落サイクルに突入
4)金融・経済引き締め政策
5)海外の大口投資家が保有していた石油関連企業を売却
ダイヤモンド社の柏木理佳(中国経済ジャーナリスト)http://diamond.jp/series/china_rika/10007/?page=3
3-4中国不動産現状
中国の不動産バブル崩壊が本格化し始めた。不動産相場は過剰流動性を背景に国民年収の20~30倍まで急騰したが、金融引き締めや景気減速の影響で全国的な急落に転じた。バブルをあおったデベロッパーや金融機関への衝撃が拡大し、景気減速に拍車をかけそうだ。
過去5年間、深圳、上海、北京など沿海の一級都市では、新築マンションの価格が1平方メートル当たり1万5000元(1元=約16円)から高級物件では2万元以上に跳ね上がった。内陸の主要都市でも1万元以上が当たり前になった。
昨年の都市住民家庭の平均可処分所得は3万8600元。仮に1万元で90平方メートルのマンションを購入したとすると、年収の23倍強に相当する。国際的には年収の3~5倍が妥当な住宅価格の相場とされるが、中国でははるかにかけ離れた高値になった。
このため昨秋から不動産市場は「有価無市(価格が高過ぎて買い手がつかない)」状態となった。上昇相場をリードした深圳では1月から下落が始まり、すでに3割以上下落した。北京、上海では取引が前年比ほぼ半減したものの業者は値下げを拒み、買い手との我慢比べが続いていた。
しかし景気減速が鮮明となった夏場に入り、買い控えはさらに強まった。北京では上半期に前年同月比38%減(4万600戸)だった商品住宅(主にマンション)の販売戸数が7月には63%も急減した。最大の不動産市場である上海では同69%減と、さらに大きな落ち込み幅を記録した。
このため7月から8月にかけて、資金繰りに苦しむデベロッパーの大幅値下げが北京や上海とその周辺都市で急速に広がり始めた。
北京五輪の最中に北京市の新築マンションで10~20%の値下げが始まり、相前後して上海を中心とする長江デルタ地域の各都市で大幅な値崩れが起きている。
上海では7月から一部地域で20%前後の下落が始まったが、8月以降は全市に広がりだした。浦東、松江などの地区では4割前後の値下げ(業者の投げ売り)も出ている。
この傾向は南京、蘇州、杭州などの周辺都市にも広がり、南京では1平方メートル1万7000元で販売していたマンションを8000元と半値以下に値下げするケースも出現、メディアの話題になっている。
中国の不動産業界はこの10年近く、右肩上がりの成長を続けてきた。デベロッパーは地元政府から安い価格で公有地の使用権を買い取り、だぶつく銀行資金を元手に前年比2~3割増のペースで不動産投資を進めてきた。
しかし(1)インフレが高進し始めた昨年から政府が金融引き締めを強化した(2)価格が高騰して庶民の手が届かなくなった(3)米住宅ローン危機を引き金とした世界景気後退-などの影響を受けて、昨秋からバブルが陰り始めた。にもかかわらずデベロッパーは過去の成功体験を忘れられず、今年もほぼ前年並みの建設投資を続けている。土地や資材、人件費などのコストが急上昇する一方で、銀行は貸し出しを制限した。加えて物件の売れ行きが急減したため深刻な資金不足に直面した。株式バブルはすでに崩壊したため、新規上場や増資でまかなうこともできない。このため事業の運転資金を確保するためにも、物件の大幅値下げや投げ売りをせざるを得ない立場に追い込まれた。
一方、高値で住宅を購入したユーザー側からは価格の値下げ要求や抗議行動が広がっている。投資目的で数軒を借金で購入したものの、大幅な値下がりで転売できず、返済不能となるケースも頻発しだした。
中国版のサブプライムローン(低所得者向け高金利型住宅融資)危機が広がる可能性も排除できない。その場合は被害がデベロッパーやユーザーから資金を貸し出した銀行に波及して不良債権が激増、金融危機を招く恐れもある。不動産業が景気に及ぼす影響は大きいだけに、政府は極めて難しい局面を迎えた。
産経ニュース「中国経済月報―不動産バブル崩壊が本格化し始めた」http://sankei.jp.msn.com/world/china/080912/chn0809121654002-n3.htm
まとめ
五輪後の中国経済の行方を見ると、まず、北京オリンピックが中国の経済に悪影響を与える可能性が低い。中国の陳徳銘商務相は8日、アモイで、「五輪後の中国経済は引き続き成長を保つだろう」と述べました。
陳徳銘商務相はこの日開かれた2008年国際投資フォーラムで、「五輪開催後に不況が現れるのは必然の現象ではない。中国にとって、北京の経済総量は全国の4%に足りず、五輪準備活動の7年の間、年平均で五輪に投資した資金は全国の固定資産投資の1%にも満たない。その他の共催都市も同じである。中国の経済成長の主な牽引力は五輪の終了によって変わることはない」と述べた。
9月19日上海市で開催した第5回中国国際金融フォーラムで、出席した中国人民銀行(中央銀行)の蘇寧副行長(副総裁)によると、現在の中国経済には次の4つの目立った変化がみられるという。
(1)経済成長ペースが高水準を維持しつつ適度に減速した。これにより経済規模の問題点が効果的に緩和され、物価上昇の抑制にプラスになるとともに、構造調整と発展モデルの転換が推進された。
(2)投資、消費、輸出の伸びのバランスが相対的に取れ、内需の、特に消費需要の経済成長に対する牽引作用が高まった。
(3)インフレ圧力が軽減され、物価の前年比上昇率が6カ月連続で低下した。インフレ圧力の抑制政策が目覚ましい成果を上げた。
(4)金融市場は全体的に安定した運営状況にある。国内・海外における各種貸付金の残高が前年同期比14.9%増加し、銀行システムにおける資金の流動性にゆとりがあり、人民元レートの上昇ペースが加速した。
北京週報http://www.pekinshuho.com/jj/txt/2008-09/22/content_153291.htm
中国は現在、金融面で、引き締め政策、商業銀行の業績向上、為替相場の安定という三重苦を抱えている。過剰流動性を吸収するため不胎化政策によってインフレ発生を抑えていく。中国人民銀行としては、この三つを少しずつ調整しながら、どれも犠牲にすることなく達成せねばならない。短期的なマクロ経済政策としては、充分な雇用確保に必要なGDP成長率を維持すると同時に、固定資産投資を減速させる必要があり、国営企業の利益を国家が吸収し、公共支出を増やしてセーフティネット、医療、教育制度などを整えることによって、家計消費を増大すべきである。一方で、様々な不均衡の是正には、外国投資優遇政策の転換、貿易の均衡化、金融改革等の中・長期的な政策も求められる。
正しい政策を取れば、中国経済は今後十年以上にわたって高成長を保つことが出来ると見えるだろう。
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