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第1節
知るべき格差
1-1 格差の概念
広辞苑によると、格差とは「商品の標準品に対する品位の差。また、価格、資格、等級などの差」と説明されており、格差社会の今日には教育、学歴、医療、雇用などの様々な格差が存在している。これらは経済問題と繋がり、人々に不平等を感じさせ、大きな社会問題となっている。
1-2 日中印三カ国の格差の実態と背景
日本での2001年から2005年の失業者数は順に340万人、359万人、350万人、313万人、294万人となっており、失業率は5、5.4、5.3、4.7、4.4%となっている。インドでの2001年からの失業者数は4196万人、4771万人、4138万人、4045万人、3934万人と推移しており、戸籍等の不徹底により完全な統計は把握できていないが、失業率も相当高い水準になると思われる。同年の中国の失業者数は681万人、770万人、800万人、827万人、839万人、失業率は3.6、4.0、4.3、4.2、4.2%と推移している。
日本では格差の発生の背景として、「何を格差ととらえるか」という国民の意識の変化がある。それには社会の変化が関係しており、主に三つの要因を挙げることができる。一つ目はバブル崩壊から「失われた十年」を通じての安定成長から低成長への移り変わりといった、経済構造の変化である。これにより、年功序列や終身雇用の廃止、正社員の採用抑制や人員削減が行われ、派遣社員などが増加した。二つ目は学校システムの機能不全である。これは、企業が求める人材像の変化により、「良い大学を出れば、良い企業に入れる」というシステムがうまく働かなくなってしまったことを指す。三つ目は、国の経済力が欧米並みになった今日も日本全体に残っている、「男は外、女は内」という性別分業体制の顕在である。
格差は人生の中で主に三つの段階で発生する。まずは就職のタイミングである。就職は生涯の収入に深く関わるため、就職で失敗すると格差が生じてしまう。特に、日本のように新卒採用に隔たっていると、再チャレンジの機会が少なく、格差が固定化されやすい。次に、出産・育児のタイミングである。これらの時期は労働機会が減るため、リスクにさらされた時に格差が生じやすい。最後に、高齢化のタイミングである。老人になると収入が増える機会が激減する一方で、健康を害するなどのリスクが高まる。さらに、子供や持ち家、お金の蓄えの有無等々では人によって状況の違いがあるため、格差が生じやすくなる。
中国では、1980年代に小平の「先に豊かになれる人は豊かになれ」という「先富論(さきとみろん)」が提唱され、沿海部の経済開放地域を中心に経済成長が続いており、今や「世界の工場」と呼ばれるようになった。しかし、その一方で、国民の生活水準の低いところも多く残っており、特に経済発展に取り残された地域には問題が多く、地域間の格差や都市と農村の格差の他に戸籍制度といった格差も存在する。
インドの総人口は約11億人で世界第二位、そして320万km²の国土をもつ。多くの国民はヒンドゥー教徒で、現在も身分差別であるカースト制度の影響が色濃く残っているため、階層や貧富の差が非常に大きい。
2-1 中国の地域と所得の格差現状
改革・開放から1985年まで中国の地域間格差は縮小した後、しばらく横ばいで推移し、1991年から、再び拡大に転じた。格差が1980年代前半に縮小したのは、改革・開放政策が開始後、請負生産方式の導入により、農業生産が飛躍的に増加したことによる。その後、沿岸部の対外開放が拡大するのに伴い沿岸部の成長が加速し、格差が再び拡大したのである。
1990年代の東部地域の急速な経済成長の過程で、東部と中西部の経済格差は大きく拡大し、格差是正は、自動的な調整では困難になったのである。1990年の全国GDPでは、東部60%、中部30%、西部10%の割合となっており、1人あたりの所得水準では、東部は西部の10倍以上の格差がある。このような経済格差の拡大が、社会不安となり持続的な経済成長の妨げとなる懸念から、1994年以降、江沢民政権は、「経済発展」と「格差の拡大」のジレンマの中で、「政治安定を最優先して経済発展の環境を保証することを最大の目標としてきた」のである。2000年にも、14%の国土の東部が60%のGDPを生産し57%の国土の西部はわずか14%のGDPしかすぎなかった
2-2 日本の医療・雇用・教育の格差
現在の社会問題の一つに医療格差がある。医師不足が地域医療に深刻な影響を与え、病院が廃業するなどして、満足な医療が受けられない地域が増えている。原因の一つに2004年の制度改正で研修医が研修先を自由に選べるようになったことだ。大学病院の医局が地方に研修医を配置してきた慣行が崩れ、生活環境や医療体制の整った都市部の病院に研修医が集まった。
他にも過疎化が進み、高齢者が多い村などでは、病院自体が近くに無かったりして深刻な問題になっている。日本は高齢化社会であるから年金生活者が多い。住んでいる地域に病院が無くなり、隣町の病院に通い検査を受けている高齢者も大勢いる。高額な交通費に耐えず、治療を諦めたケースも多いようだ。
医療格差と並んで、正社員とフリーターやニートの非正社員の間の雇用格差が深刻化している。正規雇用から非正規雇用への以降が1995年以降急激に進んだ。1994年と2006年を比べると、正規労働者が全体で1994年の3805万人から2006年の3340万人と456万減、そのうち15~24歳(非在学)では577万人から271万人へと360万人減で、正規労働者の約4分の3は若年層が占めている。
日本では都会と地方は教育の環境に差があり、名門と呼ばれる学校が大体都会にある。そして、公立と私立の学校での勉強量や環境も相当違うものになっている。また塾や予備校の発達の程度が学力格差に影響しているとも言われている。社会の動向を見た親たちは、自分の子供の将来において、幼いころからよい幼児教育を受けさせ、高額の塾に子供を通わせている。教育にかかったお金の多寡で教育格差が生まれてきた。その格差をカバーするため「お金」と「環境」が必要となる。
第3節 インドの格差社会
3-1 カースト制度
カーストという単語はポルトガル語で「血統」を表す「カスタ」である。カースト制度とはヒンドゥー教の身分制度である。カースト制度によって定められる個人の身分もカーストという。カースト制度は基本的に位の高い順から、バラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラの4つの身分に分かれている。カースト間では移動ができない。さらに結婚は同じカースト内で行われ、カーストは親から子に受け継がれる。
カースト制度では同じ階層内で相互の助け合いが行われ、それぞれ個人の生活が保障される。だが近年、1999年の時点でインドは、国民の4分の1は非常に厳しい生活環境に直面している。
インドの経済は内需主導で経済成長は高いが、個人消費の伸び率は所得水準の高いカ-ストだけのものである。インドが高い成長を続け、格差をなくすためには所得分配や機会の平等を妨げるカースト制度を廃止するべきであるといえる。
3-2 インフラ整備の不足
インドのインフラ設備がなかなか発展しないのは民主主義が徹底するため、国民の権利が複雑に入り混じっている。何もないところで都市計画を打ち出すのは難しい。
まず、インド国内の発電設備容量は少ないので、過去に突然停電が起きている。こうしたことは、インドに進出した多くの外国企業にとっては悩みである。また、インドの中流階級によるマイカーブームにより、走る車が急増しているのにかかわらず、道路建設が進んでいない。それにより道が渋滞するという問題が起きている。
3-3 医療技術の光
インドの病院は西洋に比べて、より個人向けの治療を行うことで知られている。インドの病院の術後死亡率は、米国の主要な病院の半分以下である。インドは様々な分野に特化した病院を持ち、治療方法には現代医学と伝統医学を融合させたあらゆる側面からの治療が行われている。
多くの外国人患者は、母国で高額な治療費として費やされるはずだった、お金を使って休暇を楽しむ。多くの病院は旅行会社と提携して、休暇と医療の両方をセットにしたものを提供している。
推定によると、過去数年間で15万人ほどの外国人が医療目的でインドにやってきたとわかる。インドの医療観光市場は7億ドルの規模であり、2012年までに20億ドルに達すると言われている。
まとめ+α
中国のGDPは91年に7%を越えて以来、現在までそれ以上の水準で経済成長を続けている。だが、17年に及ぶ輝かしい長期経済発展の影では様々な歪みが生まれているのもまた事実である。中国社会科学院社会学研究所は06年3~7月、全国規模で「社会の調和・安定問題についての全国サンプリング調査」を実施したが、ランキングは以下の通りであった。 1位 治療を受けるのが難しく、診察代が高い問題 2位 就業・失業問題 3位 所得格差によって拡大する貧富格差 4位 汚職・腐敗問題 5位 老後の保障問題 6位 教育費問題
7位 高すぎる住宅価格問題 8位 社会治安問題 9位 社会風潮問題 10位 環境汚染問題 、という結果であった。就業・失業、所得格差、汚職・腐敗、社会保障の各社会問題は以前の調査でも上位4位にあがっていたのだが「治療を受けるのが難しく、診察代が高い問題」が1位となったのは今回が初で、このランキングは現在の中国社会の問題点をかなり強く反映するものと言える。また、就業・失業問題においては、仕事を見つけられない大学新卒者が毎年100万人に上る問題がある。1月16日、中国教育部(文科省に相当)は、08年度の大学生募集計画を公表した。4年制大学が300万人、3年制の高等職業教育が299万人で総数は599万人である。(07年度より5%増) 中国では、07年の4年制大学卒業生のうち、全体の3割に当たる100万人ほどが仕事を見つけられずにいる。新卒者の供給が増え続ける一方で、就職状況が変わらなければ、毎年大量の卒業生が路頭に迷うという状況が続くことになる。これらは、中国は常に高い経済発展を続け、新たな雇用を創出しなければならないという状況を浮き彫りにしているといえよう。また、老後の保障に関しては、今まで先進国が辿ってきたような相当程度の経済発展後に高齢化社会、高齢社会に到達、という道のりとは異なり、中国では人口高齢化のスピードが速く、経済発展途上で高齢化社会、次いで高齢社会に到達することとなるため、社会保障制度の整備が急務であり、これから難しい舵取りが求められる。(中国では、いわゆる「一人っ子政策」、教育費の上昇等に伴い多産が経済的負担につながる認識の広がり、等から出生率が低下し、少子化が急速に進んでいる。また、高齢者人口の推移を見ると、00年の段階で総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合が7%を超えており、国連の予測によれば、26年には、高齢者人口が総人口の14%を超えると見込まれている。) このように様々な問題を抱える中国において「和階社会」を掲げる胡政権。今後どのように影の部分を是正し、調和のとれた社会にしていくのか。今後の施策に期待したい。
対して、インドは中国のように一人っ子政策を施行してきた訳ではなく、少子・高齢化問題がすぐに顕在化することはない。が、インドは近年世界が注目する経済躍進の半面で、上で述べたようにカースト制度が今も根強く残っている事も重なり、激しい貧富の格差、教育の格差等が存在しており、中国同様多くの問題を抱える。例えば、経済発展の象徴といえるムンバイなど大都市周辺では、スラム街が広がり続けている。急激な発展の陰でこのような矛盾を抱え込んでいるのがインドである。そんな中で現在、政府が重視するのは、第二次、第三次産業の振興であるが、これでは従来の基幹産業である農業が取り残される懸念がある。GDPに占める農業の割合は2割程度だが、就業人口比では6割を越す。80年代、都市と農村との所得格差は3割程度であったが、今や6倍となっている。そうした状況からか、農業から第二次、第三次産業に移ろうとする向きが近年増えているが、仮に農業を捨てたとしても、彼らに向く仕事が多くあるわけではないのが実状である。また、教育に関連して述べるが、大学や高校入試を前にストレスに耐え切れず自殺する生徒が増加傾向にある。地元紙によると受験絡みの自殺は06年だけで推定5857人であり、また、受験準備中の生徒の70%がストレスに関連した心身の不調を訴えているという。急速な発展に伴い、特に就職に有利な理工系を中心に競争が激化していることが背景にあるといい、このデータは仮に教育を受けたとしても、良い大学に入れなければ、就職するのが困難であるということを示しており、ここでも格差が垣間見ることができよう。今後これら格差要因を政府はどのように解決へと導いていくのか。シン政権の今後の舵取りが注目される。
日本もまた多くの問題を抱えている。国による労働力調査の最新発表では、非正規雇用の労働者の割合が労働者全体の三分の一を超えたという。また年収200万円以下のワーキングプアといわれる人たちの中にはホームレス同様の生活をする人まで出てきている。95年当時、日経連が「新時代の日本的経営」と言う提言をして以来、国際競争に勝つため、という名のもとに、企業は人件費を削る方向になった。そして、それに伴い法律も変えられていった。99年に派遣法が改正されて、専門業種に限定されていた派遣対象は原則的に自由になった。03年の改正では、製造業への派遣も認められ全職種に派遣ができる状況になった。10,571円、これは一般派遣労働者の平均賃金(06年度)である。非正規雇用労働者の中でも特に増加が著しいのが派遣労働者である。厚労省によると、06年度中に実際に派遣された派遣労働者の数は前年比26.1%増の321万0468人で、景気が拡大局面に転じた02年度から108万人も増加した。その派遣先は86万件に上る。このうち労働者数で93%を占める「一般派遣」の平均賃金(8時間換算)は1万5577円、1時間当たりでは1947円となる。最低賃金や、一般的なパートやアルバイト時給と比べ高水準とみられがちであるが、これは労働派遣の対価として、派遣先から派遣元事業主に支払われる額であり、労働者の平均賃金はその3分の2の1万0571円(1時間当たり1321円にとどまる)。業務間の差も大きく、最低の「建築物清掃」では6995円(1時間当たり874円)である。しかも、交通費が別途支給されることは少なく、時給に交通費を含める扱いとなるため、本来は非課税の通勤交通費に課税され、労働者の手取りは更に少なくなっているのが現状である。労働者派遣事業全体の売上高は5兆4189億円で、前年比34.3%増の高い伸びを示す。新規参入も多く、事業所数は直近1年間で33.8%も増加した。参入過多による価格競争が激化し、派遣料金抑制の懸念も。このような状況の中で、07年~10年にかけて、団塊の世代500万人が雇用の第一線から退く事となり、その結果、大幅に浮いた人件費を用い、企業は若者の採用に意欲を見せるが、新卒求人倍率は07年以降常に2倍を超える売り手市場となっている。98年前後に年200万人であった新成人の数は10年以降120万人程まで低下するのだという。そのため、企業は社員の囲い込みに躍起になっているという面もある。(例を挙げると、06年以降から総合職女性比率を2倍以上に引き上げたメガバンク。07年度に「パート従業員5000人の正社員化」を打ち出したユニクロなどがある。) フリーターなどをこのまま放置しておくと、現在の若者たちも年をとり、貧困化して生活困難に陥る中高年がふえていく。フリーターは未婚率が多く、少子化や社会保障費の不足など、社会全体の効用を損なう懸念もある。そのため、若年層への非正規雇用対策が提言されるようになった。また、このような状況の中、若者が支えていかなければならないはずの高齢者にさらなる負担を強いる政策が今後施行されていくことになるようである。直近の事でいえば、後期高齢者医療制度がこの4月から施行されたこともその1つであろう。福田政権はこれから日本をどのような方向へ導こうとしているのか。これら格差拡大の事象は決して人事ではない。私達もこれから社会へと羽ばたき、高齢者となっていくのだ。注視していく必要があろう。
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