曽幾 Zeng Ji (北宋~南宋)

 曽幾(そうき)(1084~1166)、字は吉甫(きっぽ)、または志甫(しほ)。号は茶山居士(ちゃざんこじ)。祖籍は贛州(かんしゅう)(江西省)で、後に洛陽(らくよう)(河南省)に移り住んだ。江西、浙江提刑などの官になった。剛直な人柄で、宋を侵略した異民族の金に抵抗すべきことを直言し、講和派の秦檜(しんかい)に排斥されて官を辞した。秦檜が世を去ると復職し、官位は敷文閣待制に至り、没後に文清(ぶんせい)(おくりな)された。曽幾は江西詩派の流れに属し、黄庭堅の詩を学んだが、風格は軽快で清新である。曽幾はまた南宋の大詩人陸游の師でもある。『茶山集』がある。

  三衢道中  三衢(さんく)の道中
    
梅子黄時日日晴  
梅子(ばいし) 黄ばむ時 日日に晴れ
小渓泛尽却山行  
小渓(しょうけい) ()かび尽くして ()た山行す
緑陰不減来時路  
緑陰(りょくいん) 減ぜず 来時(らいじ)(みち)
添得黄鸝四五声  
添え得たり 黄鸝(こうり)四五声(しごせい)

〔詩形〕七言絶句  〔韻字〕晴、行、声(下平声・庚韻)


○三衢 山名。衢州(くしゅう)(浙江省衢県)にある。 
○梅子黄時 梅の実が黄色く色づく時期。春の終わりから夏の初めにかけての梅雨期をさす。この時期江南地方はうっとうしい天気が続き、さわやかに晴れることはめったにない。 
○小渓 小さな谷川。
○泛尽 川に舟をうかべて終点まで行く。
○却 また。再び。
○山行 山道を歩いて行く。
○緑陰 緑の小蔭。
○黄鸝 鳥の名。コウライウグイス。
○四五声 鳥の鳴き声があちこちから聞こえることをいう。


 《三衢山の道中》

梅の実が黄色に色づく梅雨の頃だというのに、毎日毎日晴天が続き、
小さな谷川に舟を浮かべて終点まで来ると、今度は山道を歩いて行く。
緑の木蔭は来た時の道そのままに生い茂っており、
今ではそこかしこから聞こえるコウライウグイスの鳴き声が、新しく興趣を添えている。

 この軽快な旅の詩は、中国では『千家詩』にも収録され、親しまれています。