王安石 Wang An shi (北宋)
王安石(1021〜1086)、字は介甫。号は半山。臨川(江西省)の人。荊国公に封ぜられ、「文」と謚されたので、王荊公、王荊文公と呼ばれる。仁宗の慶暦二年(1042)の進士で、宰相となって大胆な改革(新法)を断行した。王安石の過激な改革は保守派の猛烈な反対を受け、彼は前後二度にわたって宰相を拝命し、二度宰相を罷免された。最後には司馬光によって新法は廃止され、王安石は失意のうちに世を去った。王安石は北宋の傑出した政治家・思想家・文学者であり、北宋の詩文革新運動の代表者で、「唐宋八大家」の一人でもある。『王臨川集』がある。
梅花
墻角数枝梅 墻角 数枝の梅
凌寒独自開 寒を凌ぎて 独自に開く
遥知不是雪 遥かに知る 是れ雪ならざるを
為有暗香来 暗香の来たれる有るが為に
〔詩形〕五言絶句 〔韻字〕梅、開、来(上平声・灰韻)
○凌寒 寒い気候を冒して。
梅の花
垣根のかどの数本の梅の枝。
寒さをものともせずに、ひとり花を咲かせている。
遠くからでも、それが雪ではないとわかるのは、
漂って来るほのかな香りがあるからだ。
これは詠物詩であり、白梅の花を詠っている。前半二句は、題を点じている。第一句は「梅」を明確に点じ、第二句は「花」を暗に点じる。後半二句は、梅花の色と香りを書いている。第三句は白い色を書き、第四句は暗香を書いている。詩全体は、単に白梅の高潔と淡雅を賛美しているのみならず、白梅の風雪に屈しない傲霜闘雪の精神と、卓然として群ならざる風姿をも高く賛美している。王安石のこの詩は、南朝・蘇子卿の「梅花落」詩にもとづいている。
中庭一樹梅 中庭の一樹の梅
寒多葉未開 寒 多くして 葉 未だ開かず
只言花似雪 只だ言う 花 雪に似たりと
不悟有香来 悟らず 香の来たる有るを
蘇子卿の詩は梅花を思婦に比興し、閨怨の詞となっている。王安石の詩は寒士の気節を書き、志士の情懐をうたい、立意は異なる。王安石が前人を継承してしかも独自に新味を出したのは、学習にすぐれていると言うべきである。