蘇舜欽 Su Shun qin (北宋)

 蘇舜欽(そしゅんきん 1008~1048)、字は子美。みずから滄浪翁と号する。梓州銅山(四川省中江の南)の人で、後に河南の開封に転居した。『宋史』蘇舜欽伝は、「少くして慷慨し、大志有り」と記す。大理評事・集賢校理・監進奏院に任命された。范仲淹の政治革新グループに参加したため、権力者に排斥・攻撃され、官を辞した後は蘇州の滄浪亭に隠居した。梅堯臣と名声を等しくし、「蘇梅」と並び称された。『蘇学士文集』がある。

 
淮中晩泊犢頭  淮中 晩に犢頭に泊す

春陰垂野草青青  春陰 野に垂れ 草 青青たり
時有幽花一樹明  時に幽花の一樹に明らかなる有り
晩泊孤舟古祠下  晩に孤舟を泊す 古祠の下
満川風雨看潮生  満川の風雨 潮の生ずるを看る


〔詩形〕七言絶句  〔韻字〕青(下平声・青韻)、明、生(下平声・庚韻)通押

○淮中 淮河の中。 
○犢頭 犢頭磯。淮河の中部の岸辺にある渡し場の名前。 
○春陰 春の暗雲。 
○垂野 原野の上に低く垂れ込める。田野が暗雲によって覆われていることを形容する。 
○幽花 ひっそりと静かで辺鄙な場所の花。 
○明 明瞭。ここでは、花の色が鮮やかで、人目を奪うことをさす。 
○古祠 古い廟。 
○川 河流。 
○潮生 潮が満ちる。  

 淮河の船旅の途中で、犢頭磯に停泊する

春の雨雲が野面に低く垂れ、草は青々と生い茂り、
船の上からは時々幽雅な花の満開が見られる。
日暮れ時、古い祠の下に舟をつなぎ、
川一面に風雨の吹き付ける中、潮が満ちて来るのを眺めている。

 
これは著名な即興の写景詩であり、おおよそ作者が官を辞して都を離れ、蘇州に行く船旅の途中で書かれたものである。前半二句は、田野の景色を書く。一〓時黒雲が一面に立ち込め、天地は真っ暗で、大いに「山雨 来たらんと欲して 風 楼に満つ」といった趣がある。しかし草は青青として、ほのかに咲く花は明るく、暗黒の中になおも希望を見て取り、光明が出現し、政治上失意の状態にある作者に、大きな慰めを与えてくれる。後半二句は、舟を岸辺に停泊させて潮の漲るのを見ていることをうたい、また詩人の情操を見て取ることができる。「晩泊」の二句は、唐・韋応物「滁州の西澗」詩の「春潮帯雨晩来急、野渡無人舟自横(春潮 雨を帯びて晩来急なり、野渡人無く舟自ら横たわる)」から転じたものである。蘇舜欽のこの詩は唐人の詩にまさるとも劣らず、黄庭堅に深く愛好された。