駒木ゼミ卒業研究要旨

2017年度提出分 (11名・50音順)

池田 優人:商店街を場としたアートイベントの比較研究―名古屋市覚王山と豊橋市水上ビルを事例として―

 大都市である名古屋市と地方都市である豊橋市のアートイベントが行われている商店街の違い,商店街の発展,賑わいが今後どのように改善されていくか,地域にとってどのような存在であり続けるかということが課題である。本研究では,実際にイベントに参加し,参加者にアンケートをとり分析を行い,アートイベントとしてどうあるべきかということを考察した。
 第I章では,今回着目した地域についての歴史を紹介し,地域の特性,人口や商業統計をまとめ,どのような町であるか分析した。第II章では,今回,注目した覚王山と水上ビルのアートイベントの内容を紹介する。それぞれのイベントがどのようなことを行っているのかを実際にイベントに参加,イベントのボランティアに参加しそれぞれについてまとめた。第III章では,覚王山,水上ビルでアンケート調査を行い,イベントがどのように認知されているのか,イベントの参加者の年齢層など13項目の設問から細かい分析を行いグラフに出し,一つ一つの設問に対し,分析結果を述べた。結果から二つのデータを比較するように考察を1項目ずつ述べ,覚王山と水上ビルの強みと弱みを次の第W章につながるようにまとめた。第IV章では,まとめとして,第III章の分析結果の考察を行い,どのような違いがあったのかを研究のまとめとし,全体的にみた商店街の姿を分析し,商店街の今後を考察した。
 商店街の違いを考えると,アートイベント時に集客ができている方は,水上ビルである。スタンプラリーを行い景品と交換できるという点が,集客としてよく考えられている。ただし,イベント外の時を考えると少し人が少ないのではないということがわかった。覚王山は,集客ということでスタンプラリーで景品と交換ということは行なっていないが,屋台やアートイベントを盛大に行うことで,客寄せができているのではないかと考えた。平日何もない日でも人通りが多いことから,自然と人が集まってくることがわかった。集客という点で見れば,水上ビルの方が人の出入りは少し少ないが,アートイベントということでアートを出せているのは,水上ビルの強みではないかと考えた。覚王山では,人通りが普段から多いが,印象に残るものが屋台であることからアートイベントという点で見るとアート自体まだまだ出せていないことが示された。またイベントの知名度という点でみると覚王山では,現地で知ったという参加者の回答が多く,水上ビルでは,事前に知っていた参加者の回答が多いことから,情報の伝達を今後,商店街が改善していくべきだと考えた。


岩田 貴斗:自治体のPR戦略の現状とその課題―インスタグラムの利用に注目して―

 2000年代にインターネットが普及し,世の中の情報伝達方法が目まぐるしく変化する中で,人々は多くの媒体を通じて世界中のあらゆる情報を手軽に視聴することが可能になっている。それと同時に気軽に情報を世界中へと発信することが出来るようになっている。この様な目覚ましく変化する情報社会の中で自治体の広報・PR戦略も多様化している。近年ではSNS自体の多様化により,新たな情報発信のツールが生まれている。「ユーチューブ(Youtube)」「ライン(LINE)」「フェイスブック(Facebook)」「ツイッター(Twitter)」これら4つは以前から多くの自治体がよく利用しており,現在でも自治体の中での主要SNSとなっている。今回は以前からよく利用されている4種類のSNSに着目するのではなく,最近メディアなどで注目されている「インスタグラム(Instagram)」に着目していく。このツール活用し,広報・PR戦略を行っている自治体はどれぐらいあり,具体的にどのような活動・運営を行っているのか。これらを掘り下げることにより自治体の新たなPR戦略の糸口が生まれ,今後どのように利用されていくべきなのかを考察できると考え,本研究のテーマとして設定した。最終的に自治体はインスタグラムの特徴を上手く利用し,どのようにPR戦略に活かしていくことが大切であるのかを提案したい。
 本研究は次の手順で行う。第I章では,インターネットによるSNSの普及と本研究の背景,次に,自治体におけるインスタグラム運用の研究目的,最後に本研究の研究方法および手順を述べていく。第II章では,自治体が利用している主なSNSである「ユーチューブ(Youtube)」「ライン(LINE)」「フェイスブック(Facebook)」「ツイッター(Twitter)」の概要とその現状を一つ一つまとめていく。第III章では,なぜ数あるうちのSNSの中で,インスタグラムを取り上げたのか,それぞれのサービスのメリット・デメリットを整理し,紐付けいく。その次に,インスタグラムを運用している市・区を限定とした自治体のアカウントをすべて洗い出し,整理していく。最後に横浜市の事例を上げ,実際の概要と運用状況を述べていく。第IV章では,横浜市の概要と運用状況から,なぜ横浜市は,アカウント運用を成功させているのか考察していく。最後の第V章では,本研究として今後,自治体はどのようなことを意識して,アカウントを運用していくことが大切であるか,そしてこの研究に関する課題を述べていく。
 以上より,横浜市はアカウント利用において,明確なコンセプトを作成し,具体的なPR戦略を行っていた。また,外部の企業に委託することで,クオリティの高いアカウント運用を行うことが可能となっていた。委託が難しい場合でも地域の人々と連携することで,クオリティの高いアカウントを運用することが可能であることを明らかにした。従って,コンセプト・目標を明確に示すことで,アカウントの運営体制が大きく変わってくることが分かった。


大橋 拓真:GISを用いた東三河における信用金庫の立地に関する研究

 近年人口・企業が減少しているなか,都市部を中心に地域金融機関の競争が激化している。そのなかで日本の3大都市である名古屋が属する愛知県は,地方銀行が存在しない全国で唯一の県である。第二地方銀行と信用金庫が多く,預金残高が多い信用金庫が多数存在している。そのなかでも「信用王国」といわれたこともある東三河に注目し,そこに本店を置く豊橋信用金庫,豊川信用金庫,蒲郡信用金庫の3つの信用金庫を研究対象とする。そして,経営面および立地面それぞれの特徴を検討し,両面からの考察を行った。
 第I章では,研究背景を示すとともに本研究の目的を提示した。第II章ではまず地域金融機関について,地方銀行・信用金庫その他の地域金融機関について提示した。第III章章では今回の研究対象である3信金の各信用金庫の概要・あゆみ・経営理念を示すとともに,全国・愛知県などから比較する3信金の預貸金・店舗数の推移,預金者別預金残高,貸出金業種別内訳,一店舗当たりの預金・貸出金残高から特徴を整理した。第IV章では3信金の各支店における立地特性に関して,地理情報システムを利用して,各信用金庫の年代別支店の立地,各信用金庫の各支店における密度,3信金の東三河における現在存在している支店の競合,各信用金庫の商圏人口の4項目について,比較検討した。第V章では第III章〜IV章を踏まえて豊橋信用金庫,豊川信用金庫,蒲郡信用金庫の特徴についてまとめた。第VI章では,本研究の今後の課題について示した。
 信用金庫は銀行と同じように,法律では国民大衆のための機関となっている。しかし銀行とは違い店舗がおける地域が限定され,地元密着を掲げている。その中で,豊橋信用金庫,豊川信用金庫,蒲郡信用金庫の本店をおいた各市では,それぞれの市を,重点的に基盤としていることが多いことが明らかとなった。しかし,中心性の高い都市を拠点としている信用金庫は,狭い範囲で地域をとらえているが,そうではない信用金庫は広い範囲で地域をとらえていることも示された。以上の結果から,それぞれの信用金庫で地域についての範囲,定義について違いが出ていると考えられる。


木村 正人:地方都市における地域包括ケアシステムの現状とこれから―豊橋市を事例として―

 近年,わが国における社会福祉分野の課題として,少子高齢化に伴う介護保障及び高齢者医療・福祉が挙げられる。そして,この高齢化と人口減少の波は他に類を見ないスピードで加速しており,抜本的な改革が求められている。その改革の一つとして挙げられているのが地域包括ケアシステムである。地域包括ケアシステムとは,2000年代中頃に提唱され始めた高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしく幸せな暮らしができるよう,医療機関,行政機関,民間事業者が連携して,住まい・医療・介護・介護予防・生活支援が一体的に提供していくシステムのことである。各自治体によって地域特性を踏まえた包括ケアの形成が目指されているが,完全に機能している自治体は少なく,医療機関,行政,民間が完全に連携して地域包括ケアシステムを運営している自治体は数少ない。そこで本研究では,豊橋市を事例として,地方都市における地域包括ケアシステムを圏域ごとの施設立地状況などから比較分析した。また,豊橋市の地域性にあった包括ケアの形とはどういったものなのかを先行事例などをもとに考察した。
 第I章では,日本における福祉政策や地域包括ケアシステムの現状や先行事例を概説した。第II章では,地域概要として,豊橋市の市内概要及び市の包括ケアシステムに携わる計画「第6期豊橋市高齢者福祉・介護保険事業計画」の状況を解説した。第III章では,豊橋市を中心市街地,郊外住宅地,農村部に区分すると共に,その圏域別の市内包括ケアに関わる施設立地状況から各圏域分析を行った。第IV章では,第III章での分析結果をもとに地域間比較を行い,地域の特性に合致した包括ケアの形について考察した。第V章では,結果考察及び今後の課題を述べた。
 分析結果から,豊橋市を中心市街地,郊外住宅地,農村部のそれぞれの地域的特徴から今後の地域包括ケアにおける道筋を考察した。豊橋市では,高齢化率と要介護等認定率の強い相関関係は確認することが出来ず,ゆえにその圏域の状況に応じた包括ケアの形が求められ,先行事例に当てはめると,中心市街地は「行政主導型」,農村部は「医療機関主導型」のケアシステムの構築がより良いと考察することができた。だが,包括ケアをはじめとした介護・福祉においては,施設,行政などといったハードの側面と要介護者,家族,介護事業者といったソフトの側面を分析する必要がある。今回は施設立地状況などハードの側面が中心となってしまった。双方の視点に立った研究が今後の課題である。


櫻井 高祐:GISを用いた豊橋妖怪に関する地理学的研究

 日本の文化の中で妖怪は非常に大きな地位を確立している。続日本紀で始めて登場した「妖怪」だったが明治時代まではその言葉は浸透していなかった。しかし,現代で水木しげるがキャラクターとしての「妖怪」を登場させたことで一気に浸透することになった。その後は「地域資源」として妖怪が利用され水木しげるロードや三次もののけミュージアムなど妖怪を前面に押し出した観光事業を行っている自治体が多くある。豊橋市に関しても「豊橋妖怪百物語」が出版されたり,豊橋妖怪パン祭りが開催されたりと豊橋妖怪に関する伝承を民間が多く発信しており,それを行政がシティプロモーションの一環として補助金を出しているなど大きく取り上げている自治体のひとつである。妖怪というのはその土地と密接に関係しているものが生まれ,その伝承の内容と過去の土地利用状況を調べてみることでその地域の地域性となぜこの土地でこの妖怪が生まれたかが見えてくるのではないだろうか。そして,行政が注目している豊橋妖怪について様々な見地からの研究蓄積を積むことは今後のシティプロモーションの発展や行政の自治体の役に立てるという意味があるのではないだろうか。そこで本研究は,妖怪の出現地点および周辺環境をGISで定量的に分析し,その地理的特徴を明らかにすることを目的とする。
 研究方法および手順は以下のとおりである。第I章では研究の背景,目的,先行研究を示した。第II章では妖怪の歴史と豊橋妖怪の定義付けを行った。第III章では平成26年の土地利用メッシュデータと豊橋妖怪のオーバーレイをして豊橋妖怪の周辺および出現範囲内の土地利用面積の種類と割合を求めてそれを分類し,その特徴を検討した。そして各グループの代表を決めてその妖怪の現在と1890年(明治23年)の周辺の土地の変遷,伝承の内容からその妖怪が生まれるに至った背景を考察した。第IV章では各グループ同士の関係性と本研究で行った分類と「豊橋妖怪百物語」上での分類との相関を考察し,まとめを行った。
 分析結果より,妖怪の出現場所周辺または出現範囲内の現在の土地利用状況を基にした「豊橋妖怪百物語」とは違った分類(森林特化型,畑用地特化型,準建物用地特化型,河川・沼地特化型,田園用地特化型,建物用地特化型)を実施できた。さらに,1890年の土地利用図を使用しての比較,「豊橋妖怪百物語」に記載されている伝承の内容から考察を行うことで,妖怪を通しての現在,過去の地域の役割やなぜこのような妖怪を生み出すに至ったのかを考察するとともに,開発で失われてしまう「場所」の新しい保存の方法を提案することが出来た。今後の課題としては,明治時代の土地利用データの用意と豊橋市の小学校区を5つで分け,そこの地域で伝承のあった妖怪を当てはめるという方法で分類を行っていた「豊橋妖怪百物語」の見直しが挙げられる。


近松 拓也:県民性について―岐阜県を参考に―

 現在,バラエティー番組や書籍などで県民性について取り上げられているものは多々ある。しかし,そうしたメディアは,固定観念の増長の手助けになっている側面もあるのではないか。そして実際には,本当に県民性として認められるのか検証する必要があろう。そこで本研究は,岐阜県について書かれてある書籍を参考に岐阜県の県民性や習慣に関してのアンケートを作成し,岐阜県出身の男女100人にアンケートを実施し,自身があてはまるか,そうでないか判断によって検証することを目的にした。
 第I章では,県民性を検証することになった経緯や目的について述べた。第II章では書籍を引用しつつ,岐阜県の概要や歴史,歴史からみえる県民性について示した。第III章では岐阜県の県民性について扱われた書籍を基にアンケートを作成した。そして,男女計100人から得られた結果を検証するとともに,「在住年数別の回答」「男女別の回答」などの視点からも県民性の現れ方が異なるかどうかの分析を行った。そして,第IV章では第III章で得られた結果に対して,なぜそのような結果になったか考察した。最後に,第V章で今後の課題を示した。
 アンケートの単純集計結果からは,ほとんど県民性がみえたといえる結果になった。特に「鍵をかうと言う」という項目と「十六銀行の口座を持っている」の2つの項目に関しては,特に県民性がみられた。また,「男女別の回答」では,ほとんどの項目で男女の差は現れなかった。一方で「在住年数別の回答」では,在住年数が長いほど県民性が現れる結果になった。以上の結果より,書籍で述べている県民性については,ある程度認められるといえる。しかしながら,在住年数の人数にばらつきが見られ,精密なデータを得られなかったのが課題である。また,岐阜県を対象のアンケートしか行っておらず,本当に「岐阜県民性」なのか,または,「日本人の特徴なのか」がはっきりしていない面もある。より正確な県民性の検証を得るためには,全国的に大規模なアンケート調査が必要である。これらは,今後の課題である。


名和 雄生:地域政策の現代的意義に対する再検討

 現代日本において地域政策の必要性が高まっている。東京一極集中や全国的な人口減少社会への突入,地域経済の衰退が顕著になった結果,地方創生を達成する必要があると考えられるようになったからだ。これまでの画一的な地域振興ではなく,各自治体が自分達の地域課題を自ら解決するようになり,多くの自治体で工夫をこらした地域政策が行われている。しかし,果たして地域政策は従来の在り方のままでいいのだろうか。世界的に豊かさの定義が変わる中で日本においても所得の向上のみを追求する政策は適していないのではないだろうか。本論文では地域政策の現代的意義の再検討を行うために,地域政策に必要な視点はこれまでの経済指標を用いた政策目標ではなく達成するための自由を重要視するものであることを明らかにした。
 第I章では本研究の背景と研究意義について明らかにした。私たちの生活を取り巻く豊かさの変遷と日本の現状について明らかにし,経済政策に必要な視座について指摘を行った。第II章では既往研究の整理を行い本研究が地域政策研究の中でどのような位置づけにあるのかを明らかにした。地域という広いエリアを取り扱う地域政策が実施と研究の面でどのような経緯を歩んでいるのかについて明らかにした。第III章では本論文で扱う地域政策の言葉の意味を既存研究の整理をしながら定義した。地域政策が取り扱う問題は多岐にわたる。その問題を解決する上でどのような主体がいかなる手法を用いていかなる対象の問題を解決していくべきなのかについて明らかにした。第IVでは地域政策におけるケイパビリティアプローチの必要性を幸福度研究の観点から既存の経済指標への批判を行い明らかにした。これまで重要な政策評価の基準として用いられてきた「公平」や「格差」,近年,世界的に必要だと考えられている「幸福度」とケイパビリティアプローチがどのように違うのか,いかに有効性があるのかについて指摘を行った。第V章では実際にこれまで地域政策に用いられた経済指標と三遠南信地域に属する長野県飯田市・静岡県浜松市・愛知県豊橋市を例に資まち・ひと・しごと創生総合戦の批判的検証を行った。三遠南信地域に属する3地域のコアと考えられる3市の発展は三遠南信地域そのものの発展をけん引するものであり,検討する必要性がある。更に人口規模,経済状況等は全国的なモデルにもなりうる。第VI章ではまとめとして地域政策における現代的意義を地方創生が必要とされている時代性に触れながら再検討を行った。
 地方創生の欠点を指摘する研究や地方創生の前提を疑う研究も多くある。これらのことを踏まえて地方創生下の地域政策は人口減や地域経済の衰退の克服ではなく,いかに個人が生きたいように生きられるかを実現できるものであることが望ましいのではないだろうか。健全な政策運営にはアカウンタビリティが必要不可欠である。地方創生という強烈なレトリックが個人の生活を脅かすことがないように常に政策の内容を注視する必要がある。


野澤 里菜:市章からみた平成の大合併における自治体アイデンティティの考察

≪2017年度 地域政策学部 卒業研究最優秀賞≫
日本地理教育学会 2017年度全国地理学専攻学生「卒業論文発表大会」発表論文≫
 本研究では,「自治体紋章(市章)」というグラフィックデザインのジャンルを利用して,自治体アイデンティティとは何かについて「市章の形の要因となっている由来や配色」および「合併の背景や市章の制定プロセス」から明らかにした。平成の大合併では,合併推進前である1999年では3,232もあった市町村が10年間で1,730に減り,それだけ多くの市町村が自分のまちの名と「シンボル」を捨てることとなった。本研究では,その中でも「編入合併」という選択をした158の自治体に絞り,考察した。
 第I章では,市章をはじめとする自治体章のことや,平成の大合併の概要を明らかにしながら本研究の意義や目的を述べた。第II章では,研究方法となる市章の分類基準を提示,第III章では,158の自治体から独自に作成したデータから,編入合併で編成された地域の市章の傾向を,市章制定の「地理,歴史,文字」といった3つの「要因」や,市章の「配色」によって分類した上で分析をした。第IV章では,第III章の結果に基づき,合併タイプおよび都市の相対的中心性が異なる4つの自治体の平成期における合併および市章制定のプロセスから,各自治体のアイデンティティを分析した。第V章では,第III章および第IV章での結果を基に平成期に制定された市章の特徴や,変化する地域のアイデンティティについて述べ,第VI章では,今後の研究における課題を考察した。
 以上の結果に基づき,自治体アイデンティティは,平成の大合併で市章を変更した地域としていない地域で大きく分かれることが明らかとなった。市章を変更していない地域では,母体となる自治体のアイデンティティを大きく継承しており,また,変更した地域では,合併で消滅した小さな自治体のアイデンティティをなくさぬよう,慎重に新しいアイデンティティを模索したり,合併前からあった,潜在的な郡単位での地域アイデンティティの顕在化を図ったりしていた。また,アイデンティティというのは流動的であり,合併や社会情勢により変化していくアイデンティティを「見える化」するためにも,「市章」は必要不可欠なものであると示された。


牧野 圭悟:愛知県におけるキャンプ場の特性―施設・サービスに注目して―

 大自然の中で行われるキャンプは,昔から多くの人々から慕われる野外活動である。日本におけるキャンプの始まりとされる1910年代頃のキャンプは,集団教育を目的とするものであったが,時代の移り変わりとともにキャンプ場の持つ働きというものは多様化していった。現在のキャンプ場は,様々な働きを持ち社会にとって大変価値のあるものであるといえる。現代の日本のキャンプ参加率は年代別にみて,男女ともに30代,40代のファミリー層と呼ばれる年代が非常に高い割合となっているが人口減少が進む現在の日本では,少子高齢化を原因に,将来キャンプ場利用が減少していく恐れが考えられる。今後,キャンプ場はより一層健全な経営を維持していくため,これまで以上のマーケティングを積極的に行う必要があるといえる。そこで本研究では,愛知県内のキャンプ場の施設・サービスの実態を整理するとともに,今後のキャンプ場経営で重要になってくると考えられる大学生を対象とし彼らのニーズを基にこれからのキャンプ場のありかたについて検討した。
 第I章では,研究の背景,目的,研究方法を示し,先行研究の検討を行った。第II章では,キャンプ及びキャンプ場の概要,日本における歴史を述べた。第III章では,研究対象とするキャンプ場を定義し,現状の研究対象の分布,分類,施設設備及びサービスについて整理を行った。第IV章では,アンケート調査の概要を説明し,集計結果を示した。その際に各項目の単純集計だけでなく,性別及び経験の違いによる差異についても示した。第V章は,第III章と第IV章との結果を踏まえ,現状のキャンプ場のあり方と大学生のニーズを照らし合わせ,今後のキャンプ場のあり方の考察を行った。第VI章では,本研究の全体のまとめを行うとともに,今後の課題について示した。
 キャンプ場に関する結果として,1)民営のキャンプ場は公営のキャンプ場と比較して,施設設備及びサービス面両方で充実していること,2)民営のキャンプ場は公営のキャンプ場以上に集客力を上げるため施設設備・サービスに力を入れていると考えられること,の2点が明らかになった。一方,大学生のニーズによる結果は,1)理想の季節が夏であること,2)キャンプを行いたい最も理想の自然要素が川であること,3)理想の宿泊形態が建物系宿泊施設であること,4)オートキャンプスタイルを良しとすること,5)キャンプ場に重視する上位3つがトイレ,料金,風呂/シャワーであること,の5点に要約できた。


松尾 浩平:個人属性からみる地域の活動範囲及び認識の違い―豊橋市における「駅前」を対象として―

 本研究は,駅前と呼ばれるエリアにおいて,訪れる人々の年齢層,性別によってその認識エリアの違いの有無,類似している範囲を明確にすることが目的である。この目的を達成することが出来れば,年齢や性別での行動範囲が把握でき,駅前エリアの動向を理解することが可能となりうると考える。年齢が若いほど駅前だと考えるエリアは狭く,年齢が上がるほど駅前と考えるエリアは広くなるのではないかと予想される。一方で,予想に反し行動範囲が不均一であった場合においても,豊橋市民の駅前に対する考え方の違いを研究することが出来ると考える。調査では,地図に範囲を描いてもらう形式でのアンケート調査を行う事として,様々な年齢層,職業の方々にアンケート調査を実施した。豊橋駅前の地図を用い,本人の想定する範囲・性別・年齢・職業をマークしてもらった。年齢層は10代から60代以上とし,職業は会社員・自営業・公務員・学生・その他と区分した。
 まず第I章で「駅前」という空間の意義について検討した。「駅前」と呼ばれる空間の由来を「住居表示に関する法律」から考察・推測した。その後は「駅前」という概念を豊橋駅前に適用し,「豊橋駅前」を中心に研究を進めた。第II章では,豊橋駅,豊橋市市街地活性化基本計画について整理した。豊橋駅の歴史や周囲の発展状況,立地状況を再確認することで「駅前」の範囲をある程度予測することが出来た。同時に豊橋市が2000年から計画,施工している「豊橋市中心市街地活性化基本計画」についても検討した。第III章では,調査によって採集することのできたデータを性別,年齢で分別する作業を行い個人属性から見る「駅前」の範囲を明確化する作業を行った。第IV章では回答者の示した地図を全体的に分析し,モデル図の作成を行った。第V章では全体の考察をまとめた。
 今回の調査では全36人から回答を得られた。当初の予想では10代の選択範囲が最も狭く,20代30代の順に範囲は広がると考えていた。結果を踏まえると10代が最も狭い範囲であることは予想通りであったが,20代で大きな広がりを見せた範囲は30代で狭くなり,40代以上の年齢層では両極端な広がりを持つ結果となった。その中で同じ年齢層でも想像範囲が異なる部分や,別の年齢層と類似する部分が存在するなど共通点も多く見受けられた。とくに,年齢が上がるにつれて「駅前」という単語がピンポイントでの名称として使用されている事が特徴である。人々の考える繁華街「駅前」と行政側の考える「中心市街地」は異り,人々の考える「駅前」よりも行政の考える「中心市街地」はかなり大きめに設定されている事が明らかとなった。以上より「駅前」の範囲は年齢が上がるにつれて狭くなること,行政と市民の捉え方の違いを示すことができた。


村田 竣哉:三遠ネオフェニックスと地域との関わり

 BリーグはNPBやJリーグと違い,資金力が潤沢ではない。限られた資金で地域に根ざした活動を積極的に行っているが,実際にチームがどの範囲で活動を行っているかは明らかになっていない。本研究の目的は,三遠ネオフェニックスが実施している地域イベントに注目し,その特徴を明らかにすることである。特に,三遠ネオフェニックスがどのようなイベントを行なっているかについて場所やイベントの内容などから分析するとともに,地域活性化につながる活動を行なっているか検討する。
 第I章でははじめに,研究背景,研究対象地域の選定,研究目的,手順について論じた。第II章では研究対象である三遠ネオフェニックスの概要や歴史について整理した。第III章では三遠ネオフェニックスと地域の関わりについて,公式ホームページに掲載されている地域イベントの内容を整理・分析した。その結果をふまえて,第IV章では結論を述べた。
 三遠ネオフェニックスは地域イベントを中心に行っており,市民との交流を大切にしていると考える。そして,バスケットボールについて知らない人でも参加しやすいイベント作りを行っていると考える。例えば,三遠ネオフェニックス応援キャンペーンのように三遠ネオフェニックスがスポナビと連携して市民が応援しやすい環境づくりをしていて,市民が三遠ネオフェニックスを応援して市民と一体になって三遠ネオフェニックスを盛り上げようとしている。三遠ネオフェニックスはバスケットボールが強いだけではなく,地域イベントを積極的に行うことから分かるように地域や市民の繋がりを大切にしているプロバスケットボールチームであると結論づけられる。また,三遠ネオフェニックスは,スポーツを通じて,地域の人にスポーツの楽しさや情熱や夢を与え地域が笑顔で活気ある街になるように努めていて地域間の交流を深めようとしていることが明らかになった。地域イベントを積極的に行うことから分かるように地域や市民の繋がりを大切にしているプロバスケットボールチームである。三遠ネオフェニックスの地域イベントなどで三遠ネオフェニックスのことを興味もったり,バスケットボールやダンスに興味をもつ子どもや市民が増えて,三遠ネオフェニックスやBリーグやバスケットボールやFire Girlsに興味をもつ人が増える。そして,試合観戦をする人やプロバスケットボール選手プロのダンサーを目指す人が増えて,三遠ネオフェニックスで活躍する人も出てきて地域が盛り上がっていくことにつながるのではないかと考えた。