卒論要旨4 人民元を読む 『改革のジレンマ』

04E2046  原田大輔

 

世界経済に多大な影響を与え得る人民元の切り上げ問題について見ていきたいと思う。

 

まず第1章では人民元の経緯を取り上げている。最初に切り上げから現在までの主な出来事を確認した後、なぜ切り上げが必要となったのか、その原因を経済的要因と政治的要因の2つの視点から見ていくことにする。次にこれまで中国が採用してきた為替制度を順に見ていく。1993年末までは外為市場には公定レートと市場レート(外貨調整センターレート)という二重為替相場を採っていたが、人民元レートが市場レートに一本化されると共に。通貨システムは管理フロート制へと移行した。また人民元が切り上げられると同時に、通貨バスケット制を参考にした管理フロート制へと変わった。なぜ中国がこのように制度を次々に変えていったのか、検証しながら見ていきたいと思う。

第2章では貿易摩擦と米国圧力と題し、序盤はアメリカ側の視野で見ていくことにする。安価で豊富な労働力を持つ中国は、低価格・高品質を兼ね備えた製品を次々に海外へと送り出している。そのため中国製品を多く輸入する日本やアメリカでは内需の減少により産業が衰退し、大きな貿易赤字を招く結果となった。このような内容を現在の中国の為替制度を踏まえながら見ていきたいと思う。また後半は切り上げ後の中・米・日の各国意見を時間軸に分けそれぞれ検証している。時間の経過における意見の移り変わりに注目してみてもらいたい。

第3章では通貨危機における人民元の切り下げ問題と、今回の切り上げ問題を比較している。通貨危機の流れを確認したうえで、影響を大きく受けた国、それに対し比較的影響を受けなかった国にどのような違いがあったのかを突き詰めていく。この原因を調べていくことで今後問題となってくる外貨準備高というものが見えてくる。外貨準備高は通貨危機において大きな通貨アタックを防衛する役割を果たすことになる。また、中国の脆弱な金融システムがもたらす影響について、外貨準備高の件も含めて検証していく。

第4章では切り上げのインパクト・タイミングについて見ていきたいと思う。農業部門・製造業部門、不動産価格、株価、ファンド、または株式市場において切り上げがどのような影響を及ぼすのだろうか。また、切り上げのタイミングについては米中摩擦の折り返し地点と言うべきであろう7月21日までの攻防を主に見ていく。切り上げ後の中国の人民元改革はアメリカからすれば決して順調といえるものではなく、改革の遅れに懸念を持ち始めた。ここでは切り上げ以降の米中の攻防を検証していきたいと思う。

最後に、人民元改革の将来展望をまとめていく。

 

目次

はじめに

第1章      人民元の経緯

1-1 人民元の現状

1-2 人民元切り上げ必要論の背景

1-3 人民元の通貨システム

1-4 管理フロート制の中での通貨バスケット制案

1-5 通貨バスケット制を参考にした管理フロート制

第2章 貿易摩擦と米国圧力

2-1 米国の対中貿易赤字拡大による人民元切り上げ論

2-2 米国の対中圧力

2-3 切り上げに対する各国意見

第3章 中国政府の対応

3-1 政府の対応

3-2 アジア通貨危機に耐え抜いた中国

     中国・通貨危機フローチャート

     通貨危機シナリオ

③ 通貨危機における影響の違い

④ 切り下げ論

3-3 脆弱な金融システム

第4章 人民元切り上げのインパクトとタイミング

4-1 切り上げインパクト

4-2 切り上げのタイミング

4-3 改革の遅れ

最後に…中国人民元をめぐる今後の展望

<用語解説>