第7章 加熱する次世代エコカー開発競争

『中国からみる自動車社会の未来は?』

                              

 

03E2302 石川 高広

はじめに

 自動車社会は環境問題やエネルギー問題を背景に、ここ数年間で劇的に変わりつつある。その自動車が「中国」という新たな巨大市場を見つけ、今まさにモータリゼーションという大波が中国を襲っている。自動車社会の未来はこの新たな巨大市場が握っているといっても過言ではない。中国が抱える自動車・エネルギー問題と、世界の巨大メーカーの熾烈な次世代自動車開発競争から自動車社会の未来を考察していこうと思う。

 

1節 中国の車と環境のジレンマ

1-1 世界的原油価格高騰とエネルギー問題

今年に入って原油価格は急激に上昇し、史上最高値を幾度となく更新している。これまでも、オイルショックや湾岸危機など原油価格が急激に高騰する事態が発生したことがあるが、これらの原因は生産国である中東地域の情勢不安が主なものであった。しかし、今回の事態の最大の要因は中国およびインドなどの近年急激に成長してきた国々における石油の需要の増大に生産が追いつかないことにある。日本でもガソリン小売価格の高騰などの深刻な問題へと発展しているが、これは中国にとっても非常に重要な課題となっている。

中国はここ数年での急激な成長により、アメリカに次ぐ世界第2位のエネルギー消費国となったわけだが、この急激なエネルギー消費の増加が中国国内でガソリンが足りないという状況を引き起こしている。

中国でのガソリン・軽油は政府が決定する統制価格によって販売されているため、価格の上昇は2割強程度と国際価格に比べ抑えられてきたが、原油価格上昇による赤字操業を少しでも食い止めようと、中国石油(ペトロチャイナ)や中国石油化工(シノペック)など中国の石油会社は2005年の夏からガソリン・軽油の減産を開始した[1]。その結果、「大きな工業地帯を抱える広東省などではガソリン・軽油不足が表面化し始め、ガソリンスタンドには給油を求める長蛇の列が出来ている。[2]

さらに、山東省・雲南省・江蘇省などでもガソリン不足が深刻化し始め、小売価格の高騰や給油量の制限、販売停止などが起きている。この事態はマイカーを所有する一般市民だけでなく、トラックによる物流に頼る企業にも深刻な影響を与えており、結果として物流リスクという新しいリスクを中国国内の外国企業に与えることになってしまった[3]

 

1-2 中国のモータリゼーションと環境のジレンマ

2004年の中国国内の自動車生産台数は約507万台と世界第3位の自動車大国となった。今、中国では自動車が急激に増加しており、2003年の生産台数と比較すると15%程増加という結果であった。中国国家統計局の調査によると都市部の約2割の家庭が自家用車を所有する経済力があり、2008年頃には中国の自動車保有台数は1億台を突破すると見ている。これは、中国国内の急激な工業化によるGDPの増加とWTO加盟により自動車小売価格の下落が大きな要因である。また、2003年のSARSの流行も自家用車の普及させる要因となった。

今回の原油高騰受け、日本やアメリカでは燃料効率とコストパフォーマンスに優れた小型車に人気が集まっている。その動きは次第に中国へも移ってきつつあり、中国国民も燃費に代表されるランニングコストを意識し始めているようだ。しかし、北京市にあるアジア村自動車市場では小・中型車の売れ行きが低迷しており、2.0ℓ以上の大型車に人気が集まっているという[4]。更には、北京市郊外にある中古車取引市場の拡大工事を行ない、中古車の取引拡大を目指している。つまり、省エネを推進する一方ではあまり省エネではない中古車や大型車が人気を集めるという矛盾が中国国内で起こっている。

2020年には中国国内の自動車保有台数は現在の5倍に増加するといわれているが、このままでは、燃料の消費量を現在の2倍以上に増やすことは難しい[5]。そのため、中国国内だけではなく全世界で全く新しいエコノミーカー、いわゆる次世代エコカーの研究開発が進められている。

1-3 中国政府の対応

中国政府も自動車の省エネ化に向けて、動き出している。国家発展・改革委員会は2004年に「省エネに関する中長期ガイドライン」を発表[6]し、『将来的な大都市部における自家用車の使用の制限と、省エネタイプの自動車を普及させるため、ガソリン消費の多い車に対する課税や、燃料油税改革の実施も視野に入れているほか、低燃費エコカーに関する制限は撤廃していく計画[7]である。2006年から2010年までの第11期5カ年計画期間には、ガソリン節約、ハイブリッドカーの普及、公共バスやタクシー燃料のガスへの転換、新たな自動車燃料の開発などが行われていく予定だ[8]。』

さらに、「財政部関係者は、自動車製品にかかる消費税の税率調整について、低排気量車の税率を引き下げ、高排気量の乗用車とSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)の税率を引き上げる方向で検討している[9]。」

国家標準委員会の李忠海・主任は「資源節約の標準化は、資源不足を解消するための大きな鍵となる[10]」と述べ、“資源節約の標準化”を制定後、自動車の燃費問題についても乗り出すとしており、今回公布された標準のほかに、燃費についての申告、公布制度や、燃費標準制度、自動車税など関連政策の研究、実行を強化しなければならないと強調している。さらに、小型商用車、小型・大型ハイブリットカーなどの燃料消費量の標準化については、「今後の大きな課題だ」としている。

 

1-4 自動車先進国「日本」の対応とその違い

では、自動車先進国である国々は、自動車の省エネルギー化についてどのような政策をとっているのか?ここでは、中国の隣国であり自動車については最先端を行っていると言っても過言ではない、日本との政府の政策面での違いについて比較していこうと思う。日本政府は、「NxPM等の排出を最新規制値に対してより低減している自動車を認定する「低排出ガス車認定制度」や「超低PM排出ディーゼル車認定制度」を実施している。また、燃費性能に対する理解促進のため、燃費基準値以上の自動車についてはステッカーを貼付することとしている。さらに低燃費かつ低排出ガス車の普及促進を目的とした自動車グリーン税制が実施されている。[11]」(詳細については表1を参照されたい)

 

 

表1 自動車クリーン税制優遇対象車および

 

自動車関係税の軽減率

 

 

平成22年度燃費

平成22年度燃費

 

 

基準5%達成車

基準達成車

平成17年排気ガス

自動車税 50%軽減

自動車税 25%軽減

規制値に対し75%

低減の自動車

自動車所得税 30万円控除

自動車所得税 25万円控除

平成17年排気ガス

自動車税 25%軽減

控除なし

規制値に対し50%

低減の自動車

自動車所得税 25万円控除

(出所)日本自動車工業会HP:「関係税自動車グリーン税制優遇対象車および自動車軽減率http://www.jama.or.jp/eco/epvc/table_04.html より引用。

 

またハイブリッド車などの次世代エコカーに対しては、税金面での優遇だけではなく、クリーンエネルギー車の認定を受けている車種に対しては、ある一定の条件を満たせば購入者・製造メーカーの双方に国からの補助金が出ることになっている[12]

 こうした政策が日本において省エネ自動車・次世代エコカーの普及に対して大きな影響を与えているのは事実である。いくら日本が豊かな国だとしても、車1台は安くても100万円する。一部の高額所得者は別にしても、一般国民にとっては決して安い買い物ではなく、値引き交渉など少しでも安く買おうと努力するものである。そこにこのような減税や補助金の支給が行なわれれば、消費者の大半はこの制度の対象車を購入し、メーカー側も制度対象車を増やしていく。社団法人日本自動車販売協会連合

会が毎月発表している「新車乗用車販売ランキング」の上位はこの制度の対象車が占

めている[13]

  

表2 低公害車出荷実績・普通自動車(台)

 

 

 

 

2003年度

2004年度

フォームの始まり

平成17年基準排出ガスフォームの終わり

73,374

フォームの終わり

 

フォームの始まり

824,792

フォームの終わり

 

75%低減レベル ☆☆☆☆

フォームの始まり

平成17年基準排出ガスフォームの終わり

252,900

フォームの終わり

 

フォームの始まり

1,390,259フォームの終わり

 

50%低減レベル ☆☆☆

ハイブリッド自動車

42,150

フォームの始まり

65,296フォームの終わり

(出所)日本自動車工業会HP「低公害車等出荷台数」

http://www.jama.or.jp/eco/eco_car/shipment/index.htmlをもとに筆者が加筆修正。

 

会が毎月発表している「新車乗用車販売ランキング」の上位はこの制度の対象車が占

めている[14]

 日本での現状を見てみると、車種ごとに環境性能を格付けし、優良な車に対しては様々な優遇が行なわれる事が低公害車の普及に一役かっているのは間違いないようだ。

アメリカでも同じような政策が行なわれており、ハイブリッド車の購入者に対し最高で2,000ドルの減税が行なわれている[15]。一方、中国ではこうした政策は検討されてはいるが、20059月現在では行なわれていないため、早急な対応が望まれる。

 

 

2節 次世代エコカーの開発競争

 

2-1 加熱する開発競争と巨大グループ化

 世界の自動車メーカー各社は次世代エコカーの開発にその企業のすべての技術を結集し、他の企業の少しでも先を行こうと熾烈な開発競争を繰り広げている。その反面、開発費は増加の一途をたどるため、企業の収益を圧迫している。そこで各社は、この開発競争を勝ち抜くために資本・技術提携などによるグループ化という道を選んだ。この開発グループは次第に少数・巨大化している。

 まず、米・GM社は独・BMW、日・ホンダの3社で燃料電池車開発の共同開発を行うと発表した。またGM社はトヨタとも燃料電池車の共同開発に向けて協議している。日本では、日産の親会社であるルノー社と共同で開発を行っている。

現在、急速に普及が進むハイブリッド技術では、既に「プリウス」を市場に投入しているトヨタと、「インサイト」や「シビック・ハイブリッド」のホンダの日本の二大メーカーが世界の他メーカーを大きくリードしており、GMやダイムラークライスラー、BMWなど世界の他メーカーは大きく水をあけられている。この状態を黙って見ているわけもなく、2005年9月上旬にGM・ダイムラークライスラー・BMWの3社がハイブリッド車の共同開発を発表し、世界を代表するスポーツカーメーカーである独・ポルシェも独大手のフォルクスワーゲン社とのハイブリット車開発における提携を発表した。トヨタ・ホンダVS海外メーカー連合の勢力争いとなっている。

 

2-2 プリウスのヒットからみた普及の現状

 1997年にトヨタ自動車が発売したハイブリッドカーの「プリウス」は次世代エコカーの先駆けとして大きな結果を残した。これまでのエコカーはあくまでサンプルや試験車両的なものばかりであったが、「プリウス」は非常に実用的な車両であったことが大きい。またトヨタは「クラウン」「エスティマ」などの高級乗用車、ミニバンなど人気の車両にもハイブリッド車を設定しより一層の普及へと繋がった。

  一方、ホンダは2001年から大衆車「シビック」にハイブリッド車を追加し販売している。また、20059月に開幕した独・フランクフルト国際自動車ショーでは、ダイムラークライスラーがハイブリッド車を発表した。しかし、このようにメーカー各社がハイブリッド車を増やしても、まだまだ自動車の大半は従来のガソリンエンジンの車が占めているのが現状である。その大きな要因がガソリンエンジンの環境性能の飛躍的な向上である。ガソリン筒内直接噴射技術、希薄ガソリン燃焼技術、可変バルブタイミング技術などが代表的なものだが、コストパフォーマンスや信頼性、耐久性などを考慮するとかれらの技術を用いたガソリンエンジンは当面自動車市場の主流で

あるという見方が一般的である。[16]事実、ここ数年間でガソリンエンジンの環境性能は飛躍的に向上した。例えば、日産の「ブルーバード・シルフィー」は世界で一番厳しい米・カリフォルニア州の環境基準を純粋なガソリン車として始めてクリアした[17]。この車の排気ガスは東京都内の空気よりもクリーンだと言われている。ホンダが2005年秋に発売する新型「シビック」に搭載される新型のエンジンは、1.8ℓクラスとしては世界最高クラスの環境性能を誇っている。[18]また欧州ではCO2削減に効果があるディーゼルエンジンが市場の半数を占めていると言われている。日本でディーゼルというと、トラックが中心で石原慎太郎東京都知事の発言・政策などによってあまり良いイメージを持たれていないのが実情で、乗用車でディーゼルエンジンを搭載した車は現在ではほとんど存在していないが、欧州では正反対である。欧州で約13%のシェアを持つ日本メーカー各社は、ディーゼル車を欧州でのハイブリッド車の本格的な普及までのつなぎ役と位置付け、今回のフランクフルト国際自動車ショーでもホンダなどが新型のディーゼルエンジンを発表し、欧州でのシェア拡大を狙っている。

 

2-3 次世代エコカーとは?

 次世代エコカーと言っても多くの技術が実用化、そして普及へ向けて研究・開発が日々行われている。名前は知っていても果たしてどんな技術なのか知らない人も数多くいるので、ここでは次世代エコカーにはどのような種類があって、どんな長所があるのかを見ていこうと思う。

 

①電気自動車

 電気自動車は、次世代エコカーの中で最も長く研究の行われてきた技術である。電気を動力源とするので、排気ガスを全く出さないということで開発が進められてきたが、1回の充電での走行距離の短さが大きなネックとなっていた。しかし、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池の開発で実用化に向けて大きく前進した。[19]

 

燃料電池自動車

 燃料電池は、水の電気分解の逆を行い、水素と酸素から電気を発生させバッテリーの充電を行うことで動力源とする技術である。この技術は、純粋な水素を使用すれば水しか排出しないという利点がある。また、燃料にメタノールなどの炭化水素を用いそれらを改質して水素を得る場合でも、NOXCO2などの排出物は従来のガソリンエンジンに比べて大幅に低減する。このため、燃料電池自動車は、高効率、利便性、環境性を兼ね備えた次世代自動車と考えられている[20]

 

③ハイブリッドカー

 現在、次世代エコカーの中で普及に一番近い位置にいるのがハイブリッドシステムである。ガソリンエンジンと電気モーターの双方を搭載し、エンジンの動力で充電するという仕組みである。電気自動車の充電が必要という常識を覆した画期的なシステムである[21]

 

 

3節 難関市場『中国』に挑む先駆者『日本』 

 

3-1 環境技術の勝ち組日本

日本メーカー各社は、欧米メーカーに対し環境性能で勝負を挑んできた。しかし、日本と違い石油を自給自足で賄っているアメリカでは、低価格でガソリンが流通していた為、低燃費でコンパクトな日本車よりもアメリカメーカーの大型で大排気量の自動車が市場の中心を担っていた。しかし、90年代末頃から世界的な環境悪化が深刻化し始めると日本メーカーとアメリカメーカーの立場は逆転することとなる。現在に至っては、日本メーカーの環境技術は自動車業界の最先端を突き進んでいると言っても過言ではない。次世代エコカーの分野はもちろんのこと、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど、既存の技術に関しても日本メーカーの技術力はずば抜けている。

 しかし、9月のフランクフルト国際自動車ショーでは、これまで消極的だった欧米メーカー各社がハイブリッドカーのコンセプトモデルを発表し、昨年には急成長を見せる韓国の自動車メーカーの現代自動車もハイブリッドカーを発表し、2006年からの市販を予定するなど、日本メーカーを追いかけるライバル達がスピードを上げてきている。

 

3-2 普及への課題[22]

 前述の通り、ハイブリッドカーに代表される次世代エコカーが日々開発・進歩している訳だが、なぜガソリンエンジン車に代わって自動車の中心にならないのだろうか?まず1番の課題は「コスト」である。

 ハイブリッドカーはこの課題を多少クリアしているが、燃料電池車・電気自動車は全くクリアできていない。ホンダ社長の福井威夫氏も「ハイブリッドカーで数年後に元を取るよりは、今安い方がいいねとなる。だから我々がもっと努力してコストを下げないといけない。」[23]という見解を示しているように、普及には大量生産とコストダウンが絶対必要条件である。

第二に「耐久性」が挙げられる。現在、自動車の寿命は10万キロといわれているが、中古車市場では走行距離が10万キロを越えた車も少なくない。しかし、次世代エコカーの耐久性については、どの技術も未知数である。

そして最後に「インフラ整備」の問題がある。燃料電池車・電気自動車はガソリンを全く使わない代わりに、水素や電気など全く新しい物を動力源としている為、それらの燃料を供給する施設が必要になる。燃料がなければ車は動かないので、ガソリンスタンドのように水素スタンド・電気スタンドを各地に建設しなければならない。

 このように普及に向けた課題は大きくのしかかっている。しかし、既存の物を全く新しい物と入れ替えるには時間がかかるものである。そのように考えると、約10年で世界中でここまで普及しているハイブリッド技術は各自動車メーカーの努力の結晶ではないだろうか。

 

3-3 ハイブリッドカーの中国進出

これまで、ハイブリッドカーは欧米と日本のみでの販売であった。しかし、中国国内での自動車の急速な普及と今回の石油問題から、中国でもハイブリッドカーに代表される次世代エコカーの必要性が高まっている。その先陣を切ったのがハイブリッド技術で世界をリードするトヨタである。20037月に中国政府の関連研究機関である「中国汽車技術研究センターとハイブリッド車の共同研究を開始し、2004年にはかねてから提携のあった第一汽車と「プリウス」の共同生産を発表した。さらに、トヨタのハイブリッドシステムを第一汽車に技術供与することも決まっている。「プリウス」は2005年末に市場投入されることになっている。[24]

さらに2005年になって、ドイツのフォルクスワーゲン社がミニバン「トゥーラン」をベースにしたハイブリッド車を北京五輪が開かれる2008年から市場に投入すると発表した。フォルクスワーゲン社は200410月に同済大学、独IAV社と共同で燃料電池自動車の開発に着手する[25]とも発表している。フォルクスワーゲン社が「トゥーラン」をベースにしたシャーシを、同済大学が燃料電池と高性能電池を、徳国IAV社は関連ソフトを提供する。「自動車エネルギー分配コントロールシステム」を開発し、国際基準に照らし合わせて、車体の組み立て、性能、走行テストを実施する[26]。同済大学学長の万鋼・博士は、「燃料電池自動車は、中国の国情に大変マッチしている。政府もその開発に協力を惜しまない」と話し、フォルクスワーゲン社の開発担当者も「中国は電気自動車の開発に適している」というコメントをしている。

また、20059月にはGM中国が上海で燃料電池技術に関する博覧会を開催[27]するなど、メーカー側はハイブリッドカーだけでなく次世代エコカー自体への中国国民の関心を高めようとしている。それは、普及への大きな課題である「大量生産によるコストの削減」には中国という巨大な市場での普及が必要になってくるからではないだろうか。そのためには、メーカーだけではなく国の協力が必要不可欠である。

 

3-4 中国メーカーの動き

中国政府は19863月に国家863計画(ハイテク技術研究発展計画・詳細は用語解説にて)を発表した。この計画において燃料電池・ハイブリッド技術による自動車の省エネ化は重要プロジェクトとして位置づけられている。中国の軽自動車市場でトップの長安汽車有限責任公司は中国で初めてハイブリッド車の自社単独での開発を発表し、2005年の10月~12月にかけて発売する予定である[28]。また、中国メーカーで最も省エネ技術でリードしていると言われている第一汽車集団は2004年の12月に日本の三菱自動車工業株式会社と「紅旗ハイブリッドカー」を共同開発した。

 これに対して、中国最大の自動車メーカーである上海汽車集団は燃料電池車を地元の同済大学と共同開発した[29]。試作車は7人乗りのミニバンタイプで、上海万博が開かれる2010年までの量産化を目指している。今後、中国国内では第一汽車のハイブリッドと上海汽車の燃料電池の二大勢力になりそうである。

 

むすび

今回の石油価格高騰は、GMの業績悪化など世界自動車業界に非常に大きな衝撃を与えた。しかし、消費者のエコカーへの関心は大きく高めたのも事実ではないだろうか。中国だけではないが、世界中の石油価格をここまで高騰させてしまう中国という力の巨大さに本当に驚かされた。僕自身、エコカーの普及はまだ先の話だと思っていたが、いろいろ調べているうちに、もうすぐそこまで来ているという事に非常に驚いた。そして、自動車開発では後発国である日本の開発力と技術力の高さにも驚きを通り越して感動させられた。もうひとつ驚いたのは、中国の対応の早さである。トヨタなどとの提携だけでなく、単独開発も行なっているというのは中国の技術力の高さを象徴していると思う。

 

[付記1]最新動向[30]

独・ダイムラークライスラー社が2006年秋にも日本市場に新開発のディーゼルエンジンを搭載した乗用車を投入すると発表した。また、独・フォルクスワーゲン社も検討している[31]。中国政府は20046月に発表した「自動車産業発展政策」においてディーゼル車をハイブリッド車に並ぶ環境技術と位置付けており、今後のアジア並びに世界自動車市場、新たな次世代エコカーとしての資質を占うためにも、今後の日本メーカーの動きに目が離せない。

 

[付記2]用語解説

①国家863計画

19863月に始まったハイテク技術の研究発展計画。王大コウ、王淦昌、楊嘉チ、陳芳允の4人のベテラン科学者が198633日、「世界の先端技術から取り残されないためにも、国内のハイテク技術を発展させていく必要がある」として、中国共産党中央に陳情書を提出したことから始まった。問題を重視した鄧小平氏は「すぐに決めるべきで、引き延ばすべきではない」とし、計画の開始に向け自ら指示を行った。その後の全面的な科学論証や技術論証を経て、国務院は「ハイテク技術研究発展計画概要」を批准。これが通称「国家863計画」と呼ばれる。863計画では生物、宇宙、情報、レーザー、オートメーション、エネルギー、新素材の7分野(1996年に海洋技術を追加)を重点分野に決定。これらの重点分野で世界最先端のレベルに照準に合わせ、優れた技術力を結集、先進国との技術格差を縮小させ、関係分野の科学技術の進歩を促進、優秀な人材を育成し、将来のハイテク産業の発展に向けて条件を整備していくことを目的としている[32]。」

 

②ガソリン筒内直接噴射技術

「従来のようにシリンダーの手前で霧状に噴射したガソリンと空気とを混合して送り込むのでなく,まず空気をシリンダー内に送ってそこに電子制御でガソリンを直接噴射する方式[33]

 

③希薄ガソリン燃焼技術

「自動車の燃費向上に大きな効果を発揮する希薄燃焼(リーンバーン)エンジンの研究開発が進んでいます。名称が示す通り、現在のエンジンよりはるかに薄い空燃比の混合気を燃やす、つまり空気量に対して燃料(ガソリン)がきわめて少ない状態でエンジンを回すシステムで、燃料消費率が下がって燃費が良くなるとともに、エンジンから排出されるNOxも減少します。 安定した希薄燃焼を実現するには高度な技術が必要ですが、燃焼性能やトルク変動の改善など着実に成果があがっており、一部の車種ではあるものの、このシステムを部分的に採用した乗用車が相次いで発売されています。 本格的な導入には、排出ガスの後処理に適した触媒の開発といった課題もありますが、省エネルギー性に富んだエンジンだけに、今後の発展が期待されています。」[34]

 

④可変バルブタイミング技術

「可変バルブタイミングシステムとは、バルブの開閉タイミングを運転の状況に応じて変化させるシステムのこと。通常、バルブの開いている行程を長くすればエンジンの高出力を引き出せるが、反面、中・低回転域でのトルク不足が起こる。逆に行程を短くすると、中・低回転域でのトルクを引き出せるものの、高出力化が難しくなる。そこで運転状況に合わせてバルブの開閉タイミングを変えることにより、低回転域から高回転域まで、理想的な出力特性を得られるようにしたもの。バルブの開閉タイミングとともに、バルブのリフト量も変化させるものを可変バルブタイミング・リフト機構と呼ぶ。」[35]

 

 

<参考文献>

丸川知雄・高山勇一編『グローバル競争時代の中国自動車産業』2005年 蒼蒼社

日経ビジネス2005829日号「クルマを攻めろ」 日経BP

垣見油化HP 垣見裕司「エコカーの実力はどこまで来たか」

http://www.kakimi.co.jp/2k0010.htm

本田技研工業HP 

広報発表2005922日付「シビック、シビック ハイブリッドをフルモデルチェンジし発売」

http://www.honda.co.jp/news/2005/4050922-civic.html

日産自動車HP 

プレスリリース「『ブルーバード シルフィが日本で初めて「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(SU-LEV)」に認定」

http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2003/_STORY/031225-04.html

日本経済新聞 2005118日付 朝刊 

20051015付 朝刊

       2005820日付 朝刊

       2005829日  朝刊

中国経済局HP 

長安汽車:初の自主開発車、ハイブリッド車も予定

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0622&f=business_0622_004.shtml

田村まどか・恩田有紀編「ゼネラルモーターズ:中国で水素燃料電池技術を公開

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=1005&f=enterprise_1005_002.shtml

黒川真吾編「VW:同済大と協力、燃料電池車の開発に着手

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1014&f=business_1014_006.shtml

黒川真吾編「自動車燃料消費量制限、石油対外依存に危機感

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1030&f=business_1030_004.shtml

伊藤亜美・恩田有紀編「財政部:低排気量車の消費税率引き下げを検討

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0824&f=business_0824_005.shtml

恩田有紀編「『省エネガイドライン』大都市の自家用車規制も

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1127&f=national_1127_002.shtml

恩田有紀編「燃料電池自動車開発、ガソリン消費抑制が急務

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1124&f=business_1124_009.shtml

田村まどか編「小型エコカー市場に規制か、燃料油関税が鍵握る」

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1202&f=business_1202_005.shtml

IHCC Web Libraryトヨタ自動車の今後の中国戦略

http://www.iijnet.or.jp/IHCC/north-chinamotor-industry-senryaku2002-toyota01.html

NIKKEI NET 中国ビジネス特集 菅原透著中国に『物流リスク』浮上・運賃上昇や輸送網混乱」

http://www.nikkei.co.jp/china/industry/archive/20050828d1d2604x28.html

日本自動車工業会HP 

「関係税の自動車グリーン税制優遇対象車および自動車軽減率」

http://www.jama.or.jp/eco/epvc/table_04.html

「低公害車等出荷台数」

http://www.jama.or.jp/eco/eco_car/shipment/index.html

「機械の豆知識」

http://www.jmf.or.jp/japanese/topic/pepar/k_7.html

社団法人 日本自動車販売協会連合会HP

「新車乗用車販売台数ランキング」

http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking/index.php

「情報・知識 イミダス 2003」集英社2003

ResponsHPハイブリッドへの税金免除が2倍に?                        

http://response.jp/issue/2003/1009/article54579_1.html

All About HP「クルマ用語集」

http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_auto/w006045.htm

「環境に優しい自動車」

http://www.smn.co.jp/insider/surf/401.html

「人民網日本語版」2003213用語:国家863計画

http://www.people.ne.jp/2003/02/13/jp20030213_26019.html

 

<ゼミ論集の感想>

大学に入学して、早くも3年が過ぎようとしている。本当にあっという間の3年間だった。この1年は今までで一番大変だったが、一番充実した1年だったと思う。自分のテーマがなかなか定まらず、真剣に悩んだ。それだけではなく、ゼミ長として合宿の計画を立てなければならないし、当然バイトなどの自分の事もある。それはもう大変だった。

でも、このレポートをなんとか書き終えたとき、それはもうなんとも言い難い爽快感だった。ボウリングを心から愛する自分としては、パーフェクト・ゲームを達成した様な感じ(未だ達成はしてませんが)だった。

この場を借りて、愛大の図書館に謝りたいと思います。本を長期に渡って延滞してすいませんでした。そして、この論集を読んでいるみなさんは僕のようなことは絶対にしないでください。

自分のテーマは技術として、業界の先端を行っているものだったため、参考になる書籍が極端に少なかった。ましてや中国が絡んだ書籍は見つけることが出来ず、一時はどうなるかと思った。また、他のゼミ生が内容の三本柱を固めていく中で、自分はなかなか定まらず、自分のレポートは期限までに完成するか本当に悩んだ。なんとか完成させることができて本当に良かった。


 



[1] 日経新聞 2005829朝刊「中国、高まる物流リスク」を参照

[2] 日経新聞 2005820朝刊より引用

[4] 中国情報局HP 田村まどか編「小型エコカー市場に規制か、燃料油関税が鍵握る」

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1202&f=business_1202_005.shtmlを参考

[5] 中国情報局HP 恩田有紀編「燃料電池自動車開発、ガソリン消費抑制が急務

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1124&f=business_1124_009.shtmlを参考

[6] (中国情報局HP 恩田有紀編「『省エネガイドライン』大都市の自家用車規制も

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1127&f=national_1127_002.shtmlを参考

[7] 同上

[8] 脚注4参照

[9] 中国情報局HP 伊藤亜美・恩田有紀編「財政部:低排気量車の消費税率引き下げを検討

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0824&f=business_0824_005.shtmlより引用

[10] 中国情報局HP 黒川真吾編「自動車燃料消費量制限、石油対外依存に危機感

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1030&f=business_1030_004.shtmlより引用

[11] 日本自動車工業会HP「低燃費、低排出ガス車の普及のための制度」

http://www.jama.or.jp/eco/epvc/index.htmlより引用

[12] 日産自動車HP

http://www.nissan.co.jp/を参考

[13] 社団法人日本自動車販売協会連合会HP 「新車乗用車販売台数ランキング」

http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking/index.phpを参考

[14] 社団法人日本自動車販売協会連合会HP 「新車乗用車販売台数ランキング」

http://www.jada.or.jp/contents/data/ranking/index.phpを参考

[15] ResponsHPハイブリッドへの税金免除が2倍に?

http://response.jp/issue/2003/1009/article54579_1.htmlを参考

[16] 垣見油化HP「エコカーの実力はどこまで来たか」

http://www.kakimi.co.jp/2k0010.htmを参考

[17] 日産自動車HP プレスリリース「『ブルーバード シルフィが日本で初めて
「平成17年基準排出ガス75%低減レベル(SU-LEV)」に認定」

http://www.nissan-global.com/JP/NEWS/2003/_STORY/031225-04.htmlより引用

[18] 本田技研工業HP 広報発表2005922付「シビック、シビック ハイブリッドをフルモデルチェンジし発売」より引用

http://www.honda.co.jp/news/2005/4050922-civic.html

[19] 情報・知識 イミダス 2003」集英社2003年を参照

[20] 脚注19に同じ

[21] 脚注19に同じ

[22] 垣見油化HP  垣見裕司著「エコカーの実力はどこまで来たか」

http://www.kakimi.co.jp/2k2010.htmを参照

[23] 日経ビジネス2005.8.29号編集長インタビュー「台数より技術を追う」より引用

[24]IHCC Web Library「トヨタ自動車の今後の中国戦略」

http://www.iijnet.or.jp/IHCC/north-chinamotor-industry-senryaku2002-toyota01-05.html より引用

[25] 中国情報局HP 黒川真吾編「VW:同済大と協力、燃料電池車の開発に着手

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1014&f=business_1014_006.shtmlより引用

[26] 同上

[27]中国情報局HP 田村まどか・恩田有紀編「ゼネラルモーターズ:中国水素燃料電池技術公開http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=1005&f=enterprise_1005_002.shtmlより引用

[28]中国情報局HP 「長安汽車:初の自主開発車、ハイブリッド車も予定

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0622&f=business_0622_004.shtmlを参考

[29]日経新聞 2005118付 朝刊 湯浅健司著「上海汽車が燃料電池車」より引用

[30]日経新聞 20051015付 朝刊を参照

[31]日経新聞 20051015付 朝刊より引用

[32]「人民網日本語版」2003213用語:国家863計画

http://www.people.ne.jp/2003/02/13/jp20030213_26019.htmlより引用

[33]「環境に優しい自動車」

http://www.smn.co.jp/insider/surf/401.htmlより引用

[34]日本自動車工業会HP「機械の豆知識」

http://www.jmf.or.jp/japanese/topic/pepar/k_7.htmlより引用

[35]All About「クルマ用語集」

http://kw.allabout.co.jp/glossary/g_auto/w006045.htmより引用