中国の国際貿易
『米中貿易摩擦と東アジア経済』
01E2252 加藤良美
はじめに
2002年度の中国の輸出入総額が6207億9000万ドル(約73兆円)となり、初めて6000億ドルを突破した。世界経済が低迷する中、世界貿易機関(WTO)加盟を果たした中国の輸出入は急増している。2002年を通して、中国のモノの輸出入は20%以上増加し、世界貿易の成長の5分の1を占めた。中国はイギリスを抜き世界第5位のモノの貿易国となった。
私たちの身の回りには中国製品が多くあふれ、新聞・テレビなどでは中国の躍進が報じられている。そこで貿易大国に成長した中国の現状、中国経済の発展が近隣のアジア諸国にどのような影響を及ぼしているのかを調べてみた。
第1節
対日・対米貿易で躍進が続く中国
2002年の日本の貿易統計によると、日本における中国からの輸入額が米国からの輸入額を上回った。その結果、初めて、中国が日本の最大の輸入相手国になった。一方、2002年の米国の貿易統計では、53年ぶりに、米国における中国からの輸入額が日本からの輸入額を上回った。このように2002年は、米国と日本という、世界第1位と第2位の市場で、製品供給基地としての中国の躍進を示す歴史的な出来事が生じた年となった。
1. 日米から日中へシフトする貿易摩擦
中国の台頭を背景に、日米を中心に展開された太平洋貿易が大きく変貌している。日本と米国の輸入における中国のシェアが高まり、両国の対中貿易赤字も膨らんでいる。米国の輸入に占める日本のシェアは、90年の18.1%から、2001年には11.1%にまで低下している。逆に、中国からの輸入は、同3.1%から9.0%に急増している。
従来、米国にとって最大の貿易赤字相手国であった日本との貿易赤字額は、2001年には米国全体の貿易赤字額4111億ドルのうち、その16.8%に当たる690億ドルまでに低下している。逆に、中国との貿易赤字額は増加傾向にあり、同年830億ドル(全体の20.2%)と、中国は日本を抜いて米国の最大の赤字相手国になっている。また2002年の米国の輸入額では、中国が35年ぶりに日本を抜き3位に浮上した。米国の中国からの輸入額は2002年11月までに1135億ドル。日本からの輸入額1103億ドルを上回り、カナダ、メキシコに次いで3位となった。[1]これを反映して日米を中心に展開していた貿易摩擦が米中、さらには日中へとシフトしつつある。
日米中の貿易推移 (単位:10億ドル)
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1985 |
1990 |
1995 |
2000 |
2001 |
米国 |
対日 輸出 輸入 収支 |
22.63 68.78 -46.15 |
48.58 89.68 -41.10 |
64.34 123.48 39.14 |
64.92 146.48 -81.56 |
57.64 126.60 -68.96 |
対中 輸出 輸入 収支 |
3.86 3.86 -0.01 |
4.81 15.24 -10.43 |
11.75 45.54 -33.79 |
16.19 100.02 -83.83 |
19.24 102.28 -83.04 |
|
日本 |
対米 輸出 輸入 収支 |
65.33 26.05 39.28 |
90.18 52.39 37.78 |
120.49 75.23 45.25 |
142.49 72.18 70.31 |
121.20 63.09 58.11 |
対中 輸出 輸入 収支 |
12.54 6.51 6.03 |
6.10 11.95 -5.85 |
21.95 35.94 -14.02 |
30.38 55.13 -24.75 |
30.98 57.81 -26.83 |
|
中国 |
対米 輸出 輸入 収支 |
2.34 5.20 -2.86 |
5.31 6.59 -1.28 |
24.47 16.12 8.62 |
52.10 22.36 29.74 |
54.28 26.20 28.08 |
対日 輸出 輸入 収支 |
6.09 15.18 -9.09 |
9.21 7.66 1.55 |
28.47 29.01 -0.54 |
41.65 41.51 0.14 |
44.46 42.80 2.16 |
(出所)http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/wto/
WTOホームページ「各国の貿易統計」を参考に作成
2.日米貿易摩擦
日米貿易摩擦は以下の3つの枠組みで行われた。
@ 1970-80年代にかけて米国の貿易摩擦の相手国は主として日本であった。当時、巨額の対日貿易赤字は政治問題化し日米間で貿易摩擦を引き起こした。その解消のための両国間協議は、85年の(注1)プラザ合意に代表される為替調整
A 自動車、工作機械、鋼鉄、繊維などへの輸出自主規制や(注2)スーパー301条問題など分野別協議
B 89年以降の日米構造問題協議における系列解消のための独占禁止法強化、大規模小売店舗法改正などをはじめとする経済構造調整を目的とした協議
しかし、90年代に入ると米国にとって日本は貿易相手国や投資相手国としての意義が小さくなった。日本企業が生産拠点を米国やアジア諸国へ移転させてきたことを受け、米国の対日貿易赤字額は頭打ちになった。
3.米中貿易摩擦
米国では、中国をはじめとする他の東アジア諸国からの輸入が急増している。特に1997年以降は中華圏に対する貿易赤字が対日赤字額を上回っている。米国にとっての貿易摩擦相手国は、日本から中国へとシフトし、こうした展開を受け日米摩擦は最悪期を脱している。その代わりに米中間では、貿易・投資における障壁、中国の最恵国待遇(MNF)、中国の世界貿易機構(WTO)加盟といった問題を中心に摩擦が激化した。
これらの経済問題はしばしば中国国内における人権問題と絡められ、米国から政治的取引の材料に使われてきた。2001年に実現したWTO加盟により、中国はこれまで米議会の動向に左右されてきた米国によるMFN供与を無条件で受けることができるようになったが、米国はスーパー301条などの武器をバックに、中国に圧力をかけ続けている。[2]
4.米中貿易摩擦に対する日本の反応
日本の政府は現時点では米中間で深刻な貿易摩擦は起きていないと判断している。
「その理由として、中国政府が世界貿易機関(WTO)加盟時に公約した市場開放の実行に前向きな姿勢を示しており、米企業の対中投資も順調に伸びていることに加え、
@ 中国は、かつての日本ほど抜きん出た赤字相手ではない
A 最先端分野での米国産業との競合が少ない
B 輸入主要品目に「政治銘柄」(自動車、アパレル、鉄鋼など)が少ない
などが挙げられる。よって米国の通商面での日本の相対的地位低下、中国の上昇が目立ちはするが、米国輸入市場をめぐる日中の関係は競合品目が増えてきてはいるものの、依然、日本からの輸入は、中国からの輸入に比べ、高付加価値となっている。」と推測している。[3]
日米貿易・米中貿易のこうした状況について、ミシガン大学中国研究所のケネス・リーバーソル教授は、「米中貿易摩擦が生じない理由として、直接投資などで中国市場が開放されていること、WTO加盟による中国の変化への期待」などを挙げている。[4]
第2節 東アジア諸国の対中貿易
中国が今後力を入れると思われるのが貿易額で5位、伸び率で2位のASEANとの貿易である。2002年の貿易総額は548億ドルに達し、前年比31.7%の増加となった。現在、日本と米国は中国に対し貿易赤字を計上しているが、ASEANは中国の台頭が注目されるようになった2000年でも中国との貿易は合計で50億ドルの黒字となっており、黒字額は増加傾向にある。国別にみると、従来赤字だったフィリピンが2000年に黒字に転換し、タイやマレーシアは約20億ドルに黒字となっている。中国はASEANとの間に国境問題などを抱えているが、経済面では中国・ASEAN自由貿易圏を形成するなど、今後一層結びつきが深まるであろう。
NIES,ASEAN諸国の輸出に占める日本、米国、中国の比率変遷 (単位:%)
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2000年 |
2001年 |
2002年1-9月 |
||||||
国名 |
日本 |
米国 |
中国 |
日本 |
米国 |
中国 |
日本 |
米国 |
中国 |
韓国 |
11.9 |
21.8 |
10.7 |
10.6 |
20.7 |
12.2 |
9.4 |
20.2 |
13.9 |
台湾 |
11.2 |
23.5 |
2.8 |
10.4 |
22.5 |
3.9 |
9.4 |
20.2 |
7.0 |
シンガポール |
7.5 |
17.3 |
3.9 |
7.7 |
15.4 |
4.4 |
7.2 |
14.9 |
5.2 |
タイ |
15.0 |
21.7 |
4.1 |
15.8 |
20.9 |
4.5 |
15.0 |
20.4 |
4.9 |
マレーシア |
13.1 |
20.5 |
3.1 |
13.3 |
20.2 |
4.3 |
11.2 |
21.2 |
5.5 |
インドネシア |
23.2 |
13.6 |
4.5 |
23.1 |
13.8 |
3.9 |
16.5 |
12.2 |
4.3 |
フィリピン |
14.7 |
29.9 |
1.7 |
15.7 |
27.9 |
2.5 |
14.9 |
25.3 |
3.7 |
(出所)http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/information/economics/pdf/r030101asia.pdf
みずほリサーチ Jan.2003「アジア経済の展望」を参考に作成
1.台湾
中国の貿易相手国のなかで、貿易額がもっとも増加したのは台湾であり、伸び率は38.1%で1位である。中国と台湾の貿易総額は447億ドルに達し、うち台湾から中国への輸出は328億ドル(25%増)に上る一方、中国からの輸入は80億ドルに止まり、台湾にとり248億ドルの貿易黒字となった。台湾から中国への輸出が特に急増している製品として、液晶モニター、マザーボード、各種集積回路などのPC部品があげられる。
中台貿易が急増する背景には、2001年中国と台湾がほぼ同時にWTO加盟を果たし、それをきっかけに台湾企業による中国大陸への投資が集中したことがある。2002年台湾による中国への直接投資は前年比38.6%増え、38.59億ドルに達した。これは台湾の対外投資の53.4%に相当する金額である。
また2002年台湾は世界貿易機構加盟に伴い、中国産業の農工産業生産品2126品目の輸入を解禁すると発表した。従来の解禁項目と合わせ全産業品目の73%が輸入可能となるが、シイタケ、ニンニク、豆類、冷蔵庫洗濯機などの域内産業への影響が大きい品目の解禁は先延ばしした。農水産物は魚介類、ドライフルーツ、飼料、食用油脂のほか嗜好品の酒、タバコまで解禁したが、穀物は大麦、小麦にとどめた。工業製品では石灰などの工業原料、薬品、化粧品、ICチップ、カメラ、パソコンなどを解禁したのに対し自動車や白物家電など大型商品の解禁は一定期間を経てから再検討する。台湾当局は、中国製品が大量に流入し地域産業に打撃を与える自体を防ぐため、輸入解禁を段階的に進める方針だが廉価な中国製品の輸入で台湾のデフレ傾向に拍車がかかるには避けられない。[5]
2002年中国の貿易相手国の輸出入伸び率
(出所:NNA、Chinese Dragon)
2.韓国
中国と韓国との貿易は、大韓民国建国以来、長期にわたる断絶があった。かつて朝鮮戦争において実際に戦火を交えた両国は、70年代半ばまでは経済的にもほとんど交流が行われてなかった。しかし中国と韓国は、1992年8月に国交を樹立して以来、さまざまな領域での友好協力関係が急速に発展し、とくに経済協力は健全な発展の道を歩んできた。中韓両国は、分散型の小規模貿易から次第に総合的な大規模貿易に発展し、貿易額は毎年20%〜30%の速度で増加してきた。
1992年の中韓貿易額は約50億ドルだったが、2002年は440億ドルを超え10年間で8倍近くに伸びた。自動車、カラーテレビ、エアコン、デジタル機器、化粧品、台所用品、アクセサリーなどの韓国製品が、中国の一般消費者に受け入れられている。現在中国にとって韓国は、5番目の貿易相手国、4番目の輸出相手国、3番目の輸入相手国となっている。韓国から中国への輸出製品は、その中に含まれている科学技術の要素がますます多くなってきたし、中国から韓国への輸出も電子、石油化学、鉄鋼、機械、家電などの付加価値の高い製品が次第に増えてきた。[6]今後、中韓貿易額は少なく見積もっても2004年には500億ドルを突破する見通し。投資の増加も、両国の貿易の伸びを後押ししている。[7]
また中韓貿易のもう一つの特徴となっているのが、(注4)加工貿易の伸びである。2003年1月から6月まで、加工貿易方式での上海税関通過は、韓国からの輸入額は15億ドルとなり、同期比にして72.6%増加、韓国への輸出額は6.6億ドル、同期比にして25%伸びた。
3.タイ
メコン川流域諸国と中国との貿易が急増している。特に目覚しいのがタイと中国。タイ、ラオス、ミャンマー、の「黄金三角」に中国が加わり、「四角経済」が発展しようとしている。チェンセーンでの対中貿易額は2002年10月からの11ヶ月間で33億バーツ(90億円強)と史上最高。過去4年間の平均増加率は50%を上回る。対中貿易は今後も伸びが予想される。中国はリンゴや木材、タイは、熱帯の果物のロンガンやゴム加工品を輸出している。ミャンマーとの国境に位置するタイ北部の街メーサイには、中国製のステレオやビデオがミャンマー経由で流れ込んでくる。貿易拡大で国境での関税収入は急伸している。[8]
4.シンガポール
シンガポールの対中貿易をみると、90年の52億1,675万Sドル(シンガポール・ドル)から、2000年には、215億6,373万Sドルへ4倍の規模となった。2000年のシンガポール及び中国両国の貿易総額は108億2,100万米ドルで、中国はシンガポールの貿易相手国として6位、またシンガポールは中国の貿易相手国として7位であった。中国は2001年、シンガポールの貿易相手国として台湾を抜いて5位となっており、貿易開発庁は中国が今後、上位3位以内のパートナーになると予想している。
上位取扱い品目をみると、輸出入ともにエレクトロニクス製品が中心となっている。シンガポールは巨大市場を有する中国の経済開放の進展を新たなビジネスチャンスとして、官民一体となって対中投資促進に取り組んでいる。 2000年にはシンガポールと北京の農産品貿易会社の提携により今後シンガポール市場に北京の野菜、果物、羊の肉が出ることになった。シンガポールの貿易会社数社は北京の農産品貿易会社8社と話し合いを実施し、双方の合意により提携が実現した。[9]
5.フィリピン
フィリピンにとって貿易相手国としてみた中国は、輸出で第11位、輸入で第12位の位置にあり、中国製品が国内市場を席巻するような表立った動きはみられないが、最近、急速に浸透し始めている。フィリピンの場合、伝統的に米国や日本との経済的な結びつきが強く、貿易関係も、最大の輸出先が米国(総輸出の29.9%)で、次に日本(同14.7%)である。輸入については、日本(輸入総額の19.2%)が最大の相手国で、第2位が米国(同15.5%)である。
しかし、ここ1〜2年安さを売り物にフィリピン市場に攻勢をかけている中国製品が、市場に出回るようになった。家電メーカーでは格力、海爾、康佳、美的、春蘭が参入し、TCLも2001年からカラーテレビやエアコンの委託生産を開始した。オートバイも2000年以降中国製の輸入が急増している。市場シェアは10%以下と見積もられており、市場シェアは小さいが、急速な伸びをみせている。
貿易額の推移をみると輸出は、1990年にはわずか6,200万ドルだったが、2000年には6億6,200万ドルまで拡大し、11倍近い伸びをしめした。また輸入は、90年の1億6,200万ドルから2000年には7億6,800万ドルと5倍近く増えている。また比中貿易は過去フィリピン側の慢性的な貿易赤字が続いていたが、近年その赤字幅が急速に縮小している。90年の対中輸出比率は1対2.6であったが、99年には、1対1.8、2000年には1対1.2とその差が小さくなってきている。
またフィリピンはこれまで他のASEAN諸国と比較して外国資本受入額が少なかったが,80年代後半から外国資本の受入れが増加し,今後の産業構造の大きな変化が予想される。[10]
第3節 中国の国際貿易将来像
米『フォーチュン』誌2001年5月14日号によれば、イギリスが19世紀に大部分の時間を費やしてようやく一人当たりの収入を2・5倍増加させた。アメリカは1879年から1930年までに60年の時間を使って収入を3・5倍増やした。日本が収入を6倍増加させるのに25年(1950年〜1975年)もかかった。中国が収入を7倍増加させるのに20年(1979年以来)しかかからなかった。21世紀の最初の10年間に中国経済が依然として7%前後の率で成長し、中国のこの最大の潜在的市場が次第に現実に変わると予測されており、今後も更なる中国の発展が期待されている。
1.日中貿易の新展開
日本から中国へ輸出が増加する背景には第1に、中国のWTO加盟に伴う市場開放をきっかけとする外資直接投資の集中。第2に、WTO加盟のコミットメントである関税の引き下げにより、日系企業の対中投資に伴う設備など資本財が急増している。更に、関税の引き下げによって自動車や自動車部品の輸出も急速に増えている。
一方、中国からの輸入が鈍化している背景については、葱、椎茸、ほうれん草などの農産物輸入に対するセーフガードが影響していると思われる。また、中国製の衣料品は、ユニクロブームが一服したことで伸びが鈍化している。今後の展望として、現在日系企業の対中投資が急増していることを考えれば、将来中国製品の対日輸出は再び急増するものと思われる。[11]
2. 製品構造が高度化する米中貿易
2002年の中国の対米貿易総額は20.8%増の972億ドルを記録し、米国にとって、中国が最大の輸入国となった。当初、中国政府は米国のITバブル崩壊とテロ事件の影響を考慮して、米中貿易も最大でも920億ドルに止まると予想していた。しかし、実際の米中貿易は予想を大きく上回って順調に拡大している。最近、中国政府は、2005年の米中貿易が1,280億ドルに達し、米国が中国最大の貿易相手となるとの見通しを発表した。
米中貿易はこのような「量」の増加だけでなく、「質」的にも向上している。2002年の対米輸出のなかで、ITなどのハイテク製品及び機械・機器類の輸出は全体の3分の2を占めるようになった。かつて、対米輸出の主役だった玩具、衣料品などは依然大きなウエイトを占めているが、金額的にはシェアが低下している。[12]
3.東アジア域内貿易の問題
近年、東アジア(NIES,ASEAN、中国)の(注5)域内貿易が拡大している。NIES、ASEAN、中国の地域・国別の輸出比率を91年と2001年で比較すると、NIESでは対米・対日輸出比率が低下する一方で、対東アジア域内貿易の輸出比率は33.0%から45.4%と大幅に上昇している。中でも対中国については10.3%から20.7%と2倍以上上昇しており対中国依存を強めている。一方、ASEANでは、対日輸出比率が大幅に低下する一方で、対米・対東アジア域内輸出比率は上昇している。また中国では対NIES輸出比率が大幅に低下(51.2%→26.2%)する一方で対米、対日、対ASEAN輸出比率が上昇している。以上のことから、東アジア域内貿易の増加の理由は、
@NIESから生産拠点としての中国やASEANへ中間財を輸出し、中国・ASEANから域外へ最終製品を輸出する構造に変わった。つまりこれまでNIESから直接域外に輸出されていた分が中国やASEANを経由して域外へ輸出される形に変わった。
A中国・ASEANという生産拠点間の輸出の増加は、ASEANと中国生産拠点を持つ日経企業や欧米系の企業による取引が増えた。という2つの可能性が考えられる。[13]
商品別に域内・域外輸出比率を見ると、2001年度では主力のIT関連機器(半導体・集積回路等)は43.5%が域内向け、56.5%が域外向けとなっている。しかしこれを中間財と最終財に分ると、中間財では域内向けが54.1%、域外向けが45.9%と域内向けが過半数をやや超えるのに対し、最終財では域内向けが25.5%、域外向けが74.5%と約4分の3を占めている。このように、東アジアの域内貿易は中間財的性格の分野では密接な関係を築いているが、最終製品では緊密な関係が見られないので、今後は東アジアの域内における最終製品の需要を高めることが必要であると言える。[14]
まとめと感想
中国はアジアに対して政治経済両面から影響を高めており、いずれ米国、日本に変わる存在になるであろう。今後のアジアの動向を展望する上で中国の動向は目を離せない。東アジアが今後も発展するために中国はアジアを意識した外交・経済運営など幅広い分野での協力を進め、域内における相互関係を拡大することが重要である。そして、中国の台頭により中国製品の競争力強化に日本あるいはアジア諸国がどのように対応していくかが大きな問題となるだろう。
また、私が一番注目したいのは中米貿易である。米国は増加し続ける対中貿易赤字に不満を強めており「中国はWTOに加盟したときの約束を果たしていない。知的財産権を守らず、不正に国内企業を保護している」[15]と中国の市場開放の姿勢を強く批判しているので今後、米国
は中国の輸出拡大に対する制約をこれから厳しくすると考えられるので今後も米中貿易に注目していきたいと思う。
しかし、これは米中貿易に限ったことではなく中国は貿易に関して、貿易摩擦(中国製品を対象とする反ダンピング措置の発動など)、通貨摩擦(中国元の切り上げ圧力)、知的財産権摩擦(中国メーカーを対象とする知財侵害訴訟)などのさまざまな問題を抱えているので今後の対応、またそれによりどのように中国の貿易スタイルが変化していくのかも注目していきたい。
用語解説
(注1) プラザ合意:1985年9月、ニューヨークのプラザ・ホテルで開かれたG5(先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議)での合意事項の通称。ドル高修正のため、G5の協調介入を行うことで合意した。この最大の狙いは、ドル安によって米国の輸出競争力を高め、貿易赤字を減らすことにあった。そしてこの合意を受け、日本では急速な円高が進行し、バブル景気が起こった。
(http://www.forexchannel.net/glossary/index.html為替用語集より)
(注2) スーパー301条:米国に対し外国政府が不当な貿易制限等(貿易協定違反を含む)を行っていると米国政府が認めた場合に、これに対抗する権限を認めた米国74年通商法301条の特別手続き。94年3月に大統領令により復活し、97年9月に失効していたが、99年1月に再び復活している。(WTO関連用語集より)
(注3) セーフガード:輸入急増による国内産業への悪影響を防ぐためにWTO協定で認められている緊急輸入制限措置のこと。「一般セーフガード」は、国内産業に重大な損害が生じる場合に限り認められるもので、調査に時間がかかり、利害関係国に補償措置をとるよう努力しなければならない等の条件がついているのに対し、「特別セーフガード」は、定められた基準を超えた輸入の急増や輸入価格の低落時に自動的に発動することができ、輸出国が対抗措置をとることができないのが特徴である。(WTO関連用語集より)
(注4) 加工貿易:原材料を輸人して加工した製品を輸出する貿易。加工貿易は,産業革命ののち工業国としての宗主国と原材料供給地としての植民地とのあいだでおこった。今日でも,資源の乏しい国での工業化は,原材料を輸入し加工して輸出する型をとるが,これを国際的な物流からみるならば,加工貿易といえる。西ヨーロッパ諸国や日本など先進工業国のみならず,韓国や台湾など中進国でもみられるようになった。
(http://www.tabiken.com/history/doc/Z/head0000.htmより)
(注5)域内貿易:地域貿易協定に基づく協同貿易地域内での貿易交流をいう。地域貿易に対しては共通の定率関税を設けることにより域内の交易量拡大と国際分業を進めて、域内諸国の経済成長と緊密化を図ることが目的とされている。距離が近い国同士の貿易、文化が似ている国同士の貿易。(http://www.clb.mita.keio.ac.jp/econ/akiyama/essay/1999.html
- 13kより)
参考文献
・朝日新聞
・日本経済新聞
・中国情報局
・丸屋豊二郎・石川幸一編著『メイド・イン・チャイナの衝撃』
・関志雄ホームページhttp://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/020115ntyu.htm
・WTOホームページhttp://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/wto/
・JETOROホームページhttp://www.jetro.go.jp/top-j/
・http://www.zenchu-ja.org/JAnewHP/ja-zenchu/wto/wtokanrenyougo/
・http://www.fri.fujitsu.com/open_knlg/review/rev073/review13.html - 8k
・2003/7/11http://www.peoplechina.com.cn/maindoc/html/news/77.htm
[1]日本経済新聞 2003年2月19日「米国の輸入相手、中国、日本抜き3位」参考
[2] 日本経済新聞 2003年9月17日「経済教室」参考
[3]日本経済新聞 2002年10月22日「対米貿易黒字、中国、今年も最大、3年連続」参考
[4]JETORO2003年2月18日「対日・対米貿易で躍進が続く中国」
http://www.jetro.go.jp/top-j/参考
[5]日本経済新聞 2002年1月17日「中国農工品2126品目、台湾が輸入解禁」参考
[6]日本経済新聞 2003年7月8日「中韓首脳会談、通信やバイオ、経済協力促進を強調、FTA巡り日中競合へ」参考
[7]人民網日本語版2003年 7月 6日参考
[8]日本経済新聞 2003年9月22日「メコン流域に「四角経済圏」、中国・タイ貿易急増」参考
[9]中新網2002年3月26日「中韓貿易が急増 過去10年で8倍に」参考
[10]岩城徹雄「相互関係強化を模索するASEANと中国」参考
http://www2.pref.shizuoka.jp/all/CHUZAI.nsf/0/47a3f5c66772e66649256c25003409d5?
[11]柯 隆「最近の中国の国際貿易の特徴」Economic Review
2002.7参照
[12] 同上
[13] 中村江里子「中間財で強い東アジアの域内貿」参照
http://www.iti.or.jp/kikan50/50nakamura.pdf
[14]貞清栄子「東アジア経済の自立度を探る」参照
http://www.mitsuitrust-fg.co.jp/invest/pdf/repo303_3.pdf
[15]日本経済新聞 2003年10月29日「中国で生産拡大対米輸出増招く」引用