馬と共に過ごした4年間

99E2362  米山英昭 

            

 大学に入学してからの4年間、僕は馬術部に所属していました。そして、大学の学部は何学部?と聞かれたら迷わず馬術部と答えるほど馬に情熱を注いできました。このエッセイでは、まず、ほとんどの人に馴染みのない乗馬を紹介し、一度潰れかけた愛大馬術部について述べたいと思います。

 まず、ほとんどの人にとって馬と関わりを持つ人はよほどのことがない限り無いと思います。また、乗馬を始めようと思うと「お金がかかるんじゃないか?」とか、海外の国の王女や、日本では皇族が乗馬をしているというイメージがあるため(実際にしているのだが)、乗馬は上流階級のスポーツとして認識されています。

 確かに、馬という生き物は、とても高価な生き物で、競走馬と比べれば乗用馬は安いとはいえ、上を見れば億単位の馬もたくさんいます。また、学生馬術の競技会などで活躍している馬のほとんどは何億、何千万円もする高価な外国産馬たちです。

 しかし、最近では、そういった超高級な乗馬ではなく、一般の人でも気軽に楽しめる乗馬クラブも少しずつですができてきました。そこで活躍している馬たちのほとんどは、競馬界から脱落してきた馬たちです。以前は、競馬界で多少成績を残した馬でないと乗馬クラブに再就職できなかったのですが、最近では、安価な乗馬クラブの出現により競馬界で全く成績を残していない馬や、故障してしまった馬でも乗馬クラブに再就職できるようになってきました。そのような馬たちは、乗馬用に生産された外国産馬と比べると当然見劣りします。しかし、それでも微力ではありますが、そういった馬たちの活躍は、以前、簡単に殺されてきた馬たちの助けとなっているのです。そして、愛大馬術部もある事件をきっかけに、こういった乗馬に関わることになっていきました。

 僕が大学1年生の時、愛大馬術部はいわゆる高級な乗馬クラブのような部活でした。有名な馬に、スポーツ推薦で入学してきたお金持ちの部員、そして、大学内では活動せず、乗馬クラブに馬を預けて、そこで活動するといった学生馬術の典型ともいえる部活でした。

しかし、長い間に渡って競技成績の低迷が続き、部員は次々と辞めていって、気が付いたころには、馬術部は多額の借金を抱えていました。そして、僕が1年生の秋頃には、馬術部は廃部の危機にありました。当時の先輩達は部活に全く顔を見せなくなり、1年生の部員数人で残された1頭の馬の面倒をみていました。そして、1年生部員全員でアルバイトをして、その馬の餌代や、借金の返済をしていました。1年生全員の頑張りにより、僕が2年生の夏頃には借金もほとんど無くなり、愛大馬術部はようやく1からのスタートを切れるようになりました。

 こうして、新たなスタートを切った愛大馬術部は大きく変わりました。1つは、先に述べた高級乗馬クラブのような部活から安価な乗馬クラブのような部活に変わったこと。そして、もう1つは、一般の学生でも馬術部で活躍できるようになったことです。さらに、どこよりも安く乗馬ができるので、以前のように、親に月何十万も仕送りしてもらわなくても、月2千円の部費のみで部活ができるようになりました。

 再スタートを切ったとはいえ、スタート時の愛大馬術部は、部員3人、馬匹1頭という厳しい状況でした。また、その1頭の馬も競技成績を全く残していない馬で、さらに、愛大馬術部は中部地区(新潟県〜三重県)で唯一、指導者のいない部活でした。そんな中、部員でアルバイトをしながら、地方競馬の競走馬を引退した馬を譲ってもらったりして、約半年で6頭の馬がそろいました。そして、指導者がいなかったため、僕は豊田市にある乗馬クラブのスタッフとなり、そこで技術や馬のトレーニング法、管理法を約1年半学びました。その間は大学との両立も難しく、部員にとってとても厳しい期間になりました。それは、片道2時間以上かかる乗馬クラブにほぼ毎日通いながら大学に通い、さらに個人でアルバイトもして、睡眠時間は3時間もとれなかったからです。乗馬クラブに移動中の車の中では、部員同士で毎日のように喧嘩して、その時主将だった僕は、「馬術部は進む道を間違えたかな?」と随分悩みました。しかし、そんな中、僕の手伝いのために乗馬クラブについてきてくれた部員たちは、誰一人として辞めることは無く、逆に1年半の苦しい期間を乗り越えた頃には、愛大馬術部はどこの馬術部よりも団結していたと思います。

そして、それからは、大学の馬を部員自らの手で調教し、出る競技会でもほとんど優勝、入賞し、学生馬術のありかたを他の大学馬術部に問い直すことができたと思います。

 現在、学生馬術のほとんどは高級乗馬クラブのような部活になっており、愛大も以前はそうでした。しかし、個人的には、学生がこういった活動をするのは間違っていると思います。また、努力次第で誰でも上達できる乗馬もあるということを伝えていけば、乗馬はもっと身近なスポーツになるとおもうし、大学の馬術部は馬に全く関わったことの無い人が馬との出会いのきっかけをつくる最高の場所であると思います。そして、乗馬は、実は、年齢、性別を問わず誰でも楽しめるスポーツなのです。中には、60代でオリンピックに出場したり、もっと上の年代の人が世界のトップに名を連ねることもあります。さらに、最近では、障害者や高齢者の乗馬での効用が医学的にも認められてきています。

 僕は大学を卒業して、乗馬クラブに就職することになりました。この仕事を選んだ理由は、馬術選手として活躍したいという夢はもちろんありますが、誰にでもできる乗馬を伝えていきたいという気持ちもあります。そして、何より馬が好きであるということが一番の理由です。