第17章 中国脅威論と安全保障問題

 

 

00 E2006 夏目明典

はじめに

 中国の経済は、発展と調整を繰り返しながらも着実に伸びを示してきた。中国はこれらの経済成長を背景に軍事力の増強に力をいれている。九〇年以降、冷戦が集結して世界が軍縮に向かうなか、このような軍事力の増強は中国脅威論として唱えられている。中国は日本にとって隣国であり、日本の安全保障環境に大きな影響を与える。そこで、安全保障の観点から中国脅威論を見ていきたいと思う。

 

中国脅威論とは

中国脅威論とは西側諸国や近隣諸国が中国に対して抱く政治・軍事・経済面での脅威感で、冷戦が終わり、ソ連の脅威が消滅し、中国がその空きを埋めることを懸念して一九九〇年代はじめに浮上したものである。その中でも、中国の軍事力を脅威視するには実態以上にイメージが先行している側面もあるが、中国独特の安全保障観がこれを増幅させている。

 

第1節 日中両国の安全保障環境

1.中国の安全保障観

 中国の安全保障上の情勢認識としては、冷戦後、軍事二極構造の崩壊によって世界は多極化に向かうが、その過渡的には国際秩序は唯一の超大国・米国を軸とした一超四強(露、中、日、独)の国際関係を基本とする世界と見なしている。中国にとって冷戦後の最大脅威は覇権主義・強権政治(米)であり、強化される拡大NATOや日米安保体制から包囲されているという見方に立っている。その米・一超支配への反発もあって中国は九八年の中露共同声明から「世界の多極化」を一段と強調し始めている。

 また安全保障上の主要因は軍事・イデオロギーから経済や科学技術を主とする総合国力へと変わったとしながらも、同時に軍事革命の波によって新しい情報戦、ハイテク兵器の戦闘への対応も重視している。そして中国は、その経済がなお発展途上段階にありながらも国防強化を重視して、優先して国家資源を国防近代化に投資している。

 これらの背景に、中国はアヘン戦争以降に半植民地化された近代史を通じて独特の安全保障観を抱いているところがあるようで、これが伝統的な中華思想の中で軍事力を重視する信条となり、過剰なまでの自己防衛意識と国家の主権・領土や威信・尊厳などへの強い固執となっているようである。

 

2.日本の安全保障観

日本の場合、第二次世界大戦の教訓から、平和の理念が先行し、紛争解決の手段としての戦争の否定、戦争放棄、戦力の不保持等が日本の安全保障政策の基本とされ、国際通念からかけ離れた特異な安全保障観と防衛政策が進められている。国連憲章や国際秩序の通念から自衛のための防衛力の保持は是認されているものの、日本では憲法解釈の範囲に限って防衛政策が進められてきた。

 そのために日本では国防方針や自衛隊の存在意義、役割などの安全保障に関わる問題が国民的論議や教育のテーマとなることはこれまでなかった。しかし中国では「国防教育法」が制定され、小学校から大学まで国防教育と軍事訓練が実施され、国防教育の普及が義務づけられている。また「国防教育」という新聞まで市販され、防衛問題が日常的に国民に問題提示されており、両国の国防への社会的関心は対照的な違いを見せている。

 中国では憲法上でも国防を高く位置付け、独自の防衛方針に基づく強大な軍事力の保持、武装革命に貢献した解放軍の政治的な重い役割、全国民の兵役義務や防衛意識の高揚等に裏付けられた安全保障観があり、日本のそれとは大きく異なっている。そして日本の基準からはこのような安全保障観に立った中国の軍事力の強化や軍事力の行使などが「中国脅威論」と映ってくることになる。

 

第2節 中国軍事力の特性

中国軍事力の任務は第一に広範な任務にある。

解放軍は国家防衛を第一義としているが、八〇年代には大規模な公共工事の請負など経済建設への寄与にまで任務が拡大されていた。一九九二年の海洋法制定によって軍に「海洋権益」の防護が新たな任務として付加され、さらに返還された香港やマカオの警備も中央軍事委員会に直結した解放軍部隊によって担われている。台湾の独立運動が活発化する趨勢をふまえて「祖国統一」問題に対しても貢献が求められ、国家統合の保障も軍の任務とされてきた。

 これらは憲法に「国家を強固にし、侵略に抵抗し、祖国を防衛し、人民の平和な労働を防衛し、国家の建設事業に参加し、人民に奉仕することに努める」と規定されている。このように解放軍が担う実際的な役割は時代の要請に応じて変化してきた。節度ある軍事力を持って国際協調路線を進むか、軍事大国化し世界に覇権を求める路線を進むか、まさに今その岐路にあるといえる。

第二の特性に解放軍の伝統的な体質が指摘できる。

現在でも解放軍は建国の功労者として党に次ぐ巨大な権力機構である。また健軍の経緯から党の軍隊であって国内安定や政権の支持基盤などの役割を担う政治色の強い軍事力である。さらに生産任務を持ち、かつては兵器貿易、不動産経営など大規模かつ広範な企業経営を展開し、その収益が国防費として再投資されていた。一九九八年末以降は中央軍事委員会と国防院の命令により経済活動が大幅に規制されているが、なお野菜栽培や養豚など自家消費的な生産任務は継承されている。

 これらの伝統的な体質は国防近代化の親展にも関わらず引き続き残り、今後とも解放軍は党軍か、国家防衛軍かの位置付けは曲折を経ることになるだろう。

第三の特性として軍が国際的な関わりを増大させていることである。

 解放軍は伝統的な体質を残しながらも開放政策の進展に伴い国連の活動や国際的軍備管理に対しても安全保障理事会の常任理事国の軍隊として関わり合いを強めるようになってきた。それは解放軍が国連平和維持活動などへの参画や諸外国と軍事交流を展開し、同時に国家としてもアセアン地域フォーラムに参加するなど協調的な安全保障に関わりを深めてきたからである。また国防軍としてのプロフェッショナル化が進展する中で、中国は国際交流を通じて先進国の軍事革命(ARM)の進展などに触発されて国防近代化を加速させている。

第四に中国における軍事面の不透明の問題がある。

全般に中国の意思決定システムや内部の権力関係は外からは見えにくいが、軍事面では本来の機密的部分だけでなくその実態や戦略などがそれ以上に不透明であって、中国の対外戦略を分かり難いものにしている。

 

第3節 中国の軍事力の現状

1.核戦略

 中国の核ミサイル戦力については、限定的な水準であるが、ミサイル、爆撃機、原子力潜水艦の三つの運搬手段を備えているようである。

 具体的には中国の核戦力は、米国やロシアの圧倒的な核戦力には及ばないものの、少数ながら大陸弾道弾は米露両国の中枢都市を射程内に収めて最小限の核抑止力もちつつあるようで、質的な近代化も進められているようである。

 近隣諸国を射程に収める中距離弾道弾は近年その配備数を増加させるとともに、十分に南シナ海を射程に収めることの出来る新型の中距離弾道弾の開発を進めている。

 戦術核も開発を進めている模様で、短距離ミサイルなどの増強もあってアジア周辺諸国にとっては不気味な戦力になりつつある。

 中国は核戦力の「先制不使用」や「非核保有国への不使用」などを宣言しているが、周辺諸国に対する政戦両略の威嚇手段として将来これを直接、間接に活用してくる可能性は考えておく必要がある。

2.地上軍

 通常戦力としては、まず世界第一の兵力規模を誇る地上軍(解放軍)がある。

 中国は伝統的な陸軍国で兵力量は国際的にも突出した規模である。しかし、兵器装備の後進性が指摘されており、開発がされているが、現実にはなお旧式装備が多い。また、運用システムや作戦指揮などのソフト面では多くの課題を残している。

 

3.海軍

近海防衛を目指す中国海軍は北海、東海、南海の三つの艦隊からなり世界第三位の規模である。

 一九八〇年代後半以降、中国海軍は沿岸海軍から近海海軍に脱皮中で、海洋権益防護の任務の付加などによって重点的に近代化が進められている。しかし外洋で行動できる駆逐艦などは限られている。海軍は南シナ海でのプレゼンスの維持は出来る態勢にあるが、長期間の戦闘行動能力がないだけでなく、攻撃的作戦、潜水艦作戦、対空簿作戦などの訓練に着手した兆候は見あたらない。外洋行動能力に課題はあるものの、ロシアからの駆逐艦の導入やミサイルなどの装備などによって西太平洋における対艦攻撃能力は改善されるだろうが、潜水艦はロシアから導入されたものを含むとアジア最大規模の戦力であり、今後シーレーンに及ぼす影響力は大きいものとなるだろう。

 

4.空軍

量的には世界一の規模の航空戦力であるが旧式機が多く運用面からは防空が主体で、航空攻撃などの経験や訓練は少ない。近年、作戦機の更新が重点的に推進されている。

しかし、パイロットの年間訓練時間は少なく、高等な戦術訓練、夜間及び悪天候下での訓練などは十分ではないようである。

 レーダー網や警戒管制などのソフトな作戦運用の面での多くの課題を抱えているが、新型防空ミサイルや空挺部隊の攻撃能力は注目に値する。

 

5.中国の軍事力の現状

中国の軍事力を総括すると、戦略核戦力はアジア随一の戦力として絶対的な存在であるが、通常戦力では世界有数の規模ではあっても質的戦力では全般に旧式の兵器が多く、通常戦力の大規模制は広大な国土や膨大な人口などを勘定する必要がある。また近年、エリート部隊の近代化と引き替えに実質的には兵力は削減傾向にある。これらの中国の軍事力はアジア地域では圧倒的な地位を保持することになるが、米国やロシアの軍事力にはなお及ばず中国の対外的な影響力には限界があると思われ、特に東アジア地域に対する米国の軍事的なコミットメントがある限り中国による紛争生起はある程度は抑制されると見て良いと思われる。これから中国がアジア諸国と経済的な相互依存関係を深化させ、協調的な対外路線を基本としていけば中国脅威論は沈静化することも考えられる。

一方、RMAを迎える趨勢の中で、ソフト戦力の面でも情報能力や統合作戦能力は十分な水準ではない。これから中国の軍事力は核ミサイル戦力を除いては海を越えて遠方に戦力を投入できるパワープロジェクション能力には限界があり、「中国脅威論」が宣伝されるほどの水準には至っていないと見ることが出来る。

 

第4節 中国の国防近代化

1.国防近代化の目標

中国は冷戦後の安全保障環境を踏まえて軍事力整備に当たっては米国への対応力の保持と「ハイテク局地戦の戦勝」を重視している。特に九一年に発生した湾岸戦争によって、先進的な情報技術に誘導された長距離兵器を保持した敵と戦うために、人民解放軍を徹底的に改革・改善する必要を痛感し、また軍事技術の革命が出現したことを認識して、ハイテク戦争を勝ち抜くための戦力を至急増強する必要があることに目覚めたとしている。

 国防近代化の目標はこのような対米核抑止力の向上とハイテク条件下の地域紛争で有用な緊急展開能力の強化に絞られている。具体的な目標としては、移動式の戦略核ミサイルであり、ハイテク局地戦に有利な先端的な情報技術から機動力や長射程の精密誘導兵器がその重点となるだろう。

 二〇〇〇年六月に米国防省が議会に提出した「中国の軍事能力」に関する報告書は、中国の国防近代化の根本目標として、@地域のいかなる敵からも防衛でき、A領有権主張の信頼性を維持でき、B国内の治安を維持し、台湾独立を阻止できる抑止力を維持する、の三点を指摘している。そして建設すべき戦力としては、@地域の有事に柔軟に対処できる少数のハイテク部隊、A低、中程度技術レベルの兵器で武装し、国内治安の維持を担う多数の部隊、B他の核保有国に対して有効な抑止力を維持するつつましい規模の核部隊、を掲げている。

 これから国防近代化に当たって中国は米国の軍事介入や中国封じ込めを抑止する力は核戦力だと見ているようで、その戦力強化と防衛のための地域ミサイル防衛網も含めた開発を重要な目標としている。

 

2.中国の国防近代化の課題

中国の国防近代化の目標に対して、環境条件は必ずしも十分に整っているとは言い難く、当面克服しなければならない課題として先進的軍事技術、兵器製造基盤、近代化資金の三つが考えられる。

第一のハイテク兵器につながる先進的な軍事技術については、中国の現有の水準は核ミサイルなど特定部門を除いてはなお低い技術水準にある。また研究開発のインフラ整備や生産基盤の裾野の広がりも不十分な状況にある。

 中国のハイテク局地戦への対応能力としては、世界の先進レベルからエレクトロニクス、エンジン部門の技術格差は開く傾向にある。中国は自らの国防技術の潜在力を掘り起こしつつ兵器装備の機械化、電子化、情報化。

 また、外国からの先進技術の導入は、ハイテク兵器や軍事技術がロシアから供与されているが、今後とも中国はロシア、イスラエルなどを通じた技術導入によって自力更正を進めていくことになるだろうと思われ、二〇〇一年七月に調印された「中露善隣友好相互援助条約」は軍事同盟であるとも見られており、これによって今後はロシアの対中武器供与の拡大も予想されている。

 第二の課題としては兵器等の製造を担当する軍事工業基盤の弱体化とその限界である。

軍需工業は、一部の重要部門は特別な優遇措置を受けていると見られるが、多くは市場経済下で厳しい競争にも巻き込まれている。さらに、軍からの実需が兵力削減に伴って減少しており、各軍需工業部門は、生き残りをかけて八〇年代から民需品の生産に着手し、今では年間売り上げの八〇%を超える規模にまで民需生産のシェアは拡大している。その結果、国防工業は核ミサイルなど特に重要視されている部門を除いて、軍用部門の生産ラインの縮小、熟練工の配置転換や研究・開発に従事する優秀な研究者の流出など軍需部門の弱体化が現実に進んでおり、将来まで後遺症として残ることもあり得る。

 第三の課題は近代化のための資金的な問題である。これまで公表された国防費は予算として「元」でみる限り継続して増額を示しているが、実体的には八〇年代初めに財政支出の一六%前後を占めていた国防費の比率が八六年には八%台にまで落ち込んでいる。九〇年代に入り本年度まで対前年比で二桁の増額が続けられているが、多くの国が国防費を抑制している中では突出した増加状況であり、その意図に疑念が抱かれている。

 このように連続して増加を繰り返してきた国防費であるが、二〇〇一年度を見てみると額面上は国家GDPの一.八%程度に抑制されている。兵器のハイテク化など今後の近代化資金の所要額の増加を考えると、国防近代化資金は不足状態にあると見ることができる。

 

第5節 日米安保制の役割と中国

1.日米安保制の効果

 日米安保のような同盟関係は、東アジアの安全保障関係を安定させる。それはそもそも、同盟に以下のような三つの効果があるからである。

 第一は、「抑止」と「対応」の効果である。「抑止」とは、攻撃のリスクが大きいことをあらかじめ相手国に分からせて、相手国の武力行使を躊躇させることである。「対応」とは、「抑止」にもかかわらず攻撃をされた場合、それに対処するための実質的な軍事力である。アジア域内の不確定要素への抑止・対応は依然として必要不可欠である。この力が広く地域に共有されていることが、地域の安定をもたらしている。

 第二は、戦略関係の一定化をもたらすことである。地域内で抑止・対応力が広く共有されている同盟関係がなくなった場合、域内各国は周辺地域で危機が起きた際に、自前の軍事力で対応しなければならないと想像する。従って、域内各国は、危機を想定して軍事力増強を図り、結果として軍拡競争を引き起こすことになる。逆に、特定の仮想敵国を持たず、地域に広く抑止・対応力が共有されている同盟が域内に存在すれば、域内各国に安心感を与え各国の軍拡競争を抑制することができる。これは東アジアのどの国にとってもメリットである。

 第三は、域内での安全保障対話の枠組みを促進させることである。南沙諸島のように、複雑に当事者の国益が絡む紛争の場合、同盟関係の抑止力によって、当事者の一方的な武力行使が行われないようにしなければならない。当事者が、同盟の抑止力によって武力行使できない場合、当事者は多国間協調枠組みにおける対話で、紛争を解決せざるをえない。これにより、域内の多国間協調枠組みの対話を担保できる。このことが地域諸国に安心感を与えARFでの各国の対等な話し合いを確保する。

 もしも、このような同盟関係がなければ、東アジア地域の安全保障はARFに頼らざるを得ない。しかしながら、法的な拘束力を持たない対話の場であるARFだけでは、域内有事に対処できず、この地域の安全を保障することが出来ない。同盟関係が、危機の発生を押さえているからこそ、この地域の安定を保つことが出来るのである。

 

. 日米の中国への期待

 日米安全保障宣言には、アジア太平洋地域における中国の重要性についても記載された。具体的には、@中国がこの地域の安定と繁栄にとり、肯定的かつ建設的な役割を果たすことがきわめて重要であること、A日米両国は中国との協力をさらに深めていくことに関心を有する、といった内容が盛り込まれた。

 中国は「責任ある大国」としての役割を果たすことが望まれている。ここで言う「責任ある大国」とは、地域の安定と発展に自覚的に貢献する国のことを指す。逆に、軍事力を増強し、その力を背景に地域に対する国際的な威信と主導権の確立とを目指す「覇権大国」になろうとするとき、中国は最大の不安定要素にならざるを得ない。つまり、中国がどのような大国になるかが、東アジア地域における今後の安全保障環境を左右する。ゆえに中国の責任大国化は地域の安定にとって必須である。これは中国が打ち出している「全方位外交」と何ら矛盾するものではない。

日米同盟が追求する地域の安定のためには、中国を含めた地域諸国の協力が必要となることは言うまでもない。そのためには地域諸国が国際ルールを守り、互いに信頼できる関係をつくっていくことが重要である。周辺国の中国に対する懸念を述べてきたが、これはいたずらに、「中国脅威論」を煽ろうとするものではない。しかしながら、中国が東アジアに大きな影響力を有しているがゆえに、これまでのような中国の行為は、周辺国に必要以上の懸念を拡大し、地域の安定に必要な信頼関係を阻害してしまう可能性を有しているのである。

 現在中国に求められるのは、周辺諸国が中国に対して抱いている懸念に対する誠実な対応である。このような懸念を払拭してはじめて、中国は自身も目指す地域の安全と発展への貢献を確実なものとできるのである。

 

. 不信を招く中国の諸行為

 このような地域大国中国に、周辺諸国は非常に大きな関心を持っている。日本を含む東アジアの国々が中国に期待するのは、中国が地域の安定と発展に積極的に貢献するという、いわば責任大国としての役割を果たすことである。もちろん中国自身も地域の平和と安定に貢献する旨をかねてから表明している。しかしながら中国は、周辺諸国の信頼を得るどころか、帰って不信を招くような行為をしている。

3−1.国防政策の不透明さ

 三度にわたる国防白書の発刊を経てもなお払拭されない国防政策の不透明性や、一九八九年以来、一三年連続で十%以上の伸びを記録している国防費は周辺諸国の懸念材料の一つである。また、英国際戦略研究所によれば、公表額に兵器の開発・生産額は含まれていないため、実際の総軍事費は公表額の三倍といわれる。こうした数値が示唆する中国の軍備拡大の意図はどこにあるのか、この点は理解に苦しむところである。

3−2.南沙諸島への進出

 南沙諸島の領有権問題をめぐる中国側の動きが、当事者の反発を招いている。中国側は八八年に南沙諸島において軍港等を建設したのを始め、九二年に南沙諸島が中国の領土であるという「領海法」を制定し、南沙諸島への影響力を一方的に拡大しようとしている。南沙諸島は六つの国・地域がその領有権を主張する群島である。このような状態で、中国が自国の領土であるとの主張を強硬に押し付け、行動を起こすならば、周辺諸国の不信を招き、地域の安定を崩すことになる。一九九六年以降この地域の「行動規範」を作成しようとの試みが続けられているが、これに対し中国のスポークマンは「行動規範は地域の有効と安定を促進する政治的な文章であり、具体的な争議を解決する法的な文章ではない」と発言するなど、関係諸国の不信を招く発言をしている。南沙諸島周辺は現在小康状態を保っているが、今後の中国の動向が問題解決、更には周辺の安定を左右する。

3−3.日本近海での海軍の動向及び海洋調査活動

 近年は、日本近海で、中国海軍の航行や、中国船による海洋調査活動などが頻繁に行われるようになり、日本の世論もこうした中国の動きに注目するようになっている。九九年には二回、二〇〇〇年には三回も、海軍艦艇が日本側排他的経済水域(EEZ)内で確認されている。特に二〇〇〇年二月、中国海軍艦艇が日本のEEZ内を運行して本州周辺を巡回して情報収集活動を行っていた可能性が高いことに関しては、日本の対中不信感を増大させた。なんの通達もなしに、日本の国土に沿うような形で運行し、さらに情報収集を行っていた可能性が高く、日本の主権の侵害にも値するような行為であるといえる。そして中国側からはその意図が明かされていない。

 これだけでなく、中国の海洋調査船の不審な動きも懸念材料となっている。九四年以降、日本側EEZ内で中国の海洋調査船が多数発見されており、九九年には三十件にも達している。その調査船によって、海底のボーリング調査などが行われていることが明らかになっており、これは海洋法に違反する資源調査である可能性が極めて高い。日本側EEZ内の資源調査には当然日本側の承認が必要であるが、その手続きが行われたことは一度もなかった。この中国調査船の不審な動きが、日本国内に対中批判を引き起こし、ODA批判にもつながったのである。

 この問題が二〇〇〇年八月に国際問題化してから通報枠組みが設置された現在も中国側は日本に対して信頼を損ねる動きを示している。このような活動を中国が行う限り、当然日本の対中不信感はつのるばかりである。

 そして重要なのは、こうした中国の活動が日中間の二国の問題にとどまらないことである。たとえば、事前通知制度を無視した形での海洋調査の続行は、取り決めを遵守しないという中国のイメージを各国間に広げ、中国に対する国際的な信頼を損ねる。中国経済の対外依存度が四〇%あまりであることを考えても、こうした事態は中国にとってもマイナスである。

 

第6節 日中間の安全保障上の問題

1.日本の日米安保体制の必要性

 中国が反発する日米安保体制は日本にとっては安全保障上から不可欠なものであり、この点を中国側に理解してもらうことが必要とされる。すなわち、日本の防衛政策は専守防衛を基本戦略とし、保持する防衛力は地域の安定を損なわないような水準「基盤的防衛力」を目指している。このため、「国防の基本方針」でも「侵略には国連の有効な機能発揮までは米国との安保体制を基盤として対処する」とされてきたということである。

日米安保条約は基本的には冷戦時代の東西軍事対決の戦略環境を前提としたものものであったが、冷戦後、アジアの戦略環境が変化する中で、一九九六年四月のクリントン米大統領の来日時に日米安保体制とその意義が再検討され、新しい機能が再確認された。それは日本の防衛だけではなくアジア太平洋地域の平和と安全維持にも貢献するものと再定義され「日米安全保障共同宣言」が発せられた。

その結果、日米防衛協力のための指針が「新ガイドライン」として合意され、その具体化が進められた。それは日米同盟関係の基本的枠組みは変更せず、日本の行為は憲法上の制約内にかぎるというものであった。また新ガイドラインは、@平素から行う協力、A日本に対する武力攻撃に際しての対処行動、B日本周辺における事態の三つのケースへの対応のあり方を示している。その中で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合の協力について「周辺事態法」に台湾を含むか否かで中国側が神経をとがらせている。「周辺事態」の概念は「地理的なものでなく、事態性質に着目したもの」という日本側の説明を中国側は納得していないようである。

 

2.中国の日米安保体制批判

これまで中国の日米安保体制に対する姿勢は時代と共に変化しており、冷戦下で米国に厳しい対決をしていた一九六〇年代までは当然ながらこれに強く反対していた。しかし一九七〇年代はじめの米中関係改善や日中国交正常化に伴い中国は日米安保体制を容認する姿勢に転じた。それは冷戦末期の戦略環境の中で対ソ統一戦線の形勢に有利であり、それが国益になるということや、日米安保条約が日本の軍事大国化を抑制する装置としても機能することへの期待もあったと見ていいだろう。

 冷戦後は日中両国にとって共通の脅威であったソ連が消滅した上に米中関係が悪化し、中国の日米安保体制に対する見方は再び厳しいものとなった。特に一九九六年四月の「日米安保共同宣言」をきっかけに、中国の批判的な態度はより鮮明になった。それは、直前三月の台湾海峡における中国の軍事演習に対して米国が空母を派遣するなどの反応をしたということと関連づけて日米安保体制の再定義は中国に対する包囲網の強化と映り、警戒感を増幅させることになったのだろう。

 「日米安保共同宣言」に対する中国の反応は素早く、共同宣言発表の翌日には懸念を表明している。中国の主張は日米安保体制は冷戦構造の遺物であり、現在の安全保障環境下で新たに敵を求めて同盟関係の強化を図る冷戦思考であり、中国がその対象にされていているものという懸念である。

 このような見方に立って中国は、日米安保再定義はNATO東方拡大と関連して米国のグローバルな東西からの対中包囲の一環であると受けとめている。この中国の疑念は一九九九年五月のコソボ空爆に関連する中国大使館誤爆事件で頂点に達した。そして中国にとって米国は覇権主義、強権政治であり最大の脅威であるでもあることが改めて実感され、日米安保体制という被包囲感も強めていった。

 一九九七年九月に公表された新ガイドラインに対しても、「周辺事態」に台湾が含まれているとして強く批判している。さらに、一九九八年五月に北朝鮮のテポドンミサイルが日本の領土上空を飛び越えたことで、日本は米国と共同で弾道ミサイル防衛網を研究することを決定した。これに対しても中国はアジアの戦力バランスを崩すものとして抗議を繰り返している。さらにはこれが日本の軍国主義化の第一歩になるとして警戒している。

 

3.日中間の安全保障上の課題

日中両国間の安全保障面での課題をあげてみると、第一に、隣接する大国という環境下での相互の軍事(防衛)力評価の問題がある。

 日本側から見ると中国は軍事大国化と覇権的行動への懸念を持っており、中国側から見ると日本の防衛力の強化とそのアジア地域への影響力の疑念を持っていると考えられており、それはまた、経済大国日本が政治的影響力を国際社会に拡大させるのではないかという懸念と、政治・軍事大国である中国が経済発展の成果でさらに軍事力を強化させるのではないかという双方の不安感が相互不信と警戒感を増幅させてしまったと考えられる。特に軍事(防衛)力についての相互の認識は、両国間で安全保障や軍事の問題を協議することなく友好関係を追求してきたために取り残されたものである。

 第二は日米安保体制に対する両国の認識と評価の違いである。

 日本側は防衛体制を完成させるには日米安保体制は不可欠であると認識しているのに対して、中国側はこれを自国に対する包囲網と見なしていることである。そして中国は二国間軍事同盟の廃止を主張し、替わって多国間の安全保障枠組みの構築を強調し始めている。

これらは中国と日本の安全保障ギャップの問題だが、同時に日米中トライアングル関係の中で日米安全保体制をどのように位置づけるかという問題にまで発展する。

 第三として日中両国の主権や国益に関わる尖閣諸島の領有問題であり、関連した東シナ海の海洋問題でもあって、状況によっては外交レベルを超えて現実的な安全保障問題に関わってくるだろう。尖閣諸島は歴史的にも国際法上からも日本の固有の領土であり、現に実行支配しているが、中国も領有権を主張している。さらにこれには海底資源の開発や海洋権益の競合が重なっており、近年の中国の東シナ海における、時として領海侵犯を伴う中国の海洋調査活動や中国海軍の演習、漁業上のトラブルなどが問題となっている。

 

将来展望と感想

 中国の軍事力の現状は中国脅威論といわれるほどの水準までには至っていないということだが、これからも中国が軍事力の近代化を順調に進めていけば、近い将来中国は本当に軍事的脅威となってしまう恐れがある。また、日中両国は互いに安全保障観が異なるということで、これから両国の友好を深めるためにも、重要な問題である安全保障面での対話などをし、相互理解の場などを作っていかなければ、中国脅威論というものが沈静化していったとしても再び浮上してしまうと思う。最近は中国の軍事動向についてあまり取り上げられていないが、これからも日本の安全保障環境の点からこのような動向に注目していきたいと思う。

 

 

 

 

 

参考文献

『中国は何処に向かう?』 茅原郁夫 2001年 蒼蒼社

『日米中安全保障協力を目指して』 岡部達味 高木誠一郎 国分良成 1999年 勁草書房

『中国の軍事力』 平松茂雄 1999年 春秋新書

『中国の軍事力』 宇佐美暁 1996年 河出書房新社

『中国の戦略的海洋進出』 平松茂雄 2002年 勁草書房

『中国の最終目的』 杉山徹宗 2001年 祥伝社

http://www.t-komazawa.ac.jp/personar/muromoto/semi/kunimoto/untitled.htm

http://www.fuji-seou.org/seoulib010725.htm

http://www.drc-jpc.org/AR3-J/inoue-j.htm

http://www.roc-taiwan.or.jp/news/weeknews204.htm

 

 

 

 

 

00E2006夏目明典

 

 私が李春利先生の専門ゼミを志望した動機は専門ゼミの内容紹介を見て、内容や運営方法が他の専門ゼミより面白そうで、先輩方の評価も高く、専門の授業で中国の経済のことを勉強したところ、中国の経済への興味がわき、専門的に中国の経済を勉強して生きたいと思い、この専門ゼミを志望することにしました。この専門ゼミは学生主導型ということで、仏の講義ではあまりない型となっており自分の意見が発表しやすいと思うので、積極的に発表し、将来の自分に役立つような、言論で人を納得させるような力をつけていきたいと思うし、論文執筆能力など、自分にあまりないような能力がこの専門ゼミに参加すれば得ることができるような気がします。近年の中国は、世界の工場と言われるまでに経済が発展してきており、私の着ている服などにも中国で生産されたものが多く見られる。中国の経済発展は、私達の生活に密接なものとなってきているので、なぜここまでの経済発展をすることができるのかという点を勉強していきたいと思いました。

 私の趣味は、地元の祭りに参加することです。私は知立市に住んでおり、毎年、5月と9月に祭りがあります。5月の祭りは山車が出る祭りで、私は山車の中でお囃子をやり、9月の祭りは手筒花火をやります。仲間で一つの事に向かい努力していくところが楽しく、感涙する人もいます。昔から言われるように、祭りの本番より準備のほうが面白いと言われるのがよく分かります。

 私は二年前の7月の後半にオーストラリアにラグビーの選手として合宿と旅行に行きました。ゴールドコーストとシドニーに10日間ぐらい泊まり、オーストラリアの高校生とと試合をしたり、町を回ったりしました。向こうの高校生はとても背が高く、筋肉質でとても厳しかったけど、なんとか試合で勝つことができました。日本では試合後になにもやらないけど、向こうでは試合後にパーティーみたいなものをやり、互いに健闘を讃えるということを毎回やるらしく、向こうの高校生とジェスチャーを交えて話をし、楽しめました。ゴールドコーストでは町外れに泊まり、夜に町を歩きましたが、店を閉めるのが早く、7時くらいではほとんどの店が閉まっていました。夜に歩くのは危険かと思いましたが、思ったより治安はよく、安心しました。向こうの英語はアメリカなどとは違うようで少しなまっているようで、みちを尋ねたときや、コーチの言葉が英語ではなく違う言葉を話しているようで少し戸惑うようなことがありました。私はオーストラリアには普通に町の外れなどにコアラやカンガルーがいるものだと思っていましたが、全然見ることができず、少し残念に思いましたが、ブルーマウンテンなどで大自然を見ることができ、とても思い出に残るものとなりました。