第13章 アジア戦略資源争奪とシーレーン確保問題
『南シナ海の資源』
00E2101 石丸泰央
はじめに
世界需要の増加、深刻な資源不足の表面化は、死活的に重要な資源をめぐる国家間の争いを激化させる。減りゆく不可欠な資源をめぐる争いは、多くの重要な資源が複数の国に共有されていたり、国境紛争地帯や係争下の経済水域に位置している。日本、中国、他アジア諸国においては南シナ海が資源紛争の舞台となっているのである。そこで南シナ海の資源戦略を中心に取り上げていきたいと思う。
第1節 南シナ海の石油戦略
「広大なアジアの太平洋西端に、「戦略的トライアングル(ペルシャ湾・カスピ海沿岸・南シナ海)」の一角がある。北に台湾と中国、東にフィリピン諸島、南にインドネシアとマレーシア、西にベトナム。南シナ海は、アジアで最もダイナミックかつパワフルな国々に接している。古くから海上交通の交差路であるこの海域に、大規模な石油・天然ガス資源が眠っていると見られている。ペルシャ湾とカスピ海よりもずっと大きな海洋だが、二つの大きな共通点がある。海底資源をめぐる争いの下にあることと、当事各国がそれら資源を死活的に重要な国益とみなし、武力行使も辞さない構えを見せていることだ。南シナ海における海底資源の支配争いを駆り立てているのは、アジア太平洋地域の並外れた経済発展である。1997〜99年の経済危機に見舞われるまで、環太平洋諸国は年間10%を上回るほどの目覚しいペースで経済成長を続けていた。経済危機によって多くの国々の経済が減速または後退に転じたものの、その影響は比較的短期間だった。例えば中国と台湾は、急成長のペースがいくらか鈍った程度だった。それまでの中国は実に年率11%超の成長を続けていた。21世紀初頭には東アジア全域で高成長の回復が見込まれ、再び世界経済の牽引役となることを期待されるようになっている。ここ数十年間のアジアの経済成長と共に、エネルギー需要も拡大の一途をたどってきた。1990年代の大半を通じ、東アジアの主要経済10カ国・地域(インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、台湾、中国、日本、フィリピン、香港、マレーシア)は、他の世界の役10倍に及ぶ年間5.5%のペースで成長を遂げた。アジアエネルギー需要の増加率は21世紀初頭から半ばにかけてやや鈍る見通しだが、それでも年間3.7%と他の世界を上回るものと見られている。世界のエネルギー消費に占める割合では、アジアは2020年までに約34%を占めるようになると見込まれている。残りは北米が24%、西ヨーロッパが13%、旧ソ連諸国および東ヨーロッパが12%である。」(アジアのエネルギー消費予測1990〜2020年表参照)
アジアのエネルギー消費予測(1990〜2020年) (単位:千BUT) |
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地域/国 |
1990年実績 |
1997年実績 |
2005年予測 |
2015年予測 |
2020年予測 |
1997〜2020年平均増加率 |
|
アジア開発途上国合計 |
51.4 |
75.3 |
105.0 |
126.4 |
172.6 |
3.7 |
|
中国 |
27.0 |
36.7 |
55.0 |
68.1 |
97.3 |
4.3 |
|
インド |
7.8 |
11.8 |
17.0 |
20.4 |
27.3 |
3.7 |
|
韓国 |
3.7 |
7.5 |
9.3 |
10.7 |
13.4 |
2.6 |
|
その他 |
13.0 |
19.3 |
23.7 |
27.2 |
34.7 |
2.6 |
|
アジア先進国合計 |
23.0 |
27.1 |
29.2 |
31.1 |
33.1 |
0.9 |
|
日本 |
18.1 |
21.3 |
22.6 |
24.1 |
25.4 |
0.8 |
|
世界合計 |
346.7 |
379.9 |
449.0 |
500.2 |
607.7 |
2.1 |
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(世界資源戦争p164-165より引用・表作成)
「アジアのエネルギー需要の増加は、とりわけ石油と天然ガスの大幅な需要増をもたらす。現時点での予測では、2020年にアジア諸国はエネルギー消費のほぼ半分を石油と天然ガスに依存するようになる。石油消費は日量3300万バレルに達する計算だ(1997年時点では日量1900万バレル)。この増加分1400万バレルは、現在の中南米、中東、旧ソ連諸国の合計消費量に匹敵する。天然ガスについても、2020年までに消費量が石油にもまして大幅に増加する見通しである。アジア各国にとって、これだけの量の石油と天然ガスの確保はとりわけ大きな問題となる。なぜなら、アジアには十分な資源がないからである。中国やインドネシアなど中規模の石油天然ガス資源を持つ国はあっても、ペルシャ湾やカスピ海のような大規模な資源を持つ国はない。1990年代末時点でアジア諸国の石油需給は、消費が日量1900万バレルであるのに対し、域内の生産量は700万バレルほどにすぎない。このギャップは2020年までに倍増し、石油輸入は日量2500万バレルに達する見通しだ。天然ガスについても同様で、今のところは消費量と生産量がほぼ均衡しているが、今後は輸入依存度が高まっていく。」p166
第2節 アジアシーレーンとシーレーンを脅かす海賊
1.アジアシーレーン
「国内資源がきわめて乏しい日本にとって、エネルギーの確保は難題だ。日本は、エネルギー消費の56%を占める石油を輸入に頼っている。国内の原油埋蔵量は、わずか10日分の消費量を満たすだけの約6000バレルにすぎない。石炭と天然ガスの埋蔵量はそれを上回るが、石炭は消費量の99%、天然ガスは97%を輸入に依存している。日本は電力の一部を原子力・水力発電で供給しているものの、一次エネルギー需要の約80%が輸入石油・石炭・天然ガスでまかなわれている。こうした輸入依存の継続は、必然的に地政学的影響を伴う。日本は輸入原油の約75%を中東に依存しており、今後は他地域の石油資源減少とともに、中東への依存度がさらに高まる見込みである。そして中東からの輸入原油のほぼ全てが、インド洋とマラッカ海峡を抜けて南シナ海を斜めに横切るルートで運ばれている。南シナ海はまた、オーストラリアからの石炭、インドネシアの液化天然ガスの輸入ルートでもある。これらの海域を通行するタンカーの安全確保は、日本の戦略的優先事項である。中国と日本はアジアのエネルギー消費の大部分を占めているが、その他の国・地域(インドネシア、韓国、タイ、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア)でも石油と天然ガスの消費が拡大している。今のところは国内資源で需要を満たしている国(インドネシアは石油・石炭・天然ガス、ベトナムとマレーシアは石油資源を持っている)もあるが、いずれも今後は輸入で補うことが必要となる。さらに各国とも、エネルギーの輸入及び輸出を海運に頼っている。そして最も重要な点は、韓国を除く全ての国・地域が南シナ海での資源開発権を主張していることであり、中国のライバル、あるいは互いにライバルとなる可能性がある。韓国と台湾は日本同様、エネルギー資源に乏しく、需要増への対応がとりわけ大きな難題となる。1999年時点で、韓国と台湾の石油消費は合計日量290万バレルであり戦略的観点からして、韓国と台湾の状況は日本に似ている。つまり中東原油への依存度が高く、その大半を南シナ海経由で運んでいるのである。これに対し、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアの戦略的ポジションはやや異なっている。いずれも国内に一定規模のエネルギー資源を持ち、その一部を周辺諸国に輸出している。しかし、インドネシア以外は少なくともエネルギーの一部を輸入に頼り、またインドネシアも今後は石油輸入国に転じる見通しにある。したがって、韓国と台湾同様、各国とも海運ルートの安全保障が重要な国益となり、各国の石油・天然ガス資源の多くは海底資源、主に南シナ海とその周辺であるため、海域の安全保障への懸念が増幅されている。また海底油田の開発とともに領海保全もさらに重視されるようになっている。」172-175
2.海賊問題の現状と日本の取り組み
2-1 海賊増加の背景
海賊行為は、国連海洋法条約の「海賊」に含まれない領海内での事案がほとんどである。
東南アジアで海賊行為が多発している原因としては、マラッカ海峡等において低速航行を強いられる等の地勢的要件、多数国の領海が入り組む海域における取締りの困難性、被害届出の忌避等の要因が挙げられる。また、アジア通貨危機以降の経済不況による貧困増加、インドネシアの政情不安、米ロの海軍プレゼンスの縮小等もその背景にあると考えられる。
2-2 発生地域
東南アジア(インドネシア、マレーシア、マラッカ海峡、バングラデッシュ、インド)で全体の65%を占めている。(下表参照)
|
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
東南アジア |
88 |
63 |
16 |
38 |
71 |
124 |
92 |
89 |
161 |
242 |
極東 |
14 |
7 |
69 |
32 |
47 |
17 |
19 |
10 |
6 |
20 |
印度亜大陸 |
|
5 |
3 |
3 |
24 |
26 |
40 |
22 |
45 |
93 |
南北アメリカ |
|
|
5 |
11 |
21 |
31 |
36 |
35 |
28 |
39 |
アフリカ |
|
|
7 |
6 |
21 |
25 |
46 |
41 |
55 |
68 |
その他 |
5 |
31 |
3 |
|
4 |
5 |
14 |
5 |
5 |
7 |
年間計 |
107 |
106 |
103 |
90 |
188 |
228 |
247 |
202 |
300 |
469 |
2-3 日本の施策(海賊対策における基本的な考え方)
(1) グローバルな場における協力として、国連海洋法条約関連会議等(国連総会、国連非公式協議プロセス等)における問題提起・「海上航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(ローマ条約)等の関連条約への各国の加入促進。・国際海事機関(IMO)における協力の促進。
(2) アジア地域における協力として日本は、アジア海域における海賊対策はアジア諸国のイニシアティヴに基づき促進されるべきであるとの考えに基づき、アジア諸国間の協力を促進するために以下のような具体的諸政策を実施していく。@海賊対策に関する地域協力協定作成についての検討 A海賊問題に対するモメンタムの維持(「ASEAN+3(日中韓)首脳会議」等、国際会議等における海賊問題への言及、ローマ条約締結の呼びかけ等) B海賊多発地域に対する貧困対策支援 C各国海上警備機関の能力向上に対する支援(人材育成・技術支援) D船主、荷主側の自衛策強化への支援(ASEAN各国船主協会との連携)
2-4 日本の具体的な取り組み
「近年アジア地域で頻発する海賊問題は、貿易立国たる日本の輸送ルートへの脅威となっているばかりでなく、地域全体の社会の安定と経済の繁栄に大きな影響を与え得る問題となっている。このような問題意識から、日本は1999年11月のマニラでのASEAN+1(日本)首脳会議の場において、小渕総理大臣が沿岸警備機関等の関係者による会議の開催を提唱し、2000年4月、東京において「海賊対策国際会議」を開催した。2000年9月には、河野外務大臣(当時)の提唱により、日本政府は、「海賊対策調査ミッション」をフィリピン、マレイシア、シンガポール及びインドネシアに派遣し、各国との具体的な協力・支援策について調査及び意見交換を実施した。2000年11月には海上保安庁の巡視船がインドとマレイシアを訪問し、海賊対策を目的とした連携訓練を実施するなど、二国間の協力は着実に進展している。一方、地域的な取り組みに関しては、各国の主権に直接関わる問題であることから、その枠組みづくりは決して容易ではないが、日本として積極的なイニシアティブを発揮するべく、2000年11月のシンガポールでのASEAN+3(日中韓)首脳会議において森総理大臣(当時)が「海賊対策アジア協力会議」の開催を各国に呼びかけ、2001年10月4、5日に東京において同会議を開催した。2001年11月のブルネイでのASEAN+3(日中韓)首脳会議において小泉総理が海賊対策に関する地域協力協定の作成を政府レベルで検討するための「政府専門家作業部会」の開催を各国に対して提案した。ASEAN諸国側は日本のイニシアティヴを高く評価しており、引き続き具体的協力につき協議していくこととなっている。」(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/より参照
・引用)第3節 排他的経済水域(EEZ)の重なりから生じている各国間の複雑な領有争い
かつては中国貿易船の寄港地であった。明の時代に中国人が居留。
(ワールド コンフリクト世界の紛争 2000.10.26より表作成)
3.ミスチーフ環礁事件が引き金になった、スプラトリー紛争における中国の戦略的対応
1)資源輸入先の国々を確保すること。(輸入先の国々の安定と、これらの国々との友好・連携が必要。)
2)シーレーン(特に「アジアシーレーン」6000km)の安全を確保すること。(このシーレーン上ではトラブルが多発しており、特に注意を払う必要がある!)
3)輸入物資に高い付加価値を付けること。(日本のみでしか作れない「超ハイテク産業」の育成、等。徹底した高度な科学技術教育と勤勉な労働力の二つが必要不可欠。これは「日本の教育」の問題になる。)
4)輸出先の国々を確保していくこと。(輸出先の国々の安定と、彼らとの友好・連携、等が必要。)
最低でもこの4つの条件を頭に入れて今後の日本の将来を考えていかねばならない。」
(http://www.nishimurajuku.com/juku2/top/shikata.htmlより参照・引用)
第4節 中国の第十次五ヵ年計画西気東輸プロジェクトの最新動向
(http://www.china.org.cn/japanese/44092.htmより引用)
http://classes.web.waseda.ac.jp/z-taga44/top-nansa.doc
・http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/より参照
http://www.nishimurajuku.com/juku2/top/shikata.html
・チャイナネットhttp://www.china.org.cn/japanese/44092.htmより参照