第12章 農業自由化と食料問題の日中比較

『大きな試練を迎える日中農業』

 

                           00E2296 太田実里

 

はじめに

 2001年12月11日中国は正式にWTO(世界貿易機関)に加盟した。WTO加盟は大きなインパクトとして受け止められ、その中でも一番打撃を受けるとされる農業については非常に大きな問題を抱えており、これからの中国の農業が世界の農業に影響を与えるといっても過言ではない。また日本についても同様、農業が大きな問題となっている。また農業と関連して最近メディアを騒がしている食の安全性も懸念されている。日本と中国の農業の抱える問題を比較しながら調べていこうと思う。

 

1節 自由化における日中の位置

1.難航するWTO農業交渉

「日本経済の自由化のなかで最大の問題とされているのは“農業自由化”問題である。日本は世界でも有数の農業保護国である。コメや牛肉をはじめ、日本の主要な農産物は、輸入数量制限によって輸入を制限されていた。その一部は関税に移行したが、コメなど一部については輸入数量制限が課されている。日本経済の工業化の過程で農業の生産性がそれほどのびなかったため、日本の国内農産物の生産コストが高くなった。自由に農産物が輸入できたら輸入が増大して国内価格は低く抑えられただろうが、輸入数量制限がなされていたため国内価格と国際価格の乖離幅は拡大していった。

 しかし、輸入増大への努力が払われなかったわけではなく、海外からの要請にこたえる形で次々と自由化措置がとられ、その結果、日本の農産物の輸入は増え続け世界最大の農産物輸入国となり、それに伴い、日本は食料を海外から依存するようになった。

 こうしたなかでウルグアイラウンドが開かれ、農業分野の自由化交渉が行われた。日本にとってはコメの自由化が一番大きなテーマとなった。コメは単なる一作物ではなく、日本の農業そのものである。農家や農業関係者による反対の声の中、ウルグアイラウンド農業交渉が進み、交渉は、国境措置(関税、輸入制限)、国内助成(農業補助金)、輸出競争(輸出補助金)の3分野にわたり95年から2000年にかけて保護水準を引き下げていくことを主な内容とした。GATT(WTOの前身)の基本原則によれば、輸入数量割当ては違法になり、すべて関税に切り換える(関税化)とある。輸入制限の対象であるコメは違反になるが、輸入数量割当ては維持しつつ、海外からはまったく輸入を認めないというのではなく、一定量の輸入を行おうというミニマムアクセス(最低輸入制限量)を特例として受け入れた。

 また、2001年11月から新たな多角的貿易交渉(新ラウンド)がドーハで開始された。新ラウンドとは、ウルグアイラウンドを引き継ぎ、かつ、21世紀の世界の自由貿易体制のあり方を決める交渉であり、やはり農業交渉は重要な部分として位置づけられている。今回の新ラウンドの農業交渉では95年から2000年までに実施された保護削減の過程を引き継ぎかつ、さらなる保護水準の引き下げを目指し、非貿易的関心事項も考慮に入れることである。日本の交渉内容は、@農業の多面的機能の重要性A食料安全保障の重要性B輸出国と輸入国間の公平性C途上国への特別配慮D遺伝子組み換え作物等新たな課題への対応の5点に、関税は品目毎に柔軟性を踏まえ、アクセス量はルールの改善、セーフガードの存続など「非貿易的関心事項」を強調し、それにより保護削減を阻止ないしは最小限に食い止めようとするのがねらいである。この日本の内容に好意的なのはEUや韓国など極少数で、反対にアメリカなどは段階的に自由化し、最終的には完全自由化を要求している。来年3月には“モダリティ”を確立することになっており、その確立が実質的な交渉の決着を意味する。

 自由化が進めば安価な農産物が日本の市場を占領することになり、日本の農業も打撃を受けさらには食料自給率を下げる要因にもなるのである。ウルグアイラウンド交渉時の農業関係者のコメ自由化反対の声はすさまじかった。自由化が食料問題、食の安全保障などを引き起こすのである。本格的な保護削減や国際化は今回の交渉から始まるのであり、さらに今回の交渉では中国も参加してくる。まさにこれからが正念場となる。」[1]

 

2.中国農業を左右するWTO

 中国がWTOに加盟するのに長い歳月を要した1つの理由として農業分野の交渉があげられる。「国内の農業保護を図るためデミニマス(用語解説1)は先進国5%途上国10%の間の8.5%という特別枠で輸出補助金は使用しないこと、対中セーフガードを12年間認めるなどをWTO加盟条件としてあげた。関税引き下げは以下の通り

品目

関税割当て数量(万t)(うち国家貿易割合)

関税引き下げ

加盟初年度

一次税率

二次税率

コメ

332.5(50%)532(50%)            (2004)

1%

74%65%

小麦

788.4(90)963.6(90)             (2004)

1%

74%→65%

トウモロコシ

571.5(71%)→720(60%)            (2004)

9%

74%→65%

大豆油

211.8(42%)→358.71%(10%)         (2005)

9%

74%→65%

砂糖

168(70%)→194.5(10%)            (2004)

20%15%

71.6%→50%

http://www.maff.go.jp/sogo_shokuryo/fta_kanren/fta_kanren.htmより

3.WTO加盟後の中国農業の影響

 WTO加盟により中国の農業に与える影響は2つの方面から考えられる。1つはWTOの農業に関する枠組みの影響である。農業協定は全世界の農産品の貿易自由化を目標とし、その発効は世界的な価格や市場開放、世界の輸出入貿易の局面、農産品国際貿易規制などの方面で巨大な変化を生じさせることになり、世界の農産品市場や国際的な農業の発展に深い影響を与える。これらの影響はすでに始まり、かつますます国際化しつつある中国の農業にも必然的に伝わるものと考えられている。2つにWTO加盟後、中国農業はWTOの農業に関する枠組みの拘束を受けると同時に、WTO加盟談判における農業に関して行った承諾も忠実に履行していかなければならない。

 短期的な影響はあるものの、長期的には中国の農業には有利となる。その主な点として、

@WTO加盟後、中国は貿易の開放、特に関税の引下げを享受でき、かつ多くの加盟国の最恵国待遇を無条件に得ることができ、特に発展途上国に対する最恵国待遇は、中国の農業の国際化に有利な環境をもたらす。

A中国が国際的規範を参考にして農村の経済体制改革の深化させ、農業の総合的な生産能力を増強させることができる。

BWTOの関連事項と紛争処理メカニズムを適時運用し、国内の農業生産と農産品市場を保護し、国外の農産品の大量流入に対する衝撃の回避や、農業多角的貿易談判に参加することにより農産品貿易の秩序と多くの発展途上国の利益を擁護し、少数の先進国の短方向貿易や農業貿易の保護主義をおさえていくこと。

Cその他の国の中国農産品輸出の非関税制限措置など不公平な待遇を減少し、中国農産品の国際市場参入を促進するのに役立つ。

D中国農産品の国際市場における割当てが拡大。

 また、不利な面としてWTO規則と各国の承諾により一定程度農業市場を開放し、保護貿易を減少していかなければならない。

@過去、中国国内の農産品価格は国際市場価格より低く、農産品の輸入制限は非関税措置をとっていたが、WTO加盟後関税措置でのみ農産品の輸入を制限することができ非関税措置をとってはならず、したがって、国内の農産品市場の対外開放を避けることができず、世界市場の衝撃と挑戦に直面する。

A国内農産品に対する衝撃は以下に反映する。1つに保護貿易が相対的に減少すると同時に中国の農産品に対するコストは高まり、国内農産品市場は、国際市場の低価格農産品の衝撃をうけ、2つに政府の農業生産に対するコントロールの幅や力に影響を及ぼす。3つに中国の農産品市場開放の過程で中国の農産品市場が大量に国内流入すれば、外貨負担が増加する。

WTO加盟は短期間で対外貿易体制に大きな転換をもたらし、農業の国際化の進展を促進することにもなる。また、農産品市場の問題は国内農業に留まらず、中国社会全体に与える影響は極めて大きいのでなぜ、WTO談判で中国の農業問題が大きな焦点となったのかわかる。」[2]

 

4.農産物個別の影響

 コメ:現状では割高なコメだが世界のコメ貿易自由化の流れが貿易自由化を後押し。今後は品質と消費国の嗜好が重要になるため中国農家は品種改良が求められる。

小麦:主な輸出先であるアメリカEUとは補助金を削減していくため低価格による輸入はできず、オーストラリアやアルゼンチンからの輸出にシフト。国際価格が上昇してもアメリカ、EU、オーストラリアには生産能力があるため中国の輸出は不利。

トウモロコシ:生産技術は高いが、生産規模が小さくコストも高いため、圧力に直面。

食用植物油:競争力はあるが技術の遅れなどで逆に国内価格のほうが高い。消費は伸びているが生産が追いつかず輸入に依存。

綿花:繊維製品輸出の増大により今後、輸入が増大。

砂糖:輸入に依存。今後経済成長と収入増に伴い輸入が増加。

その他、野菜、鮮花等輸出拡大が見込まれる。

 また、中国農業部はWTO加盟後の農業を発展させるため、農業構造の調整、優位性の発揮、品質の向上、競争への奨励など農産品の向上を任務として四つの発展戦略を打ち出した。

 

5.中国農産品がもたらす影響

 WTOに加盟した中国が日本にもたらす影響として、日本は中国最大の食料品輸出先で、対日食料品輸出の構造を具体的にみると、@生鮮、冷凍の魚介類A生鮮野菜類B加工した肉、魚介類C加工した野菜、果物類の4種類がシェアの大半を占める。特に@とC両シェアの合計は41.7%に達し、中国の対日食料品輸出の拡大は加工食品の影響が大きな要因としてあげられる。また、対日食料品輸出シェアは近年一貫して食料品輸出総額の約36%を維持している。しかし、その勢いには昨年から鈍化の傾向がみられる。対日食料品輸出の伸び率は00年の14.2%に対して、01年に5.6%、今年上半期はさらに2.4%まで下がった。その影響としてあげられるのが最近メディアを騒がしている中国の残留農薬野菜の問題で、中国産ホウレンソウから基準値の180倍の農薬が検出されたことである。残留農薬基準は厚生省が定めているが冷凍野菜は加工品扱いで検査がなく、検疫体制は十分ではないという矛盾もある。残留農薬問題で一時は輸入量は減ったがこれは一次的なことであり、また増えると予測される。やはり日本の市場は魅力的なのである。食料の安全保障に重点をおく日本としては、今後安全管理のあり方が問われる。

 

6.日中の農業部門におけるFTA戦略

 同じ自由化としてFTA(FreeTradeAgreement、自由貿易協定)をとりあげてみようと思う。「FTAとはWTOにおける多角的貿易体制への取り組みを中心としこれを補完する仕組みとして機能し、2国間ないし地域間でのFTA締結は短期間で高度な貿易自由化を達成できると認識され始めたため、近年世界的に増加している。日本も、中国がASEANとFTA交渉を開始という新事態に対応して、域内FTAの積極的に対応したととらえられている。その最初の相手として、日本はシンガポールとの間に2002年1月我が国初めての貿易協定として「日星新時代経済連携協定」に署名した。同協定での農業部門では農林水産品約486品目(農林水産品全体の21%)を無税とした。なぜ、シンガポールが最初も相手国になったのか。それは、シンガポールとの間に占める農林水産品の比重が小さかったことにある。また、他のASAEN諸国とも話し合いが交わされているが日本は積極的になれないでいる。それは、農業問題が政治的問題に発展しかねないことや日本国内の農業に打撃をあたえかねないことにある。

 一方中国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)との間で自由貿易協定を含む包括的経済協力の枠組みに署名し、2003年7月から農林水産物に限り貿易自由化を先行実施(アーリーハーベスト)することをもりこんだ。対象品目は肉、魚介、乳製品、木材、生鮮野菜、果実など8分野計数百品目。また、ハイブリット米(用語解説2)の栽培や科学肥料、利水などの分野で中国がASEANから100人の研究生を受け入れる一方で40人の専門家をASEANに派遣。その他、バイオテクノロジー、漁業、林業の分野でも人材育成や共同研究を実施するなど、日本とは対照的で意欲的であり、その裏には日本に対するけん制もうかがえる。」

 

2節 食料問題

1.食料自給率の低い日本

自由化の問題のところで、自由化が食料自給率を下げる要因でもあることをふれたがここでは自由化以外の要因を取り上げてみたい。

 よく私たちは、「日本の食料自給率は低い」という言葉を耳にするが、「食料自給率」という言葉の意味は食料供給全体に占める国内供給の割合である。早い話、どれだけ自国で食料をつくれるかということである。日本の食料自給率が40%と先進国の中ではかなり低い水準であり、実に6割を輸入にたよっていることになる。この「食料自給率」が低いと何が問題になるのか。その前に輸入の現状を表にしてみた。

「農林水産物の輸入数量(2001年)

品目

数量(万t

前年比%

トウモロコシ

16,222

+0.7

大豆

4,832

+0.1

小麦

5,521

-5.7

生鮮野菜

895

+4.4

冷凍野菜

720

+4.8

アルコール

456

+2.1

丸太

13,914

-12.8

エビ

256

-1.5

サケ、マス

276

+19.1

2001年日本の農林水産物の輸入額は前年比+4.3%の7兆2120億円だった。林産物、水産物は減ったが農産物は増加した。」

 輸入が増加した要因は、関税の引き下げなどの影響もあるが多様化する食料需要に国内生産が追いつかないこと、農業の担い手や後継者不足、コスト高などが要因としてあげられる。

 食料のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本は、輸出国の異常気象や突発的な事件、事故などの不測の事態に陥った時、食料が供給されないかもしれない。

今後の課題としては国内生産と輸入の組み合わせながら農業技術の向上に努め、国内の基本的な食料供給力を確保しつつ、海外とは安定的な輸入の継続があげられる。政府は「食料・農業・農村基本法(新基本法)」を制定し、「食料・農業・農村基本計画」のなかで食料自給率を2010年までに40%から45%にあげることを目標にしている。食料自給率は多くの国民がその低さに懸念を抱いているが、実状と照らしあわせると向上は容易ではない。

 

2.中国の食糧問題

 中国の食料問題は食料需要の増加に対して、十分な供給ができるかどうかであり、規模が大きいだけに世界の国際農産物市場に大きな影響を与えるということである。今は、輸入はあくまでも備蓄用(ストック用)であり、自給自足が国策だといっている。しかし、全てにおいて規模が大きいのでこれらを解決しないと世界の農業にも影響をあたえてしまう。なお、中国については「食糧」(コメや小麦)を中心にみていきたい。

 「1990年中国は3億2900万tの食糧を生産し3億3500万tの食糧を消費した。600万tを輸入しその不足を補った。中国の食糧に対する需要は現在の趨勢(注2)でいくと2030年には4億7900万tに達するがその間の食糧生産はおそらく5分の1減り2億6300万tに下がる。その足りない分は2億600万tに上り1993年の全世界の食糧輸出量2億tを上回る。」

これはレスターRブラウンの「誰が中国を養うのか」という本の中で中国の目まぐるしい経済発展により将来の食糧危機を危惧しともので、これは世界各国の注目を集めた。当時、中国政府は北京周報のなかで「『中国は世界食糧の脅威とはならない』と題する論文の中で2020年に中国の食糧生産は7億tに達し、中国の食糧輸入量は1000万tから3000万tの間に留まり、世界の食糧需要の大きな要因とはならない。」と述べた。しかし、なぜこのような予測になるのか根拠は示されていない。ともかく、ブラウン氏の予測は@人口の数が膨大なこと、A経済成長が空前の速さで進みそれに伴い耕地が減少していることが中国の食料危機を招く主な原因としてあげている。

@人口増加

1982年中国の人口は10億人に達した。中国食糧白書による予測では2017年までには15億人に達するといわれ、2030年には16億人になるといわれている。なお、下の図は、中国の国内生産量を表にあらわしてみた。

国内生産量

食糧生産量

4.575億t

+1.1%

夏季食糧

0.998億t

-2.9%

早稲

0.303億t

-11.0%

秋季食糧

3.285億t

+3.8%

綿花

480万t

-9.8%

搾油作物

2,800万t

-2.3%

搾糖作物

9,184万t

+6.1%

この表から食糧生産量は、4.575億tでブラウン氏の生産量の予測の3億2000万tを大きく上回っていること、また、年間食料供給量も400キロ(中国情報局、中新網16日付け報道より)なので、現時点での中国の食糧危機は考えられないがしかし、近い将来一人っ子政策が見直しされるとの声もあり、人口による食糧危機の要因も今後も大きいかもしれない。

A経済成長

 中国は大きな国であるが、耕作可能な土地は国土のわずか10分の1であり、そのほとんどが砂漠と山からなり、耕作可能な地域は東部から南部にかけての海沿いである。また、耕作可能な土地が狭く、人口の多い中国は1人あたりの耕作面積は狭いのである。しかも今日、その耕地がどんどん減少している最中なのである。その原因をあげるなら@農業以外の用途A肥沃度の低い土地や面積の狭い土地、生産性の低い耕地が放棄されること。B多毛作の減少C国民所得の上昇が果物や野菜の需要と価格を引きあげるにつれて土地を穀物栽培からもっと収益の上がる作物の栽培へ。AとBは非農業部門での賃金上昇によって拍車がかかる。

B環境問題

農業とは環境と調和しながら食料生産を行うことが根底としてある。EUは先進国、いや世界の中でも環境に対する関心が高いので、EU、日本、中国とそれぞれ比較してみた。

EUの環境保全型農業

2次世界大戦後、欧米や先進国では化学肥料や農薬の資材を多投し、量的生産を行い、かつ、家畜糞尿を適切に処理しなかったことにより農業が環境へ悪影響をもたらす事態が生じ、こうした状況から欧米先進国を中心に環境保全型農業が登場したのである。とりわけ、先進国のなかで最も進んでいるEUの環境保全型農業はCAPという名の共通農業政策のなかで示されている。農業と環境にかかわる問題の対処法は違っても農業に対する価値については共通認識がもたれている。

 具体的にドイツはEUの中でも独自の環境保全型農業を実施してきた。集約的農業から粗放的農業へ、単作型から多様な作物への輪作へとまた農産物過剰の削減による有機農業への転換を行っている。

・日本の環境保全型農業

日本はEUに比べると、環境保全型農業が必ずしも国民に広く認識されていない。ようやく環境保全へ、かじをとりはじめた段階である。具体的には「環境保全農業推進の具体的考え方」に基づき国、県、市町村でさまざまな取り組みがなされ、主に環境負荷軽減のための取り組みや地域リサイクルの促進があげられるが、農業、農村のおかれる厳しい状況の中で環境問題にまで関わっていられるかというのが現実でもある。

・中国の取り組み

 中国は「環境問題の百貨店」といわれるくらい様々な問題が中国国土の広範囲に存在し、これは社会問題にも発展しており農業に与えるダメージは深刻である。例として、水資源は世界平均の4分の1以下で、土壌流亡が国土の38%に相当する3億6700万平方キロメートルである。また酸性雨も石炭の燃焼量の増加につれ広がり、砂漠化や水質、大気汚染などもあげられる。これらの問題が都市化と工業化が進めばさらに深刻になる。特に、土壌流亡と水資源は農業にとって重要であり、このため中国政府は山岳地や丘陵地における植林、被覆作物の導入や江西省における赤土流出防止や土壌及び水資源の保全など環境保全に努めている。

 また、今後の中国の農業発展には生態破壊の防御や環境保護など強化していくことが農業の発展につながるとして、将来5年間で農業廃棄物処理工程など50の生態農業建設を実施している。

食料問題を3つの側面からみてきたがどの側面からみても根が深いように思われる。

 また、日本も後継者不足に悩み農地条件の不利な多くの中山間地域では耕作放棄地が増加し続けている。金さえあれば海外からいくらでも食料が手に入るが中国を例に地球環境の危機を見るときいつまでそれが許されるのであろうか。

 今後、日本と中国の両者がこれらの問題を解決できないとなると、2つの輸入大国が両国で輸入のシェアをめぐり争いが起きるかもしれない。

 

 3.遺伝子組み換え問題

最近、遺伝子組み換え食品の議論がなされている。遺伝子組み換えというのはDNAを組み換え生物から役にたつ遺伝子を取り出して、改良したい他の生物に取り入れることにより品種改良することである。日本をはじめ多くの国で除草剤や害虫に負けない農作物や今まで見たことのない色をもつ花など様々な開発がなされている。しかし、一方で遺伝子組み換え技術に警鐘をならす声もあり、また、情報の氾濫により不安が広がっている。

・遺伝子組み換え食品の安全性

厚生労働省の許可をうけて遺伝子組み換えが行われたトウモロコシ、大豆、ジャガイモ、菜種、綿の五品目はすでに国内で流通している。安全性への評価には3つの基準がある。@栽培してもいいのかA食べてもいいのかB家畜の飼料として使っていいのか。安全のガイドラインには100以上の安全性評価項目でそれに従って評価している。

・表示義務

遺伝子組み換え作物表示義務がJAS法により義務づけられ、表示しなかったり、不当表示があれば罰則もあり、また義務表示の対象食品は1年ごとに品目の見直しも行われている。

 「また中国も対米輸入が増え、安全管理を強化するために国務院の『農業遺伝子組み換え生物安全管理条例』を発布し、同条例を保障するため、農業部は『農業遺伝子組み換え生物安全審査管理方法』、『農業遺伝子組み換え生物輸入安全管理方法』、『農業遺伝子組み換え生物教示管理方法』が制定され施行されている。」

 しかし、ここに興味深い記事がある。米国には遺伝子組み換え作物(GMO)の表示義務も罰則もなく、GMOが穀物として日本に輸出されている可能性があるということだ。だが、アメリカでは今年の10月下旬にオーガニック食品表示法が制定されGMOとの区別をしている食料を輸入されているのでオーガニック食品を選べば安心ではある。しかし、日本では厚生労働省が昨年4月から安全審査のないGMOの輸入禁止をしたが、アメリカが輸出国のGMOを排除しない限り、知らないうちに私たちがGMOを食べている可能性ないとは言い切れないのである。

 

第3節       将来展望と感想

中国が抱える『三農』問題

 今までみてきた通り中国の農業が今後、世界の農業に与える影響は大きく、中国の農業が世界の食料事情を大きく変化させる要因にもなるのは明らかである。また、中国は自国の農業を発展させるためには避けては通れない問題がある。それは、『三農』問題(農業、農村、農民)の解決であり、大変難しい問題である。

現在、都市部と農村部との収入格差が非常に大きく、この問題を解決するためには、余剰労働力をどうするかということである。中国の農村部には、9億人が暮らし、うち1億9千万人が余剰労働力として滞留している。WTO加盟の時デミニマス(注3)を8.5%と特別にした理由の一つに余剰労働力と失業者を守ることがあげられる。

 また、『三農』問題の中の農民に対する差別が今でも存在する。例をあげるなら、農民は、住民積立金もなければ、国民年金保険や医療保険もない。もちろん退職金もない。その上、国家公務員は有給休暇が100日以上あたえられるのに農民は一日でも休めばその日の収益は消えてしまうのである。農村戸籍制度により、農民たちはやせた土地に縛られ、少しも動けないのである。

 なぜ農民が差別をうけるのか。それは農民が公民ではないからである。建国以来、中国社会には都市部と農村部という二元構造が存在している。その結果両者間には戸籍、身分、地位、待遇、権利などの面に乖離が生じ、実際の生活で農民達は「二等の公民」とみなされている。

 この問題を解決するには制度の問題への着手が不可欠であり、今、政府はこの問題を非常に重要視し、解決にむけ努力している最中である。朱鎔基首相は、農村と都市部の収入格差をなくすために、@耕地を樹林に復元する規模を拡大する。中、西部の一部において、耕地を樹林に復元することは、生態環境を改善し農業構造の調整を促進するための重要措置であり、農民の収入につながる効果的な方法でもある。A農村の租税、費用徴収の改革と食糧、綿花流通体制の改革B農民の収入を増やすルートの拡充に努める。C農業に対する助成を一層強化する。WTOのルールに合致した措置をとり、農民の利益を擁護するよう努めると述べた。

『三農』問題の解決策として農村部の都市化があげられ、それにより、労働集約型の産業の経済発展に大きなチャンスを与えることになる。WTO加盟は農村の労働力にとって大きな脅威であると同時にチャンスでもある。膨大な余剰労働力を発展の牽引力にするためにはまず、都市住民と農村住民の差別をなくし、同じ待遇にすることではないだろうか。

また日本においても、「食料・農業・農村基本法」に変わったが日本農業の構造改革は延々として進んでいない。農家の経営面積は平均で1.5haに過ぎず、欧米の20〜30分の1にすぎない。今までで見てきた通り、自由化が促進されれば今後輸入量が増加し、規模の小さい国内の農業に打撃を与えかねない。他の国と共存できるかどうかは国際化に合わせて国内農業の構造改革をすすめることができるかどうかにかかっている。

両国とも国内の問題は大きいが、そればかりではなく環境の面でも食料の安全保障の面でも問題が山済みであり、両国の農業はこれから大きな試練を迎えることになる。この試練を乗り越えて農業を今置かれている現状から改善していってほしいと思う。

 

 

 

用語解説

1.      デミニマス:削減対象の助成であっても少額であることをもって削減対象外とすることのできる助成の上限

2.      ハイブリット米:雑種1代目の米。雑種強勢の性質を利用して多収穫を目的に作られる。

 

参考文献

・農林水産省ホームページ http://www.maff.go.jp/kokusai_index.html

中国情報局

http://j.people.ne.jp/2002/02/28/jp20020228_14647.html

http://www.rieti.go.jp/users/chaina-tr/jp/021105kaikaku.htm

http://www.rieti.go.jp/users/chaina-tr/jp/020729kaikaku.htm

http://www.jil.go.jp/kaigaitopic/2002_08/chainaPO4.html

・レスターブラウン著 今村奈良臣訳、解説 『誰が中国を養うのか?』 ダイヤモンド社 1995年

・嘉田良平 『世界各国の環境保全型農業』 農文協 1998年

厳善平 『中国農村・農業経済の転換』 剄草書房 1997年

自由国民社 『現代用語の基礎知識2002』 

AERA02.8.5号

財団法人日中経済協会 『日中経済ジャーナル』 2002年11月号

日経新聞 20011213 2002115  118

井上允、卒業論文「中国における人口増加と食糧問題に関する研究〜農業政策に関する国際比較を中心に〜」、2001年

・日本経済評論社 『経済セミナー』12月号

00E2296  太田実里


私がこのゼミを志望した理由は、なによりも中国という国にとても興味、関心があるということです。この気持ちはすでに高校生の頃からあり、やはり受験の際も中国関係を選択し受験しました。また、大学に入学して実際に授業を受けてますます、この気持ちが高まりました。ゼミを選択するにあたって、このゼミは私が学んでみたいというものそのものでした。
 
私は、特に中国産業に興味があります。これは授業の影響が大きいのですが、今日、世界経済は不況の真っ只中にあるにもかかわらず、中国は近年、産業発展がとても目覚しくそれとともに社会も大きく変化しています。
 
また、私は今ユニクロでアルバイトをおり、中国はユニクロが商品の生産拠点としているということは知っていましたが、他の授業でユニクロの話わした時、正直知らなかったことも多くて、さらに自分の理解を深めることができたと思います。しかし、これにとどまらず、どうしてこんなに発展したのか、この発展に伴う諸外国の影響、また発展したことによる中国国内の影響とりわけ環境問題に目を向けて学んでいけたらと思います。
 
私の趣味は、ピアノを弾くことです。小学校2年生から始めて、今もがんばって続けています。今は、あまり練習できないけれど、弾けるようになるのはうれしいので、これからも続けていくつもりです。もう一つは、写真を撮ることです。まだ趣味の域には達していませんが、好きな海の写真をたくさん撮っていきたいと思います。
 
旅行は、残念ながら海外へは一度も行ったことがないですが、友達と中国へ行こうと計画を立てています。中国に行ったらやってみたいことがあり、自転車に乗って大軍の中に混じって走ることと、北京ダックを食べてみるということです。
 
最後に、ゼミでの私の目標は、人前で発表したり質問したりすることが苦手で、すぐ顔が赤くなってしまうのでそれを克服することと、文章力をもっとつけたいです

 

 



[1] 伊藤元重、『ゼミナール国際経済入門』、第7章変貌する国際経済体制pp.398pp.400“農業自由化問題”2001323日第28刷、日本経済新聞社、『経済セミナー』12月号pp.8pp.9、日本経済新聞社より

[2] 中国情報局WTOと各産業―農業―より引用

http://www3.nikkei.co.jp/kensaku/kekka.cfm?id=2002101806792http://www.maff.go.jp/sogo_shokuryo/fta_kanren/fta_kanren.htmより

http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/data/yusyutugai2001.htmより

レスターRブラウン、『誰が中国を養うのか?』、ダイヤモンド社、1995年より

http://www.maff/go/jp/soshiki/keizai/kokusai/kikaku/2002/20020320beijing20a.htmより