第3部 産業編

第8章 自由貿易協定とASEANプラス3

『アジアを中心に拡大し続ける自由貿易協定』
       

 00E2456山本光太郎

はじめに

 新聞の紙面を見ると「中国」「ASEAN」「自由貿易協定」といった言葉を目にする機会が増えてきている。EU、NAFTAの成立と共にここ東アジアでも今、日本・中国の主導の下で経済統合が進みつつあり、各国政府間で協議が行われている。そこで、本章ではこれらをテーマに掲げてASEAN発足の経過をたどることで、今日の激動の東アジア経済を捉えてみたいと思う。

 

1節、自由貿易協定

1、自由貿易協定(FTA)とは?
 自由貿易協定のことで、関税や数量制限などの貿易の障壁を取り除き、2国間、または地域間での財貨・サービス取引を自由化してひとつの経済圏を形成しようとする協定。戦後の貿易体制は無差別に世界のどの国とも自由に貿易する多角化を原則としてきたが、このグローバルな体制が機能しなくなって、域内の貿易取引を自由化するうねりがおこっている。これにより関税の撤廃による輸入価格の低下をはじめ、輸出の拡大、投資促進などのメリットがある。欧州や米国などを中心に世界で約140件もの自由貿易協定が実現している。「FTAが増える背景には世界貿易機関(WTO)体制下での不満がある。ロハス比貿易産業相は『WTOの交渉は遅い』と言い切り、スパチャイ現事務局長は昨年9月の就任前に『FTAはWTOと共存できる』と一定の理解を示しながら、『FTAがWTO協定に反しないように監督する機能を強めるべきだ』と言及した。」(日本経済新聞2003年1月3日朝刊)新たな自由貿易協定締結に向けた動きが今後も見られるにちがいない。

 

2、自由貿易圏(Free Trade Zone)

欧州連合(EU)や北米自由貿易協定(NAFTA)のように特定の国、地域の間で関税、非関税障壁を取り除いた統 一市場を形成するもの。圏内の各国、地域は自由貿易のメリットを最大に得ることができる。しかし、自由貿易圏に加盟しない国、地域(域外)との貿易を制限することでブロック経済化(用語解説1)が進むなど問題も含んでいる。 

 

2節、ASEAN

1、ASEANの発足

 ASEANはAssociation of South East Asian Nationsの略。地域協力機構である東南アジア諸国連合のこと。1975年にASEAN組織の事務所を設け、スハルトの権威と指導力によりその本部はジャカルタに置かれる。ASEAN発足の経過はいかの通り。

・1967年8月 バンコク宣言でインドネシア・タイ・マレーシア・フィリピン、

       シンガポールの東南アジア5カ国が地域協力機構を結成

・1984年1月 ブルネイが加盟。ASEANは6カ国となる。

・1995年7月 ベトナムが加盟

・1997年7月 ミャンマー、ラオスが加盟

・1999年4月 カンボジア加盟。域内すべての国からなる10カ国の地域協力機 

構「ASEAN10」を実現。

 

 ASEANの現状としては、現段階では全加盟国の同意を得ることが困難である。また、ASEAN各国の政情が不安定で経済混乱に伴う地盤沈下がおこっている。地域格差があり、是正・包括的発展が必要である。それに加え、マレーシアの自動車産業・フィリピンの石油化学産業等の国内産業保護の動き、地中自由貿易協定締結の方向性、シンガポールの脱ASEAN志向など経済統合のムードが後退してきている。内政不干渉の原則を維持していて、域内紛争などへのASEANの対応策として99年に設置が決まった域内紛争調停組織「ASEANトロイカ」の機能[1]に関しても不透明である。

 

2、ASEAN自由貿易地域(ASEAN Free Trade Area)

東南アジア諸国連合(ASEAN)域内で関税を引き下げ、欧州連合(EU)や北米自由協定(NAFTA)に匹敵する自由経済地域を作ろうとする構想。タイによる提唱で、92年1月のASEAN首脳会議で採択。93年にスタートした。電子分野など15分野の域内関税を5%以下にする措置が2002年1月にスタートした。関税の引き下げは原材料、部品などの域内調達を容易にするため、ASEAN各国に生産拠点を展開している企業などから期待されている。しかし、現地生産認定や関税当局への登録などの手続きの煩雑さや不透明さが民間企業から指摘されている。問題点を解決させAFTAの実効性を高めることが急務である。「欧州、米州でそれぞれ巨大な単一市場作りが進み、アジアの市場統合も先延ばしできない事情になってきている。

 

第3節、ASEANプラス3

1、「ASEANプラス3」

ASEANプラス3とはASEAN10カ国に日本、韓国、中国の3カ国を加えた

東アジア協力の枠組みである。(表1参照)1999年11月、マニラで開かれた「ASEANプラス3」首脳会議で「東アジアにおける協力に関する共同声明」を発表した。2001年11月5日、首脳会議の議長声明で、地域経済の成長回復のために協

力して競争力強化やインフラ整備などに取り組むと発表した。米同時テロ事件で世界

景気が減速しており、日中韓との経済協力を推進する一方、ASEAN自体も経済統

合を加速して発展を目指す。

また、東シナ海の緊張緩和のため行動規範(COC)の締結提案や、東ティモール

のASEANオブザーバー加盟(用語解説2)(について時期尚早であることで一致した。

<議長声明の要旨>

ブルネイのボルキア国王が2001年11月に発表した「ASEAN首脳会議、ASEANプラス3首脳会議の議長声明文」の要旨は次の通り。

 

一、ASEANは地域・国際社会の平和と安定、経済発展に対する挑戦への憂慮を表すため「反テロ共同行動宣言」を採択。アフガニスタン空爆の市民への影響を憂慮

一、外国投資減少と地域の競争力低下に米同時テロが重なり憂慮すべき事態。地域機構としての信頼性を堅持

一、競争力強化、総合加速を決意。サービス貿易自由化や専門資格の相互認証、規制の調整を検討

一、地域の輸送・通信基盤を整備。オープンスカイ政策[2]などを閣僚級で検討し、次回会議に報告

一、後発加盟国の人材育成、インフラ整備などで民間や日中韓とも協力。先進国は後発国に対し2002年1月から関税撤廃

一、エイズに関する行動計画第二段階へ移行。予防や治療、エイズの影響を軽減するために必要な人材を確保

一、日中韓とともに米同時テロを非難。国連の対テロでの主要な役割を確認し、テロ撲滅に向けた条約の早期署名や批准を呼びかける

一、東アジア協力研究作業部会の報告書を考慮、東アジア自由貿易地域は大胆だが実現可能。東アジアサミットについて来年作成予定の最終報告書に期待

 

2、日本とASEAN

2002年1月の総理歴訪において小泉首相は貿易、投資、教育など幅広い分野で

の経済連携を模索する「日・ASEAN包括的経済連携構想」を提案した。この構想の支えるため全省庁から構成される関係省庁連絡会議を設置する。また、4月24日に官邸で「日・ASEAN包括的経済構想を考える懇談会」が行われた。東アジアでは日中韓ASEAN首脳会議(ASEAN+3サミット)など経済関係強化に向けた取り組みが行われている。

日本政府が輸入障壁撤廃や投資自由化を促す自由貿易協定の加速へ向け動き始めた。しかし、日本は国内農業保護の問題から農産物の取り扱いが最大のネックとなり、農林水産省は農産物をFTAの対象にすることに反対していて、推進を阻む壁が存在する。日本はさらに韓国とも2005年のFTA締結を目指した産官学共同研究会による討議を開始した。東南アジア諸国連合(ASEAN)にも包括的な経済連携構想を提案している。政府がFTA推進に動き始めた狙いは二つある。一つは経済的な関係が強い地域との間でモノ、カネ、人の流れを加速することで日本経済に活を入れることだ。(表2を参照)貿易推進だけでなく、優秀な人材が自由に移動したりすることをめざしている。

 

 

 

 

 

 

 

(表2)日本の対ASEAN貿易

 

輸出

輸入

貿易額

1997年

70,240

50,452

120,692

1998年

46,440

39,557

 85,997

1999年

54,218

46,176

100,394

2000年

68,685

59,791

127,476

2001年

54,526

54,672

109,198

2002年

1〜6月)

26,155

 

24,056

 

 50,211

 

(注)単位:百万ドル

   ASEANは97年以降は9カ国ベース、99年以降は10カ国ベース

 

もうひとつは、世界的に広がるFTAの潮流に乗っていかないと、日本が不利な状況に置かれかねないという危惧意識である。統計によると地域経済圏に加入をしている国は、すでに100数カ国に上っているが、中国、韓国と同様に日本はこういった地域圏に加入していない。メキシコとのFTAはその典型であると言える。首相が国内調整に強い指導力を発揮しなければ、FTA推進も絵に描いたもちに終わってしまう。

中国に先手を取られてしまった格好の日本は初の自由貿易協定を今年一月にシンガポールと締結した。11月末に発効する。今年はフィリピン、メキシコとFTAの締結をめざして政府間協議を進めている。また、韓国とも同様な交渉が行われている。他のアジア諸国・地域も個別にFTA締結の可能性を探っている。にわかに高まるFTA熱だが、世界的流れで見るとむしろ出遅れが目立っていると言わざるをえない。

 

3、ASEANと中国

中国のWTO正式加盟を目前にした2001年11月にASEANと中国は自由貿易協定の締結を呼びかけ日本政府を驚かせた。十年以内の実現をめざすが交渉自体は約二年で終わらせるとみられている。交渉促進のため、相手の関心が強い熱帯産品などの関税を前倒しで引き下げる構えでいる。2002年11月4日、中国はASEANとの首脳会談で来年から本格交渉を始め、2010年までに一部例外を除いて関税を完全に撤廃することで合意した。朱首相ら首脳が調印したFTAの大枠を定める「包括的経済協力枠組み協定」では、貿易の早期自由化措置として生野菜など農産品八分野を2004年から先行させる。「中国はASEANだけでなく、日中韓の枠組みでFTA締結を呼びかけていて、東アジア経済連携から将来的なFTA締結の可能性を中国は視野にいれている。」(日経新聞2003年1月3日朝刊特集参考)また、WTO新ラウンド[3]などの結果も勘案するとしている。中国とASEANがFTA合意を行う国際的な背景として1つに、経済のグローバル化が1990年代以降は加速しているという傾向がある。そのわかりやすい現象として世界全体に占める多国籍企業の取引額が高くなりつつあるという事実がある。2つ目の背景に地域経済圏の傾向がある。また、世界における南南協力(South-South Cooperation)[4]の強化という背景もある。中国の最終的な目標は単にASEANとの間にFTA関係をつくり、ASEAN市場を輸出先として確保するだけではなく、東アジア地域における経済自由貿易区をつくりあげることである。中国の国策としては先進国との貿易関、経済関係の深化を進めると同時に、発展途上国との貿易関係、経済関係も発展させなければいけない。ASEANとの合意は、こういった南南協力の延長上の政策と考えていいだろう。また、合意の背景にはお互いにアジア・東アジアの文化に属し、価値観が似ていて、共通理解があり、コミュニケーションがとりやすいという点がある国内的には中国の改革・開放によって、海外との協力関係をつくらなければいけないという必要性がある。また、大気汚染等中国国内のエネルギー資源の長期的な発展戦略を考える必要性がある。それに、中国の西南の地域、雲南省はASEANと実際に国境がつながっていて、西部開発により東南アジア、あるいはASEANとの協力関係を緊密化させ、麻薬栽培などにかわる新しい産業を起こすことによって地域経済を確立する狙いもある。また、ASEANとの協調体制をつくり上げて東アジアでの政治協力を拡大する思惑がある。ASEANと中国とのFTAが実現すれば人口約18億人、世界の国内総生産(GDP)の約5パーセントを占める巨大な自由市場が誕生することになる。また、「ASEANの中国向け輸出が急増していて四−六月期に四半期で初めて日本向け輸出を抜いたもようである。今後の輸出動向についてエコノミストは「中国が世界の生産拠点としての性格を強めており、日本向け輸出は一段と中国にシフトする」(野村総合研究所シンガポールの木下智夫シニアエコノミスト)といった見方が支配的になってきている。」(日経新聞2002年8月1日朝刊参考)

 

4、ASEANと韓国、台湾

韓国―ASEAN間でも多分、水面下における接触していると思われる。2002

年11月4日の首脳会談で韓国の首相は、日中韓でのFTA締結について「共同研究を引き続き支援したい」と述べるにとどめた。日韓関係発展のためにも来月二月の韓国新政権発足後、早期の交渉開始が必要である。とにかく、ASEANとの間に協力関係をつくりたいという意欲を持っていることが言える。

 台湾については、すでに関税率が低く双方の利益は少ない見通しである。具体的な分野においての経済関係強化がてきとうであるとの立場をとっている。また、中国の王穀外務次官は「台湾がいろいろな国にFTAを呼び掛けているが、中国は反対の立場だ」と述べている。「中国のけん制は中国の内政に直結する台湾問題が絡んでいるだけではなく、そこに台湾を巻き込んだ経済連携の主導権を狙う日本の思惑を感じ取ったからでもある。」(日本経済新聞 「『ポスト冷戦』の10年」2002年8月15日)

台湾に関しては依然として中国の影が色濃く残っている。

 

最後に

  「アジア版EU」であるASEANプラス3による自由貿易協定が実現したなら

ば、東アジアに巨大な貿易市場が誕生することになる。これは日本、東アジア各国の

みならず世界各国にとってとても大変魅力があるものになるだろう。経済統合は世界

の再ブロック化ともなり、戦前の1930年代に起きた世界恐慌の際,いくつかの国・

植民地がグループ化してつくられた排他的なブロック経済につながりかねない危険性

も心配される。この経済統合は戦前のブロック経済(用語解説1)とはことなり、質

を大切にし、尚且つスピーディーに行われなければならない。質を高めるためには、

まず、自由化の例外が少なく明確であることが大切である。また、他の経済統合にべ

ても範囲が広いことも必要である。ASEANを戦略的市場として位置付け、FTA

締結に向けて攻めに徹している中国。それに対して農業・繊維の問題という壁が依然

立ちはばかり後手に回ってしまっている日本であるが、将来の国益を考えても今まで

東アジアの経済をリードしてきたように、「ものづくり王国日本」の復活とともに、戦

前に武力をもって拡大してきた経済圏とは異なる主導権を握って東アジア自由貿易構

想のリーダーシップをとっていくべきであると私は思う。今後の日本の動きに注目し

てみたい。

 

<参考文献>

     「経済新語辞典2002年版」日経新聞社 2001年

     「日経キーワード重要500」日経産業消費研究所編集 日経人材情報 2002年

     「メイドイン・チャイナの衝撃」丸屋豊二郎・石川幸一編著 ジェトロ 2001年

     「海外労働時報」2002年7月号NO.326

     「ASEANの概要」名和聖高 2002年

     日経新聞 (2001年11月6日 朝刊)

       (2002年8月1日夕刊、10月13日朝刊、11月5日・6日朝刊)

     asahi.com朝日新聞社 2002年10月26日 

http://www2.asahi.com/international/kougeki/K2001102600105.html

     経済産業省ホームページ「対外経済政策総合サイト」

http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/round/html/overview.html

<用語解説>

1、  「本国と植民地または政治上の同盟国などが一体となって重要な商品の自給自足を図り、相互に特恵を与え、商品の市場を確保し合う閉鎖的な経済圏。」(広辞苑より引用)

2、会議で発言権はあっても議決権のない加盟

 

00E2456 山本光太郎

 

近年中国は目覚しい発展を遂げていて、世界経済の中で重要な役割を果たしている。我々が日ごろ身に着けている衣類(ユニクロ製品など)や口にしている食べ物など、我々の生活に中国製品が広く浸透していて、日本にとって切っても切り離せない存在となってきています。その中国は開放政策やWTO加盟問題、外貨の導入などを行ったりでめまぐるしく発展を遂げています。最近では上海にてAPECの会議が行われ世界から注目を浴びていることも記憶に新しいです。「中国の経済発展と国際環境」を研究テーマに取り上げて演習、研究を進めている御ゼミで今日の中国経済におついて考えていきたいと思います。

 私の趣味は映画鑑賞、音楽、国内外の旅行です。映画は父の影響もあってみるようになり、最近見た中国映画の中でのお気に入りは中国・湖南省を題材にした「山の郵便配達」です。好きな映画を見たり、音楽を聴いたり、旅行に出かけることは自分にとって最も有意義な時間だと思うからです。また、天気のいい日には家にじっとしていることは嫌いで、いつも様々な交通機関を使って旅行に出かけています。特に海外旅行はリフレッシュできるので、機会があれば世界中を飛び回ってみたいと思います。

 旅行体験は私の趣味が旅行であることもあって豊富な方だと思います。とくに海外はアメリカの西海岸、メキシコ、香港、タイ・バンコク、ネパール、イギリスと様々な方面に行ってきました。最近では今年の夏に愛知大学のイギリスセミナーに参加してきました。レディング大学にて英語を学んだり、ロンドンを初めとして湖水地方、ストラットフォード、オックスフォード、ケンブリッジなどに鉄道を使って旅行をし、夜はホストファミリーと過ごしたり、パブに出かけてイギリス人と交流を図り日本とは異なるイギリスの文化・習慣を理解することができました。また、今まで各国を旅行してきて国際的視野も以前よりだいぶ広がってきたと感じています。

最後に、激動の世界経済の真っ只中でプラス成長をしていて、オリンピックの開催地にも北京が決定し中国人民が大いに沸いているその中国を御ゼミと共に愛知大学の後半二年のときを充てて学び、いい卒業論文を作り上げていきたいと思います。



[1] 「ASEANトロイカとは、加盟国の要請などにより臨時機関として、地域の緊急問題への仲介や調停をする機能である。」(asahi.comニュース特集「武力行使」より引用)

[2] オープンスカイ政策とは、路線参入、企業数、便数、以遠輸送などを自由化しようというもの。」(沖縄タイムス1997年8月27日朝刊2面より引用)

[3] 新ラウンド(または新ラウンド交渉)とは、今年11月のWTO第4回閣僚会議(カタール・ドーハ)で立ち上げが予定されている、多角的な貿易自由化のための新たな交渉のことです。1960年に開始された第5回交渉(ディロン・ラウンド)以降、このような多角的貿易自由化交渉は「○○ラウンド」と呼ばれています。」(経済産業省HP引用)

 

[4] 「南南協力」(South-South Cooperation)とは、開発途上国がお互いの優れた開発経験や技術を学習し共有することによって、開発を効果的に進めるための形態をいいます。