巻頭の言葉

           〜「日中間の懸案を直視しよう」〜            

           

監修者兼著者代表

          李 春利

 

        ゼミ論集第5

アジア・太平洋の中の日本と中国:パートナーかライバルか

〜日中国交正常化30周年記念号〜

Chino-Japan Relationship in the Asia-Pacific

 

ゼミ論集は第5号の発行を迎えた。2002年は日中国交樹立30周年という重要な節目の年なので、『アジア・太平洋の中の日本と中国:パートナーかライバルか〜日中国交正常化30周年記念号〜』と題した記念特集を組むことになった。

30年が経って、これから成熟期に入っていく日中関係はどこに向かうのか、このままではいいのかどうか、いろいろ考えさせられるところが多く、また、漠然とした不安も多い。ゼミ論集第5号では、こうした日中関係の諸問題を直視する姿勢をとり、レポートのテーマを選ぶにあたって、日中間に横たわっている諸懸案を隠さずにさらけだして、若い学生諸君にそれらの問題の経緯と原因を調べてもらって、対策を考えてもらうことにした。ゼミ指導教員としてはゼミ生の出した結論に対して、あえて味付けしたり色付けしたりしなかった。これからの日中関係を担っていく若い諸君にありのままの両国関係を知ってもらい、それぞれの結論をそのまま持ってもらったほうがよいであろう。

 ゼミ論集の本編は「歴史編」、「政策編」、「産業編」、「環境・資源編」と「安全保障編」といった5編構成からなっている。「温故知新」という意味で、まず「歴史編」では記憶が風化しつつある日中国交正常化当時の歴史を振り返るということで、「日中国交正常化への道程」(川口レポート)、「ピンポン外交と米中関係」(鈴木レポート)を取りあげ、さらに、「靖国と教科書問題:日中は歴史を乗り越えられるか」(下方レポート)と題して歴史の負の側面にも光をあてた。

 「政策編」では、注目されているいくつかのトピックを取りあげている。まず「WTO加盟後の中国の諸問題:知的財産権とアンチダンピング」(小塚レポート)と「貿易摩擦とセーフガード」(小林レポート)は、日中間でもめている緊急のテーマである。さらに、「人民元ハードカレンシー化への過程と展望」(森田レポート)、「ODA(政府開発援助)」(田中レポート)などといった変化が予想される課題を展望した。

「産業編」は、近年話題になっている「自由貿易協定(FTA)とASEAN3」(山本レポート)、「メイド・イン・チャイナのインパクト」(斎藤レポート)と「日本の産業空洞化と対中企業進出の加速」(伊藤レポート)の3本からなっている。また、「環境・資源編」では、「中国の環境問題と日中環境協力」(山田レポート)、「農業自由化と食料問題の日中比較」(太田レポート)、「アジアの戦略資源争奪とシーレーン確保問題」(石丸レポート)といった経済発展の負の側面にも焦点をあてた。

最後に、「安全保障編」では、中国が抱えているいくつかの国家的な内政・外交面の課題を取りあげた。「One China:台湾と中国大陸の関係と歴史」(西山レポート)、「One Korea:朝鮮半島問題の帰結」(楊レポート)、「中国とイスラーム世界・チベット」(野田レポート)、「中国脅威論と安全保障問題」(夏目レポート)と続いて本編を締めくくった。

以上のように、17本のレポートからなる重厚な論集であるが、34の目から日中関係を眺めていると言い換えてもよい。17人のゼミ3年次生が1年間の勉強・研究を通じてまとめあげたゼミの総括報告書を読んでいただければ幸いである。

 

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 今年の「公園」欄では、目玉は歴代編集長による「編集長手記」である。すでに卒業した編集長たちに近況報告なり、大学の思い出なりを綴ってもらった。ちなみに、歴代編集長とその努力の結晶であるゼミ論集のタイトルをまとめてみた。

・ゼミ論集第1号・木全浩子編集長(愛知県在住)=『多様性の中国:一人一省〜中華人民共和国建国50周年記念号〜』{Special Report No.1=CHINA WITH DIVERSIFICATION: One Person One Province}、1999年発行

・ゼミ論集第2号・桜井美紀編集長(石川県在住)=『中国の肖像:人物で振り返る20世紀 〜ミレニアム特集〜』{Millennium Special=CHINA'S PORTRAIT:Looking back 20th Century}、2000年発行

・ゼミ論集第3号・斧研貴子編集長(長野県在住)=『周辺から見た中国:China @ World 〜21世紀特集〜』、2001年発行

・ゼミ論集第4号・万代真理子編集長(三重県在住)=『気がつけば、中国は“世界の工場”〜WTO加盟特集〜』、2002年発行

・ゼミ論集第5号・山本光太郎編集長(豊橋在住)『アジア・太平洋の中の日本と中国:パートナーかライバルか〜日中国交正常化30周年記念号〜』、2003年発行

 

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 今年の旅行記も豪快である。大「シベリア鉄道旅行記」(白井慎也)をはじめ、馬術部出身で結局プロ入りを果した米山英昭君の馬と共に過ごした4年間」、「釣りに拘泥して」やまない石丸泰央君、柘植聖子さんの天津「留学体験記」、それから日本を飛び出してついに上海で就職してしまった大学院生の森綾香さんの特別寄稿中国、上海、そして就職」...いちいちあげることはできないが、おのおのの人生を謳歌し、「青春」している。うらやましいかぎりだが、せっかくのキャンパス・ライフをぜひワイルドに生きてほしい。

 今年は「日中平和友好条約」締結25周年にあたる節目の年である。今年も日中の原点を見詰めて、永遠の隣人で引越しのできない日中両国の関係のあるべき姿を若い学生諸君と一緒に描いていきたい。

                                2003年早春