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中国の「三農問題」
04E2278 田中 健太郎
目次
はじめに
第1章 農業においての問題
1-1 農業の低生産性
1-2 不安定な食糧生産
1-3 中国農業の国際競争力とWTO加盟
1-4 WTO加盟による中国農業への影響
第2章 農民においての問題
2-1 所得格差の実態
2-2 農民紛争
2-3 戸籍制度
2-4 農業税
2-5 農業税廃止とその意義
第3章 農村においての問題
3-1 農村の荒廃
3-2 新農村
3-3 問題解決に向けて~第11期5ヵ年計画~
第4章 中国農業の将来への展望
4-1 これまでの中国の変革運動
4-2 現代農業
4-3 中国農業の展望
むすび
はじめに
近年、中国の抱える内政上の最大の問題、最優先課題は「三農問題」と言われている。三農とは、農業、農村、農民の3つの「農」を指す。
「世界の工場」とも呼ばれる農業大国である中国は人口の3分の2以上が農村で暮らしていることを忘れてはならない。この問題の核心は、農業と工業の間、農村と都市との所得、生活格差拡大のことであり、中国の経済発展を制約するものとなっている。「三農、つまり農業、農村、農民の問題はわが国の改革・開放と現代化建設の全局に関わるものであり、いついかなる時においてもそれを疎かにし、手を抜いてはならない」と朱鎔基首相は2003年3月の10期全人代・政府活動報告で発言した。
この発言を踏まえて、これからの経済発展のアキレス腱となるのは三農問題が鍵になってくるであるに違いないから、ここでは大きな問題となっている3つの「農」について1つずつ取り上げて、その問題や対策(取り組み)を図など取り入れて見ていこうと思う。
問題解決(最優先課題として)を急ぐ理由
三農問題の解決を急ぐ理由としては次のような理由が挙げられる。
① 中国の農村部人口は全人口の4分の3を占めている。都市部だけが経済的に突出する状態は、大きな社会不安を引き起こす可能性がある。国際的に貧富の格差を示す(所得分布の不平等度を表し、完全に平等であるときは0、完全に不平等であるときは1とする)ジニ係数の「警戒ライン」は0.4とされているが、中国のジニ係数はすでに0.45に達し、さらに上昇する傾向が明白だとされている。(表A)
② 中国経済は輸出先行型で発展してきた。しかし、この状態を続けたのでは、国際的な人民元切り上げ圧力に見られるように、さまざまな局面で「外圧」にさらされる可能性が高い。したがって内需を喚起する必要があるが、それには、膨大な人口を持つ農村部の購買力を高める必要がある。
③ 食料自給率は、国家の安全保障に直結している。また、中国のような莫大な人口を抱える国が、海外に対する食料の依存率を高めれば、国際政治に大きな不安定要因をもたらすだろう。「飽食」が実現しているのは一部の発展した国だけであり、世界全体を見れば食料は決して十分に供給されている状況でないからだ。しかも、世界的な「飢えの問題」は、今後さらに深刻化する公算だ。中国にとって望ましいのは、自由貿易体制の維持だが、それには国際的な政治情勢が安定している必要がある。そのためにも、「豊かになりつつある自国民」を満足させるだけの食料生産を確保しなければならない。
④ WTOに加盟した以上、東南アジアなど農業分野で中国よりも競争力のある国からの農産物輸入は、増加すると考えるべきだ。しかも、中国がASEAN(東南アジア諸国連合)などとの自由貿易協定を進めていることは、農産物の輸入増加に拍車をかけることになる。可能な限り早期に三農問題に手をつけなければ、時が進行するとともに、農村部の疲弊はさらに深刻化すると考えなければならない。
⑤ 「農村から都会を包囲する」という言い回しに象徴されるように、中国共産党は農民層の支持を政治基盤とすることにより大成長した。改革開放の成功により「一枚岩」を形成することに成功した共産党だが、農村と都会部の格差がこれ以上広がれば、「農民」「農村」「農業」に対する「温度差」が原因となり、政治的な路線対立が表面化する可能性も否定できない。仮にそうなった場合、中国に対する「信用度」が低下し、経済のあらゆる分野が打撃を受けるという国家運営にとって最悪のシナリオもありえる。
表A 中国とASEAN4のジニ係数の推移
第1章 農業においての問題
1-1 農業の低生産性
1-2 不安定な食糧生産
中国は毎年食糧の需要量を約4.9億トンとして、そのうち、食糧用に2.2億トンから2.3億トンが必要とみており、飼料用は約2.2億トンとし、その他工業用などに約0.4億トンとしている。したがって、現在、中国の食糧事情は相対的に安定している(表C参照)。
表C:食糧生産量、輸入量および価格指数
年度 食糧生産量(万トン) 食糧輸入量(万トン) 食糧生産価格指数(前年度=100) 都市と農村住民における食糧消費価格指数(前年度=100)
2001 45,264 1,738 - 99,2
2002 45,706 1,417 95,8 98,3
2003 43,070 2,283 102,3 102,3
2004 46,947 998 128,1 126,4
2005 48,400 3,286 99,1 101,4
なぜなら、都市住民の食糧に対する一人当たりの消費量は徐々に下がっており、どちらかといえば、食糧がすでに飽和段階に入っているともいわれている。しかし、最近の都市化率の上昇や都市人口の絶対的な増加の影響を受けて、都市住民の食糧総消費量は増加している。
例えば、2004年の都市住民における食糧総消費量は約6000万トンになり、ここ5年間でみれば、都市住民一人当たりの食糧消費量は約5%増であった(表D参照)。
ただ、こうした都市住民の食糧総消費量の増加傾向とは異なり、農村における農民の食糧総消費量は絶対的に低下している。それは、農村人口の減少と軌を一としており、食糧総消費量が毎年3%減で、都市よりも低い状況にあり、例えば、2004年は1.66億トン前後から2005年には1.6億トン前後に下がっている。
こうした都市と農村における食糧消費量は、ほぼ2.2億トンということになり、それなりに安定してきているようにみえるが、2003年のように不作ともなれば、食糧事情を不安定化させることもある。だから、毎年数百万トンの備蓄が減少している。とくに、ここ十数年のスパンでみれば、中国は未だ人口が増加しつつ、逆に、耕地は減少し、そのうえ水資源の不足も考えられるなど、今後の食糧生産はかなり厳しい環境にあるといわれている。したがって、中国の食糧問題を軽視できず、次のように2つの政策を指示している。
「中国の中央政府の政策」
①基本的に食糧供給を保障すること
②需給バランスに努めること
を挙げている。ただ、この政策が遂行されるために、1つは耕地の保護制度を堅持し、とりわけ食糧価格を合理的なレベルにし、食糧生産を担う農民の利益を保護し、その生産意欲を引き出すようにする。
このように、中国における食糧問題が今なお多くの問題を抱えている。
「レスター・R・ブラウン」
「1990年中国は3億2900万tの食糧を生産し3億3500万tの食糧を消費した。600万tを輸入しその不足を補った。中国の食糧に対する需要は現在の趨勢でいくと2030年には4億7900万tに達するがその間の食糧生産はおそらく5分の1減り2億6300万tに下がる。その足りない分は2億600万tに上り1993年の全世界の食糧輸出量2億tを上回る。」
これはレスターRブラウンの「誰が中国を養うのか」という本の中で中国の目まぐるしい経済発展により将来の食糧危機を危惧しともので、これは世界各国の注目を集めた。当時、中国政府は北京周報のなかで「『中国は世界食糧の脅威とはならない』と題する論文の中で2020年に中国の食糧生産は7億tに達し、中国の食糧輸入量は1000万tから3000万tの間に留まり、世界の食糧需要の大きな要因とはならない。」と述べた。しかし、なぜこのような予測になるのか根拠は示されていない。ともかく、ブラウン氏の予測は①人口の数が膨大なこと、②経済成長が空前の速さで進みそれに伴い耕地が減少していることが中国の食料危機を招く主な原因としてあげている。
1-3 中国農業の国際競争力とWTO加盟
1-4 WTO加盟による中国農業への影響
「WTO加盟により中国の農業に与える影響は2つの方面から考えられる。1つはWTOの農業に関する枠組みの影響である。農業協定は全世界の農産品の貿易自由化を目標とし、その発効は世界的な価格や市場開放、世界の輸出入貿易の局面、農産品国際貿易規制などの方面で巨大な変化を生じさせることになり、世界の農産品市場や国際的な農業の発展に深い影響を与える。これらの影響はすでに始まり、かつますます国際化しつつある中国の農業にも必然的に伝わるものと考えられている。2つにWTO加盟後、中国農業はWTOの農業に関する枠組みの拘束を受けると同時に、WTO加盟談判における農業に関して行った承諾も忠実に履行していかなければならない。
短期的な影響はあるものの、長期的には中国の農業には有利となる。その主な点として、
①WTO加盟後、中国は貿易の開放、特に関税の引下げを享受でき、かつ多くの加盟国の最恵国待遇を無条件に得ることができ、特に発展途上国に対する最恵国待遇は、中国の農業の国際化に有利な環境をもたらす。
②中国が国際的規範を参考にして農村の経済体制改革の深化させ、農業の総合的な生産能力を増強させることができる。
③WTOの関連事項と紛争処理メカニズムを適時運用し、国内の農業生産と農産品市場を保護し、国外の農産品の大量流入に対する衝撃の回避や、農業多角的貿易談判に参加することにより農産品貿易の秩序と多くの発展途上国の利益を擁護し、少数の先進国の短方向貿易や農業貿易の保護主義をおさえていくこと。
④その他の国の中国農産品輸出の非関税制限措置など不公平な待遇を減少し、中国農産品の国際市場参入を促進するのに役立つ。
⑤中国農産品の国際市場における割当てが拡大。
また、不利な面としてWTO規則と各国の承諾により一定程度農業市場を開放し、保護貿易を減少していかなければならない。
第2章 農民においての問題
2-1 所得格差の実態
拡大する都市農村間・都市内所得格差(表G)
中国の所得格差については、3種類のものがあるとされている。国内の地域間の格差、都市と農村の格差及び都市内での格差である。
地域間所得格差
上海市で5千ドル/人を既に超え、北京市でも4千ドル/人近くとなっており、天津市と合わせて3市は特に抜きん出た位置にある。さらに南東部沿岸省でそれぞれ2千ドル/人を超え始めており、これらの地域が中国の急速な経済発展を担っていることがわかる。
しかし、内陸部では1千ドル/人に至らない省が並んでおり、重慶市も同水準にある。
このように中国の今後の経済開発については、内陸部、西域の開発をいかに進めていくかが大きな課題になっていることは明らかである。
表G:中国地域別一人当たり地域内総生産
中国沿岸部と内陸部の比較
都市部、農村部家計における所得格差は、マクロ的な地域間の所得格差となって現れている。例えば、都市部家計一人当たりの可処分所得、消費支出を比較すると、沿海部と内陸部55の都市部家計の実質可処分所得には格差があり、内陸部での消費の伸びは緩やかなものにとどまっている。(図表H、I)
各行政区の人口密度については、上海市が2,300人/km2で特に高いが、その他はいずれも1,000人/km2以下で低い。
こうした中で、上海、天津、北京の3市に次ぎ、山東省等の東中部、次いで広東省等の南東部、さらに四川省等の中央部と吉林省等の東北部、そして西蔵自治区等の西部と順に密度が低下しているのが読み取れる。(図表J)
図表H 中国の地域間経済格差(2005年)
図表I 中国における地域別一人当たり実質可処分所得と実質消費支出の推移
農村労働力流動の拡大
まず、近年の農村労働力移動の概要をみてみる。都市人口も含めた移動人口規模は、2005年11月1日の調査結果として、総人口13.06億人に対して、流動人口は1.47億人(11.3%)であったが、2005年11月に出版された『中国農村労働力調研報告2005』(以下、『調研報告』と略す)には、国家統計局が実施した中国の農村労働力の就業実態に関するサンプル調査の結果(2004年末の数値)が掲載されている。この2004年末の地域外流出農村労働力総数は1.18億人と、2003年年末との比較で433万人増加している。この人口規模は全流動人口の約8割を占めており、いかに移動人口に占める農村出身者の比率が高いかが理解できるだろう。
また、この地域外流出農村労働力総数1.18億人は、中国の農村労働力総数の実に23.8%に相当する規模である。つまり、農村労働力に限ってみれば、すでに4人に1人が地域外に移動を開始していることになる。
これを出身地域別に区分すると、東部地域出身が3,934万人(33.3%)、中部地域出身が4,728万人(40.0%)、西部地域出身が3,161万人(26.7%)と、中西部地域出身者があわせて全体の3分の2を占めている。これに対して流入地域別では、全体の70.0%が東部地域に流入し、この東部地域への集中傾向は、2003年(68.0%)よりもさらに強まっている。逆に、西部地域への流入は2003年の17.1%から2004年の15.6%へと減少しているのである。このように、現在の農村労働力流動の主要な移動方向は、相対的に経済発展の遅れた内陸部の農村地域から経済発展の著しい沿岸部の都市への流動という大きな方向性を有していることになる。
とくに、農村労働力の流入先に注目すると、東部諸省の中でも、とくに経済の発展したいくつかの省への集中が著しい。つまり、広東省への流入は28.4%ともっとも多く、流動化した農村労働力の実に3割弱が広東省に流入していることになる。以下続いて、浙江省(8.1%)、江蘇省(6.8%)、山東省(4.7%)、上海市(4.4%)、福建省(4.2%)などとなっている。また、流動した農村労働力の62.4%が地区級市以上の大中都市に流入しているのである。このように、現代中国の農村人口移動は内陸農村から沿岸地域の都市へという移動パターンがより鮮明になりつつある。
2-2 農民紛争
農業重視はこれまでも五ヵ年計画のたびに繰り返し打ち出されてきたスローガンであるが、第十一次五ヵ年(展望)計画において初めて明確に工業が農業を支援する姿勢が示させた。そこには拡大する都市農村格差と、そのある意味で極端な表現でもある各地で頻発する農民紛争(あるいは暴動)が背景としてある。例えば、『争鳴』が集計した2003年10月~11月の中国の12省市における農民騒動の件数、参加者数を見てみる。
2-3 戸籍制度
2-4 農業税
2-5 農業税廃止とその意義
「意義」①第一に、農業税は、2,600年間にわたって課せられてきた「皇帝の税」であり、その起源は春秋戦国時代の魯国にまで遡る。清の時代に官吏の腐敗を招いてその改革が図られたことはあったが、封建時代には一貫して基幹税であった。革命戦争や新中国成立後の社会主義建設に際しても、国家財政の柱であり続けた。今回は、1958年の農業税条例制定以来、50年ぶりの大改革である。
②農業税の廃止は、500億元の減税であり、9億人の農民が直接受益する政策であって、三農問題解決への重要な一歩である。既に2004年から一部では減免が始まっており、北京市では全国に先駆けて8,000万元以上が減税され、村落への市からの財政補助は3億元以上に上っている。
③中国経済が農業を支えとする時代がもはや過ぎ去り、国民経済の主力は工業に移ったこと、今や工業が農業を支える番になったことを象徴している。農村地区の所得を増やし、消費水準を上げることは国民経済の持続的な発展の原動力として重要であり、「和諧社会」実現に不可欠である。
第3章 農村においての問題
3-1 農村の荒廃
農村部のハード・インフラ(ex:ハード=道路・飲料水の不足・電話、ソフト=医療・教育等)の整備状況を見ると、
①全国の道路のうち13%は農村部に通じていない
②農村部人口の半数近い3.6億人は飲料水が不足している、
③全国の農村部の半数以上は電話が通じていないと推計されている。また、ソフト・インフラ面でも、農村部は、地方政府の支出財源不足により、医療・教育等公共サービスが都市部と比べて十分に提供されていない。そのため、支出における都市部と農村部における必要的経費のウエイトに差が生じず、先に見たような農業生産の不安定性から農村部家計の所得が伸び悩む中で、消費が抑えられているのである。
3-2 新農村
3-3 問題解決に向けて~第11期5ヵ年計画~
第4章 中国農業の将来への展望
4-1 これまでの中国の変革運動
4-2 現代農業
大紀元日本2月6日に中国政府がこのほど発表した「国務院一号公文書」には、農業を現代化する公的方針が書かれている。有識者の分析では、中国政府のこの政策では、農業を近代化する各種の障壁は取り除けないという。
今回発表された公文書は、国務院が「農業」「農民」「農村」の三農問題を解決するために、2004年から中央が発表してきた4件のうちの一つで、1982年の改革解放から数えると9件目だ。今回の公文書は、「現代農業を積極的に発展させ、社会主義を推進し、農村を新しく建設するための提言」と銘打った、三農問題解決に国力を投入し、農村のインフラ整備を進め、農業技術を刷新し、農業市場体系を健全化し、新しい農民を養成し、党の農村に対する指導要領を体系化し整備して、もって「農業が豊かにして、インフラ強化し、農民が豊かにして、国家栄え、農村穏やかにして社会安定」が、謡い文句である。
4-3 中国農業の展望
この問題を解決するには制度の問題への着手が不可欠であり、今、政府はこの問題を非常に重要視し、解決にむけ努力している最中である。朱鎔基首相は、農村と都市部の収入格差をなくすために、
① 耕地を樹林に復元する規模を拡大する。中、西部の一部において、耕地を樹林に復元することは、生態環境を改善し農業構造の調整を促進するための重要措置であり、農民の収入につながる効果的な方法でもある。
② 農村の租税、費用徴収の改革と食糧、綿花流通体制の改革
③ 農民の収入を増やすルートの拡充に努める。
④ 農業に対する助成を一層強化する。WTOのルールに合致した措置をとり、農民の利益を擁護するよう努めると述べた。
『三農』問題の解決策として農村部の都市化があげられ、それにより、労働集約型の産業の経済発展に大きなチャンスを与えることになる。WTO加盟は農村の労働力にとって大きな脅威であると同時にチャンスでもある。膨大な余剰労働力を発展の牽引力にするためにはまず、都市住民と農村住民の差別をなくし、同じ待遇にすることではないだろうか。
また日本においても、「食料・農業・農村基本法」に変わったが日本農業の構造改革は延々として進んでいない。農家の経営面積は平均で1.5haに過ぎず、欧米の20~30分の1にすぎない。今までで見てきた通り、自由化が促進されれば今後輸入量が増加し、規模の小さい国内の農業に打撃を与えかねない。他の国と共存できるかどうかは国際化に合わせて国内農業の構造改革をすすめることができるかどうかにかかっている。
むすび
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