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第5回グループ発表資料
台湾のジレンマ 『政治と経済の「ズレ」と経済安全保障政策』
著者:加藤 喬介先輩 発表チーム:劉備・秀吉チーム(柳原・佐野・村上・楊)
はじめに
経済発展の目覚しい中国。その中国と政治面では対立しているが、経済面では互いに協力し合っている台湾。なぜ台湾はこのような状態になったのか。中国に頼ってきた台湾経済に落とし穴はないのか。台湾は中国から独立していくのか、しないのか。このようなことを台湾の経済成長という面からみていく。
第1節 台湾の高度成長
1−1 高度成長の要因
台湾が高度成長していったおもな要因として、輸出を軸にして経済成長を始めた。そのための資本、技術は外資に頼るのが、戦後台湾が一貫してとってきた政策で現在でも続けられている。台湾の経済は、対中投資拡大が対中貿易の拡大をもたらすという投資主導型戦略によって中国経済とともに高成長を達成してきた。
1−2 台湾企業の対中投資の推移
台湾企業の対中投資が本格化したのは1990年以降のことだが、その推移は時期によって規模、業種、地域が異なる。初期段階は1990年代前半で対中間接投資が解禁されると93年には対中投資のピークを迎えた。成熟段階の1990年後半は一時投資額が低迷したものの大きな変化が見られた。例えば、大企業による対中投資や投資業種の転換。(労働集約型から資本・技術型へ)また、投資地域の北上傾向。(広東省から江蘇省や上海市へ)そして2000年以降の急拡大期に入りさらに対中投資は盛んになった。それは現在も続いている。
1−3 中国に依存していく台湾企業
台湾の対中投資は対外投資の40〜60%を占めている。さらに政府に申請されていない投資を含めると70〜80%以上が対中投資であると推測される。
1−4 対中シフト
現在多くの台湾企業は、事業の重点を中国に移転している。(P,110の表1参照)
第2節 日台産業空洞化問題
2−1 台湾の産業空洞化問題と対策
台湾企業による対中投資と現地生産は大きな成功を収めたが、台湾経済の対中依存の高まりは、台湾内に産業空洞化問題を引き起こしている。そこには台湾企業の中国進出(対中シフト)や中国と台湾の政治的な対立による経済関係に及ぶさまざまな規制が影響している。台湾政府は2002年以降投資環境と経営環境を改善し、競争力強化を目指し産業空洞化対策を本格化し始めた。
2−2 日本の産業空洞化問題と対策
日本の産業空洞化問題は台湾とは違い、中国などからの安い商品の大量輸入により国内産業が圧迫され、倒産もしくは廃業においこまれたことが空洞化のひとつとされている。日本企業が拡大し続ける中国の市場にアクセスするためには「中国で現地生産し、現地販売する」と「日本で生産し、中国向けに輸出する」という2つの選択肢があるが、生産コストなど、他の条件が一定であれば、後者のほうがリスクが低い。またこれにより貿易を通じて比較優位が発揮できれば、中国は日本にとって脅威ではなくなる。これを確実にするため、両国がFTA構築などを通して貿易を妨げている規制を撤廃しなければならない。
第3節 政治と経済のズレ
3−1 三通問題
台湾の民衆は両岸の「三通」が実現していないことに対して極めて不満である。ここでいう「三通」とは中国大陸と台湾の「郵便、通商、通航」のことである。中国は「三通政策」によって台湾統一工作を進めてきたが、一方の台湾側はこれまで「不談判、不接触、不妥協」の「三不政策」によって対抗してきた。しかし、現在では非公式・民間レベルでの部分的な三通(小三通)はすでに実現している。台湾対岸の副建省などは、三通をいつでも始められるのに対し、中国側は、三通は大三通として行われなければならず、小三通による段階的な解禁は認められないとしている。
3−2 与党(民進党、陳水扁総統)のスタンス
台湾当局は依然として「三通」問題の上でお茶を濁そうとしている。しかし、台湾当局の指導者陳水扁は本格的な三通解放に向けて意欲を示した。これについては、台湾経済の空洞化を避けることの重要性を強調した。また、この問題における大陸側との交渉については、「小三通によってリスクを避ける意義は大きく、最も重要なのは両岸による話し合いなしには、小三通も一歩を踏み出せないことである。」と語った。三通の見通しについては、「両岸双方が誠意と善意を持って交渉を進めたなら、2000末には三通は推進でき、直接通航も開始できるだろう。」とし、三通開始への意欲を示すとともに、早期対話開始を大陸側に呼びかけた。
3−3 メディアの取り上げ
台北の多くの新聞(『経済日報』、『工商時報』、『中国時報』など)は、台湾当局ができるだけ早く「三通」を開放するように呼びかけた。
第4節 台湾政府のダイナミズム
4−1 国民党の新主席誕生
台湾の国民党主席選挙が2005年7月16日に行われ、馬英九候補が当選した。なお、馬英九・新主席は連戦・前主席を国民党栄誉主席に招くなどして、挙党一致体制を築く意欲を示した。また、「主席に就任した後は、大陸と香港を訪問することを考えている。」とし、五点共識(*P123 用語解説参照)を達成したいと述べた。このことから、馬英九・新主席も大陸と緊密な関係を目指していくことに強い意欲を示したと受け止められるが、この約1ヵ月後に新主席の側近の発言により、馬英九・新主席の中国訪問は見送りにされると思われる。
4−2 相次ぐ大陸訪問
馬英九氏が新主席になった国民党主席選挙が行われる数ヶ月前に、二人の人物による大陸訪問が行われた。一人は、連戦・前国民党主席である。連戦氏は訪中の際、『三通』の実現、台湾産の農産物の大陸への出荷増や、台湾企業の権益の保障などの必要性を述べ、また北京大学での講演を行った。そしてもう一人の訪中者は、親民党の宋楚瑜・主席である。宋楚瑜氏は訪中の際、中国への期待を表し、さらに共産党と親民党が「九二共識」(*P123 用語解説参照)を原則とし、「台湾独立反対」の方針で一致していることを強調した。これらの大陸訪問に対する台湾市民の反応を、台湾メディアの「聯合報」が調査を行った。その調査によると、今回は連戦・前主席が両岸関係の改善に貢献したと評価する声が強いことを示している。
4−3 陳水扁総統の発言
*(「陳水扁総統の発言と対中姿勢」はP121の表2を参照)
陳水扁総統の発言を見ていくと、「台湾は独立した国家である」、「大陸訪問によっては両岸問題を解決することはできない」などの発言が見られ、まさに彼は独立派であると思われる。
むすび
台湾と中国が今まで政治的な面で争っているということは知っていたが、経済面では両国にこれほど密な関係があることは知らなかった。しかし、そのような経済面での結びつきも、中国側が台湾独立反対の立場を鮮明にしていることから、これ以上の歩み寄りが難しくなっている。やはり、政治面での問題の解決が急がれるところであるが、長年争ってきたこの問題を解決は容易ではないと思われる。この問題の解決は、陳水扁総統と胡錦涛・国家主席の話し合いにかかっていると思う。
追加資料 現在の台湾経済
現在の台湾経済についてだが2005年の経済成長率は3.8%に留まったが2006年は4.5%まで上昇するだろうと予想されている。また、失業率と物価上昇率もそれぞれ約4%と2%と他のアジア諸国と比べても良好である。また対日投資がさらに盛んになっており日本の企業とタイアップし、共同で第3の市場を作る動きがある。このように日本の高度経済成長までとはいかないが台湾経済はアジア経済の中で顕著な成長を示している。
陳水扁政権の現在
独立派として有名な陳水扁総統だが台湾国民の満足度は毎年のように下がっている。それを表すかのように台湾団結聯盟の調査によるとこの6年間の陳水扁政権に「満足している」と答えた国民はわずか5%で「不満である」と答えたのが47%、「非常に不満である」が40%にのぼった。その理由として「景気回復に力をそそいでいない」が64%、「治安が悪い」が72%、「政権幹部がクリーンでない」が81%にのぼった。また陳総統の娘婿がインサイダー取引に関与したとして、検察当局が捜査を開始したことや妻がデパートの商品券を不正に受け取っていたなどという報道がされ、今後の陳政権への影響が注目されている。
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