3-5 信頼感は、海を越えて結ばれないのか 〜労務管理における日本人と中国人〜
様々なテナント企業をヒヤリングした際、私がとても戸惑ったことは、日本の経営システムを、進出先に植え付けようと困惑している姿。現在のグローバリゼーション時代において、中国に生産拠点を移転させた各テナントは、とりわけ、労務管理に気を遣っていたのだ。各テナント企業が口をそろえて「中国人工員の管理が難しい」というのは、日本の経営システムに慣れすぎてしまった日本人が、十分に中国人を認識していないからだと思う。「日本の企業は、現地に馴染むことができない」「中国人幹部を登用しない」など、日本の企業の現地化について色々な意見がいわれているが、これは事実であると思った。
しかし、そんな状況の中でも、TNCのテナント企業は、世界が認める中国人の素晴らしいポテンシャルを認識していたし、最大限出すために、日々試行錯誤していた。例えば、生産ラインの改善などについては、大多数のテナント企業が、毎月末に日本人と中国人管理職と中国人工員の各ラインのリーダー、中国人技術者で会議の場を設けており、積極的に中国人の意見を取り入れていた。
製造工程においては、例えば、「一人屋台生産方式」を採用し、中国人工員に責任を与えて意欲を促進し、仕事の出来不出来の差別化を図り、職能給を実現していた。また、そのほかにも、各中国人工員に対して1星・2星・3星・4星と仕事の成績をつけ、その成績表を工場に表示したり、中国人工員がつけている三角巾の色を仕事の能力によって分けたりしていた。これにより、工員の差別化を図り、仕事に対しての競争心を駆り立てていた。全体の製造工程において、生産→研磨→検査→梱包というような各工程をできるかぎり完結化し、各工程で誰が何に従事したかを明確にし、工員に対して責任感を与えていた。また、そのほかにも、中国人工員の雇用確保のため、また会社への求心性を高めるため、定期的に、誕生日会やカラオケ大会を催すなど、労務管理に対して大変な神経を使い工夫を凝らしていた。
しかし、製造工程の作業を見るかぎり、決してハイテク技術を必要とするものはなく、まだまだ日本人と中国人が仕事上で、信頼し合っているようには感じられなかった。勿論、工員を仕事の能力によって差別し、賃金に付加価値をつけることや、様々な催しを行ったりすることは、仕事に対しての意欲を促進させていたが、経営のリスク回避が最大の目的であると強く見受けられた。私は、現実として多くの中国進出した日系企業は、まだまだ本当の現地化を実現していないと思った。また、日本人と中国人の間に、本当の信頼感はまだないと思った。
確かに勤務時間においても勤務時間以外の時においても、TNCの日本人と中国人は、お互いを尊重し合った仲のいい関係が形成されていた。しかし、会社に対する求心性、帰属性が日本人と中国人の大きな相違点だった。これは、経営自体に問題があると思うが、中国人は「時間給」で、日本人より遙かに出世することが困難であり、仕事の能力があっても会社に認めてもらえないという事実があるから生まれる。私が実習に参加した生産ラインでは、納期に間に合わせようと必死に仕事をこなす日本人の隣で、何食わぬ顔でマイペースに仕事をこなしている中国人工員がいた。また、休憩時間になると、真っ先に椅子に座り、机にうつ伏せになって寝てしまう工員や、仕事の終わりを告げるチャイムが鳴った途端、一斉に仕事をストップさせてしまう工員がいた。中国人工員の行動は、「時間給」なので当たり前かもしれないが、製品を搬出するまでに3、4回の検査をしているテナント企業もあり、仕事上でのミスの多さを物語っており、とても責任感のある行動とは思えなかった。
3-6 帰属意識とコミットメントの必要性 〜中国の公衆衛生は解決できる〜
各テナント企業の工場は、内陸部の農村から出稼ぎに深圳に出てきた工員にとって、飛び抜けたスキルを要求する現場ではない。彼女たちに要求されているのは素晴らしい視力と根気、そして農村出身者が生まれながらにして習得している「決まりきった作業」に対する疲れを知らない持続性のみである。つまり、各テナント企業とも、中国人に対して責任の重い仕事を与えていることは極めて少なく、仕事上において中国人工員は、モチベーションのコントロールが大変難しいのだ。私は、以前中国での留学経験もあり、中国人のポテンシャルの高さを知っている。つまり、農村出身の工員に対しても、かなりの裁量権と技術を委ねることが可能であるし、また可能にするためのしっかりと「躾」、「教育」をすることが重要である。いまのような状況のままでは、中国人工員がTNCに対して帰属意識が低いのは当たり前である。
しかし、TNCの各テナント企業に対する求心力も低いのだ。TNCは、現在日本人従業員が少なく、テナント企業に対する相談役の不足が決定的である。また、次世代を担う中堅世代の日本人従業員もいないのだ。つまり、現在、TNCの各テナント企業へのコンサルティング能力は、日々の業務に忙殺され、対応しきれない状態である。そして、TNC、中国人工員、各テナン企業の間の協調性の低さは、TNC内で起きている様々な問題に影響を及ぼしている。つまり、仕事に対する態度、日常施設の使い方(寮・食堂・生活道路など)、ゴミのポイ捨てなど、現在、TNCで起きている中国人工員に関する問題は帰属意識の低さが関係している。
私の意見としては、まず改善点として、各テナント企業とTNCとのコミットメントを更に強めることが重要である。つまり、TNCの求心力を高め、各テナント企業がTNCを好きになることが問題解決するための条件であり、テナント企業が中国人ワーカーの生活・管理に対して、当事者意識を持つようにしなければならないのだ。全体的な波及順序をいえば、TNC→各テナント→中国人ワーカーと、帰属意識を段階的に高めていくようにするのだ。
具体案として、各テナント企業が寮の一部を借りる形態をとり、テナント同士で衛生面を義務づけ、必ず管理させるようにする。そうすることにより、寮などの管理がテナントにより自主的に行われるようになり、本来TNCのあるべき姿、中小企業の中国進出サポート「中小企業の駆け込み寺」が完成される。また、各テナントと中国人ワーカーの間に共通の問題意識が生まれる。各テナントは、自らの企業努力で寮の管理の創意工夫をし、中国人工員が自主的に解決するようになり、これが結果的に責任の意識を与えていることになるのだ。
4 インターンシップ研修を終えて 〜自分が成長できる「場」に身を投じることの大切さ〜
「中国ビジネス、中国でのモノづくりに精通したプロになる。」
「将来、自分が就職した企業が中国事業を進める際に、必ず力になれる人間になる。」
これらは、いまに始まったわけではないが、今回のインターンシップ研修を通じて、初めて企業の中国進出、現地化の問題などに直面し、以前より問題意識を高く持てるようになったため、より勉強の目的が定まった。また、将来、私は中国とビジネスで関わっていきたいし、中国とのビジネスは、自分のキャリアにとても大きな影響を及ぼすと痛感した。中国という国は、自分自身にとっても日本にとっても、まだまだ未知の可能性やチャンスがたくさんあると思った。また、将来グローバルな視野で仕事をしたければ、香港人のような感覚を身につける必要があると感じた。香港人に対して、私は、彼らの国際感覚は日本人以上に身についていると感じた。香港は、歴史的な経緯もあり、教育も英語で行われ、海外の大学で勉強したことのある人も多い。これからグローバル化がますます進む中で、香港人が持っている感覚や立ち振る舞いは、重要度が増していくと思った。
世界の工場である深圳で働いている社長の目が輝いていた。彼のまっすぐな姿勢がとても印象的で、将来、自分も仕事のできる「ヤレル人間」になりたければ、自分から積極的にビジネスを仕掛けていかなければならないと実感した。つまり、志やアイデアを持っていたら、実際に動かなければいけない。例えば、最初に具体的に「何々やります」と公言してしまい、成功するために、「我武者羅」な努力をするといったような有言実行は、大変プレッシャーがかかるが、成功すれば周りに認められる。もちろん、その過程の中で多くの壁に直面するが、その場その場で常に全力を尽くす信念を持ち、頑張るだけだし、頑張るしかない。
深圳テクノセンターでの研修を通じて、私は、結果を得る以前に、過程全般において、やらなければならない環境に自分を追い込む機会が得られるような、自分が成長できる「場」に身を投じることを大切にすべきだと思った。良い結果というものは、そういう「我武者羅」な努力が自然に運んでくれるものなのだ。また、そうした考え方が、これからさらに自分の行動を大胆にさせ、自分自身が、どんな挑戦に対しても一歩を踏み出すのがまったく怖くないと思う。何に対しても身構えする必要がまったくない。自分のやりたいこと、自分の成長させたいことに対して、飾りたてることなく、素の自分を頑と前に押し出して突き進む。そのことが、すなわち自らキャリアを積み重ねていく努力と勇気を持っていることの現れであり、人生を切り開く上できわめて重要なことであると、TNCでの研修を通じて初めて自覚したのである。
最後に、私はTNCで働いている日本人を見て思ったことは、積極的な行動がさらに行動力をつけ、キャリアを積み、たくさんの人たちとの出会いを通じて、ビジネスチャンスがさらに広がっていくということである。いままでの人生を振り返って思うことは、厳しい状態に追い込まれても、挑戦を続けていけるような気持ちを持てたのは、多くの人たちの支えであり、そこで認めてもらえた自信は、いまでもなんらかの形で自分を再度突き動かしている、ということである。だから、私はこれから知り合う多くの方々、また、私の周りにいるいままでお世話になった方々に対して、これからさらに親交を深めていきたいと思う。このような考えにたどりついたのは、インターンシップ研修中に、人が人生を生きていく上で、一人でなにかをすることよりも、大勢の人たちと協力して成し遂げる機会のほうが、ずっと多いし、また大切であり、人間同士の信頼関係がなにより重要であるということを、改めて実感したからだろう。 (完)
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